引きこもり少女、御子になる~お世話係は過保護な王子様~

浅海 景

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透花の希望である話し合いの場が設けられたのは、その二日後のことだった。御子専用の建物に招くことは安全上の理由から良くないとのことで、菜々花が滞在している部屋からほど近い庭園でお茶会という名目で行われることになった。

「透花ったら、フィル様は王子様なのよ。そんな風に立たせたままなんて失礼じゃない」
「いえ、護衛ですので当然です。いざという時に対応が遅れては困りますから」

気が利かないというように透花を窘め椅子を勧めようとする菜々花に対し、フィルは薄い微笑みを浮かべて断った。今では透花もフィルの表情が分かるようになってきたため、これは王子としての対外的な微笑みだと分かる。

もっと言えばいつもより思うところがあるような微笑みなので、自分に向けられたものではないと理解していても少しどぎまぎしてしまう。

「護衛なら他の人にお願いして、ご一緒にお茶でもいかがですか?」

まるで主催者のような口ぶりだが、手配をしたのはフィルなのだ。こんなことで気を悪くする人ではないが、申し訳なさに眉を下げるとフィルは透花を見て大丈夫だというように微笑んでから、さらりとした口調で菜々花に告げる。

「私はトーカ様の専属ですので」

フィルの言葉の端々には菜々花への警戒を感じるが、当の菜々花は気づいていないらしい。残念そうに眉を下げる様子は、同情を誘い思わず慰めてあげたくなるほどだ。
とはいえ、菜々花がそれを透花に望んでいるわけではないので、手持ち無沙汰な気持ちになりながら、紅茶に口を付けた。

「私、ずっと透花に会いたかったのよ。急にいなくなってみんな心配していたけど……透花はそうじゃないのよね」

(心配、してくれた……?)

これまでの両親の態度から考えれば、せいせいしたと思われていそうだったので、透花は思わず小首を傾げた。

「そうね。昔から透花は冷たい子だったわ」

再会した時もそうだが、菜々花は透花の印象を悪くするようなことばかり口にしている。あからさまな悪口ではないが、透花が我儘で嫌な性格の持ち主なのだと印象づけたいのだろう。
期待していたわけではないし、やはり変わらないのだと思えば少し残念な気持ちになったが、それだけだ。

(だって、フィーはそんなこと信じないから)

だからわざわざ否定する気にもなれなかったし、嫌われる不安に襲われることもなかった。菜々花の表情が徐々に険しくなっていくのは、フィルも透花も平然と聞き流しているからだろう。

(そっか。……もう菜々花に怯えなくてもいいんだ)

今の透花には菜々花を恐れる理由はない。菜々花の顔色を気にすることも、暴言や暴力に身体を竦めることもなく、初めて菜々花に向き合っていることに気づいた。
面立ちは似ているが、双子ほどにそっくりではなく姉妹かなと思えるぐらいで、目の前にいる菜々花は同年代の少女でしかない。

「菜々花、私はこの瞳が嫌いだった。お父さんとお母さんが喧嘩するのは悲しかったし、この瞳のせいで家族が上手くいかなくて、みんなから嫌われているんだと思ってた」

でもきっとそうじゃなかったのだ。それだけで上手くいかなかったわけじゃないし、例えそれが原因だったとしてもそれは透花の罪じゃない。

「気持ち悪いと思う人もいれば、綺麗だと言ってくれる人もいる。それはその人の価値観で正しいとか間違っているとかじゃないけど、それが私を責める理由にはならない。私は自分の瞳が好きだよ」

菜々花の目を見て伝えれば、驚きに目を瞠った後に鋭い目つきで睨まれたものの、透花の後ろに立っているフィルの存在を思い出したのか、すぐさま目を伏せた。

「トーカ様の瞳はどんな宝石よりも美しいと言うのに、それを貶めるとは僻んでいるとしか思えませんね」

続くフィルの言葉に、菜々花の肩に力が入るのが分かった。俯いているためどんな表情をしているか見えないが、苛立ちを覚えていることは間違いない。

「私たちは姉妹だけど、考え方も性格も違うしお互い一緒にいると落ち着かないと思うの。一緒にお仕事をする機会があればもちろん拒むつもりはないけど、それ以外は別々にいたほうがお互いのためだと思う」

伝えたいことをあっさりと話し終えて、透花は自分でも意外なほどに穏やかな気持ちだった。立ち上がろうとすれば、すかさず手を差し出してくれたフィルの表情も柔らかい。
信じて見守ってくれていたことがとても嬉しくて、透花もフィルに笑みを向けた。

「じゃあね、菜々花」

返事を待つことなくフィルと一緒に歩き出す。ひりひりと突き刺すような視線を背中に感じながらも、透花は振り向くこともなくその場を後にしたのだった。
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