召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景

文字の大きさ
4 / 74

拷問と他力本願

しおりを挟む
(これは一体何の拷問なのかな?!)

「まるで薔薇の妖精が舞い降りたかのようだな。よく似合っているよ、エリー」
「……お褒めに預かり光栄です、王太子殿下」

瑛莉は愛想笑いを浮かべて、見よう見まねでドレスの裾を持ち深々と頭を下げた。
灰色がかったピンクのドレスは甘すぎずに落ち着いた雰囲気でありながら、ところどころに薔薇の意匠をさりげなく散りばめているのが可愛らしい。

青々と茂った芝生は丁寧に整えられており色とりどりの花とのコントラストが鮮やかだ。ガセボの横にはシルバーピンクの薔薇が咲き誇っており、ヴィクトールの発言もそれになぞらえたものだろう。
美しい庭園とテーブルの上に並べられた繊細で優雅なティーセット。穏やかな午後という言葉がぴったりの空間であるのに対して瑛莉の心中は荒れ狂っていた。

(もう、早く脱ぎたい!ってか本当にみんなこんなの着てるの?苦し過ぎるわ!)

固いコルセットでないだけまだましかもしれないが、ビスチェのような補正下着でぎゅっと締め付けられた腹部が苦しくて堪らない。あるべき場所に豊かさがなく、胸部を引き立たせるためには仕方ないのかもしれないが、ないものはないで諦めてくれれば良いのに、職務に忠実な侍女たちはそれを許してくれなかったのだ。

「最高級の紅茶を用意させた。是非楽しんでくれ」

ヴィクトールに勧められて瑛莉は形程度に紅茶に口をつけた。ふわり漂う香りやこっくりとした茶葉の甘みが広がるが、この状態で飲食を行えば逆流してしまうかもしれない。それなのに美味しそうなお菓子や一口サイズのサンドイッチなどが空腹を刺激する。
そんな機嫌が悪い中でにこやかに会話を交わさなければならないことに、瑛莉の苛立ちは募る一方だ。

「装飾品やドレスを揃えさせるから、好みの物を使用人に伝えておくといい。サファイアやタンザナイトが似合えば良かったのだが、他の色のほうが君には映えそうだな」
「――お気遣いいただき、ありがとうございます」

サファイアもタンザナイトも青色の宝石であることは知っている。つまり本来なら自分の瞳の色と同じ宝石を贈ろうとしていたということなのだろう。

(それは遠回しに自分には私は相応しくないと伝えているのだろうか……)

そうならむしろ大歓迎なのだが、瑛莉は何も気づかない振りをしてしおらしくお礼を言った。心の中では、感情を顔に出さない、笑顔をキープなど先生の教えを繰り返していたが、元々職場で実行する筈だったことなので、場所が変わっただけなのだ。そう言い聞かせているとヴィクトールは少し困ったように続けた。

「一般の令嬢であればそのままでも構わないのかもしれないが、この私の隣に立つのであれば君にも少し努力をしてもらわないといけないんだ。明日から淑女教育を受けられるように手配をしよう」

(え、絶対に嫌!)

大体この王太子は瑛莉に何の説明もしていないのだ。情報を与えないことで自分たちの良いように行動を制限しようとしているのか、単純に面倒なのかは分からないが、そろそろ聞いてもいい頃だろう。

「あの、王太子殿下。質問をさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「うん?君の知りたいことは何でも教えてあげよう、エリー。ただし私のことも名前で呼んでくれるかい」
「……はい、ヴィクトール様」

満足そうな笑みを浮かべるヴィクトールに瑛莉は困ったように俯く。

(何かちょいちょいナルシストっぽいんだよな、この王子)

初対面の時も歯が浮くような科白に失笑してしまいそうになったが、今度は何かにつけ自分に対する自信のようなものが見え隠れしているのだ。
だが折角の機会を無駄にしてはいけない。

「私が聖女だった場合、何をしなければならないのでしょうか?」
自分がどんな役割を求められているのか、それを知らないことには身の振り方を決められない。

「そうだね。具体的なことについてはダミアーノ神官長から直接話があると思うけれど、一番大事な仕事は魔物の浄化だ」


この世界には魔物が存在するらしい。
大都市などには結界を張り魔物の侵入を防いでいるため目にすることもないが、人の少ない山村などでは結界の維持が難しいため、魔物の被害は一定数出ている。そしてさらに厄介なのが魔王の存在で、何度倒しても百年に一度ほどの割合で新たな魔王が誕生するそうだ。
そしてシクサール王国は聖女召喚により魔王討伐を何度も果たしてきたため、近隣諸国からも称賛と尊敬を集める大国として発展してきたという。

(……つまりはそれって他力本願じゃない)

何度も繰り返してきたということで、彼らにとってはそれが当たり前になったのだろう。道理で罪悪感もなければ詫びの一言もないわけだ。
自分たちの利益ばかりで召喚される側の都合を欠片も考えていないのが良く分かる。

「もちろん討伐といってもエリーの身の安全は保障するし、聖女の力が開花すれば魔王など恐れるに足りないよ」

不快さを押し殺して困惑した表情を作る瑛莉に、ヴィクトールは安心させるように微笑むが、殴りたくなるので止めて欲しい。そんなことを瑛莉が考えているとは露ほどに思わずにヴィクトールはさらに見当はずれなことを言い出した。

「魔王を倒し平和な世界がやってくれば、君を私の妻に迎えることができる」
自然な動作で瑛莉の手を取り、ヴィクトールが手の甲に口づけを落とそうとしたとき、甲高い声が響いた。

「まあ、お兄様!何をしていらっしゃいますの!」

(もう勘弁してくれないかな)
更なる厄介事の予感に瑛莉は引きつりそうな表情筋を酷使しながら、胸中で呟くことしか出来なかった。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

【完結】さようなら。毒親と毒姉に利用され、虐げられる人生はもう御免です 〜復讐として隣国の王家に嫁いだら、婚約者に溺愛されました〜

ゆうき
恋愛
父の一夜の過ちによって生を受け、聖女の力を持って生まれてしまったことで、姉に聖女の力を持って生まれてくることを望んでいた家族に虐げられて生きてきた王女セリアは、隣国との戦争を再び引き起こした大罪人として、処刑されてしまった。 しかし、それは現実で起こったことではなく、聖女の力による予知の力で見た、自分の破滅の未来だった。 生まれて初めてみた、自分の予知。しかも、予知を見てしまうと、もうその人の不幸は、内容が変えられても、不幸が起こることは変えられない。 それでも、このまま何もしなければ、身に覚えのないことで処刑されてしまう。日頃から、戦争で亡くなった母の元に早く行きたいと思っていたセリアだが、いざ破滅の未来を見たら、そんなのはまっぴら御免だと強く感じた。 幼い頃は、白馬に乗った王子様が助けに来てくれると夢見ていたが、未来は自分で勝ち取るものだと考えたセリアは、一つの疑問を口にする。 「……そもそも、どうして私がこんな仕打ちを受けなくちゃいけないの?」 初めて前向きになったセリアに浮かんだのは、疑問と――恨み。その瞬間、セリアは心に誓った。自分を虐げてきた家族と、母を奪った戦争の元凶である、隣国に復讐をしようと。 そんな彼女にとある情報が舞い込む。長年戦争をしていた隣国の王家が、友好の証として、王子の婚約者を探していると。 これは復讐に使えると思ったセリアは、その婚約者に立候補しようとするが……この時のセリアはまだ知らない。復讐をしようとしている隣国の王子が、運命の相手だということを。そして、彼に溺愛される未来が待っていることも。 これは、復讐を決意した一人の少女が、復讐と運命の相手との出会いを経て、幸せに至るまでの物語。 ☆既に全話執筆、予約投稿済みです☆

【完結】「異世界に召喚されたら聖女を名乗る女に冤罪をかけられ森に捨てられました。特殊スキルで育てたリンゴを食べて生き抜きます」

まほりろ
恋愛
※小説家になろう「異世界転生ジャンル」日間ランキング9位!2022/09/05 仕事からの帰り道、近所に住むセレブ女子大生と一緒に異世界に召喚された。 私たちを呼び出したのは中世ヨーロッパ風の世界に住むイケメン王子。 王子は美人女子大生に夢中になり彼女を本物の聖女と認定した。 冴えない見た目の私は、故郷で女子大生を脅迫していた冤罪をかけられ追放されてしまう。 本物の聖女は私だったのに……。この国が困ったことになっても助けてあげないんだから。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※小説家になろう先行投稿。カクヨム、エブリスタにも投稿予定。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

【完結】聖女召喚に巻き込まれたバリキャリですが、追い出されそうになったのでお金と魔獣をもらって出て行きます!

チャらら森山
恋愛
二十七歳バリバリキャリアウーマンの鎌本博美(かまもとひろみ)が、交差点で後ろから背中を押された。死んだと思った博美だが、突如、異世界へ召喚される。召喚された博美が発した言葉を誤解したハロルド王子の前に、もうひとりの女性が現れた。博美の方が、聖女召喚に巻き込まれた一般人だと決めつけ、追い出されそうになる。しかし、バリキャリの博美は、そのまま追い出されることを拒否し、彼らに慰謝料を要求する。 お金を受け取るまで、博美は屋敷で暮らすことになり、数々の騒動に巻き込まれながら地下で暮らす魔獣と交流を深めていく。

