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第二十五章 故郷無き災いたち
古代人
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フィナはモニターに手を突っ込み、そこから手紙を取り出した。
そして、ハートのシールを剥がし、封を開けた。
すると途端に、書斎の風景が変わる。
何もない真っ白な部屋に、以前見た三人の古代人の一人が立っていた。
それは青のぴっちりとしたスーツに身を包み、金髪を主体に茶髪と黒髪が混ざり合う、コバルトブルーの瞳を持った男性。
何らかの口論で感情的になり老人を殺害した男性だ。
どうやら彼は父の映像とは違い意志のない完全な映像のようで、ただ正面を向いて語り始めた。
翻訳システムが直ったため、言語はスカルペル語。
彼の口調は背が高く筋肉質な男の割には軽い。
「百合がスカルペルの言語情報を消して、ついでとばかりに翻訳システムを破壊してしまったようだ。まぁ、あの状況下でスカルペルの皆さんにこの施設を操らせないようにするためには、それしかなかったんだろうけど。でも、翻訳システムが直ったようだね。こうして、僕のメッセージを君? 君たち? が、目にしている……してるよね?」
男は周囲をきょろきょろと見回して、伝言の受け取り手が存在するかどうか窺うような真似を見せた。
この態度にカインが軽い笑いを漏らす。
「あはは、どうやらこの方もバルドゥルと同じで古代人のようですが、あの男と違って親しみ深いですね」
「ははは、たしかに。だが、私たちの知る映像で彼は老人を殺害している。油断はできないぞ」
と、言葉に出したが、小動物のように辺りを見回してる男にそのようなことができる気配は今のところない。
男は怪しげな動きをやめて、咳払いを行い、改めて話を始めた。
「えへん……えっと、僕はプロジェクト創のメンバーで通信主任を任されている、ジュベル。この手紙には僕たちが何を為そうとして、どのような過ちを犯し、スカルペルの住民に迷惑をかけてしまったかを僕たちの日常と共に記してある」
ジュベルはパンっと軽く柏手を打つ。
その音の広がりに合わせて、真っ白な部屋の風景が変わる。
私たちはその風景に思わず、戦いの気配を纏った。
「これはっ!?」
風景はとても広々とした長方形の部屋。
床は白色で光沢がある。材質は石のような金属のようなと不明。
壁は濃い藍で金属のように見えるが、やはり素材はわからない。
天井は霞むほど高く、私たちの背後には出入口となる両開きの自動扉があった。
その部屋に、数百の古代人と思える者たちがいた。
彼らはこちらに目をくれることもなく取り留めのない雑談を行っている。
だが、その雑談の節々には熱が籠っているように感じた。
私は誰ともなしに言葉を漏らし、それをマフィンが受け取る。
「どうやら、私たちを認識していないようだ」
「そのようニャね。にゃけど、以前王都の窓から見た人間と違って、生気を感じるニャ。とても映像とは思えない、本物のような幻ニャ……」
「ああ、そうだな。とりあえず、彼らが私たちをどうこうするということはないようだ」
敵意がないとわかり、仲間たちは一様に武器から手を降ろす。
フィナは状況を瞳に宿しつつも、傍にモニターを浮かべて、そちらにも瞳を動かしている。
どんな不測の事態が起ころうと対応できるように、フィナはあちらこちらに警戒の根を張っているのだろう。
私もまた、警戒を心に残し、瞳を古代人たちへ振った。
「ふむ、彼らは……人間族に似た者たちばかりだな」
肌や髪や瞳の色に違いはあれど、全て人間族の姿そのもの。
彼らの世界には人間族以外存在しないのだろうか?
