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第20話
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土曜になると、太田先生から電話がかかって来た。
『オオイワ、お前が務めていたマンパワー商事の社長から連絡があった。謝りたいそうだ』
『いえ、必要ありません』
『そうか、分かった。そう伝えておく、時間を取らせたな』
『いえ、それでは』
マンパワー商事か。
もう俺には関係ない。
社長は武士のような人だ。
スマホの連絡はブロックしてあった。
だから学校に連絡が行ったのか。
社長が悪いわけではなく、悪いとしたら部長で、俺が気にしなければよかった問題でもあるから、社長が謝る事ではない。
部長が悪いのに部下を庇って社長が責任を取るように謝られてももやもやしか残らないだろう。
また太田先生から電話が来た。
『また社長から電話があった。配信をしながら、部長も一緒に謝りたいと、そして部長に罰を与えると言っている。どうする?断って貰っても大丈夫だが、俺は会った方がいいと思う』
太田先生がここまで言うのは珍しい。
いつもの太田先生ならこういうケースは『お前が決めろ』と言ってサクッと終わらせる。
太田先生は俺の為に会った方がいいと言ってくれているんだ。
太田先生ならはっきりとマンパワー商事からの連絡を断る事も出来た。
そして、社長は本気だ。
本気で謝ろうとしているのだろう。
特に、社長の性格を考えると配信をしながらとはならない。
今までの社長ならストレートに部長を怒って終わらせる。
社長の動きに変化を感じる。
部長の特殊な動きに合わせて変わろうとしているような、確信は持てないけど、社長も殻を破ろうとしているような何かを感じた。
「長い間無言のままですいません」
「いや、いい、じっくり考えていい」
「会います。先生、連休中なのに手間を取らせました」
「ふ、オオイワは変わらないな。そんなに気を使うな」
「いえ、気は使ってませんよ。俺の為に言ってくれたんですよね?お礼を言いたかっただけなんです」
「……オオイワ、もっと自由に生きていいんだ。周りの事をあれこれ気にし過ぎだ」
前社長の、おばあちゃんの言葉を思い出した。
『自由に生きなさい、やりたい事をやりなさい』
「……はい、考えてみます。集合日時と場所はどこですか?」
「会社のブロックを解除して社長と話をしてくれ」
「分かりました、では、失礼します」
俺はスマホのブロックを解除した。
そして社長と連絡を取る。
俺は、きゅうを預けて1人で出かけた。
◇
【キッチンジャッジ】
地元では有名な飲食店、キッチンジャッジに入ると社長と部長がならんで座っていた。
部長が俺を睨んでいる。
俺は対面に座り社長に促されて食事を注文した。
「配信の許可は取ってある。すぐに配信を始めて大丈夫だ」
「配信を始めます」
胸元にある魔法陣を展開し、3人を映す位置で固定する。
「きゅうチャンネルのカケルだ」
「俺が説明するがいいか?部長はまだ口を出すな」
「……はい」
「私はマンパワー商事の社長、佐藤武です。今回の配信はマンパワー商事にあった問題の謝罪について配信を行います。部長、謝罪してくれ」
『社長か、いかつい人だな』
『気が利かなそう』
『武人みたいだ』
『この人昔は絶対ガキ大将だっただろ』
「マンパワー商事部長の吉良葉玲仁です。この度は社内でパワハラに当たる数々の暴言を行い、申し訳ない」
部長は用意して来た書類を読み上げるように言った。
『感情がこもってない。悪いと思っていない言い方だな』
『ああ、こいつはやばそうなやつだな』
『タヌキっぽい』
『化けタヌキな』
『この部長は不摂生で糖尿になって自分は腹に贅肉が溜まっているのにちょっと太った部下には他の人にはなんで痩せないんだ?とか平気で言うんだぜ』
『個人情報来た!』
『俺も元マンパワー商事の社員だ。部長は性格が悪い。指示した内容が結果次第で変わって良く怒られて会社を辞めた。何を言って来るか分からない特殊な人だ。気を使うと何でやったんだとか言われて怒られて、何もしないとそれはそれで怒られる。かなり特殊な人やで』
