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第二十二章 銀眼は彼に応え扉を開く
勇者の力…………
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――現実世界
瞳に光が入る。
次に飛び込んでくるのは二つの肉塊と化した盗賊たち。
私は銀眼から流れ込んでくる力に、咆哮を以って応えた。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおぉおおお!!」
肉体から溢れ出す力。
力は波動となって、二つの肉塊を遥か後方へ吹き飛ばした。
私は己の右手を見つめる。
失った右手首は光に包まれ、指先が戻ってくる。
指先を滑らかに折る。
そこからは赤黒い粒子が放たれていた。
いや、指先だけではない。
身体の全身から赤黒い粒子が湧き立ち、銀眼からは赤と黒の光が漏れ出して、口元は力に対する歓喜に震え立つ。
「あは、はははは、あははははは! 素晴らしいっ。これが勇者の力! レイやアイリたちに宿る力……体中のレスターが活性化して、溢れ出してくる。いや、それだけではない! 世界に揺蕩うレスターもわたしのちからとなっているぞおぉぉ! されぇぇぇとぉぉぉ!」
言葉は力に包まれ、私は酔いに交わり酔いに溺れる。
仲間たちは私の変わりように驚きと怯えを纏っているが、説明など不要!
私は、目の前にいる男を、殺したくて殺したくてしょうがないんだぁぁぁあぁ!
「がぁぁあぁぁぁぁ!」
私はテロールと呼ばれたうすのろの懐に飛び込み、軽く体を撫でてやった。
たったそれだけのことで彼女の体は空へ吹き飛び、肉塊は肉片となって降り注いでくる。
「なんだなんだっ、そのもろさはぁぁあぁ!」
肉片が地上に落ちるよりも早く、私はゆらりと体を動かした。
そんなちっぽけな動きで、二十を超える肉塊に魔法の絵筆から呼び出された異形たちは飛び散り消えた。
「熱い、あつい、アツイ、ぜんぜんぜんぜんぜんぜん、まったく足らない……」
降り注ぐ肉体は腐れた血と臓腑と共に火照った私の体に降り注ぐが、まったくといって火照りを消し去ってくれない。
「あははははは、このような取るに足らぬ存在に私は怯えていたのか? 悔しさに吠えていたのか? 馬鹿馬鹿しい。馬鹿馬鹿しい? 馬鹿馬鹿しい、だと? 何がだ?」
視界が黒く歪んでいく。
視界の切れ端には仲間がいた。
ギウが血塗れになりながらも結界を破ろうとした。
フィナが全てを賭けて戦った。
親父が命懸けでエクアを救ってくれた。
カインが私の右手を治療しようとしてくれた。
エクアが己を投げ打ち、私を救おうとしてくれた。
だけど、その尊い思いが掻き消えていく。
何故だ? 誰が悪い?
そうだ、この大切なものを奪おうとした奴がいる。
誰だ? 誰だっ? 誰だ!?
「されぇえっぇっぇぇとけぇぇえぇおえきいいい!」
私は黒と赤に浸食された銀眼を男へ向けた。
男は手に何かを持って振るっている。
そこから無数の脆弱な何かを飛ばしているが、私がそっと撫でるだけで、全ては塵に消える。
それでも男は、悲鳴を上げながら何かを振るい続ける。
実に滑稽な姿だ。
だけど、タリナイ。
こいつは、わわわたしから、たたたいせつなななものををを、うばをうとした。
身体に流れる力が、こいつを殺せと言っている。
一度は失った右拳に赤黒い力が螺旋を描き宿った。
「はぁはぁはぁはぁ、何たる高揚感。ああ、力が私を包む。心地良い。この力で、仲間を取り返す。あれを殺せば、どれだけ、どれほどまでに……」
――気持ち良いのだろうか?――
「あははははは、殺す殺す殺す。お前を殺せば、わたしははさいこうにきもちよくなれるぞぉぁぁぁぁ!!」
私はひたすらに棒切れを振り続ける、卑小な存在に飛び掛かった。
誰かの声たちが聞こえる。
「ケント、駄目よ!」
「ケント様! 正気に戻って!」
「旦那、そいつはやべぇ。やべぇ気がする!」
「ケントさん、抑えてください!」
うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!
わたしはなかまをたすけ、このおとこを殺し、最高の快楽を得るんだっ!
拳を握り締め、哀れな存在を殴りつけようとする。
…………わかっている。これを行えば、僅かに残った私は消え去るだろう。
だが、止められない。ちがう! 止めたくないんだ。
だって、だって、だって、サレート=ケイキを殺せば、最高に気持ちよくなれることをわかっているから!!
「肉片となり塵ニ消えロ、サレート……」
「ひぃぃいぃ、くるなぁぁ!」
拳はサレートへ向かう。
そこに大切な友人の声が聞こえた。
「ギウッ!」
しかし、止まらない。止めてたまるものか。
ああ、友人の声は私の拳を止めようとしたのか?
何故止めようとするのか?
こんなに素晴らしい思いをどうして君は止めるんだ、ギウ?
私は、こいつを殺して、みんなを、最高に気持ちよくさせてやるからさ!
「アハハハハハハハ!」
――拳は振り切られた。
「っ!?」
――だがっ、その拳を何者かが手の平で受け止めた。
その手は、とても細く美しい女性の手。
そうであるはずなのに、拳を止めた手の平からは、今の私を遥かに超える力が伝わってくる。
私は、まるで時が止まったかのような空間の中で、赤黒く汚れた銀眼を右に振った。
瞳の片隅にひらりと白い服が舞う。
それは清楚なワンピースの切れ端。
瞳は、ゆっくりと上へ向かう。
長く艶やかな黒髪。その上には深く被った麦藁帽子。
この姿、見覚えがある…………そうだ、トーワの海岸に現れた亡霊。
女の亡霊はそのお淑やかな佇まいから想像もできぬ口汚い言葉で私を罵る。
「ったく、この程度の力に呑まれやがってよ。この糞ヘタレ野郎。てめぇはそれでも……チッ、余計なエネルギーを使っちまったぜ、フンッ」
「ウグッ!」
白いワンピースの女性は、私の拳をヒビに包み砕かんとする力で強く握り締めた。
その痛みに、私は自我を取り戻す。
「っ! はぁはぁはぁはぁ、彼女は?」
すぐに視線を右にやるが、誰もいない……。
「幻? いや、違うな」
右手には、はっきりと痛みが残っている。変貌した私を超える絶大な力が感触として残っている。
「何者かわからないが暴走を止めてもらったのか――いつっ、反動で体の節々が痛むな。だが、さほどでもない。しかし、心の方は……まったく、何が自害するだ。そんな暇もなく、あっという間に力に飲み込まれてしまった。情けない」
私は銀の色を取り戻した瞳を仲間たちに振った。
「すまない、みんな。驚かせて」
「ケント、よね?」
「ケント様、大丈夫ですか?」
「旦那、今のは一体?」
「ケントさん、右手が元にっ」
「ギウ……」
「全ては落ち着いてから説明する。その前に、彼を送ってやらないとな」
私は正面へ向き直り、銀眼にサレートの姿を映した。
彼は口から涎を垂れ流しながら、効力を失った魔法の絵筆をがむしゃらに振り、言葉を羅列する。
「すばらしいぉぃぃぃ。アーガメイト様はこれほどのものを作り上げていたんだぁあ。僕ごときでは届かない! 届くはずがない。あははは、これが凡人と天才のさかぁぁ。うひひいひひははははは! 彼に世界の中心も広がりもない!! 全てを包み飲み込んでしまう才能。あはあはっはあは……うわぁぁあぁ、来るな来るな来るなぁぁぁ!!」
サレート=ケイキは……別の世界の住人となってしまったようだ。
私は右手を上げて親父を呼ぶ。
「親父」
「はい」
彼はすぐに私の動作の意味を悟り、剣の一つを投げ渡す。
剣を受け取り、鞘から抜いて、そのまま流れるようにサレートの首を刺した。
「がっ」
彼の小さな呻き声と共に、ぷつりとした音と感触が剣先から指先に伝わる。
