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第二十二章 銀眼は彼に応え扉を開く
銀眼よ
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ギウは銛を強く握り締め、結界を突く、突く、突く、突く、突き続ける!
だが、結界は壊れることなく、ギウに衝撃を返し、彼の体を血に染めていくだけ。
「やめろ、ギウ! そんなことをすればっ」
「ギウ、ギウ、ギウ、ギウ、ギウ!」
彼は何度も何度も結界を穿ち崩そうと、銛を突く。
その度に彼の体は傷つき、血に彩られた銀の鱗が剥がれ落ちていく。
「やめろ、ギウ! やめてくれ! 君が死んでしまう!!」
「あはははは、ケント様~。お辛いですよねぇ。ですが、僕はあなた方の悲劇喜劇に興味がないんですよ」
「きさまぁ~!」
「おっと、気を落ち着けてください。私はあなたにとって良い提案を差し出そうとしているんですから」
「提案だと?」
「そう、提案。まぁ、テイローの長の存在には驚きましたが、正直言いましてエクアさん以外のあなたたちなんかどうでもいいんですよ。そこで、あなた自らエクアさんを差し出してくれるなら、皆さんの命を取らないと約束しましょう」
そう、彼は唱え、にんまりとした表情で私を見つめた。
彼の瞳には優越感と満足感。そしてなぜか、僅かばかりの憎しみらしきものが宿っている。
「サレート、君は私に恨みでもあるのか?」
「え?」
「君から醸し出される雰囲気からはそういったものが感じ取れる」
「そうですねぇ~。恨みなんかありませんが、いけ好かない存在ではありますね」
「どうしてだ?」
「あなたはなんの才能もないのに、あのアステ=ゼ=アーガメイトの養子になった。そう、才能の欠片もないあなたがっ、あの天才の象徴たるアステ=ゼ=アーガメイトのっ! それが少々癪でした。だから、あなたに敗北感を味わわせたいのかもしれません」
「下らぬことを」
「たしかにくだらない。時間の無駄。ですので、僕の提案受けるか否か、を、とっと決めてもらえますかぁ?」
「くっ、サレートぉぉぉ!」
彼の提案――エクアを『私の意志』で差し出し、見逃してもらう。
仮に、エクアを差し出さないという選択を取っても、エクアは奪われてしまう。
ならば、提案を受け入れる以外ない。
――だがっ、人は草木に非ず! 簡単に物事を割り切れるならばっ、人に心など必要ない!!
「うぐぐぐぐぅ~」
しかし、私には何も為せず、悔し紛れの呻き声しか上げられない。
すると、右腕に宿っていた温かさが消えた。
エクアがすっくと立ちあがって、私に微笑みを見せる。
「ケント様、私、サレートのもとへ行きます」
「エクア……駄目だっ」
「いいんです。これで皆さんを助けてあげられるなら、いいんです」
「だめだ、エクア……」
私は懇願するような声を上げた。
その声は私だけではない。
「だめよ、エクア。行っちゃ駄目!」
「エクアの嬢ちゃん、そいつは飲めねぇ話だ!」
「そうですよ、エクア君。あなたを犠牲にしてまで!」
「ギウ、ギウウ!」
「皆さん、ありがとう。皆さんの暖かなお気持ち、すっごく嬉しいです」
エクアはぺこりと私たちに頭を上げて、次にとびっきりの笑顔を見せて、サレートへと身体を向けた。
サレートは自分へ向かってくるエクアの姿に対して、両方の人差し指と親指を使い四角の囲いを作り、そこにエクアの姿を納めて、満足そうな笑み見せる。
「うう~ん、いい構図だ。濃き友情の中心に立つ少女は、そこから離れ、世界を知る旅に出る。悲痛に泣く仲間を背にしながらも、少女は気高い笑顔を見せる。うん、いいねぇ。暇つぶしの絵が描けそうだ、フフフ」
エクアの決意を下卑た笑みと共に迎えようとする男。
私は大切な仲間を、このままあのような男に手渡さなければならないのか!
