永遠に君を手放さないと誓った、あの日の僕へ――裏切られ令嬢の逆転婚約劇

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第30話 永遠に続く幸福の誓い 完

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春。  
王都の街路に花が咲き乱れ、優しい光が石畳を包み込んでいた。  
長く続いた冬の静寂が嘘のように、人々の笑い声と華やかな音楽が戻ってくる。  
新しい王政の始まりを祝う日であり、そして――誰よりも長い時間を共に戦ってきた二人にとっての、特別な朝だった。  

フェルナンド邸の一室で、リディアは白いドレスに身を包んでいた。  
袖には淡い青の刺繍が施され、胸元には百合の花の飾り。  
それはオーウェンが初めて贈ってくれた花の象徴であり、彼女が一度手放し、再び掴み直した希望そのものでもあった。  

鏡に映る自分の姿を見つめながら、そっと息を吐く。  
「……似合っているかしら?」  
「もちろんですとも、お嬢様。いえ、もうすぐ“お嬢様”ではなくなられますわね」  
側に控えるエリサがそっと笑った。  
その優しい声に、リディアは微笑み返した。  

「これまで何度も泣かせてしまいましたわね」  
「いいえ、あの涙は誇りです。……お嬢様の歩んだ道は決して楽ではありませんでした。  
 でも、どんな苦しみも今日の笑顔のためにあったのだと、私は信じております」  

リディアは頷き、カーテンの向こうの青空を見上げた。  
風が花びらを運び、庭にいる子どもたちの笑い声が遠くで響く。  
その光景が、まるで「これが答えだ」と囁いているようだった。  

* * *  

王宮の大広間は白と金の花で飾られ、民たちが集う祝宴のざわめきで満たされていた。  
今日、オーウェンは正式に“第二王子”の称号を解かれ、王政協議議会の初代議長となる。  
そして同時に――リディア・フェルナンドとの婚約を正式に結び、新しい時代の象徴として立つ日でもあった。  

高い天井から垂れ下がる光の幕の下、王族と貴族が並ぶ中に、フェルナンド侯爵の姿も見える。  
あの厳格だった父でさえも、今は穏やかな笑顔を浮かべていた。  

扉が開く。  
リディアがゆっくりと歩み出る。  
長いヴェールが床を滑り、歩くたびに微かな花の香りが広がった。  
彼女の姿を見つけ、オーウェンが一歩前へ出る。  

その瞳には、これまでのすべてが映っていた。  
出会い、別れ、誤解、そして赦し。  
幾重にも重なった運命の糸が、今この瞬間ひとつの結び目を作る。  

「リディア」  
静かな呼びかけ。  
「――はい、オーウェン様」  

王座の前で向かい合った二人。  
周囲の喧騒が遠のき、世界には彼と彼女だけが取り残されたような感覚に包まれた。  

オーウェンが胸に手を当て、深く息を吸う。  
「この国の誰よりも、あなたに感謝をしています。  
 あなたは私の光であり、導きでした。私を“王”から“ただの人”に戻してくれた唯一の人」  

リディアの胸が熱くなる。  
彼女もまた、言葉を紡いだ。  
「殿下。いいえ、オーウェン様。わたくしはあなたに救われた一人の女です。  
 あなたが差し伸べてくださった手を握り返した時から、私はもう孤独ではありませんでした」  

オーウェンの目に、光が宿る。  
「過去の悲しみを嘆く代わりに、これからの時を共に作ろう。  
 私たちは“力”でなく、“心”でこの国を繋いでいく。  
 そしてその約束を、今日ここで果たしたい」  

王の代理を務める枢機卿が進み出る。  
厳かな声が響く。  
「フェルナンド侯爵令嬢リディア。オーウェン・ローゼンハイト殿下。  
 互いを敬い、助け合い、決して見捨てぬことを誓いますか?」  

「誓います」  
二人の声が重なった瞬間、民衆から歓声が広がる。  
花びらが舞い、祝福の鐘が鳴り響いた。  

オーウェンはリディアの手を取り、彼女に小さく囁いた。  
「やっと言える。あなたを愛している、と」  
「ふふ……もう何度も聞きましたのに」  
「でも今は“永遠に”がつく」  
「永遠に、ですか?」  
「ええ。――永遠に、君を手放さない」  

リディアの瞳が潤み、微笑みがこぼれた。  
オーウェンはその手を引き寄せ、彼女の指先に口づけを落とした。  

歓声がさらに高まり、広間の外でも拍手が続く。  
子どもたちが花を投げ、国中が祝福に包まれた。  

* * *  

祝宴が終わり、夜の王宮は静けさを取り戻した。  
月が高く昇り、風が花々の香りを運んでくる。  
リディアはバルコニーに出て、星々を見上げた。  
そこへ、後ろから優しい声が届く。  

「まだ起きていたんですね」  
「今夜は……眠れませんもの」  
オーウェンが彼女の隣に立ち、夜空を見上げる。  
「私も同じですよ。あなたと過ごすこの日が、夢のようで」  
「夢ではありませんわ。……でも、ずっと続いてほしい夢ですね」  

二人は顔を見合わせて笑った。  
オーウェンが彼女の肩を抱き寄せ、そっとささやく。  
「明日からも、この景色を一緒に見ましょう。どんな時も、私があなたの傍にいます」  
「わたくしも、殿下の隣で未来を描いていきます。たとえ年月が過ぎても、この想いは変わりません」  

風が二人の髪を揺らし、遠くで夜警の鐘が鳴る。  
静かな音が、まるで永遠を告げる合図のように響いていた。  

リディアは彼を見上げ、少しだけ恥ずかしそうに微笑んだ。  
「オーウェン様、覚えていらっしゃいますか。あの夜、殿下が“幸せは目に見えない”と仰ったこと」  
「覚えています。あなたが笑って、『それでもきっと掴めるものです』と言った夜ですね」  
「ええ。その言葉の答えをようやく見つけました」  
「答え?」  
「はい。……幸せは、こうして手を繋いだ時の温もりです」  

オーウェンはその手をぎゅっと握る。  
「ならば、私はもう永遠に幸せだ」  

月光の下、二人は寄り添い、瞳を閉じた。  
過去の涙も、痛みも、迷いもすべて溶かして、ただ穏やかな時間が流れていく。  

リディアの心の中には、あの日失ったはずの“愛することの勇気”が満ちていた。  
オーウェンの胸の奥には、王としてではなく、一人の男として守りたい存在への誓いがあった。  

彼が囁く。  
「ありがとう。どんな未来になろうと、私の世界はあなたでできている」  
「わたくしこそ……殿下がいたから、恐れを超えられました」  

春風が吹く。  
満開の花弁が宙を舞い、二人の周囲を祝福のように包み込む。  
リディアはそっと目を細め、永遠を信じる笑みを浮かべた。  

「――これからもずっと、あなたと生きていきます」  

その言葉と共に、二人はそっと唇を重ねた。  
誰にも邪魔されない、穏やかな幸福の瞬間だった。  

そして夜空の星が、ゆっくりと明滅する。  
まるで天も、二人の永遠の誓いを見届けて祝福しているかのように。  

世界は静かに息をして、幸福の音を奏でた。  
それは確かに、永遠に続く愛の旋律――。  

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