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2.5章
大切な居場所~佑那サイド~
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日ごとに辛さが増していく。
もう二度と声が出ないのではないかという不安とシュルツへの罪悪感に悩まされる日々を過ごしていた。心配してくれていることがひしひしと伝わってくるのに、その気持ちが勘違いであると告げることができない。以前のように嘘を吐いているわけでもないのに、騙しているような気になる。
自分ではシュルツを幸せにすることができない、それが分かった以上、もうこのままではいけないのだと何度も思ったが、シュルツの顔を見ると何も伝えることができなくなるのだ。
表情や態度からも佑那を本当に大切に想ってくれていることが伝わってきて、自分の考えを否定したくなった。口も利かず俯いてばかりいるのにシュルツは壊れ物を扱うかのように大切に慈しんでくれる。
(そんな彼に私は何をしてあげることが出来るのだろうか……)
心が苦しくて涙がこぼれそうになる。
ミアに再会したのはそんな自己憐憫にどっぷりと浸かっているときだった。ミアはすぐに声が出ないことに気づき、叱ってくれたことで目が覚める思いがした。伝えることを勝手に諦めて心を閉ざし、頑なになっていた自分に気づかされたのだ。
シュルツにはどれだけ謝罪をしても足りないぐらいなのに、彼は自責の念に駆られているようだった。救世主に魅かれているだけだとしても、シュルツに他者を思いやる気持ちがあることに変わりはない。この状況で説明しても、きっと彼は己のせいだと思い込むだろう。
そうして声が出るまで先送りにしたことを佑那は後悔することになった。
マフィンに毒が入っていると告げられ、動揺した。口にしたのはシュルツなのに自分のことなど全く気に掛けず、佑那の心配しかしないのだ。平気だと言われたが、まったく体に影響がないはずがない。動揺が収まると代わりに毒を仕込んだ者に対する怒りが込み上げてきた。
ミアの運んできた花束に悪意を感じていたため尋ねると、準備したのはエルザだという。それも謝罪の品だという言葉に一気に怒りが沸点に達した。シュルツを巻き込んだことも、ミアを身代わりにしようとしたことも到底許せることではなかった。
本気で怒っていたため、声が出たことに気づくことが一瞬遅れた。足りなかったのは気力だったのかもしれない。怒りが冷めたあとには、罪悪感が押し寄せてきた。
自分のしたことは正しかったのだろうか。そもそもの元凶は佑那にあるのではないか。
だから救世主についてのすべてを打ち明けた。それでもシュルツは関係ないといってくれた。その言葉だけで充分だった。彼が信じなくても自分は離れることを決めていたのにシュルツの母親が書いた日記には信じられないことが書かれていたのだ。
どうして救世主について詳細な記述が残っていなかったのか。
それは隠すべきことがあったからだ。異世界から突如現れたシュルツの母、エリーゼは不審者とみなされ魔王への生贄として捧げられた。
彼女は英国貴族の家庭教師として働いており、その縁で知り合った男性とじきに結婚する予定だった。ある日雇い先の書庫で見慣れぬ本を開いてから、フィラルドの城に来たところまでは佑那と同様だった。
魔王に気に入られたため殺されずに済んだものの、女性の尊厳と自由を奪われる。孤独を抱え周囲への無理解や嫌悪にさらされて、エリーゼが徐々に心を病んでいく様子がつづられていた。シュルツが生まれてから彼女の精神状態は一旦快方に向かうが、徐々にまた精神を病んでいく。その様子を彼女は克明に記している。そうすることで精神のバランスを取ろうと必死だったのだろう。シュルツについての記述を最後にページは途切れていた。
本を読み終わってもしばらく衝撃と混乱で頭がいっぱいだった。自分も本来はこのような運命を辿る可能性だって十分にあったのだ。
エリーゼの犠牲のおかげでフィラルド国は救われたのだろう。だがそのままの形で公表すれば非難を浴びることは必至だったため、曖昧な表現で救世主について語り継がれることになったのだ。
ウィルやグレイスがこのことを知っていたとは思えないが、ウィルの先代魔導士が救世主を快く思っていなかったのは、彼が真実を知っていたからではないだろうか。その境遇を哀れに思いつつも国のためにそうしなくてはならないという葛藤があったと考えれば不思議ではない。
シュルツが真剣な表情で想いを伝えてくれるのを聞いて、自分が間違っているような気がしてきた。救世主であることを気にするあまり一番大切な気持ちを蔑ろにしていたのかもしれない。
『二人で一緒に幸せになりたい』
溢れた言葉は心からのものだった。
もしかしたら自分がここに来たのはそのためだったのかもしれない。エリーゼが息子のために佑那をここに呼び寄せた、ふとそんな風に思った。
佑那は確かに幸運だったのだろう。フィラルド国では王女やウィルをはじめとする人々は佑那に優しかった。そしてシュルツもまた佑那を想い大切にしてくれたからだ。元の世界に戻りたくないと言えば嘘になる。
