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第二十八章 救いの風~スカルペルはスカルペルに~
奇跡とは、心と想いが呼び寄せるもの
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百合さんの名を聞いて、私は詰まりながらも復唱し、気づく。
「はどり、ゆり? はどり? はどりっ? まさかハドリー!?」
「ああ、そういうこった。んで、アステに渡した触媒は俺の体細胞だ」
「え!? 父さん、本当に?」
父へ顔を向ける。
父は彼女の言葉にこう付け加える。
「百合の体細胞を触媒とし、ホムンクルスの細胞の安定と大気中の滅びのナノマシンから肉体を守るためにスカルペル人の特性を付加した。スカルペル人の特性の素になったのは、私の体細胞だ」
「え?」
「お前という存在は、銀眼にナノマシンを宿し、肉体はスカルペル人と地球人の二つの特性を持つ存在。それは私と百合のな」
「そ、それでは、お二人は、わたしの本当の父さんとかあさ――」
「やめろ、やめてくれっ」
声を上げたのは百合さん。
彼女は激しく全身を動かすジェスチャーを交えながら声を張り上げる。
「いいか! 俺は元々、俺だけで何とかするつもりだった。だから俺のDNAを触媒にした。見方によっては分身であるお前を犠牲にするつもりでな」
「ですが、実際は分身とは……」
「ああ、ガチの分身なら俺が蒔いた自滅のナノマシンが俺の分身の存在を良しとしない。だから、しゃーなくアステに頼ったわけだ。だからって、お前が俺の、その、なんだ」
「かあさ――」
「そうじゃない! とにかくだっ。俺のDNAは基本銀眼のみで、身体はアステのものがほとんどだ。それにな、俺はそんな柄じゃねぇし。お前のことは嫌いじゃないが、いまさら母親面なんてできるような立場じゃねぇし」
「ですがっ」
「俺はアステと違って親らしいことは何もしちゃいねぇ。それどころか、てめぇを道具のように扱っていた、最低な女だ」
「それはバルドゥルに対抗して世界をすく――」
「肯定するな! そんな立派なもんじゃねぇんだって俺はっ」
彼女は頬を赤く染めて、プイっと横を向く。
これ以上、私が何も口にしないことを願っているようだが、私は感情に押されて止めることができない。
「私が銀眼なのはあなたの血を引く象徴として、父さんが。そうかっ、百合さんが私に決断を託したのは、中立に位置する人工生命体だからじゃないっ! 未来を託す相手は我が子である私にとっ」
「だからやめろって。そんなんじゃねえよっ。それだと俺が親馬鹿みてぇじゃねぇか! これは全部、俺の勝手だ! 俺はな、無関係なスカルペル人を犠牲にしたくないから、お前を作った。言わば、生贄みたいなもんだぞ」
「たとえそうであったとしても、あなたは私にとって!」
「あ~、もう! 感情をぶつける相手が違うだろ! いいか……その感情は俺じゃなくて、お前のことを心の底から大切にしてくれたこの子に渡してやってくれ」
百合さんは、そっとギウの銀色のボディに手を置いた。
そして、こう言葉を繋げる。
「この子は俺の分身だが、自我が芽生えた。俺なんかよりも優しくて清廉な心を持った存在にな。俺はそんなこの子をトーワに束縛していた。この子は千年のほとんどの時間を一人で過ごしていた。そこにてめぇがやってきた。同じ俺の血を引き継ぐ奴がな」
「そうか、ギウは百合さんの分身。ギウッ!」
私はギウの両手を取り、彼の真っ黒真ん丸な瞳を見つめる。
「君が私に優しく接してくれて、何も言わずずっと居てくれたのは、君が私のっ」
「ギウギウ」
「え、親ではない?」
「ギウ、ギウギウ」
「君にとって私は、弟のような存在?」
「ギウギウ、ギウギウ、ギウ」
「だから、守ってあげないとと思った。大切な弟のために力を貸してあげたいと思った……ギウッ!」
私は彼の逞しい銀のボディを抱きしめた。
私の両手なんかでは決して包み込むことのできない体。
それでも必死に包み込もうと、彼を抱きしめる。
ギウは、初めて出会ったとき、私の銀の瞳を覗き込んだ。
あの時は疑問符の宿る声を上げて、次に深い音の宿る声を漏らしていた。
私は銀眼が珍しくて驚いたのかと思っていたが、そうじゃなかった!
