銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯

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第十八章 純然たる想いと勇気を秘める心

勇気を持つ者

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――屋敷・夕刻(現在)

 
 作戦を心の中で振り返り、意識を過去から現在へ戻す。そして、現状を確認。
 屋敷にいる女中たちは眠らせている。動いているのは仲間だけ。
 
 すでにカインとグーフィスは手紙をたずさえて、北東に位置するトロッカー。半島を縦断するマッキンドーの森。そして、最南西に位置するアルリナに向かっている。

 残る私たちは今、フィナがぶち壊した天井から出て、外の警備兵に見つからぬように屋根の上にいた。
 そこで親父とエクアと別れ、彼らはカリスの説得に。
 フィナは今から馬車を借りに行き、私とギウは半島へと続く門へ向かう予定だ。

 すでに親父とエクアは屋根を通り、カリスが住む区画へ向かっていった。
 その影を追いながら、フィナが言葉を漏らす。


「ケントさ、可能だと思ってるの?」
「可能かどうかではない。やってもらわねば困る」
「どうかではないって……親父はカリスを裏切った。そんな奴が説得に行ったって」
「そこは信じようじゃないか」
「もし、できなかったら?」

「その時は、全ての責任を彼に押しつける」
「え!?」
「カリスの親父が私を騙し懐に潜り込み、今回の騒動を引き起こした。私は彼を捕らえ、アグリスに差し出す。話はこれでおしまいだ」
「そんなのって……ケント」


 フィナは感情の揺らぎを瞳に見せる。
 親父に対して怒りを覚えても、彼女の心には仲間としての親父が宿っているようだ。

「フィナ。状況は切迫している。最悪の場合、犠牲が必要だ。親父もそれくらい理解している」
「だからってっ」
「私は全てを救えるほど万能ではない。それでも、小さな可能性を信じて、親父の成功を想定した布陣を敷いている」
「でも……」

「なに、親父にはエクアがいる。彼女ならばあるいは……」

「え? エクアがいても説得は……そりゃあ、エクアはカリスを助けた実績があるけど、それだけじゃ」
「ふふ、君はエクアを過小評価しすぎだ」
「そんなこと……」
「彼女は強い。幼くして両親を亡くしても自分を見失うことなく生き抜き、闇に呑まれても這い上がり、罪を見つめ受け入れる。おそらく、エクアは私たちの中で誰よりも強い心を持っている」

「エクアが……強い?」
「そうだ。彼女の小さな体には勇気がたくさん詰まっている。もし、彼女が剣を持つ存在ならこう讃えられていたはずだ。勇者と……」
「それはちょっと、言いすぎじゃ」

「ふふ、どうかな? そうそう、追跡用魔法石の指輪を持っていたな」
「あるけど?」
「それを後で使うことになるかもしれないから準備しておいてくれ」

「うん、わかった」
「それでは、君の方も馬車の準備を」
「ええ、それじゃ後でね。ギウも」
「ぎ~う~」

 ギウは緊迫した空気などお構いなしに軽い声を出して軽やかに手を振る。フィナはそれにずっこけそうになったが、何とか耐えて別の家の屋根に飛び移っていった。
 この作戦で最も肝が据わっているのはギウであり、同時に私と同じ目線で動いている。


「さて、私たちは一旦引っ込み、着替えを済ませ、人がいるように見せかける偽装を施してから出かけるとしよう。その時は……」
「ギウ?」
「私を抱えて屋根から飛び降りてくれるか? 君たちのように身軽じゃないんで」
「ぎうう」

 がくりと身体を前のめりにするギウに、私は苦笑いを浮かべて返す。
 そして、最後にもう一度、エクアと親父が向かった区画を向く。

「無謀な説得。フィナにはああ言ったが、エクアがいても成功の可能性はほとんどない。それは親父もわかっている。それでもあえて受けたということは、失敗すればこの騒ぎの首謀者として首を差し出す覚悟があるのだろう」
「ギウ、ギウウ」
「そうだな。それなのに、このような危険な任務にエクアの同行を許したのは、彼女に希望を見出したからだ」


――私は見た。サレート=ケイキへ罪を告白したエクアの姿を……。


「彼女は大きく成長している。そして、私よりも人の心を知り、痛みに寄り添える。だからこそ、奇跡を起こせるのではないかと……フッ、奇跡に頼るとは」
「ギウギウ」
「ん、奇跡ではない?」
「ギウ」
「信頼? そうか、信頼か。そうだな、彼女ならやり遂げてくれるだろう。そして、やり遂げたならば……エクアを救え、カリスを救え、そして、アグリスの壁にヒビを入れることができる。フフ」


 薄っすらと笑みを浮かべるのは、政治家としての、そして領主としてのケント=ハドリー。
 ハドリーはこの時、政治を考えていた。
 トーワの領主として、有利な立ち回りを行えるように。
 笑みが闇を彩る。
 すると、ギウがほっぺを押してきた。

「ギウ~」
「にゃんだ、やねぇろ」
「ギウッ」

 ギウは両手を上げて、体を左右に振って呆れた様子を見せる。
 私は頬をさすりながら笑い声を生む。
「あはは、別にいいだろう。こういう姿は君くらいにしか見せられないからな」
「ギウ」
「いや、たとえ友であっても、見せていい姿、見せてはいけない姿がある。特に私は領主。責任を預かる者として、善悪の両面を宿し受け入れる必要があるからな」
「ギウギウギウ」
「一人で受け入れるのは間違っている? そうかもしれない。でも、私には……」
「ギウッ」

 ギウはポンッと私の背中を叩いて、屋根から屋敷内に続く穴に飛び降りた。
「ふふ、ありがとう、ギウ…………だが、先を行く前に……梯子が外れている、戻してくれないか。そうじゃないと降りられないっ」
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