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第十章 喧騒と潮騒の中で
せこい話
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――港町アルリナ・早朝
私たちは皆で、人のまばらな早朝のアルリナに訪れていた。
訪れた理由は魔族に関する情報交換と、城の復興支援の礼のためだ。
魔族の情報に関してアルリナは、アグリスからの一報を受け取ったあと、すぐにヴァンナス本国へ支援要請を行ったようだ。
ここ数百年、半島には魔族が現われたことがない。
そのため、この処置は妥当だと言える。
だが、ノイファン曰く、『町の者たちはあまり大きな危機感を抱いていない』そうだ。
魔族を知る旅の者はともかく、アルリナの住人は久しく魔族の脅威に晒されていない。だから、身近な脅威として感じていないようだ。
この危機意識の欠如に私としても喚起したいが、こういった問題を解決するのは商人ギルドの役目。
助けも求められていないのに外部の私たちが口を出す問題ではない。
代わりに、その問題が少し減ったことを伝えた。
それを口にすると、ノイファンは驚きに目を開けっぱなしだった。
まさか、確認された七匹のうち六匹を退治したという報告を受ければ誰だってそうなるだろう。
脅威は一匹になったことを伝えるとノイファンは嬉しくも心憂う態度を見せる。
おそらく、ただでさえ魔族を軽んじているアルリナの民がこれを耳にして、ますます軽んじるのではないかと考えたのだろう。
話によると、元よりギルド内でも商売を優先にすべきという声が大きかったようだ。そうであるならば、この報告がきっかけで大勢が商売優先に向かうのは必至。
さらに、彼らは魔族よりも盗賊の出没を気にかけているそうだ。
その盗賊は、アルリナとアグリスを結ぶ本街道を荒らしていると。
アルリナとしては早急に討伐したいのだが、盗賊はアグリスの管理下である、元ランゲンの旧都『カルポンティ』周辺の森に潜んでいるらしい。
そこはアグリスの領地に当たるため、アルリナの勝手はできない。
アグリスはアグリスで最近災害に見舞われたカルポンティの復旧が忙しく、盗賊退治は後回しになってるという話だ。
そうであってもアルリナが強く要請すればアグリスも動くのだろうが……ノイファンはアグリスに余計な借りを作りたくないと考え、その要請を行っていない。
このようにアルリナには様々な問題が横たわっているが、それらはノイファンとギルドの役目。彼らに任せるとしよう。
魔族の話を終えて、次にトーワに対する支援の話に移る。
私はあまり配慮する必要はないと伝えるが、ノイファンはにこりと微笑んで遠慮なさらずにと答えた。
これはもちろん親切心ではない。
政治を行う者が、何の見返りもない善意など行うわけがない。
彼は支援を通じて、アルリナの弱みを握った私に弱みを上回る恩を着せようとしている。
これは機を見て、支援を断らなければならないようだ。
そのためには支援の穴埋めをするものが必要。
支援の大元であるゴリンたちの存在は実に力強い。
なればこそ、彼らからノイファンの鎖を外し、直接雇用をする必要がある。
問題はその資金をどうするか、だ。
今のところ、その目途は立っていない。
なにせ、古城トーワには産業らしきものは一切ない。
何かしらの金策が考えねば……。
思いつくまではゆっくりとアルリナから金を引っ張り、弱みよりも恩着せが上回る直前で支援を断ち切り、美味しいとこ取りを目指そうと考えている。
せこい話だが、これもまた政治的駆け引きだ。
昼前には魔族と支援と互いの近況報告を終えた私たちは、ノイファンの食事の誘いを断り、町へ繰り出すことにした。
ムキ=シアンの一件以降、住人たちは私のことを良き噂で讃えていると聞くが、それがどんなものかは知らない。
