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第十八章 純然たる想いと勇気を秘める心
心を震わす少女の声
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エクアはカリスたちへ語りかける。
返ってくる言葉が痛みと苦しみに塗れているとわかっていても……。
「アグリスを敵に回して、カリスを助ける。皆さんにとっては馬鹿げた話でも、私たちなら可能です」
「どうやって助けるってんだ!?」
言葉の針がエクアを突き刺す
「すでに皆さんをアグリスからトーワへ移動させる準備はできています」
「……え? いや、できてるからってなんだよ? アグリスからトーワに逃げてどうなるんだ? トーワにはアグリスと戦えるだけの兵がいるのかよっ!?」
言葉の石がエクアに投げられる。
「トーワに兵はいません」
「いないっ! あんた、馬鹿じゃないのか!? アグリスには何万、何十万って兵士がいるんだぞっ!」
「何が兵はいませんだ! 俺たちを殺すつもりかよ!」
言葉の石礫がエクアを貫く――だがっ。
「殺す? その必要はありません」
「なに?」
「なぜなら、あなたたちはすでに死んでいるからです」
「なっ!?」
エクアの言葉が、カリスの心臓を捉える。
彼女は警備兵から木刀でぶたれていた幼い兄妹へ顔を振った。
「二人は理不尽な暴力にさらされていた。ここに訪れた直後も、少年が棒でぶたれているのを見た。それを誰が救うわけもなく、いえ、それどころか、娯楽を楽しむように笑っていた……私はあなた方に尋ねたい」
エクアは目の前に立つ代表を瞳に入れる。親父を殴りつけた男を瞳に映す。
罵倒を繰り返していたカリスたちの一人一人を目に焼き付けるように見つめていく。
そして、
「あなたたちは生きているのですか?」
苛辣な現実を内包した問いを投げかけた。
この問いに、彼らの誰もが心に怒りを宿した。
知ったような言葉を吐き、わかりきった見たくもない現実という刃を不躾に振るう幼い少女に、何がわかるのかとっ!
誰かが、いや、誰もが、彼女を言葉の刃で八つ裂きにしようと口を開ける。
その刃を、エクアは言葉のハンマーで叩き折った!!
「目を覚ましなさい!! この馬鹿者どもがっ!」
指を幼い兄妹に突きつける。
「見ろ、あの子たちを! 理不尽な暴力を振るわれる姿を! あなたたちはいつまでこれを繰り返すつもりだ! 大人は諦め、耐えられるかもしれない! だけどそれを、子どもに強いり続ける気! これから先ずっと、ずっと、ずっと、子どもたちは涙を流し続ける! そんな姿を見たいのか!?」
一歩踏み込み、中年の男の心を声で殴りつける。
「あなたは嘆きを知った。それは親父さんのせい? 違う! この馬鹿げた制度のせいだ! 親父さんには罪があり、償わなければならない! でも、本当に憎むべきはルヒネ派の教え!!」
「そんなことは……だけど……」
「言い訳はもう十分でしょう! あなたもあなたのご先祖様も同じことを繰り返してきた! この鎖を絶たなければならない! あなたの拳は親父さんを殴りつけるためにあるんじゃない。鎖をぶち壊し、未来を切り開くために使いなさい!」
水色の髪を振るい、数本の赤と白の髪を交差させて、代表の男の全てを淡い緑の瞳に包み込む。
「私たちにはたしかな未来の保証をしてあげれられない。それでも、希望という機会を託してあげられる。手を取ってください。あなた方が手を伸ばせば、引いてあげられる。泥沼から助け出せる!」
エクアは手を差し伸ばす。
その手はとても小さく頼りない。
言葉の内容だって感情的なものばかりで、実を伴わない。
それでも、代表は手を震わせ、握り締めたいと感じてしまう。
だけど、握り締めるわけにはいかない。
安直な希望で、全員を危険な目に遭わせるわけにはいかない。
死なせるわけにはいかない……でも、
――あなたたちは生きているのですか?――
エクアの言葉が心に突き刺さる。
毎日が怯えに染まり、憎むべき相手に愛想笑いを浮かべ、大切な人が蹂躙されるのを黙って見ているしかない。
たしかに、体に血は流れ、熱はあり、心臓は鼓動を刻む。
だが、心には、血も熱も鼓動もない。
人として、生きてはいない。
「くっ、くっ、うううぅぅうぅ~」
代表はエクアの手を求めて上がろうとする手を、もう一つの手で抑え込む。
代表として、多くのカリスが少しでも痛みと恐怖から遠ざけられるように努めなければならない。
決して、感情に流されるようなことはしてはならない。
「あ、あなたのお名前は?」
「エクア=ノバルティ」
「エクアさん。あなた方に何らかの策があり、アグリスから私たちを救えたとしましょう。ですが、なぜそのようなことを? 裏切り者のテプレノの友の願い。そんな理由では、納得できませんよ」
「はい、それだけが理由ではありません。もちろん、それも理由の一つですが、大元は……あなた方を救うことが、あなた方の存在がトーワにとって大切な『利』となるからです!」
エクアは飛び切りの笑顔で代表を包んだ。
この言葉を彼女の後ろから聞いていた親父は、エクアの背中に、彼の姿を重ねる……。
(そうか。エクアの嬢ちゃんは、旦那の背中を追っているんだな)
そう、彼女が勇ましく言葉を飛ばし、時に罵倒し、彼らを焚きつけ……そして、笑顔という名の希望を見せたのは、ケント=ハドリーの姿を師として仰ぎ、表したからである。
一度はそれを行い、エクアは失敗した。
それでも、歩みを止めず、救うために彼の影を追う。
そうして、ここに至った。
ケント=ハドリーの影を捉えたのだ。
『利』という言葉に、中年の男は自分たちを利用するために陥れようとしていると、声を上げようとした。
それを止めた者が居る――代表だ!