ずっと一人で過ごしてきた彼は、銀の瞳から私が弟だと知り、弟を守る誓いを声に秘めたんだ!
そして、不甲斐ない弟のために釣りを教えてくれて、美味しい料理を振舞ってくれて、住む場所を作る手伝いをしてくれて、私のために血だらけになっても戦ってくれた!
「ギウ、ありがとう。今まで気づけなくて、ごめんな」
「ギウ」
彼は優しく、私の頭を撫でた。
これは友へ見せる優しさではなくて、弟に見せる優しさ……。
――私は、トーワに訪れて、一人だった。
いや、人工生命体という存在で、世界で一人きりだとずっと思っていた。
だが、違った。
トーワの海岸でギウと出会い、彼は私をっ、弟を守るためにずっと寄り添ってくれていたんだ!
「ぐすっ、ありがとう、ギウ。ずっと見守ってくれて、ありがとう……」
私は彼のひんやりとした体に顔を押し付けて、いつまでも涙を流し続けた。
テラに響く嗚咽としゃくり声。
その響きもやがては間隔が広がり、ゆっくりと音を静めていく。
彼から顔を離し、何度か両手で顔と瞳を拭いて、もう一度、ギウへ礼を言う。
「ギウ、ありがとう」
「ギウ」
私は辺りを見回し、みんなに声を掛ける。
「はは、恥ずかしいところを見られたな。これからは気をつけないと。そうだ、これからは私がギウのそばに寄り添い、君と共にずっと過ごしていくからな」
そう伝えると、ギウは無言で小さく体を横に振った。
「どうしたんだ、ギウ?」
私は疑問を纏う言葉を投げかける。
しかし、投げ返してきたのはギウではなく、父さん。
「ケント、奇跡というものは何かわかるか?」
「はぁ? 起こりえない出来事や、不思議な現象のことでしょうか? もしくは神の力によって起きる現象など」
「そうだな。辞書にはそう載っているだろう。だが、私の考えは違う。奇跡とは、人の思いと心の力で呼び寄せるもの。そして、引き起こすものだと思っている」
父の体が淡い輝きに包まれる。
いや、父だけではない。
セアやレイやアイリ。ジュベルやアコスア。そして百合さんにギウまでも。
私以外のみんなが、淡い輝きを纏う。
「父さん? みんな?」
「ケントよ。お前には、お前を待っている友がいるだろう」
「えっ?」
「フフ、ここには私や勇者や地球人の末裔に古代人と呼ばれた地球人に、お前に深い愛情を注いでいるギウがいる。これほどの者たちの想いが揃い、奇跡の一つや二つ起こせぬと思うか?」
「ま、まさかっ!?」
輝きが視界を焦がすほどに強くなる。
だが、私はしっかりとみんなを瞳に宿し、父の声を受け取り続ける。
「残念ながら、この奇跡を以ってしても、銀眼に集約されたナノマシンの影響は大きい。しばらくは苦労すると思うが、それはお前の大切な友であるフィナとカインが助けてくれるだろう」
「ええ、彼らは頼りになる仲間ですから!」
「ふふ、そうだな。お前がここに来るのは少しばかり早い。もっと多くを経験し、それを土産話として、再び訪れるがよい」
全員の輝きが煌めきとなって、私の体を包み込み始める。
みんなは私に暖かな笑みを向けてくれる。
「みんな、ありがとう。再び、会える時のために、私は素晴らしい経験を積み、みんなのために多くの土産を持って帰ります……また、いつかっ!」
光の粒子が私を包み、浮遊感を与える。
粒子の一粒一粒に心が宿り、そこから溢れ出す優しさが、私に命を注ぎ込む。
力強く脈打つ心臓は手足の先まで熱を届け、口は命を吸い込み肺に新鮮な息吹を送る。
私は霞がかかる世界の向こうに、とても大切仲間たちの姿を見た。
手を掲げる。
とても小さな手が握り締めてくれる。
私は私を取り囲み、私の名を呼び続ける友たちへこう言葉を渡す。
「ただいま、みんな」
「はどり、ゆり? はどり? はどりっ? まさかハドリー!?」
