353 / 359
番外編 最良だったはずの世界
番外編7 老剣士の意地と誇り
しおりを挟む
明日、フィナたちがアグリスへ総攻撃を仕掛ける。
その隙を窺い、ケントとミーニャがこっそりアグリスへ侵入し、バルドゥルを討つ。
そこへ至るまでの間に、ケントの世界のフィナがバルドゥルの隙を生むための何らかの方策を立てる。
という、大雑把な作戦
普通あればこのような作戦は作戦とも言えないが、ケントが信頼しているのはあの実践派テイローの長・フィナ=ス=テイロー。
幾たびの困難を乗り越えてきた知恵者。必ずや今回も、乗り越える方策を見出してくれる。
そう、ケントは深く心に感じていた。
だが、バルドゥルへ至るために立ちはだかるのは――レイア・オーキス・アステの三人。
この三人を乗り越えるのは至難の業であろう。
そこで彼はミーニャを頼る。
「申し訳ないがあなたを頼りとさせてもらう」
「にゃ~、仕方にゃいニャね。ま、今のミーニャは並みの魔法使い程度の力しか使えにゃいから介入したとして大した問題ではニャいけど。にゃけど、その分、頼りにもにゃらにゃいニャよ」
そう言って、ミーニャは真っ白な猫耳をピンと立てて微笑む。
彼女の紫色の瞳に浮かぶ光は、たしかな自信。
力は制限されていようと、並みの魔法使いなどと称せぬ力が彼女には宿っている。
ケントは薄く笑う。
「ふふ、頼もしいかぎりだ」
こうして二人はアグリス近郊まで近づき、フィナたちの総攻撃を待つ。
爆発音と怒声が響き渡る。
それを合図に、予め用意されていたアグリスへの侵入ルートへ突入する。
ルートは地下水路。水路を移動して、まずは調べ車の塔を目指す。
軟禁されているフィコンを救うために。
これはフィナによる要請。
ケントにとって最優先事項はバルドゥルを討つ事であり、フィコンの救出でない。
しかし、これを受けたことには理由がある。
調べ車の塔には魔導による転送装置が存在する。
それはアグリスの重要区画ともつながっている。
現在、バルドゥルがいるアグリス城にもだ。
この転送装置を使えば、一足飛びでバルドゥルの喉元へ刃を突き立てることが可能。
つまり、そこへ向かうために必要且つ安全な侵入ルートの情報の見返りとして、フィコンの救出を頼まれたわけだ。
彼は天井の低い薄暗い地下水路を少し屈み移動しながら言葉を漏らす。
「バルドゥル以外のことで口を出したくなかったが、そうはいかないか」
「そうニャね。物事はどっかに何かしらと繋がっているもんニャ」
「そうだな。ま、どのみち通り道。言い方は悪いが、ついでに救出という面もあるからな」
ここで彼は一度言葉を止めて、ミーニャへ視線を振る。
「作戦は君と私だけ。てっきり見張りくらい付くと思ったのだが」
「にゃふふふ、信頼されてるのかもしれにゃいニャ」
不敵な笑みを見せるミーニャ。
それにケントは首を横に振る。
「それはないだろう。いや、多少の期待はあるだろうが」
「おや、気づいているニャか」
「私も一応、一国を預かる者。これくらい気づくさ」
ミーニャとケントは交互にフィナの思惑を語る。
「ミーニャたちは一定の信頼を得ている。少なくとも裏切ることはニャいと」
「この作戦を任せる程度にはな。だからといって、全面的な信頼はできない」
「にゃから、ミーニャたちだけに作戦を任せた。フィナたちの戦力は戦争に投じるだけで手一杯。余計な戦力は回せニャい。というのもあるニャ」
「それでも一人二人くらいは回せるだろうが、こんな危険な任務に使いたくはない」
「というわけで、ミーニャとケントだけニャね。仮に失敗しても、失うのは他の世界からやってきた連中のみ、というわけニャ」
「彼らは私たちを警戒しつつも親しみを見せていたが……こちらのフィナは冷酷だな、フフフ」
「ここで笑うニャか?」
「これは私の知るフィナでは絶対に行おうとしない作戦。とても冷酷。だが、多少の親近感と感動を覚える」
「ケントはこういった決断を常に迫られる立場にゃんニャね」
「そのとおりだ」
「にゃけど、感動の意味がわからにゃいニャ?」
「私の知るフィナは口悪くも優しすぎるから。領主としては……」
