安らかにお眠りください

くびのほきょう

文字の大きさ
4 / 11

side A age:10

しおりを挟む
今日は4年に一度の初聖水拝領の日。
大聖堂の一室で母上と弟のリクハイドと3人でメルヴィを待っているところです。父上は公務として既に主祭壇にいるためここにはいません。
9歳のメルヴィ、10歳の私、そして11歳のメルヴィの兄エーミルが初聖水拝領を行います。

「お兄様!絶対に女神像くらいの大きい光を出してくださいね!」

今回の初聖水拝領は私の付き添いで来ている5歳のリクハイドのあけすけな言葉に驚きます。

「そうなったら嬉しいけど、過去には小さい光の王子もいたと歴史の授業で習ったからなぁ。もしも私が小さい光だったとしてもリクハイドがいるからいいじゃないか」
「そんな!困る!僕はとても繊細だからきっとプレッシャーで潰されてしまいますよぉ。そうだ!僕の魔力がお兄様に渡りますように」

そう言いながらリクハイドは暖かくてフニフニとした小さい手のひらで、私の手を掴んできました。私は「自分で自分のことを繊細と言う人に本当に繊細な人はいない気がするなぁ」と言いながら、掴まれているのとは反対の手で私と同じ金色の柔らかいリクハイドの髪を撫でます。

「ふふふ。もしもお兄様の光が小さかったら、リクがプレッシャーに潰されないために弟を作りましょうって陛下に相談するから大丈夫よ」
「えっ僕、妹の方が欲しい!お母様に似たかわいい妹!」
「あらあら」

母上の言葉に浮かれたリクハイドは私の手を離して母上の方に駆け寄って行ってしまいました。魔力量の話はもう良いのでしょうか。

実は初聖水拝領をするにあたり、父上から「もしも初聖水拝領で魔力量が少ないと判明しても、立太子の条件に魔力量は考慮しない。もしかすると魔力量が少ない初めての王になるという苦しい道を歩かせる事になるかもしれないけれど許して欲しい」と言われました。これはまだリクハイドや母上は知らない、父上と私だけの秘密。

祖父である先王の時代から我が王家は、魔力量至上主義の思想を無くすことに尽力していて、魔力量が少ないけれど職務は充分こなせる騎士や官僚を積極的に採用するなどの政策を進めているのです。私も、もしも魔力量が少ない初めての王になるとしても、責務を果たす覚悟はできているつもりです。

「エーミルだ!この前みたいに肩車して!肩車!」
「わわ、リク殿下、この白い服すぐ汚れちゃうんだから気をつけてくださいっ」

メルヴィ達が到着したようです。リクハイドが誰よりも早くエーミルに気づき飛びつきました。腕白盛りのリクハイドは、やんちゃなエーミルと遊ぶのがお気に入りなのです。

私もメルヴィの元へ駆け寄ります。

「メルヴィ、白いドレスも似合うね」
「ありがとうございます。ここまで汚さないようにってすごい注意して来たので、褒めてもらえて嬉しいです。実は、お兄様が馬車を待つ少しの時間もじっとしていられないで、木登りをして白い服を汚して、それでお母様が髪の毛を逆立てるくらいに怒ってて、万一私も汚したらお母様が怖いと思って……」

ドレスの白さを褒めたんじゃないんだけどなと思いつつメルヴィのズレた返事にほっこりし、母上に優雅な挨拶をしている侯爵夫人が実はつい先ほどまで毛を逆立てるほど怒っていた姿を想像して思わず笑ってしまいます。

「ふふふ。私にはエーミルの服が汚れているとは思えないけど、侯爵夫人は厳しいな」
「違うんです。予備を3着用意してあって、まだ初聖水拝領が始まっても無いのに今お兄様が着ているのは3着目なんです。しかも!お母様ったら私のドレスも予備が3着あるって言うんですよ!お兄様と同じ扱いなんて失礼しちゃいます!」

そう言いながらメルヴィは頬を膨らませていますが、私はメルヴィのドレスの予備まで3着あることに密かに納得しました。メルヴィは乗馬やダンスなど身体を動かす事が大好きで、中でも一番好きなのがエーミルと一緒に受けている剣術の稽古なのです。周囲に文武両道と言って貰えている私が、油断をしたら負かされてしまいそうなほどの実力があります。万が一にもメルヴィに負けないため、私は無理を言って剣術の稽古の時間を増やしてもらいました。

その後はメルヴィが私の服の白さを褒めてくれたりと、楽しく賑やかに待機していました。しばらくして初聖水拝領の時間となり主祭壇に移動します。

初聖水拝領は問題なく進行し、私は歴代王と同じで女神像より大きい光でした。本日参加した子息令嬢の中で私が一番魔力量が多く、私の次はエーミル。そして、メルヴィの光はメロン位の大きさでした。実はこれは下級貴族の平均くらいの魔力量で、王族に嫁ぐには少ないと言われてしまう大きさです。でも魔力量至上主義の撤廃に邁進している父上が、魔力量を理由にメルヴィを私の婚約者から外すことはないはずです。

初聖水拝領の直前まで明るくお喋りしていたメルヴィが、今は静かに口をつぐみ俯いています。私はメルヴィの両手を取り、悲しみに揺れているオレンジ色の瞳を見つめました。

「魔道具が普及してからは個人の魔力量は戦場と初聖水拝領の時しかわからなくなったし、その魔道具も常に進化している。魔力量が少なくても知識と意欲で王宮魔導師になった人だっている。もう魔力量だけで判断する時代では無いんだ。大丈夫。魔力量に関係なくメルヴィは私の婚約者のままだし、メルヴィの魔力量が少ないからと何か言う者が出てきたら遠慮なく私に報告して欲しい」
「違うんです。実はお兄様とどっちの光が大きいか勝負をしてて、負けた方は明日のおやつを勝った方にあげないといけないんです」

やんちゃなエーミルに負けず劣らずいつも元気一杯なメルヴィが珍しく落ち込んでいたので励ましたのですが、まさか明日のおやつ無しを悲しんでいたとは!