彼らのほとんどが白衣を纏い、警備と思われる者は黒の制服を着て出入り口付近に立っている。
その中で、青色のぴっちりしたスーツを纏うジュベルと、黒髪のショートヘアで、緑のスーツに黄金の蛇をあしらった白衣をコートのように着こなしている銀眼の女性が私たちのそばで会話を行っていた。
銀眼の女性は、以前見た古代人の一人だ。
「ついにこの日が来たね、百合」
「ああ~、そうだな。ふぁ~あ」
「なんで欠伸なんだよ? 君はこのプロジェクトの核となるメンバーの一人だろ。この宇宙史上初となる技術に一番感動しなきゃいけない立場なのに」
「あんまり興味ねんだよなぁ。技術職に移って、たまたま専門だったから採用されて、ここに居るだけだしよ」
百合と呼ばれた女性は欠伸を何度も繰り返し、見目の美しさと声の美しさに反してかなり下品な言葉遣いを使用している。
私にはこの言葉遣いと声に聞き覚えがあった。
「この声と口調……まさか、麦藁帽子を被ったワンピースの女性では?」
「ケント様? それって、トーワの幽霊さんでケント様の暴走を止めてくれた女性のことですか?」
「ああ、その通りだエクア。この声の質に聞き間違いなければ、この百合という女性がトーワの幽霊の正体だろう」
「でも、こちらの方はショートヘアですね。幽霊さんは長い髪だったと聞いてますから」
「まぁ、髪形は変わるものだからな」
このように私とエクアが会話を交わしていると、ジュベルと百合の会話に割り込む黒髪で黒い肌の女性が現れた。
それはフィナが強さを計ったときに映像として映し出された女性。
彼女は出入り口を守っている警備兵と同じ黒の制服を着用し、腰には桃色の毛団子のような動物らしき生命体をアクセサリーのようにぶら下げていた。
彼女は両手を上げ肩を竦めるようにして百合に声を掛けている。
「あんたって軍の出らしく、ホント、がさつだもんね」
「あん? アコスアか。なんだ、またボコボコにされに来たのかよ」
「わ~、相変わらず嫌味な奴」
「何が嫌味だ。てめぇも特殊部隊の端くれなら俺に一発くらい入れてみろよ」
「最強の称号を持つ惑星破壊女がそれを言う?」
「わけのわからねぇ称号つけんじゃねぇよ。それによ、最強っつたって、あん? どうやら、バルドゥル所長のお出ましらしいぞ。長々と待たせやがって」
私たちは百合が口にしたバルドゥルという言葉に強い反応を示す。
「バ、バルドゥルだと?」
「だ、旦那。天井から誰かが降りてきますぜ!」
とても高い天井から光の円盤に乗った老人が降りてきた。
円盤は古代人たちの背丈ほどの高さでとどまり、老人は彼らを見下ろすようにして声を生む。
「ククク、ようやくだ。ようやく、この日がやってきた。時間の無駄だと思うが、記念の日くらい一同を集め、会話を為すのも悪くはない」
円盤の上で会話を行う老人。
その姿は私たちの知るバルドゥルとは全くの別人だった。
さらに、この老人には見覚えがあった。
それは初めて遺跡に訪れ、フィナが呼びだした三人の古代人の会話――そこで高らかに何かを語り、ジュベルによって殺害された痩せ型で白髪を伴う老人。
黄金の蛇の模様が施された白衣を纏う、あの古代人であった。
「あの老人がバルドゥルだと?」
この疑問をマスティフが受け止め答えを返す。
「先ほども少し触れたが、あの男は身体の試運転と言っていた。もしかしたら、何らかの技術を使い若返ったのではないか?」
「そうか、あれはクローン。複製技術を使い、青年として姿を表したんだ」
「おそらくそうだろうな。さてさて、スカルペル人を滅ぼし、世界を奪おうとした男は何を語るのか?」
老人は人差し指と中指を揃え、奥に広がる壁に振った。
すると、壁は揺らぎ、大小様々な無数の光球が現れた。
それらは歪な光の線で繋がっている。
見た目は蜘蛛の巣……いや、神経細胞のモデル? それとも、星々の繋がり?
私たちは奇妙な光の集団を目にして、懐かしいような恐ろしいような不可思議な感覚に包まれる。
それは己自身を完全否定されると同時に完全肯定されているという、何とも形容しがたい感覚。
老人のバルドゥルは静かに言葉を漏らす。
「これは数多の生命体が存在を知りながらも、その強大な力に恐れを抱き、手に触れようとしなかった力。かつての我々もそうだった。だが、知識を前にして恐れに屈服し、地に額を擦りつけるなど知性ある生命体である以上、絶対に行ってはならぬもの……」