スッと、剣を引き抜く。
彼は傷口を両手で押さえもだえ始めた。
刃は即座に死ねるほど深く刺してはいない。
気管のみを貫いた。
そこから血が肺へと流れ込み、彼は陸の上でありながら、己の血に溺れている。
私は剣を親父へ投げ返し、フィナのもとへ近づきつつ、声を産む。
「お前が行った罪は重い。命を弄ぶなど言語道断。盗賊だけではなく、ここに至るまで多くの死体の山を築き上げているのだろう。そして、エクアを連れ去ったのち、彼女もまた同様な目に遭ったであろう」
フィナの前に立ち、彼女に言葉を掛けることなく、帯へ手を伸ばす。
「だがすでに、罰を与えられる対象ではない。しかし、私の心に蠢く怒りがお前を許すなと訴える。仲間を傷つけたお前を決して許すなと訴える。だから、私個人の憎しみが罰を与える」
伸びた手は、帯から赤色の試験管型属性爆弾を引き抜く。
「サレートよ、もはや言葉など届かぬだろうが、それでも伝えておこう。拷問以外で人が最も苦しむ死とは、溺死と焼死だそうだ。だから……」
私は僅かに残っていた勇者の力を起爆用の魔力として赤色の試験管へ注ぎ、それをサレートへ放り投げた。
「その二つの苦しみを身をもって味わい、罰として受け止めよ」
試験管はサレートの前で割れて、彼を炎で包んだ。
サレートは皮膚の焼ける痛みにのたうち回り、肺を埋める血の苦しさに悶える。
「ぐぼぼぼぼあぁかかかいぁえひひひひひひひひあぁかがぁかぁぐぐほぼぼっぼ、が、ががが、あああああ、う、あ、あ、ううあ、あ……………………」
呻き声は消え去り、静寂が辺りを満たす。
静けさがゆっくりと私の猛りを落ち着きへと導いていく。
そこで初めて、エクアの存在に意識が向いた。
私は彼女に目を合わせることなく、フィナに声を掛ける。
「フィナ、しばらくエクアのそばにいてやってくれ。私たちは少し用事があるのでな」
「え……あ、うん。わかった。エクア、ちょっと離れてましょ」
「…………はい……」
エクアは虚ろな瞳を見せて、フィナに手を引かれるがままに森へと姿を消した。
残るのは、結界の効力が消えて自由となったギウに親父とカイン。
彼らに声を掛ける。
「城に戻り次第、多くを話す。だが、その前に、この者らを埋葬してやらねば。罪を犯した盗賊とはいえ、彼らは過ぎる罰を受けた。だから、墓くらいは用意してやろう」
「あ、あの旦那。サレートの遺体は?」
「サレートか……遺体に罪はない。彼も埋葬してやろう」
瞳に光が入る。
次に飛び込んでくるのは二つの肉塊と化した盗賊たち。
私は銀眼から流れ込んでくる力に、咆哮を以って応えた。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおぉおおお!!」
肉体から溢れ出す力。
力は波動となって、二つの肉塊を遥か後方へ吹き飛ばした。
私は己の右手を見つめる。
失った右手首は光に包まれ、指先が戻ってくる。
指先を滑らかに折る。
そこからは赤黒い粒子が放たれていた。
いや、指先だけではない。
身体の全身から赤黒い粒子が湧き立ち、銀眼からは赤と黒の光が漏れ出して、口元は力に対する歓喜に震え立つ。
「あは、はははは、あははははは! 素晴らしいっ。これが勇者の力! レイやアイリたちに宿る力……体中のレスターが活性化して、溢れ出してくる。いや、それだけではない! 世界に揺蕩うレスターもわたしのちからとなっているぞおぉぉ! されぇぇぇとぉぉぉ!」
言葉は力に包まれ、私は酔いに交わり酔いに溺れる。
仲間たちは私の変わりように驚きと怯えを纏っているが、説明など不要!
