惑星ラスタージアへ……

荒銀のじこ

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第一部 2章 指差して 

第26話

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「そうよねえ。でも、難しいって分かってても、人ってすがっちゃうものなのよねえ……」
 望遠鏡を覗き込んだままユズハが恨みがましい口調で、冷静に悟ったようなことを呟いて、そっと望遠鏡から離れた。
「お、もういいのか?」
「惑星ラスタージアは今夜これからいくらでも見られるでしょ。今はこっちの話聴きたくなっちゃった」
 タケノリの問いかけにユズハがあっさりした態度で答えてラジオを指差した。タケノリも重そうに腰を上げて、ユズハと入れ替わる。タケノリは静かに望遠鏡を覗き込む。その様子は石像のようにじっと固まって静かだった。『惑星ラスタージアは昔から発見されていたのですが、ここ最近注目されるようになりましたねえ』と、今度は惑星ラスタージアの発見の歴史について語り始めていた。最後の大戦より前には発見されていたが、当時は「いつか行けたら良いな」ぐらいのニュアンスでしかなかったようである。しかし、当時から、軍事技術と宇宙開発の両方が進んでいた国では、他の国を差し置いて惑星ラスタージアへの渡航を果たし、他の国に圧倒的に優位に立とうとしていた、という話までされて、ユースケは寝耳に水の気分だった。ユースケの横でアカリが「皆で協力し合えば良いのに」と平和主義的な意見を述べた。
「ま、そんな血みどろな理由で行こうとしていた時代よりは、たとえ技術も失って衰退していても争いを一旦止めて皆して生きようとしている今の方が、よっぽど良い世界なのかもしれないな」
 タケノリがやけに老成めいた意見をして、望遠鏡から離れる。セイイチロウと目が合うと、タケノリは目で促してくる。セイイチロウもひょろりと高い背を起こして、かがみながら望遠鏡を覗き込んだ。タケノリはラジオを乗せた椅子付近に戻らず、携帯ランプの立っているテントの方へと向かって行った。その後をセイラが「あ、お兄ちゃん、私も準備する」と急いで追いかけていった。ラジオは物騒な話題をさっさと切り替えようとしているのか、『では、今日のゲストである○○さん、惑星ラスタージアに行けたら何がしたいですかね?』と突然学生がするような雑談話が始まった。ユースケも何となく惑星ラスタージアに行けたらと考えてみるが、自分のしたいことよりも先に、ユリの弱い身体を治す術を求めて奔放する自分の姿が思い浮かんだ。ユリを思わず見てみるが、ユリはきょとんとした顔でユースケを見つめ返して首を傾げるだけだった。
「……惑星ラスタージアへ行っても、こんな風に皆で集まれたら何しても楽しいだろうな」
 セイイチロウがしみじみと呟いて、のっそりと望遠鏡から離れ、最後のユースケに視線を送る。セイイチロウが動く気配を察して、ユリを見ていたユースケはぐるんと首だけを動かしてセイイチロウの方を見やって、セイイチロウも見るのを終えたのを確認する。ユースケはセイイチロウと入れ替わって、望遠鏡の前でしゃがむ。筒の中を覗き込むと、感動するほど青色に覆われた丸い星が見えた。所々に緑色の大地らしきものが見え、ユースケは思わず見入っていた。
 遥か遠く、自分たちとは全く違う世界なのに、全く同じような環境の世界が存在している。その事実がまさに目に映りこんでいる。決してそれに触れることは出来ないけれど、確かに自分が今いる世界と同じような世界が広がっている。それは何だかすごく神秘的なことで、この世界の美しさそのものを表しているように感じられ、ユースケはふわふわと地に足着かないような、何者かの手の上で大切に抱えられているような、不思議な高揚感に包まれた。ふと耳に、『惑星ラスタージアはまさに私たちにとって奇跡のようなものなんですね』と感慨深げな声が飛び込んできた。先ほどのユズハの台詞を思い出す。
 どうして奇跡はこんなにも中途半端なのだろうかと、ユースケは疑問に思った。中途半端な希望だから、多くの人は縋ってしまうような気がした。どうせ奇跡なら、もう目の前に惑星ラスタージアがあるぐらいでないと割に合わないと感じた。見込みのほとんどない可能性の奇跡だから、惑星ラスタージアへの期待よりも将来への不安が勝ってしまう。奇跡というのが、性質としてほとんど起こらないものだから、ユリの身体だってちっとも良くならない。奇跡というものを演出している何者かが存在しているなら、ユースケはその存在を許すことなど到底出来そうになかった。
