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拷問と他力本願
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(これは一体何の拷問なのかな?!)
「まるで薔薇の妖精が舞い降りたかのようだな。よく似合っているよ、エリー」
「……お褒めに預かり光栄です、王太子殿下」
瑛莉は愛想笑いを浮かべて、見よう見まねでドレスの裾を持ち深々と頭を下げた。
灰色がかったピンクのドレスは甘すぎずに落ち着いた雰囲気でありながら、ところどころに薔薇の意匠をさりげなく散りばめているのが可愛らしい。
青々と茂った芝生は丁寧に整えられており色とりどりの花とのコントラストが鮮やかだ。ガセボの横にはシルバーピンクの薔薇が咲き誇っており、ヴィクトールの発言もそれになぞらえたものだろう。
美しい庭園とテーブルの上に並べられた繊細で優雅なティーセット。穏やかな午後という言葉がぴったりの空間であるのに対して瑛莉の心中は荒れ狂っていた。
(もう、早く脱ぎたい!ってか本当にみんなこんなの着てるの?苦し過ぎるわ!)
固いコルセットでないだけまだましかもしれないが、ビスチェのような補正下着でぎゅっと締め付けられた腹部が苦しくて堪らない。あるべき場所に豊かさがなく、胸部を引き立たせるためには仕方ないのかもしれないが、ないものはないで諦めてくれれば良いのに、職務に忠実な侍女たちはそれを許してくれなかったのだ。
「最高級の紅茶を用意させた。是非楽しんでくれ」
ヴィクトールに勧められて瑛莉は形程度に紅茶に口をつけた。ふわり漂う香りやこっくりとした茶葉の甘みが広がるが、この状態で飲食を行えば逆流してしまうかもしれない。それなのに美味しそうなお菓子や一口サイズのサンドイッチなどが空腹を刺激する。
そんな機嫌が悪い中でにこやかに会話を交わさなければならないことに、瑛莉の苛立ちは募る一方だ。
「装飾品やドレスを揃えさせるから、好みの物を使用人に伝えておくといい。サファイアやタンザナイトが似合えば良かったのだが、他の色のほうが君には映えそうだな」
「――お気遣いいただき、ありがとうございます」
サファイアもタンザナイトも青色の宝石であることは知っている。つまり本来なら自分の瞳の色と同じ宝石を贈ろうとしていたということなのだろう。
(それは遠回しに自分には私は相応しくないと伝えているのだろうか……)
そうならむしろ大歓迎なのだが、瑛莉は何も気づかない振りをしてしおらしくお礼を言った。心の中では、感情を顔に出さない、笑顔をキープなど先生の教えを繰り返していたが、元々職場で実行する筈だったことなので、場所が変わっただけなのだ。そう言い聞かせているとヴィクトールは少し困ったように続けた。
「一般の令嬢であればそのままでも構わないのかもしれないが、この私の隣に立つのであれば君にも少し努力をしてもらわないといけないんだ。明日から淑女教育を受けられるように手配をしよう」
(え、絶対に嫌!)
大体この王太子は瑛莉に何の説明もしていないのだ。情報を与えないことで自分たちの良いように行動を制限しようとしているのか、単純に面倒なのかは分からないが、そろそろ聞いてもいい頃だろう。
「あの、王太子殿下。質問をさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「うん?君の知りたいことは何でも教えてあげよう、エリー。ただし私のことも名前で呼んでくれるかい」
「……はい、ヴィクトール様」
満足そうな笑みを浮かべるヴィクトールに瑛莉は困ったように俯く。
(何かちょいちょいナルシストっぽいんだよな、この王子)
初対面の時も歯が浮くような科白に失笑してしまいそうになったが、今度は何かにつけ自分に対する自信のようなものが見え隠れしているのだ。
だが折角の機会を無駄にしてはいけない。
「私が聖女だった場合、何をしなければならないのでしょうか?」
自分がどんな役割を求められているのか、それを知らないことには身の振り方を決められない。
「そうだね。具体的なことについてはダミアーノ神官長から直接話があると思うけれど、一番大事な仕事は魔物の浄化だ」
この世界には魔物が存在するらしい。
大都市などには結界を張り魔物の侵入を防いでいるため目にすることもないが、人の少ない山村などでは結界の維持が難しいため、魔物の被害は一定数出ている。そしてさらに厄介なのが魔王の存在で、何度倒しても百年に一度ほどの割合で新たな魔王が誕生するそうだ。
そしてシクサール王国は聖女召喚により魔王討伐を何度も果たしてきたため、近隣諸国からも称賛と尊敬を集める大国として発展してきたという。
(……つまりはそれって他力本願じゃない)
何度も繰り返してきたということで、彼らにとってはそれが当たり前になったのだろう。道理で罪悪感もなければ詫びの一言もないわけだ。
自分たちの利益ばかりで召喚される側の都合を欠片も考えていないのが良く分かる。
「もちろん討伐といってもエリーの身の安全は保障するし、聖女の力が開花すれば魔王など恐れるに足りないよ」
不快さを押し殺して困惑した表情を作る瑛莉に、ヴィクトールは安心させるように微笑むが、殴りたくなるので止めて欲しい。そんなことを瑛莉が考えているとは露ほどに思わずにヴィクトールはさらに見当はずれなことを言い出した。
「魔王を倒し平和な世界がやってくれば、君を私の妻に迎えることができる」
自然な動作で瑛莉の手を取り、ヴィクトールが手の甲に口づけを落とそうとしたとき、甲高い声が響いた。
「まあ、お兄様!何をしていらっしゃいますの!」
(もう勘弁してくれないかな)
更なる厄介事の予感に瑛莉は引きつりそうな表情筋を酷使しながら、胸中で呟くことしか出来なかった。
「まるで薔薇の妖精が舞い降りたかのようだな。よく似合っているよ、エリー」
「……お褒めに預かり光栄です、王太子殿下」
瑛莉は愛想笑いを浮かべて、見よう見まねでドレスの裾を持ち深々と頭を下げた。
灰色がかったピンクのドレスは甘すぎずに落ち着いた雰囲気でありながら、ところどころに薔薇の意匠をさりげなく散りばめているのが可愛らしい。
青々と茂った芝生は丁寧に整えられており色とりどりの花とのコントラストが鮮やかだ。ガセボの横にはシルバーピンクの薔薇が咲き誇っており、ヴィクトールの発言もそれになぞらえたものだろう。
美しい庭園とテーブルの上に並べられた繊細で優雅なティーセット。穏やかな午後という言葉がぴったりの空間であるのに対して瑛莉の心中は荒れ狂っていた。
(もう、早く脱ぎたい!ってか本当にみんなこんなの着てるの?苦し過ぎるわ!)
固いコルセットでないだけまだましかもしれないが、ビスチェのような補正下着でぎゅっと締め付けられた腹部が苦しくて堪らない。あるべき場所に豊かさがなく、胸部を引き立たせるためには仕方ないのかもしれないが、ないものはないで諦めてくれれば良いのに、職務に忠実な侍女たちはそれを許してくれなかったのだ。
「最高級の紅茶を用意させた。是非楽しんでくれ」
ヴィクトールに勧められて瑛莉は形程度に紅茶に口をつけた。ふわり漂う香りやこっくりとした茶葉の甘みが広がるが、この状態で飲食を行えば逆流してしまうかもしれない。それなのに美味しそうなお菓子や一口サイズのサンドイッチなどが空腹を刺激する。
そんな機嫌が悪い中でにこやかに会話を交わさなければならないことに、瑛莉の苛立ちは募る一方だ。
「装飾品やドレスを揃えさせるから、好みの物を使用人に伝えておくといい。サファイアやタンザナイトが似合えば良かったのだが、他の色のほうが君には映えそうだな」
「――お気遣いいただき、ありがとうございます」
サファイアもタンザナイトも青色の宝石であることは知っている。つまり本来なら自分の瞳の色と同じ宝石を贈ろうとしていたということなのだろう。
(それは遠回しに自分には私は相応しくないと伝えているのだろうか……)
そうならむしろ大歓迎なのだが、瑛莉は何も気づかない振りをしてしおらしくお礼を言った。心の中では、感情を顔に出さない、笑顔をキープなど先生の教えを繰り返していたが、元々職場で実行する筈だったことなので、場所が変わっただけなのだ。そう言い聞かせているとヴィクトールは少し困ったように続けた。
「一般の令嬢であればそのままでも構わないのかもしれないが、この私の隣に立つのであれば君にも少し努力をしてもらわないといけないんだ。明日から淑女教育を受けられるように手配をしよう」
(え、絶対に嫌!)
大体この王太子は瑛莉に何の説明もしていないのだ。情報を与えないことで自分たちの良いように行動を制限しようとしているのか、単純に面倒なのかは分からないが、そろそろ聞いてもいい頃だろう。
「あの、王太子殿下。質問をさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「うん?君の知りたいことは何でも教えてあげよう、エリー。ただし私のことも名前で呼んでくれるかい」
「……はい、ヴィクトール様」
満足そうな笑みを浮かべるヴィクトールに瑛莉は困ったように俯く。
(何かちょいちょいナルシストっぽいんだよな、この王子)
初対面の時も歯が浮くような科白に失笑してしまいそうになったが、今度は何かにつけ自分に対する自信のようなものが見え隠れしているのだ。
だが折角の機会を無駄にしてはいけない。
「私が聖女だった場合、何をしなければならないのでしょうか?」
自分がどんな役割を求められているのか、それを知らないことには身の振り方を決められない。
「そうだね。具体的なことについてはダミアーノ神官長から直接話があると思うけれど、一番大事な仕事は魔物の浄化だ」
この世界には魔物が存在するらしい。
大都市などには結界を張り魔物の侵入を防いでいるため目にすることもないが、人の少ない山村などでは結界の維持が難しいため、魔物の被害は一定数出ている。そしてさらに厄介なのが魔王の存在で、何度倒しても百年に一度ほどの割合で新たな魔王が誕生するそうだ。
そしてシクサール王国は聖女召喚により魔王討伐を何度も果たしてきたため、近隣諸国からも称賛と尊敬を集める大国として発展してきたという。
(……つまりはそれって他力本願じゃない)
何度も繰り返してきたということで、彼らにとってはそれが当たり前になったのだろう。道理で罪悪感もなければ詫びの一言もないわけだ。
自分たちの利益ばかりで召喚される側の都合を欠片も考えていないのが良く分かる。
「もちろん討伐といってもエリーの身の安全は保障するし、聖女の力が開花すれば魔王など恐れるに足りないよ」
不快さを押し殺して困惑した表情を作る瑛莉に、ヴィクトールは安心させるように微笑むが、殴りたくなるので止めて欲しい。そんなことを瑛莉が考えているとは露ほどに思わずにヴィクトールはさらに見当はずれなことを言い出した。
「魔王を倒し平和な世界がやってくれば、君を私の妻に迎えることができる」
自然な動作で瑛莉の手を取り、ヴィクトールが手の甲に口づけを落とそうとしたとき、甲高い声が響いた。
「まあ、お兄様!何をしていらっしゃいますの!」
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