「ですが、カケルはやる気が無く!仕事に向き合う姿勢がありませんでした!何度もミスを繰り返していました!部長である私を飛び越えて社長にものを言いに行く問題行動も起こしました!更に休憩中の社員に仕事の話を聞きに行く問題行動も起こしました!仕事の進捗が遅く無駄に会社に残っていました!私への報告漏れも多かった!カケルは仕事が出来ない人間で私は仕方なくカケルを注意しただけです!」
『あ、この人やばいわ』
『多分部長が特殊だからカケルは部長をスルーして仕事をしようとした。部長は自分自身のまずさに気づかず、目を向けていない』
『部下の信頼が無い時点で部長に向かないぞ?』
『反省の色無しか、何で社長が配信をしながら謝罪をする事にしたか何となく分かったwwwwww』
『1度に何個も指摘してくるところがやばいよな、受けとり手側の事を全く考えていない』
『部長はマジでヤバイ!』
「部長、もう帰って大丈夫だ。ご苦労だった」
「社長はカケルに騙されています!こいつは無能です!……」
◇
部長はひたすら俺の批判を続けた。
社長は部長の言葉をBGMのように聞きながらコーヒーに口をつけ、俺に食べるよう促す行動を見て分かった。
社長は本気で部長に罰を与えるつもりだ。
いつもの社長ならもっとストレートに怒鳴って黙らせていた。
明らかに社長の行動が前と違う。
そして、俺の心は落ち着いていた。
部長を見ていると小型犬が背伸びをして自分を大きく見せながらキャンキャン吠えているように見えていた。
会社を辞めたからか?
社長や配信を見ている人が状況を察しているからか?
それもあるのかもしれない。
でも、それだけではない気がする。
うまく言葉に出来ないもやもやした感情があったが言葉に出来ない。
「もういい、部長の言いたいことは分かった。時間を使わせたな。帰って大丈夫だ」
「いえ!社長は分かっていません!カケルは!」
「もういいと言った、もう充分だ」
「社長はカケルに騙されています。カケルの告げ口に騙されないでください!」
「カケルが告げ口などしていない!どこで決めつけた!」
「カケルは人に良く思われるような能力だけは高いんです!」
『部長の特大ブーメランが凄い』
『部長は人のせいにする能力が高いな』
『こんな奴がいたら会社が駄目になるわ。社長の話を聞いていない。いつまで続けえるんだろ?』
『こういう奴いるよな。何かあればすぐ人のせいにする奴』
『部長が怖いわ批判だけで、褒める言葉が一向に出てこない。ホラーだ』
『昭和のドラマに出てくるパワハラ部長っぽいな』
『周回遅れのパワハラ部長か。本当に昭和のドラマに出て来そうだ』
部長の話は長く続いた。
どうしても俺と社長の2人だけにはしたくないらしい。
社長が「少しスマホを使う」と言ってスマホをいじった。
社長から俺にメッセージが届く。
『一旦配信を終わらせて解散してからまた会おう』
『はい』
「もう終わりだ。カケル、お疲れ様だったな」
「はい、配信を終わります」
『ええええ!もう終わりか!』
『部長を潰してから終われよ!』
『部長を首にしろ!』
『言われっぱなしで終わりか!おかしいだろ!部長を首にしろって!』
コメントが高速で流れていく。
ほとんどが部長への悪口だ。
俺は社長に奢られて店を出た。
そして10分後に連絡が来た。
『もう一度戻って配信をしたい。俺とカケルだけでだ』
俺はキッチンジャッジに戻って来た。
社長と2人だけで配信を始める。
「配信を再開する。社長も普通に話をましょう」
「そうだな、腹を割って話そう」
『おおおお!うまい機転だ!』
『すっきりしない終わり方だと思ったけどそういう事か』
『ナイスプレー』
「言っておくが、いつもの部長はもっとずる賢く立ち回る。これは本人に何度も直接伝えたが、もっとずる賢く動くようになるだけで変えられなかった」
『いやそのくらい分かるわ!』
『今は部長が追い詰められたからボロが出た感じだよね』
『タヌキなんだろ?分かる』
「本題だ。カケル、いやな目に会った事を全部吐き出して欲しい。言える範囲でいい。全部受け止める」
『この人武士やわ』
『精神的に強そうやね』
『ヤクザの組長みたいだな』
俺は目を閉じた。
社長はじっと俺の言葉を待つ。