「奇跡がなんだってんだよ。そんなものなくたって俺たちは普通に生きていけるやい」
 ユースケはぷんぷんと腹を立てて、望遠鏡から目を離すと八つ当たりするようにカズキに体当たりした。よろめいて倒れそうになるが、何とか堪えたカズキは、目を見開いてユースケを見る。ユースケは同意を求めるように「なあ?」と言い、カズキもふっと笑って「ああ、そうだよな」と言いながらユースケに体当たりした。互いに仕返し続けて、カズキがとうとう尻餅着いたタイミングでタケノリとセイラが帰ってきて、胸の前で何やら袋を掲げた。
「皆で花火しよっ!」
 セイラの溌溂とした声が響いた。ラジオの放送はいつの間にか終わっており、沈黙していた。
 ユースケは花火のことを知らなかったが、どうやらユースケがコトネのいる町でお世話になっている間に、セイラがチラシにて発見した物らしく、タケノリの家で一回、その後ユリのためにタケノリたちが訪れたときに一回、合計二回試してみたらしい。その二回とも、まだ陽も高く比較的明るいときにやったとはいえ、とても見ていて愉しい物だったらしく、今回多めに持ってきて皆でやってみようという話にタケノリとセイラの間で落ち着いたようである。ユズハも初めて聞いたらしく「ほえ~」と気の抜けるほど間抜けな声を出していたが、アカリは知っていたようで、興奮した様子でセイラと話しながら花火を数本受け取っていた。そして、キラキラした瞳をしながらアカリはそのうちの何本かをユースケに渡してきた。ユースケもその勢いに押されて受け取る。
「水はめっちゃ用意するけど、あまり木とか植物の近くでやるなよお」
 タケノリはそう言いながら、折り畳み式のバケツを三つ用意して、一つに残りの花火をぶちまけて、残り二つのバケツを持って蛇口の方へ向かって行った。
「こんだけ暗いと綺麗だろうなあ。ほれ、ユリ」
「……ユズハも、これ」
 カズキがユリに手渡すと、ユリは嬉しそうにはしゃいでそれを受け取った。対してセイイチロウがユズハに渡すと、ユズハは明らかに、セイイチロウにではなく花火に対して警戒心を持った様子で「こ、これ大丈夫なの?」と指先でつまむようにして受け取っていた。そうこうしているうちに、カズキが早速ろうそくに火を点けたらしく、それをそっと地面に置くと「じゃ、行っきまーす」と高らかに宣言してそれに花火の先端を近づけた。すると、その先端から金色の光を帯びた光線みたいな火がバチバチっと発射され、カズキはすっかり舞い上がった様子で、ユリの傍から離れてそれを右へ左へ振り回した。花火を動かすとそれにつられて光線のような火も動いて、暗い中だと光の残滓が瞼の裏に焼き付いた。
 ユースケも感心してその花火を見ていたが、徐々に煙が立つのが分かって、ユリとセイラを思わず見る。しかし、ユリもユースケの思うことなど手に取るように分かるといったようで、半分呆れたような顔をして「これは別に大丈夫だよ、本当に心配性だなお兄ちゃんは」と乾いた笑いをしていた。隣にいるセイラも「どこのお兄ちゃんも一緒だね。うちのお兄ちゃんも初めは心配そうにしてた」とぼやきながら、花火の先端をろうそくの火に近づけていた。
「あ、私が持ってきたの線香花火だ…………ねえユースケ君、ちょっと向こうに行かない?」
 アカリがはっとした感じで自身の持ってきた花火を見つめ、しばらく間を置いてからユースケの方を振り向きそう言った。アカリは今までと同じように愉しそうな気分を滲ませながらも、その表情の端にどこか強い意思のようなものを感じて、ユースケも反射的に頷く。その直後に、他の者はと首を回すが、アカリはさっさとタケノリからもう一本ろうそくを持ってきて、「ほら、ちょっとここから離れてさ」と強引にユースケの手を引っ張っていった。図体はでかく、変に自分の意志が強いくせに、人に強引に迫られるとどうしてもユースケは断り切れない性格で、為すがままアカリについていった。
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