「そんなことさせるものか!! 彼女は、エクアはとても辛い過去を乗り越えて、今があるんだぞ。罪を受け入れても屈することのない強い心を持つ少女。彼女は誰よりも幸せになるべき少女なんだ! それをお前なんぞに、渡してたまるかぁぁぁあぁ!」
私は治療を行っていたカインを振り払い、立ち上がり、私に残された最後の力――銀眼にありったけの力を込めた。
そして、痛みに歯を食い縛りながら、エクアを捕まえようと前へ、前へ、前へと進む。
「私はまだエクアに伝えていない。仲間たちに伝えていない。私の全てを。仲間であり、信頼できる友と思いながらも、自分を伝えることのできなかった臆病者。それが、多くの人に支えられて、ようやく勇気が持てた。そうだというのに! ここで全てを失うわけにはいかない! 頼む、銀眼よ! 少しでいい、私に力を! 力を与えてくれ!」
身体に巡る全神経を銀眼に集め、私はエクアを見つめる。
サレートは私へ魔法の絵筆を振るい、それに応じて肉塊となった二つの盗賊がこちらへ向かってくる。
力を宿した銀眼は、彼らの素早い動きをはっきり捉えているが、私の体はその動きに応えてくれない!
「くそぁおぉぉぉおぁおぉぉ! 銀眼よぉぉぉ、頼むからぁぁ!! お願いだぁぁ! 頼む、私に力を! 力を貸してくれぇぇぇえぇ!! ――っ!?」
突然、視界が黒く染まる。
肉塊どもによって、私は命を絶たれたのだろうか?
いや、違う。
真っ黒な世界に、光が浮かぶ。
光はゆっくりと広がりを見せて、とある村の姿を描いた。
「ここは……テラか?」
「そう、テラよ」
後ろからとても懐かしい声が響く。
振り返るとそこには、二十代とは思えない可愛らしさを残す黒髪の女性が立っていた。
「セア?」
「ふふ、久しぶりね」
「どうして?」
「どうしてって、あなたが呼んだからでしょ」
「私が?」
「銀眼に持てる全ての思いを乗せて、力を求めた。その思いが私たちの村に響き、扉を開いた。まぁ、左目に傷を負った影響で、以前よりもリンクしやすい環境になったおかげでもあるんだけど」
「理屈はいまいちわからないが、君に再び会えてうれしいよ。だが、再会を祝っている余裕はないっ」
「仲間を救わなければならない?」
「そうだ!」
「そうね……私たちはその思いに応えて扉を開いた」
「え? つまりっ」
「ええ、力を貸してあげる」
「ありがとう、セア!」
私は残った左手で彼女の手を握った。
セアは私の顔を見つめ微笑みを浮かべる。しかし、それはどこか寂し気だ。
「セア?」
「今からあなたに、勇者が持つ力を一時的に渡してあげる。でも、二つ問題があるの」
「問題とは?」
「一つは、これ一度きり。二度目はない。一度の負荷でリンクに支障が出て、もう私たちに会えなくなる。もちろん、無意識に知識へ触れることも」
「そうか……君たちに会えなくなるのは寂しい話だが……すまない」
「いいのよ。仲間を助けるためですもの。そんなことよりも、もう一つが大変な問題なの」
「どんな問題なんだ?」
彼女は私が握り締めていた手からするりと手を抜いて、私の銀眼をそっと包んだ。
「あなたは銀眼にしかナノマシンを宿していない。肉体は勇者としての力を使えるように作られていない。私たちが力を送り込めば、力は全身に伝わり活性化する。その負荷はどれほどのものか。肉体はもちろん、心も耐えられない」
「心?」
「流入する力は人の心を高揚させる。天へも昇る力に心は酔い、制御できなくなる。力に呑まれたあなたは快感に身を委ね、自我を失う可能性が高い。そうなってしまうと仲間までも……」
「それほど恐ろしいものなのか……」
せっかく力を得てサレートを打ち破れたとしても、その力で仲間を傷つけてしまっては意味がない。
だが……。
「セア、選択肢はない。エクアを犠牲にするくらいなら、私の全てを失う方がいい」
「ケント……」
「な~に、力に呑まれそうになったら……その時は、無理やりでも自害するさ。だから、力を貸してくれ、セア」
「なんて馬鹿なことを言うの。でも、あなたの言うとおり、選択肢はない……わかった」
