召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景

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仕返し

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目を覚ますとまだ早朝のようで、瑛莉は身体の調子を確かめるためそっと身を起こした。

(うん、少しだるさはあるけど頭痛はないし熱も引いたみたい)

汗を流すためお風呂に入りたかったが、一人で入るとエルヴィーラから叱られるため我慢する。

(神殿とディルクのこと、考えないとな)

ジャンの言葉を信じるならば、予想以上に神殿は悪辣だということになる。わざわざ召喚したのに使い物にならなければ失敗だと言うのは分かるが、こちらからすれば堪ったものではない。とはいえ面談時のダミアーノの態度や神殿での扱いを見るに、当分は問題ない気がした。

悔しいけれど癒しの力が露見したことで生活の保障はされたことになる。保存食にも限りがありあのまま嫌がらせが続けば、流石に精神的にも肉体的にも厳しかっただろう。
そう考えて何かが頭をよぎった。

(だけどもし………癒しの力が露見しなかったら、どうなっていた?)

ヴィクトールには信用されていなかったし、おまけにディルクと食事を摂ることも禁止された。もし外出許可が下りなければ、日々の食事に困る状況になっていただろう。
その場合、瑛莉が最終的に頼るのはエルヴィーラ、つまり神殿だ。

エルヴィーラは瑛莉を見下したり、仕事を放棄するようなことはしなかったが、瑛莉のために積極的に行動することはなかった。
それはつまり神殿からそう命じられていたのではないだろうか。

(エルヴィーラが神殿に報告していたとしても、神殿側は私が泣きついてくるまで待っていた。そして餌を与えて懐柔しようとした、というのは穿ち過ぎか?)

瑛莉を利用しようとするのなら、健康な状態でいてもらわないと神殿だって困るだろう。にもかかわらず放置したということは、追い詰められて精神的に弱っているところにつけ込もうとしたと考えるほうが自然な気がした。

(ってことは貴族の嫌がらせは嫉妬だけじゃなくて、神殿側の意図も働いたってことになるのか……。何というか……組織的ないじめ過ぎるし、流石にひどくないか?!)

考えれば考えるほどにこの世界には敵しかいないのかという気がしてくる。喉の渇きを覚えて、瑛莉は枕元に置かれた水差しにのろのろと手を伸ばす。

(ディルクもディルクであいつ一体何がしたいんだよ?!味方かと思えば向こう側に立つし、そのくせ律義に食料は渡してくるし!ジャンは守ろうとしたって言うけどさ、だったら最初から言えば済む話だろうが!)

そんなことを考えていたせいか、思ったよりも重かった水差しが指から離れた。鈍い音がして落ちた水差しは分厚いカーペットのおかげで割れずにすんだが、横倒しになったせいで見る見るうちに染みが広がっていく。

(やばっ!)
急いでベッドのわきにしゃがみこんで、水差しを手に取ると同時にバタンと扉が開く音がした。

(え、誰?)
ベッド越しに扉の方を見るとディルが駆け足でこちらに向かってくる。

「大丈夫か?ああ、動かなくていい、そのままで」
軽々と持ち上げられベッドに下ろされる前に、瑛莉はチャンスの逃してなるものかと行動を起こした。

両手が塞がった状態のディルクの襟元を掴むと、勢いを付けてそのまま首を縦に振ったのだ。
ゴスッともガツッとも聞こえる鈍い音が室内に響く。

(よし、取り敢えず一発入ったな)

成功したことを喜びつつも瑛莉も痛みをこらえるためディルクの肩に額を押し付けているため、どんな表情をしているのかは分からない。

「――っ、お前は病み上がりだろうが!何やってんだ!」
「そんなの仕返しに決まってるだろうが!大体お前が訳が分からないことをしているから悪いんだろう!勝手に守ったり距離を置いたり一体何がしたいんだよ!」

未だに掴んでいた襟元に力を入れながら、瑛莉は涙目で睨みつけた。勢いをつけ過ぎたことを僅かに後悔したが、頭突きしたことを謝るつもりは絶対にない。

「……フリッツから聞いたのか」
「お前だってそれは予想していたはずだ。フリッツに私の救護院訪問を教えたのはお前だろう」

ディルクは驚いたように僅かに目を瞠ったが、それぐらい察しがつかないと思われていたのかと思うと腹が立つ。

(事前に誰かが伝えていないと、タイミングよく救護院に来れるはずないだろう……)

警護の関係上、聖女が救護院を訪れることは公にされていなかった。また護衛にあたり大まかな滞在時間なども決められており、関係者でなければその情報は知り得ない。また確実な情報がなければフリッツも、本来安静にしていなければならないソフィアを連れ出さなかっただろう。
となればフリッツが信頼し情報を得ることができる相手はディルクしかいないのだ。

「……とりあえず手を離せ。お前の額も赤くなっているから手当てをしないと」
「じゃあ全部吐け。吐いたら手を離してやるし、手当てもさせてやる」

脅し文句にしては弱いが、今手を離せばディルクが話を有耶無耶にしてしまうだろう。腕力では敵わないだろうが、傷つけずに引き剥がすにはなかなか手間がかかるはずだ。

「……俺は騎士だからな。そういう道理に合わないことや姑息なことは騎士道精神に反する」
「茶番を仕掛けて私を嵌めたくせに?そういう建前はどうでもいいから、いい加減本当のことを言え」

互いに視線を合わせたまま睨み合っていると、先に逸らしたのはディルクだった。

「分かった。ちゃんと話すからまずは手を離せ。――まったく、夜着姿で男に密着するんじゃない」
「好きでくっついてたわけじゃない。お前がすぐ逃げるから仕方なくだ」

説教されるのは納得いかなかったが、瑛莉は話を聞くためにディルクを解放したのだった。
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