「ああ、そういうこった。んで、アステに渡した触媒は俺の体細胞だ」
「え!? 父さん、本当に?」
父へ顔を向ける。
父は彼女の言葉にこう付け加える。
「百合の体細胞を触媒とし、ホムンクルスの細胞の安定と大気中の滅びのナノマシンから肉体を守るためにスカルペル人の特性を付加した。スカルペル人の特性の素になったのは、私の体細胞だ」
「え?」
「お前という存在は、銀眼にナノマシンを宿し、肉体はスカルペル人と地球人の二つの特性を持つ存在。それは私と百合のな」
「そ、それでは、お二人は、わたしの本当の父さんとかあさ――」
「やめろ、やめてくれっ」
声を上げたのは百合さん。
彼女は激しく全身を動かすジェスチャーを交えながら声を張り上げる。
「いいか! 俺は元々、俺だけで何とかするつもりだった。だから俺のDNAを触媒にした。見方によっては分身であるお前を犠牲にするつもりでな」
「ですが、実際は分身とは……」
「ああ、ガチの分身なら俺が蒔いた自滅のナノマシンが俺の分身の存在を良しとしない。だから、しゃーなくアステに頼ったわけだ。だからって、お前が俺の、その、なんだ」
「かあさ――」
「そうじゃない! とにかくだっ。俺のDNAは基本銀眼のみで、身体はアステのものがほとんどだ。それにな、俺はそんな柄じゃねぇし。お前のことは嫌いじゃないが、いまさら母親面なんてできるような立場じゃねぇし」
「ですがっ」
「俺はアステと違って親らしいことは何もしちゃいねぇ。それどころか、てめぇを道具のように扱っていた、最低な女だ」
「それはバルドゥルに対抗して世界をすく――」
「肯定するな! そんな立派なもんじゃねぇんだって俺はっ」
彼女は頬を赤く染めて、プイっと横を向く。
これ以上、私が何も口にしないことを願っているようだが、私は感情に押されて止めることができない。
「私が銀眼なのはあなたの血を引く象徴として、父さんが。そうかっ、百合さんが私に決断を託したのは、中立に位置する人工生命体だからじゃないっ! 未来を託す相手は我が子である私にとっ」
「だからやめろって。そんなんじゃねえよっ。それだと俺が親馬鹿みてぇじゃねぇか! これは全部、俺の勝手だ! 俺はな、無関係なスカルペル人を犠牲にしたくないから、お前を作った。言わば、生贄みたいなもんだぞ」
「たとえそうであったとしても、あなたは私にとって!」
「あ~、もう! 感情をぶつける相手が違うだろ! いいか……その感情は俺じゃなくて、お前のことを心の底から大切にしてくれたこの子に渡してやってくれ」
百合さんは、そっとギウの銀色のボディに手を置いた。
そして、こう言葉を繋げる。
「この子は俺の分身だが、自我が芽生えた。俺なんかよりも優しくて清廉な心を持った存在にな。俺はそんなこの子をトーワに束縛していた。この子は千年のほとんどの時間を一人で過ごしていた。そこにてめぇがやってきた。同じ俺の血を引き継ぐ奴がな」
「そうか、ギウは百合さんの分身。ギウッ!」
私はギウの両手を取り、彼の真っ黒真ん丸な瞳を見つめる。
「君が私に優しく接してくれて、何も言わずずっと居てくれたのは、君が私のっ」
「ギウギウ」
「え、親ではない?」
「ギウ、ギウギウ」
「君にとって私は、弟のような存在?」
「ギウギウ、ギウギウ、ギウ」
「だから、守ってあげないとと思った。大切な弟のために力を貸してあげたいと思った……ギウッ!」
私は彼の逞しい銀のボディを抱きしめた。
私の両手なんかでは決して包み込むことのできない体。
それでも必死に包み込もうと、彼を抱きしめる。
ギウは、初めて出会ったとき、私の銀の瞳を覗き込んだ。
あの時は疑問符の宿る声を上げて、次に深い音の宿る声を漏らしていた。
私は銀眼が珍しくて驚いたのかと思っていたが、そうじゃなかった!