だから、直接どうであるかを確認しようと考えた。
私たちが町を歩いていると幾人もの人が声を掛けてきて礼を述べてくる。
遠巻きに見ていた子どもたちに手を振ると、勢い良く手を振って返してくれた。
その様子にエクアが照れ臭そうな表情を見せる。
「なんだか、ちょっと恥ずかしいですね」
「ふふふ、たしかに。ほら、ギウも手を振ってやれ」
「ギウギウ」
ギウが手を振る。野良猫たちが眼光鋭くにゃ~にゃ~と合唱を始める。
「ぎうっ!?」
「猫に大人気だな……」
「ぎうう~」
「ふふ、でもほら、子どもたちも手を振ってくれているぞ」
子どもたちが家のベランダから身を乗り出してギウに声を掛けてきている。
この様子を傍で見ていたフィナが、ちょいちょいと私の袖を引っ張ってきた。
「随分人気じゃない。何かしたの?」
「この町にムキという悪党がいて、色々あり、そいつを追い出した」
「ああ~、いたねぇ。そんなの。五年前くらいに一度、この港に滞在したことがあって、腐れ外道が町を牛耳ってるって話を聞いた覚えがある」
「アルリナに来たことがあるのか?」
「うん。じゃなきゃ、城でギウを見た時にびっくりしてたと思うし」
「言われてみれば、君はギウのことを知っていたし、他のギウについても詳しかったしな」
「五年前に防波堤近くで釣りをしているでっかい魚を見かけてさ。興味湧いちゃって、めっちゃ質問攻めしたことがあるからね。返事はギウギウギウギウでわかんなかったけど……」
「あははは、そうか」
「で、そのあと、おばあちゃんからちょっと教えてもらったってわけ」
「そうだったのか……さて、このまま当てもなく町を練り歩くわけにはいかないな」
と、言葉を出すと、ギウは真上に差し掛かろうとしている光の太陽テラスを銛で差す。
「ギウッ」
「そうだな。ノイファン殿の誘いを断ったのは町で食事をしつつ、町の状況を見たいがため。よし、キサの両親に挨拶をしてから、どこかで食事を取ろう」
私たちはキサの両親に挨拶を交わし、その足で港そばの食堂で食事を取ることにした。
私たちは皆で、人のまばらな早朝のアルリナに訪れていた。
訪れた理由は魔族に関する情報交換と、城の復興支援の礼のためだ。
魔族の情報に関してアルリナは、アグリスからの一報を受け取ったあと、すぐにヴァンナス本国へ支援要請を行ったようだ。
ここ数百年、半島には魔族が現われたことがない。
そのため、この処置は妥当だと言える。
だが、ノイファン曰く、『町の者たちはあまり大きな危機感を抱いていない』そうだ。
魔族を知る旅の者はともかく、アルリナの住人は久しく魔族の脅威に晒されていない。だから、身近な脅威として感じていないようだ。
この危機意識の欠如に私としても喚起したいが、こういった問題を解決するのは商人ギルドの役目。
助けも求められていないのに外部の私たちが口を出す問題ではない。
代わりに、その問題が少し減ったことを伝えた。
それを口にすると、ノイファンは驚きに目を開けっぱなしだった。
まさか、確認された七匹のうち六匹を退治したという報告を受ければ誰だってそうなるだろう。
脅威は一匹になったことを伝えるとノイファンは嬉しくも心憂う態度を見せる。
おそらく、ただでさえ魔族を軽んじているアルリナの民がこれを耳にして、ますます軽んじるのではないかと考えたのだろう。
話によると、元よりギルド内でも商売を優先にすべきという声が大きかったようだ。そうであるならば、この報告がきっかけで大勢が商売優先に向かうのは必至。
さらに、彼らは魔族よりも盗賊の出没を気にかけているそうだ。
その盗賊は、アルリナとアグリスを結ぶ本街道を荒らしていると。
アルリナとしては早急に討伐したいのだが、盗賊はアグリスの管理下である、元ランゲンの旧都『カルポンティ』周辺の森に潜んでいるらしい。
そこはアグリスの領地に当たるため、アルリナの勝手はできない。
