惑星ラスタージアへ……

荒銀のじこ

文字の大きさ
114 / 124
第二部 3章 手を伸ばして

第10話 フローラの告白

しおりを挟む
 翌日、ユースケは思ったよりも遅くまで眠ってしまった。目覚まし時計もここ最近では使っていなかったため、起きたときに時計に表示された時間に、ユースケはすっかり動揺した。あまりにも慌てすぎてベッドの上から転げ落ち、その音を聞きつけたのか扉から久し振りにナオキの怒鳴り声が聞こえてくる。
 寮の朝食を逃してしまうという失態を犯してしまったユースケは、颯爽と準備してさっさと寮を出ることにした。貸し出しの自転車を用いて、手早く学食で適当な物を食べてから早々に自転車を返しに戻った。そして、そのままもう大学校を出て街を巡ることにした。寝坊したとはいえ、時刻はまだ昼前であった。
 しかし、校門を少し出たところで、予想外にもフローラと出会った。初めはフローラもユースケの存在に気がつかずに、随分と沈んだ様子で俯きながら歩いていたが、向かいからユースケが「フローラ~!」と呼びかけるとフローラもぱっと顔を上げた。
 ユースケの存在を認識した途端、何故かその表情が複雑に歪んだ。ユースケに会うと普段ならばフローラはいつも嬉しそうにはにかんでみせるのだが、今日はその嬉しさに混じってどこか痛みを覚えたような苦しさも潜んでいた。そのことにユースケは戸惑って、勢いの良かった足が止まってしまった。
「ど、どうしたんだフローラ? ああ、俺流石に早すぎたか? ごめんごめん、俺、もうフローラに会いたくてしょうがなかったからさ」
 フローラを何とか励ましたくてユースケはとにかく口を動かして勢いで喋った。よく分からないことを言っているという自覚はあったのだが、しかし、予想外にもフローラはその言葉に激しく動揺し、口元を手で覆って今にも泣きだしそうになってしまった。ユースケは慌ててハンカチを取り出すも、フローラは受け取ろうとしない。
「ユースケ……ユースケ、私、本当に……」
 手で覆ったせいでくぐもるその声は、最後まで続かずに消沈した。あまりにもいつもと違う様子のフローラにユースケは混乱する一方であったが、何とかしてあげたい気持ちは変わらない。
「とりあえず、どっか座る? 食堂とか、今マジで誰もいないけど、どう?」
 いつもの自分たちの会う場所である食堂ならば落ち着けるだろうと踏んで提案したが、フローラはそれすらも首を横に振って否定した。いよいよどうすれば良いか分からなくなって取り乱しそうになるユースケだが、フローラが小さく校内の方を指差したので、とりあえず移動することになった。
 そのまま校門の方へ移動し、フローラはさらに校内へ入っていき、道から外れてセコイアの樹々の向こう側、茂みの方へ向かった。ユースケはおろおろしながらもおとなしくフローラについていった。
 周囲からそう簡単には見られないような樹々の合間に深く入っていくと、フローラはようやく落ち着いたのかはあっと深く息を吐きながら樹にもたれかかった。
「フローラ、どうした? 何か辛いことでも、あったのか? それとも俺が変なこと言っちまったか?」
 ユースケは心配になって声を柔らかくして訊いてみるも、フローラはやはり首を横に振る。しかし、ユースケは自分が変なことを言ったわけでフローラを泣かせたのでなくても、その涙を止められない自分のことが許せなかった。
「ユースケ……私、言わなきゃいけないことがあるの」
 ようやく泣き止み、それでもしばらくぼんやりしていたフローラは、やがて泣き腫らした顔で上目遣いにユースケを見上げてきた。その哀しそうな表情に、ユースケは激しく心が乱されながらも、何とか頷いて先を促す。何か良くない内容であることは確かであるが、ユースケは覚悟を決めてフローラの言葉を待つ。
「私……もう、ユースケに会えない。今日で、お別れしなくちゃ、いけなくなっちゃった」
「……どういうことか、説明してくれ」
「私さ、前にも話したと思うけど、私、ユースケから見たら外国の人だからさ……この国の人じゃないから、私はこの国に長くいちゃいけないの。そういう法律があるんだって……」
「……そんなの俺も知らねえぞ」
 その後、フローラが時折洟を啜りながらも、たどたどしく話してくれた内容をまとめると、フローラは警察に目をつけられたとのことだった。この望遠国において、過去の大戦の戦勝国においては、海外の人の出入りは法律で厳しく取り締まられているらしい。
 フローラに両親はいない。流されるように何とか生き延びて、ある日この望遠国に流れ着いた。おそらく自分の元居た国の戸籍すら怪しいフローラは、もちろん正式にこの望遠国に訪れたわけではなかった。
「ごめんねユースケ、ずっと言えなくて……貴方と一緒にいると、どうしても言えなかった。ごめんね、ごめんね……」
 すっかり弱り切ったフローラは、うなされたようにひたすら「ごめんね」と繰り返した。そんなフローラのことを、ユースケはそっと抱きしめることしか出来なかった。しかと腕の中に感じるフローラの存在があまりにもはっきりと感じられて、ユースケはまったく現実味が湧かなかった。
「ユースケ、抱きしめてくれてありがとう。私、ユースケに出会えて本当に良かったって思ってる」
「何、お別れの言葉みたいなこと、言ってんだよ。まだ、俺は宇宙船を造れていないんだぞ……」
 抱きしめいないとすっとどこかへ消えてしまいそうな気がして、ユースケはフローラの身体を抱く力を強めた。しかし、腕の中にいるフローラは、小さく抵抗した。
「さっきのユースケの言葉聞いてさ、思わず泣いちゃったけど、私もう覚悟は決まってるから……私、ユースケに励まされて、一生分の良い出会いができたって思えたの。もっと未来に希望を持って生きようって思えたから。ありがとう、ユースケ……」
「俺、まだ整理もついてねえし……何より、俺、もうフローラとお別れしなくちゃいけないのか? こんなに俺はフローラのこと好きなのに?」
「ごめんねユースケ……黙ってて、本当にごめんね」
「いやいや、フローラは何も悪くねえじゃん……」
 話しているだけで何かが心から漏れ出ていくようで、それにつれて腕から力が抜けていき、フローラは弱まったユースケの手をどけた。傷ついた瞳で、相変わらずユースケが惹かれてやまない青い輝きを放ちながら、ユースケを懸命に見上げてくる。
 しばらく互いに見つめ合っているうちに、フローラがそっと踵を上げてユースケの好きな瞳を閉じた。ユースケも瞳を閉じ、倒れるようにフローラの方に身を寄せ、そっと唇を重ねた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