ずっと一人で過ごしてきた彼は、銀の瞳から私が弟だと知り、弟を守る誓いを声に秘めたんだ!
そして、不甲斐ない弟のために釣りを教えてくれて、美味しい料理を振舞ってくれて、住む場所を作る手伝いをしてくれて、私のために血だらけになっても戦ってくれた!
「ギウ、ありがとう。今まで気づけなくて、ごめんな」
「ギウ」
彼は優しく、私の頭を撫でた。
これは友へ見せる優しさではなくて、弟に見せる優しさ……。
――私は、トーワに訪れて、一人だった。
いや、人工生命体という存在で、世界で一人きりだとずっと思っていた。
だが、違った。
トーワの海岸でギウと出会い、彼は私をっ、弟を守るためにずっと寄り添ってくれていたんだ!
「ぐすっ、ありがとう、ギウ。ずっと見守ってくれて、ありがとう……」
私は彼のひんやりとした体に顔を押し付けて、いつまでも涙を流し続けた。
テラに響く嗚咽としゃくり声。
その響きもやがては間隔が広がり、ゆっくりと音を静めていく。
彼から顔を離し、何度か両手で顔と瞳を拭いて、もう一度、ギウへ礼を言う。
「ギウ、ありがとう」
「ギウ」
私は辺りを見回し、みんなに声を掛ける。
「はは、恥ずかしいところを見られたな。これからは気をつけないと。そうだ、これからは私がギウのそばに寄り添い、君と共にずっと過ごしていくからな」
そう伝えると、ギウは無言で小さく体を横に振った。
「どうしたんだ、ギウ?」
私は疑問を纏う言葉を投げかける。
しかし、投げ返してきたのはギウではなく、父さん。
「ケント、奇跡というものは何かわかるか?」
「はぁ? 起こりえない出来事や、不思議な現象のことでしょうか? もしくは神の力によって起きる現象など」
「そうだな。辞書にはそう載っているだろう。だが、私の考えは違う。奇跡とは、人の思いと心の力で呼び寄せるもの。そして、引き起こすものだと思っている」
父の体が淡い輝きに包まれる。
いや、父だけではない。
セアやレイやアイリ。ジュベルやアコスア。そして百合さんにギウまでも。
私以外のみんなが、淡い輝きを纏う。
「父さん? みんな?」
「ケントよ。お前には、お前を待っている友がいるだろう」
「えっ?」
「フフ、ここには私や勇者や地球人の末裔に古代人と呼ばれた地球人に、お前に深い愛情を注いでいるギウがいる。これほどの者たちの想いが揃い、奇跡の一つや二つ起こせぬと思うか?」
「ま、まさかっ!?」
輝きが視界を焦がすほどに強くなる。
だが、私はしっかりとみんなを瞳に宿し、父の声を受け取り続ける。
「残念ながら、この奇跡を以ってしても、銀眼に集約されたナノマシンの影響は大きい。しばらくは苦労すると思うが、それはお前の大切な友であるフィナとカインが助けてくれるだろう」
「ええ、彼らは頼りになる仲間ですから!」
「ふふ、そうだな。お前がここに来るのは少しばかり早い。もっと多くを経験し、それを土産話として、再び訪れるがよい」
全員の輝きが煌めきとなって、私の体を包み込み始める。
みんなは私に暖かな笑みを向けてくれる。
「みんな、ありがとう。再び、会える時のために、私は素晴らしい経験を積み、みんなのために多くの土産を持って帰ります……また、いつかっ!」
光の粒子が私を包み、浮遊感を与える。
粒子の一粒一粒に心が宿り、そこから溢れ出す優しさが、私に命を注ぎ込む。
力強く脈打つ心臓は手足の先まで熱を届け、口は命を吸い込み肺に新鮮な息吹を送る。
私は霞がかかる世界の向こうに、とても大切仲間たちの姿を見た。
手を掲げる。
とても小さな手が握り締めてくれる。
私は私を取り囲み、私の名を呼び続ける友たちへこう言葉を渡す。
「ただいま、みんな」
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