色々酷い目にはあった。
でも、そうじゃない、俺が言いたいのはそういう事じゃない。
俺は目を開いた。
「社長は、母のように、前社長のようになりたかったんですよね?」
社長が目を見開いた。
「9人の養子を自分の子供のように立派に育てた母のようになりたかったんですよね?みんなを見捨てず、出来が悪くても最後まで面倒を見ようとしたんですよね?」
「分かって、いたのか」
「何となく、そう思いました。部長が駄目な事を分かっていて、社員が辞めて、社員に陰口を言われて、それでも社員みんなを抱え込むように仕事をしていましたから」
「恨まれていると思っていた。色々うっぷんがあると思っていた」
「確かに僕と社長の方針は違うと思います」
「他の兄弟にはさんざん言われた。お前は巨人のように人を踏み潰すと。皆がお前のように強くはないと散々言われた。その通りだと思う」
社長は逆境に強すぎる。
強すぎて周りの弱い心に鈍感だ。
その影響で社員が辞めて社長まで陰口を言われた。
それでも社長は誰一人社員を切り捨てようとしなかった。
社長の考えは磨かれて輝く刀のように綺麗すぎて弱い周りを傷つけていた。
現実はそうじゃない、白い部分と黒い部分が入り混じっている。
黒い部分が多少あった方がうまくいく、部長のような人間を切り捨てた方がうまくいく。
俺はそういう考えだ。
「カケル、話す気はなかったが考えが変わった」
「何でしょう?」
「カケルが俺を助けようと義務感で苦しみを抱えながら働いている事には気づいていた。カケルが辞めれば会社に大きな損失が出る事も分かっていた。だがお前に辞めてもらった。お前にはもっと自由に、思うように生きて欲しいと思ったからだ」
おばあちゃんの言葉をまた思い出した。
『自由に生きなさい、やりたい事をやりなさい』
「どうして、あの時、その事を言ってくれなかったんですか?」
「言ったらカケルは辞めずに義務感だけで働き続けた。俺は嫌われてもいい、自由になって欲しいと思った」
そうか、社長は、前社長の考えを受け継いでいる。
自分が嫌われてもいい、嫌われながらでも俺を助けようとしたのか。
俺よりも、社長がずっと大きく見えた。
社長は器が大きい。
「だが、安心した。部長の事を、あまり気にしなくなったな」
「……そう言えば、小型犬が背伸びをしながらキャンキャン吠えているような感覚で……部長が小さく見えました」
社長が大きく見えて、部長が小さく見えた。
そうか、俺は、会社が、この世界全部であるように錯覚していたんだ。
マンパワー商事は日本にある小さな会社の1つでそれ以上でもそれ以下でもない。
俺は、知らない内に社長に救われていたんだ。
「今日はありがとうございました。知らない間に社長に救われていたことが分かって良かったです」
俺は自分から社長に手を差し出して握手をした。
「いい目になって来た。もう安心だな」
社長が不器用そうな笑顔で俺を見つめた。
『あれ?涙が止まらない』
『2人のすれ違いが無くなった』
『感動した!』
『部長さえいなければもっといい会社になっていたんじゃないか?』
コメントが高速で流れる。
「配信を終わります」
『もう敬語を使わなくていいぞ。敬語無しに統一していいと思う。応援してるぜ!』
『カケル、頑張れよ!』
『カケル君の事がもっと好きになった』
『社長のキャラも良いな』
『カケル、これからお前は幸せになる』
『カケルが吹っ切れたような顔をしている』
『カケルがまたちょっと良い顔になった』
『顔が明るくなった、今の顔の方が好きだ』
『まだ少し暗いけどな、でも、おめでとう!』
配信を切った。
店を出て俺と社長は別れた。
その後しばらくしてマンパワー商事は潰れ、社長は新しい商社を立ち上げた。
ホームページを見るとまともで良いメンバーの顔写真が並び、部長の顔はそこに無かった。
部長を配信に呼んで謝らせた点も、社長の変化を感じる。
社長は強い、でも人間だ。
色々葛藤があったのが分かった。
社長は、
成功する、
そう思った。
『オオイワ、お前が務めていたマンパワー商事の社長から連絡があった。謝りたいそうだ』
『いえ、必要ありません』
『そうか、分かった。そう伝えておく、時間を取らせたな』