セアは光に包まれ、光の球体へと変化する。
球体は村のあちこちから飛び出してきて、私の周りに集った。
正面の球体からセアの声が響いてくる。
「私たちに宿る勇者としての力をあなたに捧げる。ケント、心をしっかり持って! 簡単に命を捨てようとしないで! あなたには大切な仲間が、帰るべき場所があるんだから!!」
「もちろんだ、セア! 耐えて見せる、力に!」
私の言葉に応え、球体の光が増して、村を、世界を、飲み込んでいく。
私の体もまた光に包まれ、銀眼に映る世界は揺らぎ、光の先に、仲間たちの姿が宿った。
だが、結界は壊れることなく、ギウに衝撃を返し、彼の体を血に染めていくだけ。
「やめろ、ギウ! そんなことをすればっ」
「ギウ、ギウ、ギウ、ギウ、ギウ!」
彼は何度も何度も結界を穿ち崩そうと、銛を突く。
その度に彼の体は傷つき、血に彩られた銀の鱗が剥がれ落ちていく。
「やめろ、ギウ! やめてくれ! 君が死んでしまう!!」
「あはははは、ケント様~。お辛いですよねぇ。ですが、僕はあなた方の悲劇喜劇に興味がないんですよ」
「きさまぁ~!」
「おっと、気を落ち着けてください。私はあなたにとって良い提案を差し出そうとしているんですから」
「提案だと?」
「そう、提案。まぁ、テイローの長の存在には驚きましたが、正直言いましてエクアさん以外のあなたたちなんかどうでもいいんですよ。そこで、あなた自らエクアさんを差し出してくれるなら、皆さんの命を取らないと約束しましょう」
そう、彼は唱え、にんまりとした表情で私を見つめた。
彼の瞳には優越感と満足感。そしてなぜか、僅かばかりの憎しみらしきものが宿っている。
「サレート、君は私に恨みでもあるのか?」
「え?」
「君から醸し出される雰囲気からはそういったものが感じ取れる」
「そうですねぇ~。恨みなんかありませんが、いけ好かない存在ではありますね」
「どうしてだ?」
「あなたはなんの才能もないのに、あのアステ=ゼ=アーガメイトの養子になった。そう、才能の欠片もないあなたがっ、あの天才の象徴たるアステ=ゼ=アーガメイトのっ! それが少々癪でした。だから、あなたに敗北感を味わわせたいのかもしれません」
「下らぬことを」
「たしかにくだらない。時間の無駄。ですので、僕の提案受けるか否か、を、とっと決めてもらえますかぁ?」
「くっ、サレートぉぉぉ!」
彼の提案――エクアを『私の意志』で差し出し、見逃してもらう。
仮に、エクアを差し出さないという選択を取っても、エクアは奪われてしまう。
ならば、提案を受け入れる以外ない。
――だがっ、人は草木に非ず! 簡単に物事を割り切れるならばっ、人に心など必要ない!!
「うぐぐぐぐぅ~」
しかし、私には何も為せず、悔し紛れの呻き声しか上げられない。
すると、右腕に宿っていた温かさが消えた。
エクアがすっくと立ちあがって、私に微笑みを見せる。
「ケント様、私、サレートのもとへ行きます」
「エクア……駄目だっ」
「いいんです。これで皆さんを助けてあげられるなら、いいんです」
「だめだ、エクア……」
私は懇願するような声を上げた。
その声は私だけではない。
「だめよ、エクア。行っちゃ駄目!」
「エクアの嬢ちゃん、そいつは飲めねぇ話だ!」
「そうですよ、エクア君。あなたを犠牲にしてまで!」
「ギウ、ギウウ!」
「皆さん、ありがとう。皆さんの暖かなお気持ち、すっごく嬉しいです」
エクアはぺこりと私たちに頭を上げて、次にとびっきりの笑顔を見せて、サレートへと身体を向けた。
サレートは自分へ向かってくるエクアの姿に対して、両方の人差し指と親指を使い四角の囲いを作り、そこにエクアの姿を納めて、満足そうな笑み見せる。
「うう~ん、いい構図だ。濃き友情の中心に立つ少女は、そこから離れ、世界を知る旅に出る。悲痛に泣く仲間を背にしながらも、少女は気高い笑顔を見せる。うん、いいねぇ。暇つぶしの絵が描けそうだ、フフフ」
エクアの決意を下卑た笑みと共に迎えようとする男。
私は大切な仲間を、このままあのような男に手渡さなければならないのか!
