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第一章
第20話 ロージス家 離れにて
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ユーリ達が無事街を発った頃、ロージス家の離れに来ていた年若い女性は、顔を青ざめさせて室内に呆然と立ち尽くしていた。
彼女は後妻として迎えられた夫人にあることを命令されて、渋々ながらも離れを訪れていた。
しかし、いざ部屋に来てみれば、その部屋の主人の姿が見当たらない。
姿が見えないことに安堵したのも束の間、今度はその人物が居ないことで自分が夫人に責め立てられてしまうかもしれないと恐怖を覚えた。
どうすることも出来ないまま時間は流れていく。
そこへ、食事を載せたトレーを抱えた使用人が、のんびりとした口調で話しかけてきた。
「あれ?キャシーさん?こんな所でどうしたんですかぁ?」
背後から話しかけられて、キャシーは肩を大きく揺らして振り向いた。
白いエプロンを身に着けた薄茶色の髪の女性は、執事がどこかから連れて来た平民の使用人だ。
彼女の仕事は、この部屋に朝、昼、晩と食事を運ぶのが主となっている。
「あ、ああ、もう昼食の時間なのね。アレが居ないのだけど、居場所は分かるかしら?」
「アレ、ですか?……あぁ、あの子ですかぁ?あたしは食事を運ぶだけなので、居場所までは分からないですねぇ。それに、あの子と口をきくのも駄目だと言われているので見当もつかないですよぉ」
キャシーに尋ねられた使用人はのんびりとした口調で答えると、トレーをテーブルに置いて話しを続けた。
「もしかして、ここから逃げ出したんじゃないですかぁ?……どうしよう。あたしの仕事がなくなっちゃう……」
心底困ったような使用人の声色に、キャシーは内心焦り始めていた。
しかし、下位貴族とは言え貴族の令嬢、上辺だけは平静を装いながら他に情報がないか尋ねた。
「何でも良いの。アレが行きそうな所を知らないかしら」
「……そう言われましても、口をきくなと言われたので顔もまともに見ていないんですよねぇ。あの子はいつも部屋に居たから他に行きそうな場所なんて分かりませんよぉ」
使用人の答えは何とも頼りなく全く役に立たなかった。
キャシーは大きく息を吐き出した後、使用人に告げた。
「……そう、分かったわ。もう行って良いわ」
使用人は軽く頭を下げると、ぶつぶつと呟きながら部屋を出て行った。
そんな使用人のことすら眼中にないキャシーは、ますます顔色を青くさせて焦りを露にした。
「……アレが逃げ出した?奥様にそのまま報告する?……そうよ!逃げ出したのならもう手にかけなくて済むわ!逃げ出したとしても生きていけるはずがないもの」
キャシーは、自分がユーリを手にかけなくて済んだことに安堵した。
自分に言い聞かせるように口に出した後、一旦口を閉じて主が消えた部屋を見渡した。
日に当たり、所々色褪せた床の一部分が捲れ上がっている。
ベッドに敷かれたシーツも、薄汚れてほつれていた。
貴族の、しかも高位である令嬢とは思えない使用人以下の扱いなのは、室内を見れば容易に想像出来た。
キャシーはこの屋敷に雇われて日が浅い。
夫人に命令されてこの部屋に来るまでは、アレという存在がどんなに疎ましいかを聞かされていた。
――だが、果たしてそれが真実なのだろうか。
こうして部屋を目の当たりにしたことで、キャシーの中に違和感と不信感が芽生え始めた。
それと同時に、あれほどまでに焦っていた気持ちがスッと引いていく。
開け放たれたままの窓を閉めて踵を返すと扉に向かった。
扉を閉じかけていた手を止めて室内を見渡した。
「逃げたのならもうここへは戻る気はないのね。だったらとことん逃げ切ることを祈っているわ。……ごめんなさい。私にはあなたの無事を祈ることしか出来ないけど、それでも、祈らせてほしい。どうか元気で」
