召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景

文字の大きさ
13 / 74

初めての外出

しおりを挟む
(すごい、海外の市場みたい!!)
道路の両端にずらりと並んだ露店からは活気のある掛け声や、足を止めて商品を吟味する人々で賑わっている。

「エリー、くれぐれもはぐれないように気を付けるんだぞ」
「はーい」

気もそぞろに返事をすれば、やれやれといったような吐息が聞こえたが、勿論無視する。

「人混みには良からぬことを考える者もおりますからね。もっとも副た……ディルクさんと俺もいますから、安心して楽しんでいただければと思います」

そう言って笑顔を向けるジャンは第二騎士団の団員であり、本日ディルクとともに瑛莉の護衛を任命されていた。ディルクよりも少し若く、馬車の中でも瑛莉を気遣って流行りのスイーツや街の情報、お金の使い方などを教えてくれた、人の好さそうな青年だ。

「ジャン、もう少し言葉崩してくれないと貴族令嬢のお忍びだって疑われるよ。やっぱり私が下働きの娘役とかしたほうが自然なんじゃない?」

第二騎士団の団員は市街での任務も多く、二人ともそれなりに知られているそうだ。ディルクもジャンも敢えて私服で行動することで目立たないようにしているが、そんな中で明らかに護衛をしていると分かれば、変に注目を浴びかねない。

聖女である瑛莉に気安く話しかけるなんてと躊躇うジャンに、いっそのこと立場を逆にしたらどうかと提案したが却下された。
結局のところ誰かに聞かれた場合は、知人の娘というぼかした関係性を伝えることで落ち着いた。説明になっていないが、大抵の人は訳アリだと察してくれるだろうと言うのがディルクの考えだ。

「すみません、エリーさん。その、気を付けるよ」
「うん。迷惑かけるけど、今日はよろしくね」

久しぶりにワクワクした気分で瑛莉が声を掛ければ、ジャンはもごもごと何か口にしたようだ。

「ほら、さっさと行くぞ」

聞き返そうとする前にディルクからぐいっと肩を摑まれたため、ぺしりと叩いて手を払っておく。タイミングがずれたので今更聞き返すのも微妙だし、必要なことならまた伝えてくれるだろう。
さっさと興味を切り替えた瑛莉は最初の目的地に足を向けた。


「じゃ、ちょっと待ってて」
そう言って一人で店内に入ろうとした瑛莉を引き留めたのはディルクだ。

「言ったそばから一人で行動しようとするな」
「だって一緒にいたら不自然だもん。外から店の中見えるからそれで良くない?」
「お前は目を離すと何をするか分からん。大体バレたら面倒なことになるぞ」

ジャンは困惑したようにこちらを見ているが、ディルクには瑛莉が何をしようとしているか分かったらしい。
口に出さずに見逃してくれれば良いのに、ディルクには存外真面目な一面があるようだ。

「街に来て買い物出来ないなんて嫌だ。どうせあの人たちが私にお金を渡すわけないんだから、自分で何とかするしかないでしょ」
一瞬だけ言葉に詰まったディルクに、瑛莉は内心嘆息した。

(予想しないわけないじゃない)

ヴィクトールの許可が下りたのだから、外出自体を止めさせるわけにはいかない。代わりに嫌がらせをするなら、買い物のための資金を渡さないことが効果的だろう。
ドレスの一着でも売りさばいてやろうかなと考えたが、嵩張るため外出前に見咎められてしまう可能性があった。
だからポケットに入る大きさで、少々数が減っても気づかれにくい物である魔石を選んだのだのに、思いがけない障害を知ったのは馬車の中でだ。


「え、浄化済の魔石を勝手に売るのは違法になるの?」
物価に次いで魔石の価値などをジャンに確認していた瑛莉に、ディルクが横槍を入れた。

「価値を統一しなければ価格が高騰しかねないからな。通常神殿経由でなければ手に入らないものだから神殿の代理で魔石を販売しているようなものだ。だからこそ魔石商たちは勝手に価格を変えることが出来ない」