「にゃるほど。この世界のフィナを見て、他者の上に立ち、それを行える一面が存在したことに感動したニャか」
「ああ……残酷だが、フィナには領主としての才能が眠っているようだ。これはなるべく早く、彼女を領主の座から引きずりおろした方がよさそうだな」
「にゃ?」
「ふふ、残酷な彼女は見たくない。という、私の我儘だ」
「勝手ニャね」
「王とはそういうものだ。それでも、フィナが領主に留まる覚悟を示すならば止めはしないが……それについてはゆっくり考えるか。そろそろ目的地へ着く」
ケントたちは天井が高く開けた地下水路の途中で立ち止まる。
そこでケントは懐から、この世界のフィナから預かった転送石を取り出した。
彼は天井を見上げる。
「この真上にアグリスの転送装置がある」
「ここまで近くに来れば、問題なくいけるニャね」
「ああ……その昔、アグリスでの騒動の際に彼女が転送装置を乗っ取った。と、言っていたが、ここでそれが役に立つとはな。この転送石を使えば、アグリスの転送装置をここから動かせる。行こう」
――調べ車の塔
転送石を起動――二人は塔内部へ侵入。
そしてすぐに、全身を警戒に包むが……。
「誰もいないようだな」
「外ではフィナたちが激しい戦いを続けてるから、兵士が全部駆り出されてるのかもニャ」
「それでも最低限の警備はいるだろう。なるべく目立つことなく移動しよう。だが、その前にミーニャ」
「わかってるニャ。この転送装置の機構を調べるニャ…………たしかに、アグリスの城と繋がってるみたいだニャ」
「で、使えるのか?」
「もちろんニャ。フィコンとやらを救出後、ここへ戻ってきて向かうとするニャ」
二人は狭く湾曲した通路を歩き、階段をいくつも昇り、フィコンが軟禁されているという部屋を目指す。
その途中、何度か警備兵と遭遇したが、その都度、威力を自在に操れるケントの銃を使い、彼らを気絶させて、目立たぬ部屋に隠していった。
――フィコンの部屋前
部屋の前――そこに立つエムト。
彼は年老い、くすんだ赤が混じる白髪と白髭に覆われている。
しかし、体躯は変わらず分厚き胸板と逞しき手足を持ち、そして老剣士には不似合いな大剣を所持していた。
黒の重装鎧に身を包むエムトは無言でフィコンが軟禁されている部屋を守っている。
その様子をこっそり窺っていたケントだが、エムトが廊下の奥へ言葉を向ける。
「ケントか?」
「っ?」
ケントは驚きつつも彼の前に出る。
「さすがですね。年老いても戦士としての冴えは衰えず」
「フン、世辞は無用……お前は別世界のケントだな」
「え? そうか、フィコンの遠見の黄金の瞳」
「そのとおりだ。フィコン様は今日という日を見つめていた」
彼はそう答え、背後の扉を開ける。
「フィコン様を救い出してくれ。唯一の出入口である転送装置はアステの管理下。我々ではこの塔から出ることが叶わぬからな」
ケントたちは部屋へ入る。
部屋には基本となる家財道具にベッド。
その部屋の中央で、フィコンは黄金の歯車模様の刺繍が施された純白のドレスに身を包み、こちらへ黄金の瞳を見せて微笑む。
その笑みと背格好は、ケントの知るフィコンのものよりも遥かに大人であり妖艶。
「来たか……長かった」
「どれほど待ちました?」
「五年……このフィコンの瞳に今日という日が訪れるのが映ったのは五年前」
「そうですか。ですが、感慨に耽る時間はありません。早速ですが――」
「わかっている。アグリス内にいるルヒネの信徒に呼びかけろと言うのだな」
「はい、内部からアグリスを攻めてもらいたい。これはフィナからの要請です」
「承知した」
ケントとミーニャはフィコンとエムトを連れて部屋の外へ出た。
するとそこに声が響く
「申し訳ありません。それをさせるわけにはまいりません」
ケントがよく知る人物の声。
彼は前を向く。
「オーキス……」
年老い、生気を失ったオーキスが彼らの前に立ちはだかる。
片手にはサーベル。
彼は光がぼやけた瞳でケントを見つめる。
「これは、ケント様? ですが、お若い」
「私は別世界から来た。君ならこれで十分理解できるだろう」
「そうですか。ですが、何者であろうと旦那様の脅威となる者は排除しなければなりません」