『いえ、それでは』
マンパワー商事か。
もう俺には関係ない。
社長は武士のような人だ。
スマホの連絡はブロックしてあった。
だから学校に連絡が行ったのか。
社長が悪いわけではなく、悪いとしたら部長で、俺が気にしなければよかった問題でもあるから、社長が謝る事ではない。
部長が悪いのに部下を庇って社長が責任を取るように謝られてももやもやしか残らないだろう。
また太田先生から電話が来た。
『また社長から電話があった。配信をしながら、部長も一緒に謝りたいと、そして部長に罰を与えると言っている。どうする?断って貰っても大丈夫だが、俺は会った方がいいと思う』
太田先生がここまで言うのは珍しい。
いつもの太田先生ならこういうケースは『お前が決めろ』と言ってサクッと終わらせる。
太田先生は俺の為に会った方がいいと言ってくれているんだ。
太田先生ならはっきりとマンパワー商事からの連絡を断る事も出来た。
そして、社長は本気だ。
本気で謝ろうとしているのだろう。
特に、社長の性格を考えると配信をしながらとはならない。
今までの社長ならストレートに部長を怒って終わらせる。
社長の動きに変化を感じる。
部長の特殊な動きに合わせて変わろうとしているような、確信は持てないけど、社長も殻を破ろうとしているような何かを感じた。
「長い間無言のままですいません」
「いや、いい、じっくり考えていい」
「会います。先生、連休中なのに手間を取らせました」
「ふ、オオイワは変わらないな。そんなに気を使うな」
「いえ、気は使ってませんよ。俺の為に言ってくれたんですよね?お礼を言いたかっただけなんです」
「……オオイワ、もっと自由に生きていいんだ。周りの事をあれこれ気にし過ぎだ」
前社長の、おばあちゃんの言葉を思い出した。
『自由に生きなさい、やりたい事をやりなさい』
「……はい、考えてみます。集合日時と場所はどこですか?」
「会社のブロックを解除して社長と話をしてくれ」
「分かりました、では、失礼します」
俺はスマホのブロックを解除した。
そして社長と連絡を取る。
俺は、きゅうを預けて1人で出かけた。
◇
【キッチンジャッジ】
地元では有名な飲食店、キッチンジャッジに入ると社長と部長がならんで座っていた。
部長が俺を睨んでいる。
俺は対面に座り社長に促されて食事を注文した。
「配信の許可は取ってある。すぐに配信を始めて大丈夫だ」
「配信を始めます」
胸元にある魔法陣を展開し、3人を映す位置で固定する。
「きゅうチャンネルのカケルだ」
「俺が説明するがいいか?部長はまだ口を出すな」
「……はい」
「私はマンパワー商事の社長、佐藤武です。今回の配信はマンパワー商事にあった問題の謝罪について配信を行います。部長、謝罪してくれ」
『社長か、いかつい人だな』
『気が利かなそう』
『武人みたいだ』
『この人昔は絶対ガキ大将だっただろ』
「マンパワー商事部長の吉良葉玲仁です。この度は社内でパワハラに当たる数々の暴言を行い、申し訳ない」
部長は用意して来た書類を読み上げるように言った。
『感情がこもってない。悪いと思っていない言い方だな』
『ああ、こいつはやばそうなやつだな』
『タヌキっぽい』
『化けタヌキな』
『この部長は不摂生で糖尿になって自分は腹に贅肉が溜まっているのにちょっと太った部下には他の人にはなんで痩せないんだ?とか平気で言うんだぜ』
『個人情報来た!』
『俺も元マンパワー商事の社員だ。部長は性格が悪い。指示した内容が結果次第で変わって良く怒られて会社を辞めた。何を言って来るか分からない特殊な人だ。気を使うと何でやったんだとか言われて怒られて、何もしないとそれはそれで怒られる。かなり特殊な人やで』
「ですが、カケルはやる気が無く!仕事に向き合う姿勢がありませんでした!何度もミスを繰り返していました!部長である私を飛び越えて社長にものを言いに行く問題行動も起こしました!更に休憩中の社員に仕事の話を聞きに行く問題行動も起こしました!仕事の進捗が遅く無駄に会社に残っていました!私への報告漏れも多かった!カケルは仕事が出来ない人間で私は仕方なくカケルを注意しただけです!」
『あ、この人やばいわ』
