転生少女と黒猫メイスのぶらり異世界旅

うみの渚

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第一章 

第22話 希少な草が街道沿いに?

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 頬を温かくて柔らかい何かが叩いてくる。
 痛くはないが、しつこく叩かれて鬱陶うっとうしい。
 
「ん~……」

 あまりの鬱陶うっとうしさにそれを手で払いのけて寝返りを打つと、はぁ~と深いため息が耳に届いた。

『起きろ。もう朝だぞ。さっさと支度しないと出発出来ないぞ』

 呆れたようなメイスの重低音の声に、もう少し寝させてと心の中で返事をしかけてハッとする。
 出発という単語に意識が一気に浮上して、ガバッと起き上がる。

「そうだった!おうちじゃなかったんだ!」

 昨日、慌ただしく逃げるように離れを出たのをすっかり忘れていた。
 ううん、逃げるようにではなくて逃げ出したのだ。
 辺りに視線を巡らせて、テントの中だと理解する。
 その後、枕元に座り私を見上げているメイスと視線を合わせると、挨拶の言葉を口にした。

「メイス、おはよう」

『ようやくお目覚めか。とっとと支度して出発するぞ』

 やれやれと言わんばかりのメイスは、体を起こすと私を残してテントから出て行った。
 急いで私も身支度を整えてテントから出る。
 テントから出た瞬間、太陽の日差しを浴びてその眩しさに目を細めた。
 今日も絶好の冒険日和となりそうだ。
 慌ただしく朝食を済ませてテントを片付けると、一旦街道を目指して歩き始めた。






 街を出発して二日目。
 大自然に囲まれた中、一向に変わらない景色を眺めながら黙々と先を進む。
 すると、肩で器用に微睡んでいたメイスが口を開いた。

『おい、ユーリ。あの草を摘んでおけ。あれは金になる』

 メイスの言葉に、退屈していた私の気持ちが一気に高揚していく。

「え?どこどこ?」

 メイスの視線を追って草に近づくと、しゃがみ込んで鑑定のスキルを使う。
 普段から人以外に対して鑑定のスキルを使ってきたおかげで、以前よりは表示される内容も詳細になっていた。

「え~と、葉の形がギザギザしているこの草のことかな?……『ホーリー草』は万病の薬と呼ばれていて非常に希少である。……希少……」

 なぜ、希少な草が街道沿いに生えているのだろう?
 疑問に思いつつも、お金になるのならと数本を残して『ホーリー草』を摘み取っていく。
 こんなことならもっと早く街道に生えている草や花を鑑定しておけば良かった。
 後悔先に立たずとはこのことだ。
 摘み取った『ホーリー草』を亜空間に収納して立ち上がる。

 今まではただ歩くだけで、一向に変わらない景色に退屈していた。
 だが、足元に視線を向ければ、ただの雑草だと気にも留めていなかった草が、実は有用性のあるものだとは誰が想像出来ただろうか。
 私は、メイスに言われるまで足元を見ようとはしなかった。
 同じ景色ばかりで退屈だと、そればかり考えていた。
 どこかでメイスに甘えて頼りきっていた。
 そんな自分が恥ずかしい。
 体は十歳の子供でも、中身はとっくに成人した大人だ。
 顔から火を吹き出しそうになりながら、気持ちを落ち着かせようと深呼吸を繰り返した。

「……メイス。『ホーリー草』のこと、教えてくれてありがとう。教えてもらわなかったらきっと素通りしていたわ」

『お前はまだ外の事を知らないからな。お前の成長を手助けするのもこの俺の仕事だ。気にするな』

 自分の無知が恥ずかしくてメイスに感謝の気持ちを伝えたのだが、そんな私の心の内を見透かしたかのようにメイスの重低音の優しい声音が応えてくれた。
 それと同時に、黒くて艶のある尻尾が宥めるように優しく首筋を撫でた。

 そうだ。
 これから覚えていけば良いんだ。
 メイスに励まされて、ふさぎ込んでいた気持ちが浮上していく。
 単純な自分がおかしくて自然と口元が緩んでいた。

「ふふ。メイスったら。仕事って言われてもお給料は支払っていないわよ。いつも美味しい食事と魔法の鍛錬をしてくれてありがとう。感謝してる」

『……俺がしたいからしているだけだ。そう何度も感謝の言葉はいらない。ほら、さっさと行くぞ』

 プイッと顔を背けたメイスだったが、照れたように見えたのは気のせいだろうか。
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