私は、目の前にいる男を、殺したくて殺したくてしょうがないんだぁぁぁあぁ!
「がぁぁあぁぁぁぁ!」
私はテロールと呼ばれたうすのろの懐に飛び込み、軽く体を撫でてやった。
たったそれだけのことで彼女の体は空へ吹き飛び、肉塊は肉片となって降り注いでくる。
「なんだなんだっ、そのもろさはぁぁあぁ!」
肉片が地上に落ちるよりも早く、私はゆらりと体を動かした。
そんなちっぽけな動きで、二十を超える肉塊に魔法の絵筆から呼び出された異形たちは飛び散り消えた。
「熱い、あつい、アツイ、ぜんぜんぜんぜんぜんぜん、まったく足らない……」
降り注ぐ肉体は腐れた血と臓腑と共に火照った私の体に降り注ぐが、まったくといって火照りを消し去ってくれない。
「あははははは、このような取るに足らぬ存在に私は怯えていたのか? 悔しさに吠えていたのか? 馬鹿馬鹿しい。馬鹿馬鹿しい? 馬鹿馬鹿しい、だと? 何がだ?」
視界が黒く歪んでいく。
視界の切れ端には仲間がいた。
ギウが血塗れになりながらも結界を破ろうとした。
フィナが全てを賭けて戦った。
親父が命懸けでエクアを救ってくれた。
カインが私の右手を治療しようとしてくれた。
エクアが己を投げ打ち、私を救おうとしてくれた。
だけど、その尊い思いが掻き消えていく。
何故だ? 誰が悪い?
そうだ、この大切なものを奪おうとした奴がいる。
誰だ? 誰だっ? 誰だ!?
「されぇえっぇっぇぇとけぇぇえぇおえきいいい!」
私は黒と赤に浸食された銀眼を男へ向けた。
男は手に何かを持って振るっている。
そこから無数の脆弱な何かを飛ばしているが、私がそっと撫でるだけで、全ては塵に消える。
それでも男は、悲鳴を上げながら何かを振るい続ける。
実に滑稽な姿だ。
だけど、タリナイ。
こいつは、わわわたしから、たたたいせつなななものををを、うばをうとした。
身体に流れる力が、こいつを殺せと言っている。
一度は失った右拳に赤黒い力が螺旋を描き宿った。
「はぁはぁはぁはぁ、何たる高揚感。ああ、力が私を包む。心地良い。この力で、仲間を取り返す。あれを殺せば、どれだけ、どれほどまでに……」
――気持ち良いのだろうか?――
「あははははは、殺す殺す殺す。お前を殺せば、わたしははさいこうにきもちよくなれるぞぉぁぁぁぁ!!」
私はひたすらに棒切れを振り続ける、卑小な存在に飛び掛かった。
誰かの声たちが聞こえる。
「ケント、駄目よ!」
「ケント様! 正気に戻って!」
「旦那、そいつはやべぇ。やべぇ気がする!」
「ケントさん、抑えてください!」
うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!
わたしはなかまをたすけ、このおとこを殺し、最高の快楽を得るんだっ!
拳を握り締め、哀れな存在を殴りつけようとする。
…………わかっている。これを行えば、僅かに残った私は消え去るだろう。
だが、止められない。ちがう! 止めたくないんだ。
だって、だって、だって、サレート=ケイキを殺せば、最高に気持ちよくなれることをわかっているから!!