彼は光の集団を撫でるような仕草を見せて、それを身の内に取り込むように胸に当てた。
「そう、我々は恐れに立ち向かい、ついに至った。全てを矛盾なく世界を『そうだ』と書き換える力を手にした。もはや、地に潜み、監視の目に怯える必要もない。裏切り者たちに無き存在のように扱われることもない」
胸から手を放し、両手を大きく上げて、言葉の抑揚もまた高らかに上げていく。
「かつての我々は宇宙を自由に飛び回り、神と崇められた存在をも屈服させた。しかし、ソンブレロ銀河での大戦で『連邦』に敗れ、多くを失ったっ。さらには、同胞でありながら独立を謳う裏切り者が現れた! そのため、我々は宇宙の表舞台から姿を消した……しかし!」
掲げていた両手を振り下ろし、胸の前で強く握り締める。
「我々は裏切り者の目をすり抜け、最強と呼べる力と知恵を手に入れた! もはや、強大なる『連邦』など何するものぞ! 宇宙の覇者を名乗る裏切り者の『火星』など敵ではない! そう、再び我々が宇宙を支配する! 我々、『地球人』が!」
そして、ハートのシールを剥がし、封を開けた。
すると途端に、書斎の風景が変わる。
何もない真っ白な部屋に、以前見た三人の古代人の一人が立っていた。
それは青のぴっちりとしたスーツに身を包み、金髪を主体に茶髪と黒髪が混ざり合う、コバルトブルーの瞳を持った男性。
何らかの口論で感情的になり老人を殺害した男性だ。
どうやら彼は父の映像とは違い意志のない完全な映像のようで、ただ正面を向いて語り始めた。
翻訳システムが直ったため、言語はスカルペル語。
彼の口調は背が高く筋肉質な男の割には軽い。
「百合がスカルペルの言語情報を消して、ついでとばかりに翻訳システムを破壊してしまったようだ。まぁ、あの状況下でスカルペルの皆さんにこの施設を操らせないようにするためには、それしかなかったんだろうけど。でも、翻訳システムが直ったようだね。こうして、僕のメッセージを君? 君たち? が、目にしている……してるよね?」
男は周囲をきょろきょろと見回して、伝言の受け取り手が存在するかどうか窺うような真似を見せた。
この態度にカインが軽い笑いを漏らす。
「あはは、どうやらこの方もバルドゥルと同じで古代人のようですが、あの男と違って親しみ深いですね」
「ははは、たしかに。だが、私たちの知る映像で彼は老人を殺害している。油断はできないぞ」
と、言葉に出したが、小動物のように辺りを見回してる男にそのようなことができる気配は今のところない。
男は怪しげな動きをやめて、咳払いを行い、改めて話を始めた。
「えへん……えっと、僕はプロジェクト創のメンバーで通信主任を任されている、ジュベル。この手紙には僕たちが何を為そうとして、どのような過ちを犯し、スカルペルの住民に迷惑をかけてしまったかを僕たちの日常と共に記してある」
ジュベルはパンっと軽く柏手を打つ。
その音の広がりに合わせて、真っ白な部屋の風景が変わる。
私たちはその風景に思わず、戦いの気配を纏った。
「これはっ!?」
風景はとても広々とした長方形の部屋。
床は白色で光沢がある。材質は石のような金属のようなと不明。
壁は濃い藍で金属のように見えるが、やはり素材はわからない。
天井は霞むほど高く、私たちの背後には出入口となる両開きの自動扉があった。
その部屋に、数百の古代人と思える者たちがいた。
彼らはこちらに目をくれることもなく取り留めのない雑談を行っている。
だが、その雑談の節々には熱が籠っているように感じた。
私は誰ともなしに言葉を漏らし、それをマフィンが受け取る。
「どうやら、私たちを認識していないようだ」
「そのようニャね。にゃけど、以前王都の窓から見た人間と違って、生気を感じるニャ。とても映像とは思えない、本物のような幻ニャ……」
「ああ、そうだな。とりあえず、彼らが私たちをどうこうするということはないようだ」
敵意がないとわかり、仲間たちは一様に武器から手を降ろす。
フィナは状況を瞳に宿しつつも、傍にモニターを浮かべて、そちらにも瞳を動かしている。
どんな不測の事態が起ころうと対応できるように、フィナはあちらこちらに警戒の根を張っているのだろう。
私もまた、警戒を心に残し、瞳を古代人たちへ振った。
「ふむ、彼らは……人間族に似た者たちばかりだな」
肌や髪や瞳の色に違いはあれど、全て人間族の姿そのもの。
彼らの世界には人間族以外存在しないのだろうか?