(失敗したな……生活に密接に関係するものだからこそ管理する必要があるのか)
事前に情報収集できなかったのは自分のミスだ。

魔石自体は腕に覚えのある冒険者たちが魔物の生息地で採取したり魔物を倒すことで、一定の供給がある。だがそのままでは使えないため冒険者ギルドが間に入り、神殿と売買を行っているそうだ。
そのため瑛莉は冒険者ギルドで浄化前の魔石を買い取ったあと、それを浄化し販売しすることで買い物資金に充てようと考えていたのだ。まさか自由販売が禁止されているとは思わなかったので、落胆は大きかったが、他に方法はないかと考えた結果が魔石商でをすることだった。

(自分で浄化した魔石だけど、結局使えるしどっちも損してないからいいと思うんだけど……)

表向きは返品による返金扱いだが、実際は売買の形になるので違法と言われればその通りなのだ。それでも他で販売するよりも足が付きにくいし、多少ズルをしても瑛莉は自由に使えるお金が欲しいので譲る気はない。

「……分かった。代わりに俺が交渉してくるから魔石を出せ。そんでジャンと待ってろ」
「は、そんなの駄目に決まってるでしょ。やったことの責任は自分で取るし」

万が一バレれば違法行為をした本人が罪に問われるのだ。他人に罪を擦り付けるような狡い人間にはなりたくない。

「とりあえずどれだけ持ってるか見せろ」
そこからまたやり取りはあったものの、最終的に瑛莉は持っている魔石を出すことにした。言い合いをしている時間が勿体ないのと、ジャンとディルクの二人に言われて根負けしたためだ。

「金貨2枚だな……」
「はい、手数料を含めなければそれぐらいが妥当ですね」

二人が話しているのを面白くなさそうに見ていた瑛莉に、ディルクは革袋から金貨一枚と銀貨九枚、銅貨十枚を取り出して瑛莉の手の平に乗せた。

「貨幣の価値は覚えてるな?銅貨十枚が銀貨一枚、銀貨十枚が金貨一枚だ。お前の魔石は俺が買い取る。ジャンにも確認した適正価格だからな」

その手があったのかと納得する気持ちと、受け取っていいのかと躊躇う気持ちが湧いた。そんな瑛莉の葛藤に気づいたのか、ディルクはさっさと歩きだしてしまう。

「あの人はああいう人だから気にしなくていいよ。ほら、せっかくの外出なんだから楽しまないと損だよね」

ジャンの言葉に背中を押された瑛莉は、もぞもぞする気持ちを一旦棚上げしてディルクの後を追いかけることにした。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

【完結】さようなら。毒親と毒姉に利用され、虐げられる人生はもう御免です 〜復讐として隣国の王家に嫁いだら、婚約者に溺愛されました〜

ゆうき
恋愛
父の一夜の過ちによって生を受け、聖女の力を持って生まれてしまったことで、姉に聖女の力を持って生まれてくることを望んでいた家族に虐げられて生きてきた王女セリアは、隣国との戦争を再び引き起こした大罪人として、処刑されてしまった。 しかし、それは現実で起こったことではなく、聖女の力による予知の力で見た、自分の破滅の未来だった。 生まれて初めてみた、自分の予知。しかも、予知を見てしまうと、もうその人の不幸は、内容が変えられても、不幸が起こることは変えられない。 それでも、このまま何もしなければ、身に覚えのないことで処刑されてしまう。日頃から、戦争で亡くなった母の元に早く行きたいと思っていたセリアだが、いざ破滅の未来を見たら、そんなのはまっぴら御免だと強く感じた。 幼い頃は、白馬に乗った王子様が助けに来てくれると夢見ていたが、未来は自分で勝ち取るものだと考えたセリアは、一つの疑問を口にする。 「……そもそも、どうして私がこんな仕打ちを受けなくちゃいけないの?」 初めて前向きになったセリアに浮かんだのは、疑問と――恨み。その瞬間、セリアは心に誓った。自分を虐げてきた家族と、母を奪った戦争の元凶である、隣国に復讐をしようと。 そんな彼女にとある情報が舞い込む。長年戦争をしていた隣国の王家が、友好の証として、王子の婚約者を探していると。 これは復讐に使えると思ったセリアは、その婚約者に立候補しようとするが……この時のセリアはまだ知らない。復讐をしようとしている隣国の王子が、運命の相手だということを。そして、彼に溺愛される未来が待っていることも。 これは、復讐を決意した一人の少女が、復讐と運命の相手との出会いを経て、幸せに至るまでの物語。 ☆既に全話執筆、予約投稿済みです☆