「利だと? 結局、お前らもアグリスと同じでっ――」
「待て! 違う、そんな意味ではない!!」
代表は頭を垂れるように小さなエクアへ目線を合わせた。
「私たちは、トーワにとって『利』となる存在。その価値がある存在。生きる価値ある存在。頼られ、役立つ存在なのですね?」
「はい、トーワに来ていただければ、あなた方の力は大いに役立ちます」
「私たちが誰かの役に……」
カリスとは忌避される存在。
価値など無以下。
存在するだけで罪人と呼ばれる者たち。
犬や豚の方がよほど価値がある……だが! 目の前の少女はカリスを価値ある存在と唱える!
代表は生まれて初めて誰かに求められた心地よさに頬をぴくぴくと動かし、口元は崩れ、自分の意思では止められない声を漏らす。
「ふ、ふふ、ふはは、くく、ははは……カリスである我々が、多くの者の捌け口になるためだけの我々が、役に立つというんですね! 求められているのですね!!」
「はい!」
「ははは、あはははは、信じられない! 誰かに必要とされる存在になれるなんてっ。カリスである我らが! 忌避されし存在である我々が求められるなんて!! 聞いたか、みんな! 私たちを必要とする人がこの世界にいる! いるんだ! 私たちにも生きる意味があったんだ!」
代表は堰を切ったように涙を落とす。
その涙は伝播し、男も女も老人も、状況がよくわかっていない子どもたちさえも、心から心に伝わる熱と暖かさに涙を流していた。
だが、憎しみに心を染める中年の男は、心に宿る熱を凍らせ、流れる涙をも干上がらせる!
返ってくる言葉が痛みと苦しみに塗れているとわかっていても……。
「アグリスを敵に回して、カリスを助ける。皆さんにとっては馬鹿げた話でも、私たちなら可能です」
「どうやって助けるってんだ!?」
言葉の針がエクアを突き刺す
「すでに皆さんをアグリスからトーワへ移動させる準備はできています」
「……え? いや、できてるからってなんだよ? アグリスからトーワに逃げてどうなるんだ? トーワにはアグリスと戦えるだけの兵がいるのかよっ!?」
言葉の石がエクアに投げられる。
「トーワに兵はいません」
「いないっ! あんた、馬鹿じゃないのか!? アグリスには何万、何十万って兵士がいるんだぞっ!」
「何が兵はいませんだ! 俺たちを殺すつもりかよ!」
言葉の石礫がエクアを貫く――だがっ。
「殺す? その必要はありません」
「なに?」
「なぜなら、あなたたちはすでに死んでいるからです」
「なっ!?」
エクアの言葉が、カリスの心臓を捉える。
彼女は警備兵から木刀でぶたれていた幼い兄妹へ顔を振った。
「二人は理不尽な暴力にさらされていた。ここに訪れた直後も、少年が棒でぶたれているのを見た。それを誰が救うわけもなく、いえ、それどころか、娯楽を楽しむように笑っていた……私はあなた方に尋ねたい」
エクアは目の前に立つ代表を瞳に入れる。親父を殴りつけた男を瞳に映す。
罵倒を繰り返していたカリスたちの一人一人を目に焼き付けるように見つめていく。
そして、
「あなたたちは生きているのですか?」
苛辣な現実を内包した問いを投げかけた。
この問いに、彼らの誰もが心に怒りを宿した。
知ったような言葉を吐き、わかりきった見たくもない現実という刃を不躾に振るう幼い少女に、何がわかるのかとっ!
誰かが、いや、誰もが、彼女を言葉の刃で八つ裂きにしようと口を開ける。
その刃を、エクアは言葉のハンマーで叩き折った!!
