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第二部 3章 手を伸ばして
第10話 フローラの告白
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翌日、ユースケは思ったよりも遅くまで眠ってしまった。目覚まし時計もここ最近では使っていなかったため、起きたときに時計に表示された時間に、ユースケはすっかり動揺した。あまりにも慌てすぎてベッドの上から転げ落ち、その音を聞きつけたのか扉から久し振りにナオキの怒鳴り声が聞こえてくる。
寮の朝食を逃してしまうという失態を犯してしまったユースケは、颯爽と準備してさっさと寮を出ることにした。貸し出しの自転車を用いて、手早く学食で適当な物を食べてから早々に自転車を返しに戻った。そして、そのままもう大学校を出て街を巡ることにした。寝坊したとはいえ、時刻はまだ昼前であった。
しかし、校門を少し出たところで、予想外にもフローラと出会った。初めはフローラもユースケの存在に気がつかずに、随分と沈んだ様子で俯きながら歩いていたが、向かいからユースケが「フローラ~!」と呼びかけるとフローラもぱっと顔を上げた。
ユースケの存在を認識した途端、何故かその表情が複雑に歪んだ。ユースケに会うと普段ならばフローラはいつも嬉しそうにはにかんでみせるのだが、今日はその嬉しさに混じってどこか痛みを覚えたような苦しさも潜んでいた。そのことにユースケは戸惑って、勢いの良かった足が止まってしまった。
「ど、どうしたんだフローラ? ああ、俺流石に早すぎたか? ごめんごめん、俺、もうフローラに会いたくてしょうがなかったからさ」
フローラを何とか励ましたくてユースケはとにかく口を動かして勢いで喋った。よく分からないことを言っているという自覚はあったのだが、しかし、予想外にもフローラはその言葉に激しく動揺し、口元を手で覆って今にも泣きだしそうになってしまった。ユースケは慌ててハンカチを取り出すも、フローラは受け取ろうとしない。
「ユースケ……ユースケ、私、本当に……」
手で覆ったせいでくぐもるその声は、最後まで続かずに消沈した。あまりにもいつもと違う様子のフローラにユースケは混乱する一方であったが、何とかしてあげたい気持ちは変わらない。
「とりあえず、どっか座る? 食堂とか、今マジで誰もいないけど、どう?」
いつもの自分たちの会う場所である食堂ならば落ち着けるだろうと踏んで提案したが、フローラはそれすらも首を横に振って否定した。いよいよどうすれば良いか分からなくなって取り乱しそうになるユースケだが、フローラが小さく校内の方を指差したので、とりあえず移動することになった。
そのまま校門の方へ移動し、フローラはさらに校内へ入っていき、道から外れてセコイアの樹々の向こう側、茂みの方へ向かった。ユースケはおろおろしながらもおとなしくフローラについていった。
周囲からそう簡単には見られないような樹々の合間に深く入っていくと、フローラはようやく落ち着いたのかはあっと深く息を吐きながら樹にもたれかかった。
「フローラ、どうした? 何か辛いことでも、あったのか? それとも俺が変なこと言っちまったか?」
ユースケは心配になって声を柔らかくして訊いてみるも、フローラはやはり首を横に振る。しかし、ユースケは自分が変なことを言ったわけでフローラを泣かせたのでなくても、その涙を止められない自分のことが許せなかった。
「ユースケ……私、言わなきゃいけないことがあるの」
ようやく泣き止み、それでもしばらくぼんやりしていたフローラは、やがて泣き腫らした顔で上目遣いにユースケを見上げてきた。その哀しそうな表情に、ユースケは激しく心が乱されながらも、何とか頷いて先を促す。何か良くない内容であることは確かであるが、ユースケは覚悟を決めてフローラの言葉を待つ。
「私……もう、ユースケに会えない。今日で、お別れしなくちゃ、いけなくなっちゃった」
「……どういうことか、説明してくれ」
「私さ、前にも話したと思うけど、私、ユースケから見たら外国の人だからさ……この国の人じゃないから、私はこの国に長くいちゃいけないの。そういう法律があるんだって……」