【完結】「異世界に召喚されたら聖女を名乗る女に冤罪をかけられ森に捨てられました。特殊スキルで育てたリンゴを食べて生き抜きます」

まほりろ
恋愛
※小説家になろう「異世界転生ジャンル」日間ランキング9位!2022/09/05 仕事からの帰り道、近所に住むセレブ女子大生と一緒に異世界に召喚された。 私たちを呼び出したのは中世ヨーロッパ風の世界に住むイケメン王子。 王子は美人女子大生に夢中になり彼女を本物の聖女と認定した。 冴えない見た目の私は、故郷で女子大生を脅迫していた冤罪をかけられ追放されてしまう。 本物の聖女は私だったのに……。この国が困ったことになっても助けてあげないんだから。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※小説家になろう先行投稿。カクヨム、エブリスタにも投稿予定。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

【完結】聖女召喚に巻き込まれたバリキャリですが、追い出されそうになったのでお金と魔獣をもらって出て行きます!

チャらら森山
恋愛
二十七歳バリバリキャリアウーマンの鎌本博美(かまもとひろみ)が、交差点で後ろから背中を押された。死んだと思った博美だが、突如、異世界へ召喚される。召喚された博美が発した言葉を誤解したハロルド王子の前に、もうひとりの女性が現れた。博美の方が、聖女召喚に巻き込まれた一般人だと決めつけ、追い出されそうになる。しかし、バリキャリの博美は、そのまま追い出されることを拒否し、彼らに慰謝料を要求する。 お金を受け取るまで、博美は屋敷で暮らすことになり、数々の騒動に巻き込まれながら地下で暮らす魔獣と交流を深めていく。

冷酷騎士団長に『出来損ない』と捨てられましたが、どうやら私の力が覚醒したらしく、ヤンデレ化した彼に執着されています

放浪人
恋愛
平凡な毎日を送っていたはずの私、橘 莉奈(たちばな りな)は、突然、眩い光に包まれ異世界『エルドラ』に召喚されてしまう。 伝説の『聖女』として迎えられたのも束の間、魔力測定で「魔力ゼロ」と判定され、『出来損ない』の烙印を押されてしまった。 希望を失った私を引き取ったのは、氷のように冷たい瞳を持つ、この国の騎士団長カイン・アシュフォード。 「お前はここで、俺の命令だけを聞いていればいい」 物置のような部屋に押し込められ、彼から向けられるのは侮蔑の視線と冷たい言葉だけ。 元の世界に帰ることもできず、絶望的な日々が続くと思っていた。 ──しかし、ある出来事をきっかけに、私の中に眠っていた〝本当の力〟が目覚め始める。 その瞬間から、私を見るカインの目が変わり始めた。 「リリア、お前は俺だけのものだ」 「どこへも行かせない。永遠に、俺のそばにいろ」 かつての冷酷さはどこへやら、彼は私に異常なまでの執着を見せ、甘く、そして狂気的な愛情で私を束縛しようとしてくる。 これは本当に愛情なの? それともただの執着? 優しい第二王子エリアスは私に手を差し伸べてくれるけれど、カインの嫉妬の炎は燃え盛るばかり。 逃げ場のない城の中、歪んだ愛の檻に、私は囚われていく──。