「目を覚ましなさい!! この馬鹿者どもがっ!」
指を幼い兄妹に突きつける。
「見ろ、あの子たちを! 理不尽な暴力を振るわれる姿を! あなたたちはいつまでこれを繰り返すつもりだ! 大人は諦め、耐えられるかもしれない! だけどそれを、子どもに強いり続ける気! これから先ずっと、ずっと、ずっと、子どもたちは涙を流し続ける! そんな姿を見たいのか!?」
一歩踏み込み、中年の男の心を声で殴りつける。
「あなたは嘆きを知った。それは親父さんのせい? 違う! この馬鹿げた制度のせいだ! 親父さんには罪があり、償わなければならない! でも、本当に憎むべきはルヒネ派の教え!!」
「そんなことは……だけど……」
「言い訳はもう十分でしょう! あなたもあなたのご先祖様も同じことを繰り返してきた! この鎖を絶たなければならない! あなたの拳は親父さんを殴りつけるためにあるんじゃない。鎖をぶち壊し、未来を切り開くために使いなさい!」
水色の髪を振るい、数本の赤と白の髪を交差させて、代表の男の全てを淡い緑の瞳に包み込む。
「私たちにはたしかな未来の保証をしてあげれられない。それでも、希望という機会を託してあげられる。手を取ってください。あなた方が手を伸ばせば、引いてあげられる。泥沼から助け出せる!」
エクアは手を差し伸ばす。
その手はとても小さく頼りない。
言葉の内容だって感情的なものばかりで、実を伴わない。
それでも、代表は手を震わせ、握り締めたいと感じてしまう。
だけど、握り締めるわけにはいかない。
安直な希望で、全員を危険な目に遭わせるわけにはいかない。
死なせるわけにはいかない……でも、
――あなたたちは生きているのですか?――
エクアの言葉が心に突き刺さる。
毎日が怯えに染まり、憎むべき相手に愛想笑いを浮かべ、大切な人が蹂躙されるのを黙って見ているしかない。
たしかに、体に血は流れ、熱はあり、心臓は鼓動を刻む。
だが、心には、血も熱も鼓動もない。
人として、生きてはいない。
「くっ、くっ、うううぅぅうぅ~」
代表はエクアの手を求めて上がろうとする手を、もう一つの手で抑え込む。
代表として、多くのカリスが少しでも痛みと恐怖から遠ざけられるように努めなければならない。
決して、感情に流されるようなことはしてはならない。
「あ、あなたのお名前は?」
「エクア=ノバルティ」
「エクアさん。あなた方に何らかの策があり、アグリスから私たちを救えたとしましょう。ですが、なぜそのようなことを? 裏切り者のテプレノの友の願い。そんな理由では、納得できませんよ」
「はい、それだけが理由ではありません。もちろん、それも理由の一つですが、大元は……あなた方を救うことが、あなた方の存在がトーワにとって大切な『利』となるからです!」
エクアは飛び切りの笑顔で代表を包んだ。
この言葉を彼女の後ろから聞いていた親父は、エクアの背中に、彼の姿を重ねる……。
(そうか。エクアの嬢ちゃんは、旦那の背中を追っているんだな)
そう、彼女が勇ましく言葉を飛ばし、時に罵倒し、彼らを焚きつけ……そして、笑顔という名の希望を見せたのは、ケント=ハドリーの姿を師として仰ぎ、表したからである。
一度はそれを行い、エクアは失敗した。
それでも、歩みを止めず、救うために彼の影を追う。
そうして、ここに至った。
ケント=ハドリーの影を捉えたのだ。
『利』という言葉に、中年の男は自分たちを利用するために陥れようとしていると、声を上げようとした。
それを止めた者が居る――代表だ!
「利だと? 結局、お前らもアグリスと同じでっ――」
「待て! 違う、そんな意味ではない!!」
代表は頭を垂れるように小さなエクアへ目線を合わせた。
「私たちは、トーワにとって『利』となる存在。その価値がある存在。生きる価値ある存在。頼られ、役立つ存在なのですね?」
「はい、トーワに来ていただければ、あなた方の力は大いに役立ちます」
「私たちが誰かの役に……」
カリスとは忌避される存在。
価値など無以下。
存在するだけで罪人と呼ばれる者たち。
犬や豚の方がよほど価値がある……だが! 目の前の少女はカリスを価値ある存在と唱える!
代表は生まれて初めて誰かに求められた心地よさに頬をぴくぴくと動かし、口元は崩れ、自分の意思では止められない声を漏らす。
「ふ、ふふ、ふはは、くく、ははは……カリスである我々が、多くの者の捌け口になるためだけの我々が、役に立つというんですね! 求められているのですね!!」
「はい!」
「ははは、あはははは、信じられない! 誰かに必要とされる存在になれるなんてっ。カリスである我らが! 忌避されし存在である我々が求められるなんて!! 聞いたか、みんな! 私たちを必要とする人がこの世界にいる! いるんだ! 私たちにも生きる意味があったんだ!」
代表は堰を切ったように涙を落とす。
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