「……そんなの俺も知らねえぞ」
その後、フローラが時折洟を啜りながらも、たどたどしく話してくれた内容をまとめると、フローラは警察に目をつけられたとのことだった。この望遠国において、過去の大戦の戦勝国においては、海外の人の出入りは法律で厳しく取り締まられているらしい。
フローラに両親はいない。流されるように何とか生き延びて、ある日この望遠国に流れ着いた。おそらく自分の元居た国の戸籍すら怪しいフローラは、もちろん正式にこの望遠国に訪れたわけではなかった。
「ごめんねユースケ、ずっと言えなくて……貴方と一緒にいると、どうしても言えなかった。ごめんね、ごめんね……」
すっかり弱り切ったフローラは、うなされたようにひたすら「ごめんね」と繰り返した。そんなフローラのことを、ユースケはそっと抱きしめることしか出来なかった。しかと腕の中に感じるフローラの存在があまりにもはっきりと感じられて、ユースケはまったく現実味が湧かなかった。
「ユースケ、抱きしめてくれてありがとう。私、ユースケに出会えて本当に良かったって思ってる」
「何、お別れの言葉みたいなこと、言ってんだよ。まだ、俺は宇宙船を造れていないんだぞ……」
抱きしめいないとすっとどこかへ消えてしまいそうな気がして、ユースケはフローラの身体を抱く力を強めた。しかし、腕の中にいるフローラは、小さく抵抗した。
「さっきのユースケの言葉聞いてさ、思わず泣いちゃったけど、私もう覚悟は決まってるから……私、ユースケに励まされて、一生分の良い出会いができたって思えたの。もっと未来に希望を持って生きようって思えたから。ありがとう、ユースケ……」
「俺、まだ整理もついてねえし……何より、俺、もうフローラとお別れしなくちゃいけないのか? こんなに俺はフローラのこと好きなのに?」
「ごめんねユースケ……黙ってて、本当にごめんね」
「いやいや、フローラは何も悪くねえじゃん……」
話しているだけで何かが心から漏れ出ていくようで、それにつれて腕から力が抜けていき、フローラは弱まったユースケの手をどけた。傷ついた瞳で、相変わらずユースケが惹かれてやまない青い輝きを放ちながら、ユースケを懸命に見上げてくる。
しばらく互いに見つめ合っているうちに、フローラがそっと踵を上げてユースケの好きな瞳を閉じた。ユースケも瞳を閉じ、倒れるようにフローラの方に身を寄せ、そっと唇を重ねた。
寮の朝食を逃してしまうという失態を犯してしまったユースケは、颯爽と準備してさっさと寮を出ることにした。貸し出しの自転車を用いて、手早く学食で適当な物を食べてから早々に自転車を返しに戻った。そして、そのままもう大学校を出て街を巡ることにした。寝坊したとはいえ、時刻はまだ昼前であった。
しかし、校門を少し出たところで、予想外にもフローラと出会った。初めはフローラもユースケの存在に気がつかずに、随分と沈んだ様子で俯きながら歩いていたが、向かいからユースケが「フローラ~!」と呼びかけるとフローラもぱっと顔を上げた。
ユースケの存在を認識した途端、何故かその表情が複雑に歪んだ。ユースケに会うと普段ならばフローラはいつも嬉しそうにはにかんでみせるのだが、今日はその嬉しさに混じってどこか痛みを覚えたような苦しさも潜んでいた。そのことにユースケは戸惑って、勢いの良かった足が止まってしまった。
「ど、どうしたんだフローラ? ああ、俺流石に早すぎたか? ごめんごめん、俺、もうフローラに会いたくてしょうがなかったからさ」
フローラを何とか励ましたくてユースケはとにかく口を動かして勢いで喋った。よく分からないことを言っているという自覚はあったのだが、しかし、予想外にもフローラはその言葉に激しく動揺し、口元を手で覆って今にも泣きだしそうになってしまった。ユースケは慌ててハンカチを取り出すも、フローラは受け取ろうとしない。
「ユースケ……ユースケ、私、本当に……」
手で覆ったせいでくぐもるその声は、最後まで続かずに消沈した。あまりにもいつもと違う様子のフローラにユースケは混乱する一方であったが、何とかしてあげたい気持ちは変わらない。
「とりあえず、どっか座る? 食堂とか、今マジで誰もいないけど、どう?」
いつもの自分たちの会う場所である食堂ならば落ち着けるだろうと踏んで提案したが、フローラはそれすらも首を横に振って否定した。いよいよどうすれば良いか分からなくなって取り乱しそうになるユースケだが、フローラが小さく校内の方を指差したので、とりあえず移動することになった。
そのまま校門の方へ移動し、フローラはさらに校内へ入っていき、道から外れてセコイアの樹々の向こう側、茂みの方へ向かった。ユースケはおろおろしながらもおとなしくフローラについていった。
周囲からそう簡単には見られないような樹々の合間に深く入っていくと、フローラはようやく落ち着いたのかはあっと深く息を吐きながら樹にもたれかかった。
「フローラ、どうした? 何か辛いことでも、あったのか? それとも俺が変なこと言っちまったか?」
ユースケは心配になって声を柔らかくして訊いてみるも、フローラはやはり首を横に振る。しかし、ユースケは自分が変なことを言ったわけでフローラを泣かせたのでなくても、その涙を止められない自分のことが許せなかった。
「ユースケ……私、言わなきゃいけないことがあるの」
ようやく泣き止み、それでもしばらくぼんやりしていたフローラは、やがて泣き腫らした顔で上目遣いにユースケを見上げてきた。その哀しそうな表情に、ユースケは激しく心が乱されながらも、何とか頷いて先を促す。何か良くない内容であることは確かであるが、ユースケは覚悟を決めてフローラの言葉を待つ。
「私……もう、ユースケに会えない。今日で、お別れしなくちゃ、いけなくなっちゃった」
「……どういうことか、説明してくれ」
「私さ、前にも話したと思うけど、私、ユースケから見たら外国の人だからさ……この国の人じゃないから、私はこの国に長くいちゃいけないの。そういう法律があるんだって……」
「……そんなの俺も知らねえぞ」
その後、フローラが時折洟を啜りながらも、たどたどしく話してくれた内容をまとめると、フローラは警察に目をつけられたとのことだった。この望遠国において、過去の大戦の戦勝国においては、海外の人の出入りは法律で厳しく取り締まられているらしい。
フローラに両親はいない。流されるように何とか生き延びて、ある日この望遠国に流れ着いた。おそらく自分の元居た国の戸籍すら怪しいフローラは、もちろん正式にこの望遠国に訪れたわけではなかった。
「ごめんねユースケ、ずっと言えなくて……貴方と一緒にいると、どうしても言えなかった。ごめんね、ごめんね……」
すっかり弱り切ったフローラは、うなされたようにひたすら「ごめんね」と繰り返した。そんなフローラのことを、ユースケはそっと抱きしめることしか出来なかった。しかと腕の中に感じるフローラの存在があまりにもはっきりと感じられて、ユースケはまったく現実味が湧かなかった。
「ユースケ、抱きしめてくれてありがとう。私、ユースケに出会えて本当に良かったって思ってる」
「何、お別れの言葉みたいなこと、言ってんだよ。まだ、俺は宇宙船を造れていないんだぞ……」
抱きしめいないとすっとどこかへ消えてしまいそうな気がして、ユースケはフローラの身体を抱く力を強めた。しかし、腕の中にいるフローラは、小さく抵抗した。
「さっきのユースケの言葉聞いてさ、思わず泣いちゃったけど、私もう覚悟は決まってるから……私、ユースケに励まされて、一生分の良い出会いができたって思えたの。もっと未来に希望を持って生きようって思えたから。ありがとう、ユースケ……」
「俺、まだ整理もついてねえし……何より、俺、もうフローラとお別れしなくちゃいけないのか? こんなに俺はフローラのこと好きなのに?」
「ごめんねユースケ……黙ってて、本当にごめんね」
「いやいや、フローラは何も悪くねえじゃん……」
話しているだけで何かが心から漏れ出ていくようで、それにつれて腕から力が抜けていき、フローラは弱まったユースケの手をどけた。傷ついた瞳で、相変わらずユースケが惹かれてやまない青い輝きを放ちながら、ユースケを懸命に見上げてくる。
しばらく互いに見つめ合っているうちに、フローラがそっと踵を上げてユースケの好きな瞳を閉じた。ユースケも瞳を閉じ、倒れるようにフローラの方に身を寄せ、そっと唇を重ねた。
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