「ぷっふふふ」
「笑うなんてひどい!……でも、励ましてもらえてとても嬉しかったです。ありがとうございます。私が用意してた言い回しと一緒だったから、本当にそう思ってもらえてるんだなって」
「用意してた?」
「だって、魔力量が少ない王子もいたと歴史の授業で習ったから……」

メルヴィはモジモジしながら小さい声で呟いていましたが、ちゃんと聞こえました。

もしも私の魔力量が少なかった時のために、励ましの言葉を考えてくれてたのか……

私がメルヴィを大切に思っているのと同じように、メルヴィも私を大切に思ってくれているのだと感じ、胸が温かくなります。

まだ、高位貴族の高齢者の中に残る魔力量至上主義の思想。私の婚約者であるがために、魔力量で差別され、傷つけられる可能性があるメルヴィ。絶対にメルヴィを守るんだ、と私は決意を新たにしました。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

今日結婚した夫から2年経ったら出ていけと言われました

四折 柊
恋愛
 子爵令嬢であるコーデリアは高位貴族である公爵家から是非にと望まれ結婚した。美しくもなく身分の低い自分が何故? 理由は分からないが自分にひどい扱いをする実家を出て幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱く。ところがそこには思惑があり……。公爵は本当に愛する女性を妻にするためにコーデリアを利用したのだ。夫となった男は言った。「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな」と。(いいんですか? それは私にとって……ご褒美です!)

本日、私の妹のことが好きな婚約者と結婚いたしました

音芽 心
恋愛
私は今日、幼い頃から大好きだった人と結婚式を挙げる。 ____私の妹のことが昔から好きな婚約者と、だ。 だから私は決めている。 この白い結婚を一年で終わらせて、彼を解放してあげることを。 彼の気持ちを直接聞いたことはないけれど……きっとその方が、彼も喜ぶだろうから。 ……これは、恋を諦めていた令嬢が、本当の幸せを掴むまでの物語。

この子、貴方の子供です。私とは寝てない? いいえ、貴方と妹の子です。

サイコちゃん
恋愛
貧乏暮らしをしていたエルティアナは赤ん坊を連れて、オーガスト伯爵の屋敷を訪ねた。その赤ん坊をオーガストの子供だと言い張るが、彼は身に覚えがない。するとエルティアナはこの赤ん坊は妹メルティアナとオーガストの子供だと告げる。当時、妹は第一王子の婚約者であり、現在はこの国の王妃である。ようやく事態を理解したオーガストは動揺し、彼女を追い返そうとするが――

「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」と言われたので別れたのですが、呪われた上に子供まで出来てて一大事です!?

綾織季蝶
恋愛
「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」そう告げられたのは孤児から魔法省の自然管理科の大臣にまで上り詰めたカナリア・スタインベック。 相手はとある貴族のご令嬢。 確かに公爵の彼とは釣り合うだろう、そう諦めきった心で承諾してしまう。 別れる際に大臣も辞め、実家の誰も寄り付かない禁断の森に身を潜めたが…。 何故か呪われた上に子供まで出来てしまった事が発覚して…!?

醜女の私と政略結婚した旦那様の様子がおかしい

サトウミ
恋愛
この国一番の醜女である私と結婚したイバン様。眉目秀麗で数多の女性と浮き名を流した彼は、不祥事を起こしたせいで私なんかと結婚することになってしまった。それでも真面目な彼は、必死に私を愛そうと努力してくださる。 ──無駄な努力だ。 こんな色白で目と胸の大きい女を、愛せるはずがない。

【完結】不倫をしていると勘違いして離婚を要求されたので従いました〜慰謝料をアテにして生活しようとしているようですが、慰謝料請求しますよ〜

よどら文鳥
恋愛
※当作品は全話執筆済み&予約投稿完了しています。  夫婦円満でもない生活が続いていた中、旦那のレントがいきなり離婚しろと告げてきた。  不倫行為が原因だと言ってくるが、私(シャーリー)には覚えもない。  どうやら騎士団長との会話で勘違いをしているようだ。  だが、不倫を理由に多額の金が目当てなようだし、私のことは全く愛してくれていないようなので、離婚はしてもいいと思っていた。  離婚だけして慰謝料はなしという方向に持って行こうかと思ったが、レントは金にうるさく慰謝料を請求しようとしてきている。  当然、慰謝料を払うつもりはない。  あまりにもうるさいので、むしろ、今までの暴言に関して慰謝料請求してしまいますよ?

冷たかった夫が別人のように豹変した

京佳
恋愛
常に無表情で表情を崩さない事で有名な公爵子息ジョゼフと政略結婚で結ばれた妻ケイティ。義務的に初夜を終わらせたジョゼフはその後ケイティに触れる事は無くなった。自分に無関心なジョゼフとの結婚生活に寂しさと不満を感じながらも簡単に離縁出来ないしがらみにケイティは全てを諦めていた。そんなある時、公爵家の裏庭に弱った雄猫が迷い込みケイティはその猫を保護して飼うことにした。 ざまぁ。ゆるゆる設定

城内別居中の国王夫妻の話

小野
恋愛
タイトル通りです。

処理中です...