そう彼は唱え、ケントたちへサーベルを向ける。
ケントは軽く眉を折り、言葉を返す。
「オーキス。君はもう、八十を超えているだろう。どうだ、ここで引退してみては?」
「フフ、私はアステ様にお仕えする身。この身朽ち果てようと引退などあり得ません」
「いや、引退するべきだ。君は引退するべきだった」
「え?」
ケントは瞳に怒りを宿す。
そして、静かに言葉へ怒りを伝播する。
「父が暴走した時点で、なぜ君は止めなかった? それだけの器量を持ち合わせていたはずだ」
「それは……」
「主を諫められなくなった時点で、君は引退するべきだった」
「――っ! これは手厳しい。どうやら、別世界のケント様は私の知るケント様とは違うようで……ですが、時間は巻き戻せません!」
彼はサーベルに殺気を伝わせて、構える。
これに対して、エムトが大剣を抜き、前へ出る。
「ここは私に任せて、先に行け」
「エムト……わかった。だが、オーキスは手強いぞ」
「重々承知だ。出会ったばかりの頃、彼の剣気には畏敬の念を抱いたものだ。だが、信念を失った剣士など、私の敵ではない!」
エムトは老人とは思えぬ、力強い言葉を発する。
それを受けて、この場をエムトに預け、ケントたちは転送室へ向かう。
残された二人の老剣士は語る。
「オーキスよ。年老いたな。私が畏敬の念を抱いた剣士の見る影もない」
「ふふ、今日は厄日ですね。二度も手痛い言葉をぶつけられました……あなたは年老いてもなお、剣士としての技量を上げている。ですがっ! 私にも意地は残されている!」
「枯れる間際の意地か……よかろう! ならばその意地! 我が誇りが斬り伏せてくれよう!!」
その隙を窺い、ケントとミーニャがこっそりアグリスへ侵入し、バルドゥルを討つ。
そこへ至るまでの間に、ケントの世界のフィナがバルドゥルの隙を生むための何らかの方策を立てる。
という、大雑把な作戦
普通あればこのような作戦は作戦とも言えないが、ケントが信頼しているのはあの実践派テイローの長・フィナ=ス=テイロー。
幾たびの困難を乗り越えてきた知恵者。必ずや今回も、乗り越える方策を見出してくれる。
そう、ケントは深く心に感じていた。
だが、バルドゥルへ至るために立ちはだかるのは――レイア・オーキス・アステの三人。
この三人を乗り越えるのは至難の業であろう。
そこで彼はミーニャを頼る。
「申し訳ないがあなたを頼りとさせてもらう」
「にゃ~、仕方にゃいニャね。ま、今のミーニャは並みの魔法使い程度の力しか使えにゃいから介入したとして大した問題ではニャいけど。にゃけど、その分、頼りにもにゃらにゃいニャよ」
そう言って、ミーニャは真っ白な猫耳をピンと立てて微笑む。
彼女の紫色の瞳に浮かぶ光は、たしかな自信。
力は制限されていようと、並みの魔法使いなどと称せぬ力が彼女には宿っている。
ケントは薄く笑う。
「ふふ、頼もしいかぎりだ」
こうして二人はアグリス近郊まで近づき、フィナたちの総攻撃を待つ。
爆発音と怒声が響き渡る。
それを合図に、予め用意されていたアグリスへの侵入ルートへ突入する。
ルートは地下水路。水路を移動して、まずは調べ車の塔を目指す。
軟禁されているフィコンを救うために。
これはフィナによる要請。
ケントにとって最優先事項はバルドゥルを討つ事であり、フィコンの救出でない。
しかし、これを受けたことには理由がある。
調べ車の塔には魔導による転送装置が存在する。
それはアグリスの重要区画ともつながっている。
現在、バルドゥルがいるアグリス城にもだ。
この転送装置を使えば、一足飛びでバルドゥルの喉元へ刃を突き立てることが可能。
つまり、そこへ向かうために必要且つ安全な侵入ルートの情報の見返りとして、フィコンの救出を頼まれたわけだ。
彼は天井の低い薄暗い地下水路を少し屈み移動しながら言葉を漏らす。
「バルドゥル以外のことで口を出したくなかったが、そうはいかないか」
「そうニャね。物事はどっかに何かしらと繋がっているもんニャ」
「そうだな。ま、どのみち通り道。言い方は悪いが、ついでに救出という面もあるからな」