『多分部長が特殊だからカケルは部長をスルーして仕事をしようとした。部長は自分自身のまずさに気づかず、目を向けていない』
『部下の信頼が無い時点で部長に向かないぞ?』
『反省の色無しか、何で社長が配信をしながら謝罪をする事にしたか何となく分かったwwwwww』
『1度に何個も指摘してくるところがやばいよな、受けとり手側の事を全く考えていない』
『部長はマジでヤバイ!』
「部長、もう帰って大丈夫だ。ご苦労だった」
「社長はカケルに騙されています!こいつは無能です!……」
◇
部長はひたすら俺の批判を続けた。
社長は部長の言葉をBGMのように聞きながらコーヒーに口をつけ、俺に食べるよう促す行動を見て分かった。
社長は本気で部長に罰を与えるつもりだ。
いつもの社長ならもっとストレートに怒鳴って黙らせていた。
明らかに社長の行動が前と違う。
そして、俺の心は落ち着いていた。
部長を見ていると小型犬が背伸びをして自分を大きく見せながらキャンキャン吠えているように見えていた。
会社を辞めたからか?
社長や配信を見ている人が状況を察しているからか?
それもあるのかもしれない。
でも、それだけではない気がする。
うまく言葉に出来ないもやもやした感情があったが言葉に出来ない。
「もういい、部長の言いたいことは分かった。時間を使わせたな。帰って大丈夫だ」
「いえ!社長は分かっていません!カケルは!」
「もういいと言った、もう充分だ」
「社長はカケルに騙されています。カケルの告げ口に騙されないでください!」
「カケルが告げ口などしていない!どこで決めつけた!」
「カケルは人に良く思われるような能力だけは高いんです!」
『部長の特大ブーメランが凄い』
『部長は人のせいにする能力が高いな』
『こんな奴がいたら会社が駄目になるわ。社長の話を聞いていない。いつまで続けえるんだろ?』
『こういう奴いるよな。何かあればすぐ人のせいにする奴』
『部長が怖いわ批判だけで、褒める言葉が一向に出てこない。ホラーだ』
『昭和のドラマに出てくるパワハラ部長っぽいな』
『周回遅れのパワハラ部長か。本当に昭和のドラマに出て来そうだ』
部長の話は長く続いた。
どうしても俺と社長の2人だけにはしたくないらしい。
社長が「少しスマホを使う」と言ってスマホをいじった。
社長から俺にメッセージが届く。
『一旦配信を終わらせて解散してからまた会おう』
『はい』
「もう終わりだ。カケル、お疲れ様だったな」
「はい、配信を終わります」
『ええええ!もう終わりか!』
『部長を潰してから終われよ!』
『部長を首にしろ!』
『言われっぱなしで終わりか!おかしいだろ!部長を首にしろって!』
コメントが高速で流れていく。
ほとんどが部長への悪口だ。
俺は社長に奢られて店を出た。
そして10分後に連絡が来た。
『もう一度戻って配信をしたい。俺とカケルだけでだ』
俺はキッチンジャッジに戻って来た。
社長と2人だけで配信を始める。
「配信を再開する。社長も普通に話をましょう」
「そうだな、腹を割って話そう」
『おおおお!うまい機転だ!』
『すっきりしない終わり方だと思ったけどそういう事か』
『ナイスプレー』
「言っておくが、いつもの部長はもっとずる賢く立ち回る。これは本人に何度も直接伝えたが、もっとずる賢く動くようになるだけで変えられなかった」
『いやそのくらい分かるわ!』
『今は部長が追い詰められたからボロが出た感じだよね』
『タヌキなんだろ?分かる』
「本題だ。カケル、いやな目に会った事を全部吐き出して欲しい。言える範囲でいい。全部受け止める」
『この人武士やわ』
『精神的に強そうやね』
『ヤクザの組長みたいだな』
俺は目を閉じた。
社長はじっと俺の言葉を待つ。
色々酷い目にはあった。
でも、そうじゃない、俺が言いたいのはそういう事じゃない。
俺は目を開いた。
「社長は、母のように、前社長のようになりたかったんですよね?」
社長が目を見開いた。
「9人の養子を自分の子供のように立派に育てた母のようになりたかったんですよね?みんなを見捨てず、出来が悪くても最後まで面倒を見ようとしたんですよね?」
「分かって、いたのか」