主の居ない室内に向かって呟いたキャシーの表情は、憑き物が取れたかのように晴々としていた。
彼女は後妻として迎えられた夫人にあることを命令されて、渋々ながらも離れを訪れていた。
しかし、いざ部屋に来てみれば、その部屋の主人の姿が見当たらない。
姿が見えないことに安堵したのも束の間、今度はその人物が居ないことで自分が夫人に責め立てられてしまうかもしれないと恐怖を覚えた。
どうすることも出来ないまま時間は流れていく。
そこへ、食事を載せたトレーを抱えた使用人が、のんびりとした口調で話しかけてきた。
「あれ?キャシーさん?こんな所でどうしたんですかぁ?」
背後から話しかけられて、キャシーは肩を大きく揺らして振り向いた。
白いエプロンを身に着けた薄茶色の髪の女性は、執事がどこかから連れて来た平民の使用人だ。
彼女の仕事は、この部屋に朝、昼、晩と食事を運ぶのが主となっている。
「あ、ああ、もう昼食の時間なのね。アレが居ないのだけど、居場所は分かるかしら?」
「アレ、ですか?……あぁ、あの子ですかぁ?あたしは食事を運ぶだけなので、居場所までは分からないですねぇ。それに、あの子と口をきくのも駄目だと言われているので見当もつかないですよぉ」
キャシーに尋ねられた使用人はのんびりとした口調で答えると、トレーをテーブルに置いて話しを続けた。
「もしかして、ここから逃げ出したんじゃないですかぁ?……どうしよう。あたしの仕事がなくなっちゃう……」
心底困ったような使用人の声色に、キャシーは内心焦り始めていた。
しかし、下位貴族とは言え貴族の令嬢、上辺だけは平静を装いながら他に情報がないか尋ねた。
「何でも良いの。アレが行きそうな所を知らないかしら」
「……そう言われましても、口をきくなと言われたので顔もまともに見ていないんですよねぇ。あの子はいつも部屋に居たから他に行きそうな場所なんて分かりませんよぉ」
使用人の答えは何とも頼りなく全く役に立たなかった。
キャシーは大きく息を吐き出した後、使用人に告げた。
「……そう、分かったわ。もう行って良いわ」
使用人は軽く頭を下げると、ぶつぶつと呟きながら部屋を出て行った。
そんな使用人のことすら眼中にないキャシーは、ますます顔色を青くさせて焦りを露にした。
「……アレが逃げ出した?奥様にそのまま報告する?……そうよ!逃げ出したのならもう手にかけなくて済むわ!逃げ出したとしても生きていけるはずがないもの」
キャシーは、自分がユーリを手にかけなくて済んだことに安堵した。
自分に言い聞かせるように口に出した後、一旦口を閉じて主が消えた部屋を見渡した。
日に当たり、所々色褪せた床の一部分が捲れ上がっている。
ベッドに敷かれたシーツも、薄汚れてほつれていた。
貴族の、しかも高位である令嬢とは思えない使用人以下の扱いなのは、室内を見れば容易に想像出来た。
キャシーはこの屋敷に雇われて日が浅い。
夫人に命令されてこの部屋に来るまでは、アレという存在がどんなに疎ましいかを聞かされていた。
――だが、果たしてそれが真実なのだろうか。
こうして部屋を目の当たりにしたことで、キャシーの中に違和感と不信感が芽生え始めた。
それと同時に、あれほどまでに焦っていた気持ちがスッと引いていく。
開け放たれたままの窓を閉めて踵を返すと扉に向かった。
扉を閉じかけていた手を止めて室内を見渡した。
「逃げたのならもうここへは戻る気はないのね。だったらとことん逃げ切ることを祈っているわ。……ごめんなさい。私にはあなたの無事を祈ることしか出来ないけど、それでも、祈らせてほしい。どうか元気で」
主の居ない室内に向かって呟いたキャシーの表情は、憑き物が取れたかのように晴々としていた。
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