「肉片となり塵ニ消えロ、サレート……」
「ひぃぃいぃ、くるなぁぁ!」
拳はサレートへ向かう。
そこに大切な友人の声が聞こえた。
「ギウッ!」
しかし、止まらない。止めてたまるものか。
ああ、友人の声は私の拳を止めようとしたのか?
何故止めようとするのか?
こんなに素晴らしい思いをどうして君は止めるんだ、ギウ?
私は、こいつを殺して、みんなを、最高に気持ちよくさせてやるからさ!
「アハハハハハハハ!」
――拳は振り切られた。
「っ!?」
――だがっ、その拳を何者かが手の平で受け止めた。
その手は、とても細く美しい女性の手。
そうであるはずなのに、拳を止めた手の平からは、今の私を遥かに超える力が伝わってくる。
私は、まるで時が止まったかのような空間の中で、赤黒く汚れた銀眼を右に振った。
瞳の片隅にひらりと白い服が舞う。
それは清楚なワンピースの切れ端。
瞳は、ゆっくりと上へ向かう。
長く艶やかな黒髪。その上には深く被った麦藁帽子。
この姿、見覚えがある…………そうだ、トーワの海岸に現れた亡霊。
女の亡霊はそのお淑やかな佇まいから想像もできぬ口汚い言葉で私を罵る。
「ったく、この程度の力に呑まれやがってよ。この糞ヘタレ野郎。てめぇはそれでも……チッ、余計なエネルギーを使っちまったぜ、フンッ」
「ウグッ!」
白いワンピースの女性は、私の拳をヒビに包み砕かんとする力で強く握り締めた。
その痛みに、私は自我を取り戻す。
「っ! はぁはぁはぁはぁ、彼女は?」
すぐに視線を右にやるが、誰もいない……。
「幻? いや、違うな」
右手には、はっきりと痛みが残っている。変貌した私を超える絶大な力が感触として残っている。
「何者かわからないが暴走を止めてもらったのか――いつっ、反動で体の節々が痛むな。だが、さほどでもない。しかし、心の方は……まったく、何が自害するだ。そんな暇もなく、あっという間に力に飲み込まれてしまった。情けない」
私は銀の色を取り戻した瞳を仲間たちに振った。
「すまない、みんな。驚かせて」
「ケント、よね?」
「ケント様、大丈夫ですか?」
「旦那、今のは一体?」
「ケントさん、右手が元にっ」
「ギウ……」
「全ては落ち着いてから説明する。その前に、彼を送ってやらないとな」
私は正面へ向き直り、銀眼にサレートの姿を映した。
彼は口から涎を垂れ流しながら、効力を失った魔法の絵筆をがむしゃらに振り、言葉を羅列する。
「すばらしいぉぃぃぃ。アーガメイト様はこれほどのものを作り上げていたんだぁあ。僕ごときでは届かない! 届くはずがない。あははは、これが凡人と天才のさかぁぁ。うひひいひひははははは! 彼に世界の中心も広がりもない!! 全てを包み飲み込んでしまう才能。あはあはっはあは……うわぁぁあぁ、来るな来るな来るなぁぁぁ!!」
サレート=ケイキは……別の世界の住人となってしまったようだ。
私は右手を上げて親父を呼ぶ。
「親父」
「はい」
彼はすぐに私の動作の意味を悟り、剣の一つを投げ渡す。
剣を受け取り、鞘から抜いて、そのまま流れるようにサレートの首を刺した。
「がっ」
彼の小さな呻き声と共に、ぷつりとした音と感触が剣先から指先に伝わる。
スッと、剣を引き抜く。
彼は傷口を両手で押さえもだえ始めた。
刃は即座に死ねるほど深く刺してはいない。
気管のみを貫いた。
そこから血が肺へと流れ込み、彼は陸の上でありながら、己の血に溺れている。
私は剣を親父へ投げ返し、フィナのもとへ近づきつつ、声を産む。
「お前が行った罪は重い。命を弄ぶなど言語道断。盗賊だけではなく、ここに至るまで多くの死体の山を築き上げているのだろう。そして、エクアを連れ去ったのち、彼女もまた同様な目に遭ったであろう」
