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第46話
しおりを挟むここは、900年ほど前のエルフの里。
長閑な草原に丸太作りの家が立ち並び、そこに100人ほどのエルフが住んでいた。畑で野菜を育てたり、狩りに出たりと自給自足の生活を営んでいる。
「ハンス!畑仕事を手伝ってくれ!」
泥まみれの顔でハンスの父親が呼んでいる。
「今、行く!」
ハンスは畑に向かって走った。
ハンスの家は農家で数種類の作物を育てていた。今は丁度収穫の時期だ。
「収穫の手伝いをしてくれ。」
「任せてよ、父さん。」
ハンスは手際良く土に埋まった作物を引き抜いていく。
1時間ほどで畑の作物の収穫が終わった。
「ハンス、ありがとう。じゃあ、何本かフィーネちゃんの家に持って行ってくれるか?」
「いいよ。」
ハンスは、採れたての作物数本を持って、家を出た。
目的の家は、すぐ隣りだ。
ハンスは、両手についた土を払って、玄関のドアをノックした。
トントン
「フィーネ!野菜を持ってきたよ!」
すると、奥から女の子の声がした。
「ハンス!今、手が離せないから、そこに置いておいて!」
ハンスは少し残念そうな顔をして、
「わかった!玄関の前に置いておくね!」
そう言って、野菜を置いて家に戻ろうとした。
その時、後ろから呼び止める声がした。
「ハンス!待って!」
振り返ると、ハンスより少し背が低い銀髪の少女が微笑んでいた。
「フィーネ。どうしたの?」
ハンスが尋ねると、
「これを渡そうと思って。」
フィーネが手に持っているのは、
こんがりと焼けた美味しそうなパンだ。
「ありがとう。」
ハンスはパンをフィーネから受け取り、頭を下げた。
「ハンス、いつもありがとう。」
フィーネが言うと、ハンスは恥ずかしそうに振り向いて、家に走って帰って行った。
ハンスとフィーネは年が近い幼馴染みで、物心ついた頃からいつも一緒にいた。最近になってハンスは何故かフィーネと距離を置くようになっていた。
「ハンス、野菜は届けてくれたか?」
ハンスの父親がリビングで寛ぎながら聞いた。
「うん、代わりにパンを貰った。」
ハンスはそう言ってパンをテーブルに置いた。
「フィーネちゃんは、元気だったか?」
「うん。」
「そうか。まあ、あれだ、これからも仲良くな。」
「うん。」
ハンスはうつむいている。
父親は、構わず話し続ける。
「いざと言う時は、男が女の子を守らないといけない。お前がフィーネちゃんを守るんだぞ。」
「分かってるよ。」
ハンスはパンをかじった。
ハンスは立ち上がると、
「ちょっと散歩してくる。」
と言って、家を出ていった。
エルフの里の中心には、一本の大木が立っている。物心ついた頃にはすでにあったその木の下が、ハンスのお気に入りの場所だった。
木に寄りかかって座ると、遠くに山々が連なり雪を被っているのが見える。その麓には森が広がっている。
ハンスは目を閉じると昼寝を始めた。
「ハンス、起きて。」
誰かの声が聞こえる。
「ハンス!」
肩を揺さぶられる。誰だろう?
ハンスが目を開けると、そこにはフィーネがいた。
「ハンス、やっぱり此処にいた。」
フィーネが笑顔で話かけてくる。
ハンスは赤くなって目を逸らす。
フィーネはハンスの横に座った。
「私もここ、好き。」
「うん。」
ハンスは素っ気なくこたえる。
「私、ハンスとずっとこうしてたいな。」
「うん。」
ハンスは横を向いて寝転がった。
フィーネもハンスの隣りに寝転がる。
「のんびりとして気持ちいいね。」
フィーネが言う。
「僕がフィーネを守れって、父さんに言われたんだ。」
ハンスがボソッと言う。
「うん。」
フィーネは、ハンスの方を向くが、ハンスは反対側を向いている。
「僕は、その、フィーネを守りたいと思ってる。」
「ありがとう、ハンス。」
突然、ハンスはフィーネの方を向いた。二人の顔が近づく。
「フィーネは、僕に守られるのが嫌じゃない?」
ハンスは顔を赤くしながら言う。
「私は、ハンスが守ってくれるなら安心だし嬉しいよ。」
フィーネは、ハンスの目をまっすぐに見て答える。
「そうか、ありがとう。」
ハンスは思わず目を逸らした。
涼しい風が通り抜ける。
二人は、しばらくそのまま寝転がっていた。
「フィーネ。」
「なに?ハンス。」
「僕らずっと一緒にいれるかな?」
「私たちはずっと一緒よ。」
突風が吹いた。
「きゃっ!」
ハンスは思わず、フィーネの上に覆い被さった。
フィーネが下、ハンスが上、顔が近い。
フィーネが頬を赤く染めながら、ゆっくり目を閉じた。
ハンスは、顔をフィーネに近づける。
そして、キスをした。
短い、いや、永遠とも思える短いキスだった。
「フィーネ、ありがとう。大好きだよ。」
ハンスが言う。
「私もよ、ハンス。」
そう言うと、フィーネがハンスの上になり、フィーネから口づけをした。
さわさわと優しい風が吹き、木がざわめいていた。
ハンスとフィーネは、こうして互いの想いを確認し、二人の未来を描き始めたのであった。
あの、悲劇の夜が訪れるまでは......
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