美人生徒会長は、俺の料理の虜です!~二人きりで過ごす美味しい時間~

root-M
青春
高校一年生の三ツ瀬豪は、入学早々ぼっちになってしまい、昼休みは空き教室で一人寂しく弁当を食べる日々を過ごしていた。 そんなある日、豪の前に目を見張るほどの美人生徒が現れる。彼女は、生徒会長の巴あきら。豪のぼっちを察したあきらは、「一緒に昼食を食べよう」と豪を生徒会室へ誘う。 すると、あきらは豪の手作り弁当に強い興味を示し、卵焼きを食べたことで豪の料理にハマってしまう。一方の豪も、自分の料理を絶賛してもらえたことが嬉しくて仕方ない。 それから二人は、毎日生徒会室でお昼ご飯を食べながら、互いのことを語り合い、ゆっくり親交を深めていく。家庭の味に飢えているあきらは、豪の作るおかずを実に幸せそうに食べてくれるのだった。 やがて、あきらの要求はどんどん過激(?)になっていく。「わたしにもお弁当を作って欲しい」「お弁当以外の料理も食べてみたい」「ゴウくんのおうちに行ってもいい?」 美人生徒会長の頼み、断れるわけがない! でも、この生徒会、なにかちょっとおかしいような……。 ※時代設定は2018年頃。お米も卵も今よりずっと安価です。 ※他のサイトにも投稿しています。 イラスト:siroma様

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。 カレンと晴人はその後、どうなる?

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

ツルギの剣

Narrative Works
青春
 室戸岬沖に建設された海上研究都市、深水島。  舞台はそこに立つ女子校、深水女子高等学校から始まる。  ある日、深水女子高等学校の野球部に超野球少女が入部した。  『阿倍野真希』と呼ばれる少女は、ささいなことから本を抱えた少女と野球勝負をすることになった。  勝負は真希が勝つものと思われていたが、勝利したのは本の少女。  名前を『深水剣』と言った。  そして深水剣もまた、超野球少女だった。  少女が血と汗を流して戦う、超能力野球バトル百合小説、開幕。 ※この作品は複数のサイトにて投稿しています。

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

処理中です...