ここで彼は一度言葉を止めて、ミーニャへ視線を振る。
「作戦は君と私だけ。てっきり見張りくらい付くと思ったのだが」
「にゃふふふ、信頼されてるのかもしれにゃいニャ」
不敵な笑みを見せるミーニャ。
それにケントは首を横に振る。
「それはないだろう。いや、多少の期待はあるだろうが」
「おや、気づいているニャか」
「私も一応、一国を預かる者。これくらい気づくさ」
ミーニャとケントは交互にフィナの思惑を語る。
「ミーニャたちは一定の信頼を得ている。少なくとも裏切ることはニャいと」
「この作戦を任せる程度にはな。だからといって、全面的な信頼はできない」
「にゃから、ミーニャたちだけに作戦を任せた。フィナたちの戦力は戦争に投じるだけで手一杯。余計な戦力は回せニャい。というのもあるニャ」
「それでも一人二人くらいは回せるだろうが、こんな危険な任務に使いたくはない」
「というわけで、ミーニャとケントだけニャね。仮に失敗しても、失うのは他の世界からやってきた連中のみ、というわけニャ」
「彼らは私たちを警戒しつつも親しみを見せていたが……こちらのフィナは冷酷だな、フフフ」
「ここで笑うニャか?」
「これは私の知るフィナでは絶対に行おうとしない作戦。とても冷酷。だが、多少の親近感と感動を覚える」
「ケントはこういった決断を常に迫られる立場にゃんニャね」
「そのとおりだ」
「にゃけど、感動の意味がわからにゃいニャ?」
「私の知るフィナは口悪くも優しすぎるから。領主としては……」
「にゃるほど。この世界のフィナを見て、他者の上に立ち、それを行える一面が存在したことに感動したニャか」
「ああ……残酷だが、フィナには領主としての才能が眠っているようだ。これはなるべく早く、彼女を領主の座から引きずりおろした方がよさそうだな」
「にゃ?」
「ふふ、残酷な彼女は見たくない。という、私の我儘だ」
「勝手ニャね」
「王とはそういうものだ。それでも、フィナが領主に留まる覚悟を示すならば止めはしないが……それについてはゆっくり考えるか。そろそろ目的地へ着く」
ケントたちは天井が高く開けた地下水路の途中で立ち止まる。
そこでケントは懐から、この世界のフィナから預かった転送石を取り出した。
彼は天井を見上げる。
「この真上にアグリスの転送装置がある」
「ここまで近くに来れば、問題なくいけるニャね」
「ああ……その昔、アグリスでの騒動の際に彼女が転送装置を乗っ取った。と、言っていたが、ここでそれが役に立つとはな。この転送石を使えば、アグリスの転送装置をここから動かせる。行こう」
――調べ車の塔
転送石を起動――二人は塔内部へ侵入。
そしてすぐに、全身を警戒に包むが……。
「誰もいないようだな」
「外ではフィナたちが激しい戦いを続けてるから、兵士が全部駆り出されてるのかもニャ」
「それでも最低限の警備はいるだろう。なるべく目立つことなく移動しよう。だが、その前にミーニャ」
「わかってるニャ。この転送装置の機構を調べるニャ…………たしかに、アグリスの城と繋がってるみたいだニャ」
「で、使えるのか?」
「もちろんニャ。フィコンとやらを救出後、ここへ戻ってきて向かうとするニャ」
二人は狭く湾曲した通路を歩き、階段をいくつも昇り、フィコンが軟禁されているという部屋を目指す。
その途中、何度か警備兵と遭遇したが、その都度、威力を自在に操れるケントの銃を使い、彼らを気絶させて、目立たぬ部屋に隠していった。
――フィコンの部屋前
部屋の前――そこに立つエムト。
彼は年老い、くすんだ赤が混じる白髪と白髭に覆われている。
しかし、体躯は変わらず分厚き胸板と逞しき手足を持ち、そして老剣士には不似合いな大剣を所持していた。
黒の重装鎧に身を包むエムトは無言でフィコンが軟禁されている部屋を守っている。
その様子をこっそり窺っていたケントだが、エムトが廊下の奥へ言葉を向ける。
「ケントか?」
「っ?」
ケントは驚きつつも彼の前に出る。
「さすがですね。年老いても戦士としての冴えは衰えず」
「フン、世辞は無用……お前は別世界のケントだな」
「え? そうか、フィコンの遠見の黄金の瞳」
