はじまりは初恋の終わりから~

秋吉美寿

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はじまり

48.決戦当日--13-デュロノワル一族の最後

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所変わって、深夜、国境にあるトクトンという村の朽ちた教会跡。

イリューリアに呪いをかけた元凶とも言える”黒魔石"の闇取引の現場では、今、まさに取り引きが行われようとしていた。

この国デルアータの猛将ザッツ・クーガンと彼が率いる精鋭部隊が息を殺してそこに潜んでいる。

そしてこの国の宰相カルム・エルキュラートもである。
本来なら宰相と言う立場でいくら大がかりな捕物とはいえ、現場にしゃしゃり出ていく事など考えられない。
せいぜい、作戦会議で話を聞いて指示やら許可やらを出すだけが普通なのだろうが、今回の捕物は特別である。

長年の宿敵!との対峙!

自分の命より大切に思っていた愛妻を死に追いやった元凶、デュロノワルへの制裁!

”黒魔石”をこの国にもちこみ、あまつさへ娘マルガリータにその石を与えた。
そのせいでカルムの妻に、とって代わりたいと言う浅ましい願いを持つマルガリータにカルムの妻は呪い殺されたのだ。

これはカルムにとって愛する妻への弔い合戦だった。

取引のある教会の建物を囲むようにたつ廃墟のひとつに身を隠しているカルムの背後に音もなくキラキラと銀色の光が舞った。
背後に人の気配を感じて振り返るとそこには、娘の呪いを解いてくれた恩人ルーク魔導士がにっこりとほほ笑んで立っていた。

「「「「△※□○!#×!!!」」」」

驚きのあまりカルムを始めカルムの三人の護衛兵は声なき声をこらえて驚いた。

「こんばんわ…驚かせてしまいましたか?すみません」とルークは人差し指を口元にあて、し~っ!という仕草で小声でカルムに話しかけた。

「ル、ルーク殿、皆、大丈夫だ!この方は、今回の取引の情報を下さった、あのラフィリルの魔導士であらせられる」とカルムが部下達に小声で言うと部下たちも驚きに声を出すまいと両手で口を抑えながらコクコクと頷いた。

「皆さん、驚いても不用意に声を挙げる事もない。さすがですね」と小声で言うと護衛兵達は恐縮したように顔を赤らめ、滅相もないと手振りをした。

内心はラフィリルの魔導士と聞いて恐縮しきりである。
そして、ルークの美しくも優し気な容貌に感激したりもしていた。

兵士達は伝説の国の魔導士というから、どれほど恐ろし気な人物かと思っていたのに、この国ではあまり見かけないほどの美しい若者で魔導士というよりまるで物語に出てくる王子様とかそんなイメージのルークに驚いた。
しかも、自分にも他人にも厳しい(娘は別)カルム宰相の先ほどの彼への紹介の仕方から考えても、正真正銘すごい魔導士様なのは間違いないであろうと思われた。

そこでルークは言葉を続けた。

「とにかく、こういうのは現行犯で捕まえるのが、一番です。タイミングが大事かと思って、お手伝いに参りましたよ」と、手の平から先日見せた光の球体をだした。

「ああ、いいころ合いですね、ほら」とそこに映る取引現場を見せた。

兵士達はまた両手で口を押えて驚きの声を必死で押さえて目をむく!
とにかく魔法なんてものはこの国では、おとぎ話でしか存在しなかったのだ。
今回の”黒魔石”にしても危険なとしか認識がなかったので驚きの連続である。

これは、黒魔石についての詳しい情報を兵たちに与えても魔法に縁のなかった者たちには、猜疑心や混乱を招くだけだろうとの配慮ではあったのだが、目の前でその力を見せつけられれば兵達も否応なしに理解する。

そしてそこには、今、まさに石の受け渡しの瞬間だった。

「さあ、参りましょうか!」とルークが声をあげ、バンと扉を開いた!

それを合図とばかりに息を殺していた他の兵達が一斉に教会に乗り込む。
カルムやルークに続き、ザッツ将軍達も一斉に教会になだれ込んだ!

「「「なっ!…なんだ!」」」グータリムや闇商人達が驚き周りに目を向けるとすっかり取り込まれてしまっていた。

*****

それはあまりにも、あっけない幕切れだった。

あっという間にグータリムと闇商人達はザッツ将軍と精鋭部隊によって捕縛された。

グータリムの方にも護衛はいたが、ザッツ率いる精鋭部隊には叶う筈も無かった。
それでも、闇商人の方には、今回の黒魔石が普段、取引されるよりもかなり大きかったこともあり、黒魔術士もついていたが、ルークの出現でそれすら、なんの障害にもならなかった。

「ひぃぃぃぃぃ!なっ!なぜ!血族の魔導士がっ!ち!力がっ!魔力が奪われるっっ!」と黒魔術士は、悲痛な叫び声をあげて逃げ惑う。

ルークのブレスレットに嵌めこまれた月の石に魔術師のもつ魔力は吸い込まれ、黒魔術士は、干からびた様にそこに倒れ込んだ。

そして、グータリムはを直ぐに使いこなせるとでも思ったのか黒魔石に願いを唱える!

「黒魔石よ!こいつらを殺せ!今直ぐだ!」と言い放つが、石は何の反応も示さない。

当然である。
今、この部屋には月の石を携えたルークがいる。
”黒魔石”の天敵である”月の石”がこの同じ部屋の中の空間にあるのである。
すでにその力は封印されている状態である。

グータリムが狼狽える。この石は望みを叶える石な筈ではなかったのか!といきり立つ。

「くそっ!偽物かっ!騙したな!」と闇商人達を睨むが、そんな訳がある筈もない。

闇商人達は、ルークがラフィリルの聖魔導士だと気づき、観念し項垂れている。

そう黒魔石を扱う闇の商人達の間で聖魔導士ルークはかなりの有名人だ。
まさに天敵!であったら最後だと囁かれる稀代のしかも血族の聖なる魔導士なのである。

ルークが石に”月の石”の光を当てると石は砕け、無色透明な綺麗な水晶の欠片となり果てた。

「くそっ!カルム・エルキュラート!謀ったな!覚えてろっっ!覚えていろっっ!」と恨みのこもった恐ろし気な声で叫びながら捕えられていった。

グータリムは、まだ知らない。
自分の息のかかった全ての取引先や一族全てがこの時、同時に捕えられていることを!

カルムは、ふっと肩の力を抜いた。
拍子抜けするほどに呆気なく積年の宿敵グータリムは捕えられたのだった。

何年も何年も長き時間をかけてこの時の為の作戦も試行錯誤して来た。
最新の注意と作戦で今日に及んだのは言うまでもない。

そしてザッツ将軍の働きも素晴らしかった。

部下たちの配置、打ち合わせた訳でもないのに、ルークがあの場にでた瞬間”今だ”と瞬時に判断し、一斉に乗り込み精鋭隊に逃げ道のすべてを塞がせた。

そして今、他所のデュロノワル一族もザッツの部下により一斉に捕縛されている筈である。

こうして長い長い夜は、幕を閉じたのである。
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