「何となく、そう思いました。部長が駄目な事を分かっていて、社員が辞めて、社員に陰口を言われて、それでも社員みんなを抱え込むように仕事をしていましたから」
「恨まれていると思っていた。色々うっぷんがあると思っていた」
「確かに僕と社長の方針は違うと思います」
「他の兄弟にはさんざん言われた。お前は巨人のように人を踏み潰すと。皆がお前のように強くはないと散々言われた。その通りだと思う」
社長は逆境に強すぎる。
強すぎて周りの弱い心に鈍感だ。
その影響で社員が辞めて社長まで陰口を言われた。
それでも社長は誰一人社員を切り捨てようとしなかった。
社長の考えは磨かれて輝く刀のように綺麗すぎて弱い周りを傷つけていた。
現実はそうじゃない、白い部分と黒い部分が入り混じっている。
黒い部分が多少あった方がうまくいく、部長のような人間を切り捨てた方がうまくいく。
俺はそういう考えだ。
「カケル、話す気はなかったが考えが変わった」
「何でしょう?」
「カケルが俺を助けようと義務感で苦しみを抱えながら働いている事には気づいていた。カケルが辞めれば会社に大きな損失が出る事も分かっていた。だがお前に辞めてもらった。お前にはもっと自由に、思うように生きて欲しいと思ったからだ」
おばあちゃんの言葉をまた思い出した。
『自由に生きなさい、やりたい事をやりなさい』
「どうして、あの時、その事を言ってくれなかったんですか?」
「言ったらカケルは辞めずに義務感だけで働き続けた。俺は嫌われてもいい、自由になって欲しいと思った」
そうか、社長は、前社長の考えを受け継いでいる。
自分が嫌われてもいい、嫌われながらでも俺を助けようとしたのか。
俺よりも、社長がずっと大きく見えた。
社長は器が大きい。
「だが、安心した。部長の事を、あまり気にしなくなったな」
「……そう言えば、小型犬が背伸びをしながらキャンキャン吠えているような感覚で……部長が小さく見えました」
社長が大きく見えて、部長が小さく見えた。
そうか、俺は、会社が、この世界全部であるように錯覚していたんだ。
マンパワー商事は日本にある小さな会社の1つでそれ以上でもそれ以下でもない。
俺は、知らない内に社長に救われていたんだ。
「今日はありがとうございました。知らない間に社長に救われていたことが分かって良かったです」
俺は自分から社長に手を差し出して握手をした。
「いい目になって来た。もう安心だな」
社長が不器用そうな笑顔で俺を見つめた。
『あれ?涙が止まらない』
『2人のすれ違いが無くなった』
『感動した!』
『部長さえいなければもっといい会社になっていたんじゃないか?』
コメントが高速で流れる。
「配信を終わります」
『もう敬語を使わなくていいぞ。敬語無しに統一していいと思う。応援してるぜ!』
『カケル、頑張れよ!』
『カケル君の事がもっと好きになった』
『社長のキャラも良いな』
『カケル、これからお前は幸せになる』
『カケルが吹っ切れたような顔をしている』
『カケルがまたちょっと良い顔になった』
『顔が明るくなった、今の顔の方が好きだ』
『まだ少し暗いけどな、でも、おめでとう!』
配信を切った。
店を出て俺と社長は別れた。
その後しばらくしてマンパワー商事は潰れ、社長は新しい商社を立ち上げた。
ホームページを見るとまともで良いメンバーの顔写真が並び、部長の顔はそこに無かった。
部長を配信に呼んで謝らせた点も、社長の変化を感じる。
社長は強い、でも人間だ。
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社長は、
成功する、
そう思った。
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追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。
そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。
世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
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