「そんなことさせるものか!! 彼女は、エクアはとても辛い過去を乗り越えて、今があるんだぞ。罪を受け入れても屈することのない強い心を持つ少女。彼女は誰よりも幸せになるべき少女なんだ! それをお前なんぞに、渡してたまるかぁぁぁあぁ!」
私は治療を行っていたカインを振り払い、立ち上がり、私に残された最後の力――銀眼にありったけの力を込めた。
そして、痛みに歯を食い縛りながら、エクアを捕まえようと前へ、前へ、前へと進む。
「私はまだエクアに伝えていない。仲間たちに伝えていない。私の全てを。仲間であり、信頼できる友と思いながらも、自分を伝えることのできなかった臆病者。それが、多くの人に支えられて、ようやく勇気が持てた。そうだというのに! ここで全てを失うわけにはいかない! 頼む、銀眼よ! 少しでいい、私に力を! 力を与えてくれ!」
身体に巡る全神経を銀眼に集め、私はエクアを見つめる。
サレートは私へ魔法の絵筆を振るい、それに応じて肉塊となった二つの盗賊がこちらへ向かってくる。
力を宿した銀眼は、彼らの素早い動きをはっきり捉えているが、私の体はその動きに応えてくれない!
「くそぁおぉぉぉおぁおぉぉ! 銀眼よぉぉぉ、頼むからぁぁ!! お願いだぁぁ! 頼む、私に力を! 力を貸してくれぇぇぇえぇ!! ――っ!?」
突然、視界が黒く染まる。
肉塊どもによって、私は命を絶たれたのだろうか?
いや、違う。
真っ黒な世界に、光が浮かぶ。
光はゆっくりと広がりを見せて、とある村の姿を描いた。
「ここは……テラか?」
「そう、テラよ」
後ろからとても懐かしい声が響く。
振り返るとそこには、二十代とは思えない可愛らしさを残す黒髪の女性が立っていた。
「セア?」
「ふふ、久しぶりね」
「どうして?」
「どうしてって、あなたが呼んだからでしょ」
「私が?」
「銀眼に持てる全ての思いを乗せて、力を求めた。その思いが私たちの村に響き、扉を開いた。まぁ、左目に傷を負った影響で、以前よりもリンクしやすい環境になったおかげでもあるんだけど」
「理屈はいまいちわからないが、君に再び会えてうれしいよ。だが、再会を祝っている余裕はないっ」
「仲間を救わなければならない?」
「そうだ!」
「そうね……私たちはその思いに応えて扉を開いた」
「え? つまりっ」
「ええ、力を貸してあげる」
「ありがとう、セア!」
私は残った左手で彼女の手を握った。
セアは私の顔を見つめ微笑みを浮かべる。しかし、それはどこか寂し気だ。
「セア?」
「今からあなたに、勇者が持つ力を一時的に渡してあげる。でも、二つ問題があるの」
「問題とは?」
「一つは、これ一度きり。二度目はない。一度の負荷でリンクに支障が出て、もう私たちに会えなくなる。もちろん、無意識に知識へ触れることも」
「そうか……君たちに会えなくなるのは寂しい話だが……すまない」
「いいのよ。仲間を助けるためですもの。そんなことよりも、もう一つが大変な問題なの」
「どんな問題なんだ?」
彼女は私が握り締めていた手からするりと手を抜いて、私の銀眼をそっと包んだ。
「あなたは銀眼にしかナノマシンを宿していない。肉体は勇者としての力を使えるように作られていない。私たちが力を送り込めば、力は全身に伝わり活性化する。その負荷はどれほどのものか。肉体はもちろん、心も耐えられない」
「心?」
「流入する力は人の心を高揚させる。天へも昇る力に心は酔い、制御できなくなる。力に呑まれたあなたは快感に身を委ね、自我を失う可能性が高い。そうなってしまうと仲間までも……」
「それほど恐ろしいものなのか……」
せっかく力を得てサレートを打ち破れたとしても、その力で仲間を傷つけてしまっては意味がない。
だが……。
「セア、選択肢はない。エクアを犠牲にするくらいなら、私の全てを失う方がいい」
「ケント……」
「な~に、力に呑まれそうになったら……その時は、無理やりでも自害するさ。だから、力を貸してくれ、セア」
「なんて馬鹿なことを言うの。でも、あなたの言うとおり、選択肢はない……わかった」
セアは光に包まれ、光の球体へと変化する。
球体は村のあちこちから飛び出してきて、私の周りに集った。
正面の球体からセアの声が響いてくる。
「私たちに宿る勇者としての力をあなたに捧げる。ケント、心をしっかり持って! 簡単に命を捨てようとしないで! あなたには大切な仲間が、帰るべき場所があるんだから!!」
「もちろんだ、セア! 耐えて見せる、力に!」
私の言葉に応え、球体の光が増して、村を、世界を、飲み込んでいく。
私の体もまた光に包まれ、銀眼に映る世界は揺らぎ、光の先に、仲間たちの姿が宿った。
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