フィナの前に立ち、彼女に言葉を掛けることなく、帯へ手を伸ばす。
「だがすでに、罰を与えられる対象ではない。しかし、私の心に蠢く怒りがお前を許すなと訴える。仲間を傷つけたお前を決して許すなと訴える。だから、私個人の憎しみが罰を与える」
伸びた手は、帯から赤色の試験管型属性爆弾を引き抜く。
「サレートよ、もはや言葉など届かぬだろうが、それでも伝えておこう。拷問以外で人が最も苦しむ死とは、溺死と焼死だそうだ。だから……」
私は僅かに残っていた勇者の力を起爆用の魔力として赤色の試験管へ注ぎ、それをサレートへ放り投げた。
「その二つの苦しみを身をもって味わい、罰として受け止めよ」
試験管はサレートの前で割れて、彼を炎で包んだ。
サレートは皮膚の焼ける痛みにのたうち回り、肺を埋める血の苦しさに悶える。
「ぐぼぼぼぼあぁかかかいぁえひひひひひひひひあぁかがぁかぁぐぐほぼぼっぼ、が、ががが、あああああ、う、あ、あ、ううあ、あ……………………」
呻き声は消え去り、静寂が辺りを満たす。
静けさがゆっくりと私の猛りを落ち着きへと導いていく。
そこで初めて、エクアの存在に意識が向いた。
私は彼女に目を合わせることなく、フィナに声を掛ける。
「フィナ、しばらくエクアのそばにいてやってくれ。私たちは少し用事があるのでな」
「え……あ、うん。わかった。エクア、ちょっと離れてましょ」
「…………はい……」
エクアは虚ろな瞳を見せて、フィナに手を引かれるがままに森へと姿を消した。
残るのは、結界の効力が消えて自由となったギウに親父とカイン。
彼らに声を掛ける。
「城に戻り次第、多くを話す。だが、その前に、この者らを埋葬してやらねば。罪を犯した盗賊とはいえ、彼らは過ぎる罰を受けた。だから、墓くらいは用意してやろう」
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※ 書籍化に伴い、一部範囲のみの公開に切り替えられています。
※ 書籍化に伴う変更点については、近況ボードを確認ください。
生まれつき、一人一人に魔法属性が付与され、一定の年齢になると使うことができるようになる世界。
伝説の冒険者の息子、タイラー・ソリス(17歳)は、なぜか無属性。
勤勉で真面目な彼はなぜか報われておらず、魔法を使用することができなかった。
代わりに、父親から教わった戦術や、体術を駆使して、パーティーの中でも重要な役割を担っていたが…………。
リーダーからは無能だと疎まれ、パーティーを追放されてしまう。
ダンジョンの中、モンスターを前にして見捨てられたタイラー。ピンチに陥る中で、その血に流れる伝説の冒険者の能力がついに覚醒する。
タイラーは、全属性の魔法をつかいこなせる最強のオールラウンダーだったのだ! その能力のあまりの高さから、あらわれるのが、人より少し遅いだけだった。
タイラーは、その圧倒的な力で、危機を回避。
そこから敵を次々になぎ倒し、最強の冒険者への道を、駆け足で登り出す。
なにせ、初の強モンスターを倒した時点では、まだレベル1だったのだ。
レベルが上がれば最強無双することは約束されていた。
いつか彼は血をも超えていくーー。
さらには、天下一の美女たちに、これでもかと愛されまくることになり、モフモフにゃんにゃんの桃色デイズ。
一方、タイラーを追放したパーティーメンバーはというと。
彼を失ったことにより、チームは瓦解。元々大した力もないのに、タイラーのおかげで過大評価されていたパーティーリーダーは、どんどんと落ちぶれていく。
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