婚約破棄された令嬢は氷の公爵に拾われ、気づけば溺愛されていました~見下してきたあなた、後悔してももう遅いわ~

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第24話 ざまぁ、王太子殿下

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王城を包む鐘の音は、まるで長い夢の終わりを告げる合図のようだった。  
審問が終わり、王都の空は冬の青を取り戻していた。だが、その美しさの裏でまだ燻る闇を、誰も完全には知らなかった。  
アラン・ルミナスの復活、王妃の罪、王の沈黙。それらが一斉に暴かれ、人々は希望を叫んだ。  
だが――、一人だけ、復讐と憎悪に身を焦がす者がいた。

王太子エドワード。  
父王から王位継承権を剥奪され、王家からの追放を宣告された男。  
今の彼はもう「殿下」と呼ばれることはない。  
けれど、彼の目はまだ燃えていた。  
白い包帯に巻かれた腕、やつれた頬。  
心の中の炎はいまだに消えてはいなかった。  

「アラン・ルミナス……あの忌々しい男。あの女と共に、俺の全てを奪っていった。」  
窓の外を見る。そこは、城北の塔――王都の端にある監視塔だ。  
形式上は“幽閉”、だが実際には処刑を免れた囚人同然。  
従者も召使もつかぬ孤独な時間。  
夜になると、僅かな月光が壁の裂け目から差し込む。  
王家の血を受け継ぐ者がここまで落ちたことに、エドワード自身すら信じられなかった。  

「レティシア……お前さえ、いなければ。」  
自分の唇が血を滲ませるほど噛み締め、拳で壁を叩いた。  
「何が“真実の証人”だ。俺が築いてきたものを、あの女は一瞬で壊した。王妃の狂気も俺の責任も、すべて俺のせいにされ……っ!」  
怒りに任せて机を蹴る。ガラスの瓶が砕け、赤い液体が床に広がった。  
まるで血のように見えるが、それは彼の心を映す泥のような色だった。  

「お前たちが築いた“正義”など、長くは続かぬ。」  
声を、誰に向けるでもなく吐き出した。  
そして、その背後に足音が近づいてきた。  

「やはり、まだ諦めてはいないのですね。」  
低く、透き通るような声。  
エドワードが振り向いた先に立っていたのは、黒衣を纏った一人の女だった。  
長い銀髪の間から、氷のように淡い光を宿した瞳が覗く。  
かつて王妃に仕えていた侍女――アデル。  
エドワードの側近として、母の命令で影の仕事をしていた女だ。  

「アデル……お前、まだ王都にいたのか。」  
「陛下が倒れ、貴方が幽閉されても、私にはまだ“命令”が残っています。」  
「命令だと?」  
女は小さく微笑んだ。  
「“王の血を絶やすな”。王妃陛下の最後の言葉です。」  

エドワードの目に微かな光が宿った。  
「……そうか。母上はまだ俺を見捨ててはいなかったのだな。」  
「ええ。陛下は生前、ある書を残しておられました。血の書ではありません。『覚醒の儀』と呼ばれる文書です。」  
「覚醒の儀?」  
アデルが懐から紙片を取り出す。古びた羊皮紙には、奇妙な紋様が描かれていた。  
「陛下は言いました。『真なる王家の血は、一代で滅びぬ。選ばれし者がその血を継いで蘇る』と。」  
「その“選ばれし者”が……俺だと?」  
「殿下以外に誰がいましょう。王妃陛下の願いは、貴方にこそ託されたのです。」  

沈黙。  
やがて、エドワードの唇がゆっくりと曲がる。  
狂気と歓喜が交じりあった笑みだった。  
「ならば俺は――終わりなど迎えぬ王と呼ばれるにふさわしい。」  
「その通りでございます。」  
アデルが膝をつき、彼の手に唇を寄せた。  
「そして、その力を呼び覚ますには、もう一つの鍵が必要です。」  
「鍵?」  
「王太子の器を拒んだ、あの“女”。王妃陛下と同じ“特異な血”を持つ者――レティシア・グランベル。」  
「……レティシア、か。やはりお前が……俺を苦しめ尽くした元凶。」  

エドワードは立ち上がる。  
拳を握り、天井を仰いだ。  
「いいだろう。あの女を使って、母上の意志を継ごう。光を捧げた者が、いかに闇を呼ぶのか……世界に見せてやる。」  

────  

その頃、王都の西にあるルミナス邸では、レティシアが机に向かっていた。  
夜風がカーテンを揺らし、窓の外には街の灯がぼんやりと瞬く。  
アランの復帰から三日、ようやく静けさを取り戻した邸内。  
彼は新たに王の顧問として再任され、国の新しい体制を整えるため昼夜を問わず働いていた。  
「忙しそうですね……それでも、あの方が生きているというだけでこれほど違うなんて。」  
レティシアは机上の白薔薇に手を伸ばしながら、静かに微笑む。  

だが、その微笑が一瞬で凍りつく。  
外の庭で、何かが揺れた。  
風ではない。明確な足音――それも、多くの人数のもの。  
レティシアは息を詰め、扉のそばに置かれた短剣を手に取る。  

「誰?」  
返事はない。  
だが、次の瞬間、窓が叩き割られた。  
ガラスの破片が飛び散り、黒衣の影が数人飛び込んでくる。  
「きゃっ――!」  
悲鳴を上げる間もなく、腕を掴まれた。  
「離して!」  
「静かに。大人しくすれば、殿下のもとへ連れていくだけだ。」  
「殿下? ……エドワード? まさか、まだ生きて……!」  

抵抗も虚しく、口を塞がれ、視界が闇に沈む。  
最後に見たのは壊れた窓から流れ込む夜の月。  
その光が、どこか血のように紅く見えた。  

────  

同じ頃、アランは王宮の執務室で報告書に目を通していた。  
「エドワードの幽閉先に異変が?」  
伝達を持ってきたのはギルバートだった。  
「今朝、塔の警備兵が三名行方不明になっている。内部の扉も破壊された痕跡がある。殿下が逃げた可能性が高い。」  
アランの眉がわずかに動く。  
「まさか……」  
脳裏を冷たい予感が走り抜けた。  
彼は書類を投げ捨て、即座に立ち上がる。  
「レティシアを守れ!」  
「向かわせている!」  

既に馬が準備され、アランは躊躇なく夜の街道へと飛び出した。  
凍える風が頬を撃ち、手綱を握る指が白くなる。  
胸の奥で、焦りに似た熱が渦巻いていた。  
――どうか、無事でいてくれ。  

闇を裂く蹄の音。  
やがてルミナス邸の影が見える。だが、いつも灯っているはずの明かりはなく、静まり返っていた。  
「レティシア!」  
扉を開け放ち、邸内に踏み込む。  
部屋の空気は冷たい。割れた窓、倒れた椅子、散らかった書類。  
その中心に、赤い薔薇の花弁が一枚。  
彼が以前贈った白薔薇の花瓶が砕け、その上に新しい血が滲んでいた。  

アランの拳が震えた。  
「……エドワード。」  
低く、暗い声。  
静寂を破る怒りの音だった。  

外に出ると、夜空を裂くように雷が光った。  
冷たい風が吹き荒れ、遠く東の方角に不気味な赤い光が立ち上る。  
それは、再び闇が動き出した合図だった。  

アランは馬に飛び乗り、再び手綱を掴む。  
「今度こそ、終わらせる。」  
月の下、彼の瞳はかつてないほど深く燃えていた。  

続く
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