アグリスはアグリスで最近災害に見舞われたカルポンティの復旧が忙しく、盗賊退治は後回しになってるという話だ。
そうであってもアルリナが強く要請すればアグリスも動くのだろうが……ノイファンはアグリスに余計な借りを作りたくないと考え、その要請を行っていない。
このようにアルリナには様々な問題が横たわっているが、それらはノイファンとギルドの役目。彼らに任せるとしよう。
魔族の話を終えて、次にトーワに対する支援の話に移る。
私はあまり配慮する必要はないと伝えるが、ノイファンはにこりと微笑んで遠慮なさらずにと答えた。
これはもちろん親切心ではない。
政治を行う者が、何の見返りもない善意など行うわけがない。
彼は支援を通じて、アルリナの弱みを握った私に弱みを上回る恩を着せようとしている。
これは機を見て、支援を断らなければならないようだ。
そのためには支援の穴埋めをするものが必要。
支援の大元であるゴリンたちの存在は実に力強い。
なればこそ、彼らからノイファンの鎖を外し、直接雇用をする必要がある。
問題はその資金をどうするか、だ。
今のところ、その目途は立っていない。
なにせ、古城トーワには産業らしきものは一切ない。
何かしらの金策が考えねば……。
思いつくまではゆっくりとアルリナから金を引っ張り、弱みよりも恩着せが上回る直前で支援を断ち切り、美味しいとこ取りを目指そうと考えている。
せこい話だが、これもまた政治的駆け引きだ。
昼前には魔族と支援と互いの近況報告を終えた私たちは、ノイファンの食事の誘いを断り、町へ繰り出すことにした。
ムキ=シアンの一件以降、住人たちは私のことを良き噂で讃えていると聞くが、それがどんなものかは知らない。
だから、直接どうであるかを確認しようと考えた。
私たちが町を歩いていると幾人もの人が声を掛けてきて礼を述べてくる。
遠巻きに見ていた子どもたちに手を振ると、勢い良く手を振って返してくれた。
その様子にエクアが照れ臭そうな表情を見せる。
「なんだか、ちょっと恥ずかしいですね」
「ふふふ、たしかに。ほら、ギウも手を振ってやれ」
「ギウギウ」
ギウが手を振る。野良猫たちが眼光鋭くにゃ~にゃ~と合唱を始める。
「ぎうっ!?」
「猫に大人気だな……」
「ぎうう~」
「ふふ、でもほら、子どもたちも手を振ってくれているぞ」
子どもたちが家のベランダから身を乗り出してギウに声を掛けてきている。
この様子を傍で見ていたフィナが、ちょいちょいと私の袖を引っ張ってきた。
「随分人気じゃない。何かしたの?」
「この町にムキという悪党がいて、色々あり、そいつを追い出した」
「ああ~、いたねぇ。そんなの。五年前くらいに一度、この港に滞在したことがあって、腐れ外道が町を牛耳ってるって話を聞いた覚えがある」
「アルリナに来たことがあるのか?」
「うん。じゃなきゃ、城でギウを見た時にびっくりしてたと思うし」
「言われてみれば、君はギウのことを知っていたし、他のギウについても詳しかったしな」
「五年前に防波堤近くで釣りをしているでっかい魚を見かけてさ。興味湧いちゃって、めっちゃ質問攻めしたことがあるからね。返事はギウギウギウギウでわかんなかったけど……」
「あははは、そうか」
「で、そのあと、おばあちゃんからちょっと教えてもらったってわけ」
「そうだったのか……さて、このまま当てもなく町を練り歩くわけにはいかないな」
と、言葉を出すと、ギウは真上に差し掛かろうとしている光の太陽テラスを銛で差す。
「ギウッ」
「そうだな。ノイファン殿の誘いを断ったのは町で食事をしつつ、町の状況を見たいがため。よし、キサの両親に挨拶をしてから、どこかで食事を取ろう」
私たちはキサの両親に挨拶を交わし、その足で港そばの食堂で食事を取ることにした。
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