けれど今はここが佑那の大切な居場所だった。
もう二度と声が出ないのではないかという不安とシュルツへの罪悪感に悩まされる日々を過ごしていた。心配してくれていることがひしひしと伝わってくるのに、その気持ちが勘違いであると告げることができない。以前のように嘘を吐いているわけでもないのに、騙しているような気になる。
自分ではシュルツを幸せにすることができない、それが分かった以上、もうこのままではいけないのだと何度も思ったが、シュルツの顔を見ると何も伝えることができなくなるのだ。
表情や態度からも佑那を本当に大切に想ってくれていることが伝わってきて、自分の考えを否定したくなった。口も利かず俯いてばかりいるのにシュルツは壊れ物を扱うかのように大切に慈しんでくれる。
(そんな彼に私は何をしてあげることが出来るのだろうか……)
心が苦しくて涙がこぼれそうになる。
ミアに再会したのはそんな自己憐憫にどっぷりと浸かっているときだった。ミアはすぐに声が出ないことに気づき、叱ってくれたことで目が覚める思いがした。伝えることを勝手に諦めて心を閉ざし、頑なになっていた自分に気づかされたのだ。
シュルツにはどれだけ謝罪をしても足りないぐらいなのに、彼は自責の念に駆られているようだった。救世主に魅かれているだけだとしても、シュルツに他者を思いやる気持ちがあることに変わりはない。この状況で説明しても、きっと彼は己のせいだと思い込むだろう。
そうして声が出るまで先送りにしたことを佑那は後悔することになった。
マフィンに毒が入っていると告げられ、動揺した。口にしたのはシュルツなのに自分のことなど全く気に掛けず、佑那の心配しかしないのだ。平気だと言われたが、まったく体に影響がないはずがない。動揺が収まると代わりに毒を仕込んだ者に対する怒りが込み上げてきた。
ミアの運んできた花束に悪意を感じていたため尋ねると、準備したのはエルザだという。それも謝罪の品だという言葉に一気に怒りが沸点に達した。シュルツを巻き込んだことも、ミアを身代わりにしようとしたことも到底許せることではなかった。
本気で怒っていたため、声が出たことに気づくことが一瞬遅れた。足りなかったのは気力だったのかもしれない。怒りが冷めたあとには、罪悪感が押し寄せてきた。
自分のしたことは正しかったのだろうか。そもそもの元凶は佑那にあるのではないか。
だから救世主についてのすべてを打ち明けた。それでもシュルツは関係ないといってくれた。その言葉だけで充分だった。彼が信じなくても自分は離れることを決めていたのにシュルツの母親が書いた日記には信じられないことが書かれていたのだ。
どうして救世主について詳細な記述が残っていなかったのか。
それは隠すべきことがあったからだ。異世界から突如現れたシュルツの母、エリーゼは不審者とみなされ魔王への生贄として捧げられた。
彼女は英国貴族の家庭教師として働いており、その縁で知り合った男性とじきに結婚する予定だった。ある日雇い先の書庫で見慣れぬ本を開いてから、フィラルドの城に来たところまでは佑那と同様だった。
魔王に気に入られたため殺されずに済んだものの、女性の尊厳と自由を奪われる。孤独を抱え周囲への無理解や嫌悪にさらされて、エリーゼが徐々に心を病んでいく様子がつづられていた。シュルツが生まれてから彼女の精神状態は一旦快方に向かうが、徐々にまた精神を病んでいく。その様子を彼女は克明に記している。そうすることで精神のバランスを取ろうと必死だったのだろう。シュルツについての記述を最後にページは途切れていた。
本を読み終わってもしばらく衝撃と混乱で頭がいっぱいだった。自分も本来はこのような運命を辿る可能性だって十分にあったのだ。
エリーゼの犠牲のおかげでフィラルド国は救われたのだろう。だがそのままの形で公表すれば非難を浴びることは必至だったため、曖昧な表現で救世主について語り継がれることになったのだ。
ウィルやグレイスがこのことを知っていたとは思えないが、ウィルの先代魔導士が救世主を快く思っていなかったのは、彼が真実を知っていたからではないだろうか。その境遇を哀れに思いつつも国のためにそうしなくてはならないという葛藤があったと考えれば不思議ではない。
シュルツが真剣な表情で想いを伝えてくれるのを聞いて、自分が間違っているような気がしてきた。救世主であることを気にするあまり一番大切な気持ちを蔑ろにしていたのかもしれない。
『二人で一緒に幸せになりたい』
溢れた言葉は心からのものだった。
もしかしたら自分がここに来たのはそのためだったのかもしれない。エリーゼが息子のために佑那をここに呼び寄せた、ふとそんな風に思った。
佑那は確かに幸運だったのだろう。フィラルド国では王女やウィルをはじめとする人々は佑那に優しかった。そしてシュルツもまた佑那を想い大切にしてくれたからだ。元の世界に戻りたくないと言えば嘘になる。
けれど今はここが佑那の大切な居場所だった。
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