冷酷騎士団長に『出来損ない』と捨てられましたが、どうやら私の力が覚醒したらしく、ヤンデレ化した彼に執着されています

放浪人
恋愛
平凡な毎日を送っていたはずの私、橘 莉奈(たちばな りな)は、突然、眩い光に包まれ異世界『エルドラ』に召喚されてしまう。 伝説の『聖女』として迎えられたのも束の間、魔力測定で「魔力ゼロ」と判定され、『出来損ない』の烙印を押されてしまった。 希望を失った私を引き取ったのは、氷のように冷たい瞳を持つ、この国の騎士団長カイン・アシュフォード。 「お前はここで、俺の命令だけを聞いていればいい」 物置のような部屋に押し込められ、彼から向けられるのは侮蔑の視線と冷たい言葉だけ。 元の世界に帰ることもできず、絶望的な日々が続くと思っていた。 ──しかし、ある出来事をきっかけに、私の中に眠っていた〝本当の力〟が目覚め始める。 その瞬間から、私を見るカインの目が変わり始めた。 「リリア、お前は俺だけのものだ」 「どこへも行かせない。永遠に、俺のそばにいろ」 かつての冷酷さはどこへやら、彼は私に異常なまでの執着を見せ、甘く、そして狂気的な愛情で私を束縛しようとしてくる。 これは本当に愛情なの? それともただの執着? 優しい第二王子エリアスは私に手を差し伸べてくれるけれど、カインの嫉妬の炎は燃え盛るばかり。 逃げ場のない城の中、歪んだ愛の檻に、私は囚われていく──。

私は、聖女っていう柄じゃない

蝋梅
恋愛
夜勤明け、お風呂上がりに愚痴れば床が抜けた。 いや、マンションでそれはない。聖女様とか寒気がはしる呼ばれ方も気になるけど、とりあえず一番の鳥肌の元を消したい。私は、弦も矢もない弓を掴んだ。 20〜番外編としてその後が続きます。気に入って頂けましたら幸いです。 読んで下さり、ありがとうございました(*^^*)

【完結】聖女召喚の聖女じゃない方~無魔力な私が溺愛されるってどういう事?!

未知香
恋愛
※エールや応援ありがとうございます! 会社帰りに聖女召喚に巻き込まれてしまった、アラサーの会社員ツムギ。 一緒に召喚された女子高生のミズキは聖女として歓迎されるが、 ツムギは魔力がゼロだった為、偽物だと認定された。 このまま何も説明されずに捨てられてしまうのでは…? 人が去った召喚場でひとり絶望していたツムギだったが、 魔法師団長は無魔力に興味があるといい、彼に雇われることとなった。 聖女として王太子にも愛されるようになったミズキからは蔑視されるが、 魔法師団長は無魔力のツムギをモルモットだと離そうとしない。 魔法師団長は少し猟奇的な言動もあるものの、 冷たく整った顔とわかりにくい態度の中にある優しさに、徐々にツムギは惹かれていく… 聖女召喚から始まるハッピーエンドの話です! 完結まで書き終わってます。 ※他のサイトにも連載してます

追放聖女の再就職 〜長年仕えた王家からニセモノと追い出されたわたしですが頑張りますね、魔王さま!〜

三崎ちさ
恋愛
メリアは王宮に勤める聖女、だった。 「真なる聖女はこの世に一人、エミリーのみ! お前はニセモノだ!」 ある日突然いきりたった王子から国外追放、そして婚約破棄もオマケのように言い渡される。 「困ったわ、追放されても生きてはいけるけど、どうやってお金を稼ごうかしら」 メリアには病気の両親がいる。王宮で聖女として働いていたのも両親の治療費のためだった。国の外には魔物がウロウロ、しかし聖女として活躍してきたメリアには魔物は大した脅威ではない。ただ心配なことは『お金の稼ぎ方』だけである。 そんな中、メリアはひょんなことから封印されていたはずの魔族と出会い、魔王のもとで働くことになる。 「頑張りますね、魔王さま!」 「……」(かわいい……) 一方、メリアを独断で追放した王子は父の激昂を招いていた。 「メリアを魔族と引き合わせるわけにはいかん!」 国王はメリアと魔族について、何か秘密があるようで……? 即オチ真面目魔王さまと両親のためにお金を稼ぎたい!ニセモノ疑惑聖女のラブコメです。 ※小説家になろうさんにも掲載

子供が可愛いすぎて伯爵様の溺愛に気づきません!

屋月 トム伽
恋愛
私と婚約をすれば、真実の愛に出会える。 そのせいで、私はラッキージンクスの令嬢だと呼ばれていた。そんな噂のせいで、何度も婚約破棄をされた。 そして、9回目の婚約中に、私は夜会で襲われてふしだらな令嬢という二つ名までついてしまった。 ふしだらな令嬢に、もう婚約の申し込みなど来ないだろうと思っていれば、お父様が氷の伯爵様と有名なリクハルド・マクシミリアン伯爵様に婚約を申し込み、邸を売って海外に行ってしまう。 突然の婚約の申し込みに断られるかと思えば、リクハルド様は婚約を受け入れてくれた。婚約初日から、マクシミリアン伯爵邸で住み始めることになるが、彼は未婚のままで子供がいた。 リクハルド様に似ても似つかない子供。 そうして、マクリミリアン伯爵家での生活が幕を開けた。

処理中です...