彼らのほとんどが白衣を纏い、警備と思われる者は黒の制服を着て出入り口付近に立っている。
その中で、青色のぴっちりしたスーツを纏うジュベルと、黒髪のショートヘアで、緑のスーツに黄金の蛇をあしらった白衣をコートのように着こなしている銀眼の女性が私たちのそばで会話を行っていた。
銀眼の女性は、以前見た古代人の一人だ。
「ついにこの日が来たね、百合」
「ああ~、そうだな。ふぁ~あ」
「なんで欠伸なんだよ? 君はこのプロジェクトの核となるメンバーの一人だろ。この宇宙史上初となる技術に一番感動しなきゃいけない立場なのに」
「あんまり興味ねんだよなぁ。技術職に移って、たまたま専門だったから採用されて、ここに居るだけだしよ」
百合と呼ばれた女性は欠伸を何度も繰り返し、見目の美しさと声の美しさに反してかなり下品な言葉遣いを使用している。
私にはこの言葉遣いと声に聞き覚えがあった。
「この声と口調……まさか、麦藁帽子を被ったワンピースの女性では?」
「ケント様? それって、トーワの幽霊さんでケント様の暴走を止めてくれた女性のことですか?」
「ああ、その通りだエクア。この声の質に聞き間違いなければ、この百合という女性がトーワの幽霊の正体だろう」
「でも、こちらの方はショートヘアですね。幽霊さんは長い髪だったと聞いてますから」
「まぁ、髪形は変わるものだからな」
このように私とエクアが会話を交わしていると、ジュベルと百合の会話に割り込む黒髪で黒い肌の女性が現れた。
それはフィナが強さを計ったときに映像として映し出された女性。
彼女は出入り口を守っている警備兵と同じ黒の制服を着用し、腰には桃色の毛団子のような動物らしき生命体をアクセサリーのようにぶら下げていた。
彼女は両手を上げ肩を竦めるようにして百合に声を掛けている。
「あんたって軍の出らしく、ホント、がさつだもんね」
「あん? アコスアか。なんだ、またボコボコにされに来たのかよ」
「わ~、相変わらず嫌味な奴」
「何が嫌味だ。てめぇも特殊部隊の端くれなら俺に一発くらい入れてみろよ」
「最強の称号を持つ惑星破壊女がそれを言う?」
「わけのわからねぇ称号つけんじゃねぇよ。それによ、最強っつたって、あん? どうやら、バルドゥル所長のお出ましらしいぞ。長々と待たせやがって」
私たちは百合が口にしたバルドゥルという言葉に強い反応を示す。
「バ、バルドゥルだと?」
「だ、旦那。天井から誰かが降りてきますぜ!」
とても高い天井から光の円盤に乗った老人が降りてきた。
円盤は古代人たちの背丈ほどの高さでとどまり、老人は彼らを見下ろすようにして声を生む。
「ククク、ようやくだ。ようやく、この日がやってきた。時間の無駄だと思うが、記念の日くらい一同を集め、会話を為すのも悪くはない」
円盤の上で会話を行う老人。
その姿は私たちの知るバルドゥルとは全くの別人だった。
さらに、この老人には見覚えがあった。
それは初めて遺跡に訪れ、フィナが呼びだした三人の古代人の会話――そこで高らかに何かを語り、ジュベルによって殺害された痩せ型で白髪を伴う老人。
黄金の蛇の模様が施された白衣を纏う、あの古代人であった。
「あの老人がバルドゥルだと?」
この疑問をマスティフが受け止め答えを返す。
「先ほども少し触れたが、あの男は身体の試運転と言っていた。もしかしたら、何らかの技術を使い若返ったのではないか?」
「そうか、あれはクローン。複製技術を使い、青年として姿を表したんだ」
「おそらくそうだろうな。さてさて、スカルペル人を滅ぼし、世界を奪おうとした男は何を語るのか?」
老人は人差し指と中指を揃え、奥に広がる壁に振った。
すると、壁は揺らぎ、大小様々な無数の光球が現れた。
それらは歪な光の線で繋がっている。
見た目は蜘蛛の巣……いや、神経細胞のモデル? それとも、星々の繋がり?
私たちは奇妙な光の集団を目にして、懐かしいような恐ろしいような不可思議な感覚に包まれる。
それは己自身を完全否定されると同時に完全肯定されているという、何とも形容しがたい感覚。
老人のバルドゥルは静かに言葉を漏らす。
「これは数多の生命体が存在を知りながらも、その強大な力に恐れを抱き、手に触れようとしなかった力。かつての我々もそうだった。だが、知識を前にして恐れに屈服し、地に額を擦りつけるなど知性ある生命体である以上、絶対に行ってはならぬもの……」
彼は光の集団を撫でるような仕草を見せて、それを身の内に取り込むように胸に当てた。
「そう、我々は恐れに立ち向かい、ついに至った。全てを矛盾なく世界を『そうだ』と書き換える力を手にした。もはや、地に潜み、監視の目に怯える必要もない。裏切り者たちに無き存在のように扱われることもない」
胸から手を放し、両手を大きく上げて、言葉の抑揚もまた高らかに上げていく。
「かつての我々は宇宙を自由に飛び回り、神と崇められた存在をも屈服させた。しかし、ソンブレロ銀河での大戦で『連邦』に敗れ、多くを失ったっ。さらには、同胞でありながら独立を謳う裏切り者が現れた! そのため、我々は宇宙の表舞台から姿を消した……しかし!」
掲げていた両手を振り下ろし、胸の前で強く握り締める。
「我々は裏切り者の目をすり抜け、最強と呼べる力と知恵を手に入れた! もはや、強大なる『連邦』など何するものぞ! 宇宙の覇者を名乗る裏切り者の『火星』など敵ではない! そう、再び我々が宇宙を支配する! 我々、『地球人』が!」
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