「そのとおりだ。フィコン様は今日という日を見つめていた」
彼はそう答え、背後の扉を開ける。
「フィコン様を救い出してくれ。唯一の出入口である転送装置はアステの管理下。我々ではこの塔から出ることが叶わぬからな」
ケントたちは部屋へ入る。
部屋には基本となる家財道具にベッド。
その部屋の中央で、フィコンは黄金の歯車模様の刺繍が施された純白のドレスに身を包み、こちらへ黄金の瞳を見せて微笑む。
その笑みと背格好は、ケントの知るフィコンのものよりも遥かに大人であり妖艶。
「来たか……長かった」
「どれほど待ちました?」
「五年……このフィコンの瞳に今日という日が訪れるのが映ったのは五年前」
「そうですか。ですが、感慨に耽る時間はありません。早速ですが――」
「わかっている。アグリス内にいるルヒネの信徒に呼びかけろと言うのだな」
「はい、内部からアグリスを攻めてもらいたい。これはフィナからの要請です」
「承知した」
ケントとミーニャはフィコンとエムトを連れて部屋の外へ出た。
するとそこに声が響く
「申し訳ありません。それをさせるわけにはまいりません」
ケントがよく知る人物の声。
彼は前を向く。
「オーキス……」
年老い、生気を失ったオーキスが彼らの前に立ちはだかる。
片手にはサーベル。
彼は光がぼやけた瞳でケントを見つめる。
「これは、ケント様? ですが、お若い」
「私は別世界から来た。君ならこれで十分理解できるだろう」
「そうですか。ですが、何者であろうと旦那様の脅威となる者は排除しなければなりません」
そう彼は唱え、ケントたちへサーベルを向ける。
ケントは軽く眉を折り、言葉を返す。
「オーキス。君はもう、八十を超えているだろう。どうだ、ここで引退してみては?」
「フフ、私はアステ様にお仕えする身。この身朽ち果てようと引退などあり得ません」
「いや、引退するべきだ。君は引退するべきだった」
「え?」
ケントは瞳に怒りを宿す。
そして、静かに言葉へ怒りを伝播する。
「父が暴走した時点で、なぜ君は止めなかった? それだけの器量を持ち合わせていたはずだ」
「それは……」
「主を諫められなくなった時点で、君は引退するべきだった」
「――っ! これは手厳しい。どうやら、別世界のケント様は私の知るケント様とは違うようで……ですが、時間は巻き戻せません!」
彼はサーベルに殺気を伝わせて、構える。
これに対して、エムトが大剣を抜き、前へ出る。
「ここは私に任せて、先に行け」
「エムト……わかった。だが、オーキスは手強いぞ」
「重々承知だ。出会ったばかりの頃、彼の剣気には畏敬の念を抱いたものだ。だが、信念を失った剣士など、私の敵ではない!」
エムトは老人とは思えぬ、力強い言葉を発する。
それを受けて、この場をエムトに預け、ケントたちは転送室へ向かう。
残された二人の老剣士は語る。
「オーキスよ。年老いたな。私が畏敬の念を抱いた剣士の見る影もない」
「ふふ、今日は厄日ですね。二度も手痛い言葉をぶつけられました……あなたは年老いてもなお、剣士としての技量を上げている。ですがっ! 私にも意地は残されている!」
「枯れる間際の意地か……よかろう! ならばその意地! 我が誇りが斬り伏せてくれよう!!」
0
あなたにおすすめの小説
精霊に愛される(呪いにもにた愛)少女~全属性の加護を貰う~
如月花恋
ファンタジー
今この世界にはたくさんの精霊がいる
その精霊達から生まれた瞬間に加護を貰う
稀に2つ以上の属性の2体の精霊から加護を貰うことがある
まぁ大体は親の属性を受け継ぐのだが…
だが…全属性の加護を貰うなど不可能とされてきた…
そんな時に生まれたシャルロッテ
全属性の加護を持つ少女
いったいこれからどうなるのか…
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
剣ぺろ伝説〜悪役貴族に転生してしまったが別にどうでもいい〜
みっちゃん
ファンタジー
俺こと「天城剣介」は22歳の日に交通事故で死んでしまった。
…しかし目を覚ますと、俺は知らない女性に抱っこされていた!