私は、聖女っていう柄じゃない

蝋梅
恋愛
夜勤明け、お風呂上がりに愚痴れば床が抜けた。 いや、マンションでそれはない。聖女様とか寒気がはしる呼ばれ方も気になるけど、とりあえず一番の鳥肌の元を消したい。私は、弦も矢もない弓を掴んだ。 20〜番外編としてその後が続きます。気に入って頂けましたら幸いです。 読んで下さり、ありがとうございました(*^^*)

【完結】聖女召喚の聖女じゃない方~無魔力な私が溺愛されるってどういう事?!

未知香
恋愛
※エールや応援ありがとうございます! 会社帰りに聖女召喚に巻き込まれてしまった、アラサーの会社員ツムギ。 一緒に召喚された女子高生のミズキは聖女として歓迎されるが、 ツムギは魔力がゼロだった為、偽物だと認定された。 このまま何も説明されずに捨てられてしまうのでは…? 人が去った召喚場でひとり絶望していたツムギだったが、 魔法師団長は無魔力に興味があるといい、彼に雇われることとなった。 聖女として王太子にも愛されるようになったミズキからは蔑視されるが、 魔法師団長は無魔力のツムギをモルモットだと離そうとしない。 魔法師団長は少し猟奇的な言動もあるものの、 冷たく整った顔とわかりにくい態度の中にある優しさに、徐々にツムギは惹かれていく… 聖女召喚から始まるハッピーエンドの話です! 完結まで書き終わってます。 ※他のサイトにも連載してます

追放聖女の再就職 〜長年仕えた王家からニセモノと追い出されたわたしですが頑張りますね、魔王さま!〜

三崎ちさ
恋愛
メリアは王宮に勤める聖女、だった。 「真なる聖女はこの世に一人、エミリーのみ! お前はニセモノだ!」 ある日突然いきりたった王子から国外追放、そして婚約破棄もオマケのように言い渡される。 「困ったわ、追放されても生きてはいけるけど、どうやってお金を稼ごうかしら」 メリアには病気の両親がいる。王宮で聖女として働いていたのも両親の治療費のためだった。国の外には魔物がウロウロ、しかし聖女として活躍してきたメリアには魔物は大した脅威ではない。ただ心配なことは『お金の稼ぎ方』だけである。 そんな中、メリアはひょんなことから封印されていたはずの魔族と出会い、魔王のもとで働くことになる。 「頑張りますね、魔王さま!」 「……」(かわいい……) 一方、メリアを独断で追放した王子は父の激昂を招いていた。 「メリアを魔族と引き合わせるわけにはいかん!」 国王はメリアと魔族について、何か秘密があるようで……? 即オチ真面目魔王さまと両親のためにお金を稼ぎたい!ニセモノ疑惑聖女のラブコメです。 ※小説家になろうさんにも掲載

子供が可愛いすぎて伯爵様の溺愛に気づきません!

屋月 トム伽
恋愛
私と婚約をすれば、真実の愛に出会える。 そのせいで、私はラッキージンクスの令嬢だと呼ばれていた。そんな噂のせいで、何度も婚約破棄をされた。 そして、9回目の婚約中に、私は夜会で襲われてふしだらな令嬢という二つ名までついてしまった。 ふしだらな令嬢に、もう婚約の申し込みなど来ないだろうと思っていれば、お父様が氷の伯爵様と有名なリクハルド・マクシミリアン伯爵様に婚約を申し込み、邸を売って海外に行ってしまう。 突然の婚約の申し込みに断られるかと思えば、リクハルド様は婚約を受け入れてくれた。婚約初日から、マクシミリアン伯爵邸で住み始めることになるが、彼は未婚のままで子供がいた。 リクハルド様に似ても似つかない子供。 そうして、マクリミリアン伯爵家での生活が幕を開けた。

処理中です...