「元気に育ってねぇクロウ」
(…クロウ…ってまさか!?)
そうここは自分がやっていた恋愛RPGゲーム
「ラグナロク•オリジン」と言う学園と世界を舞台にした超大型シナリオゲームだ
そんな世界に転生して真っ先に気がついたのは"クロウ"と言う名前、そう彼こそ主人公の攻略対象の女性を付け狙う、ゲーム史上最も嫌われている悪役貴族、それが
「クロウ•チューリア」だ
ありとあらゆる人々のヘイトを貯める行動をして最後には全てに裏切られてザマァをされ、辺境に捨てられて惨めな日々を送る羽目になる、そう言う運命なのだが、彼は思う
運命を変えて仕舞えば物語は大きく変わる
"バタフライ効果"と言う事を思い出し彼は誓う
「ザマァされた後にのんびりスローライフを送ろう!」と!
その為に彼がまず行うのはこのゲーム唯一の「バグ技」…"剣ぺろ"だ
剣ぺろと言う「バグ技」は
"剣を舐めるとステータスのどれかが1上がるバグ"だ
この物語は
剣ぺろバグを使い優雅なスローライフを目指そうと奮闘する悪役貴族の物語
(自分は学園編のみ登場してそこからは全く登場しない、ならそれ以降はのんびりと暮らせば良いんだ!)
しかしこれがフラグになる事を彼はまだ知らない
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。
帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。
しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。
自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。
※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。
※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。
〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜
・クリス(男・エルフ・570歳)
チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが……
・アキラ(男・人間・29歳)
杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が……
・ジャック(男・人間・34歳)
怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが……
・ランラン(女・人間・25歳)
優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は……
・シエナ(女・人間・28歳)
絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
えっ、能力なしでパーティ追放された俺が全属性魔法使い!? ~最強のオールラウンダー目指して謙虚に頑張ります~
たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
コミカライズ10/19(水)開始!
2024/2/21小説本編完結!
旧題:えっ能力なしでパーティー追放された俺が全属性能力者!? 最強のオールラウンダーに成り上がりますが、本人は至って謙虚です
※ 書籍化に伴い、一部範囲のみの公開に切り替えられています。
※ 書籍化に伴う変更点については、近況ボードを確認ください。
生まれつき、一人一人に魔法属性が付与され、一定の年齢になると使うことができるようになる世界。
伝説の冒険者の息子、タイラー・ソリス(17歳)は、なぜか無属性。
勤勉で真面目な彼はなぜか報われておらず、魔法を使用することができなかった。
代わりに、父親から教わった戦術や、体術を駆使して、パーティーの中でも重要な役割を担っていたが…………。
リーダーからは無能だと疎まれ、パーティーを追放されてしまう。
ダンジョンの中、モンスターを前にして見捨てられたタイラー。ピンチに陥る中で、その血に流れる伝説の冒険者の能力がついに覚醒する。
タイラーは、全属性の魔法をつかいこなせる最強のオールラウンダーだったのだ! その能力のあまりの高さから、あらわれるのが、人より少し遅いだけだった。
タイラーは、その圧倒的な力で、危機を回避。
そこから敵を次々になぎ倒し、最強の冒険者への道を、駆け足で登り出す。
なにせ、初の強モンスターを倒した時点では、まだレベル1だったのだ。
レベルが上がれば最強無双することは約束されていた。
いつか彼は血をも超えていくーー。
さらには、天下一の美女たちに、これでもかと愛されまくることになり、モフモフにゃんにゃんの桃色デイズ。
一方、タイラーを追放したパーティーメンバーはというと。
彼を失ったことにより、チームは瓦解。元々大した力もないのに、タイラーのおかげで過大評価されていたパーティーリーダーは、どんどんと落ちぶれていく。
コメントやお気に入りなど、大変励みになっています。お気軽にお寄せくださいませ!
・12/27〜29 HOTランキング 2位 記録、維持
・12/28 ハイファンランキング 3位
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる