22 / 180
第一章
第22話 希少な草が街道沿いに?
しおりを挟む
頬を温かくて柔らかい何かが叩いてくる。
痛くはないが、しつこく叩かれて鬱陶しい。
「ん~……」
あまりの鬱陶しさにそれを手で払いのけて寝返りを打つと、はぁ~と深いため息が耳に届いた。
『起きろ。もう朝だぞ。さっさと支度しないと出発出来ないぞ』
呆れたようなメイスの重低音の声に、もう少し寝させてと心の中で返事をしかけてハッとする。
出発という単語に意識が一気に浮上して、ガバッと起き上がる。
「そうだった!お家じゃなかったんだ!」
昨日、慌ただしく逃げるように離れを出たのをすっかり忘れていた。
ううん、逃げるようにではなくて逃げ出したのだ。
辺りに視線を巡らせて、テントの中だと理解する。
その後、枕元に座り私を見上げているメイスと視線を合わせると、挨拶の言葉を口にした。
「メイス、おはよう」
『ようやくお目覚めか。とっとと支度して出発するぞ』
やれやれと言わんばかりのメイスは、体を起こすと私を残してテントから出て行った。
急いで私も身支度を整えてテントから出る。
テントから出た瞬間、太陽の日差しを浴びてその眩しさに目を細めた。
今日も絶好の冒険日和となりそうだ。
慌ただしく朝食を済ませてテントを片付けると、一旦街道を目指して歩き始めた。
街を出発して二日目。
大自然に囲まれた中、一向に変わらない景色を眺めながら黙々と先を進む。
すると、肩で器用に微睡んでいたメイスが口を開いた。
『おい、ユーリ。あの草を摘んでおけ。あれは金になる』
メイスの言葉に、退屈していた私の気持ちが一気に高揚していく。
「え?どこどこ?」
メイスの視線を追って草に近づくと、しゃがみ込んで鑑定のスキルを使う。
普段から人以外に対して鑑定のスキルを使ってきたおかげで、以前よりは表示される内容も詳細になっていた。
「え~と、葉の形がギザギザしているこの草のことかな?……『ホーリー草』は万病の薬と呼ばれていて非常に希少である。……希少……」
なぜ、希少な草が街道沿いに生えているのだろう?
疑問に思いつつも、お金になるのならと数本を残して『ホーリー草』を摘み取っていく。
こんなことならもっと早く街道に生えている草や花を鑑定しておけば良かった。
後悔先に立たずとはこのことだ。
摘み取った『ホーリー草』を亜空間に収納して立ち上がる。
今まではただ歩くだけで、一向に変わらない景色に退屈していた。
だが、足元に視線を向ければ、ただの雑草だと気にも留めていなかった草が、実は有用性のあるものだとは誰が想像出来ただろうか。
私は、メイスに言われるまで足元を見ようとはしなかった。
同じ景色ばかりで退屈だと、そればかり考えていた。
どこかでメイスに甘えて頼りきっていた。
そんな自分が恥ずかしい。
体は十歳の子供でも、中身はとっくに成人した大人だ。
顔から火を吹き出しそうになりながら、気持ちを落ち着かせようと深呼吸を繰り返した。
「……メイス。『ホーリー草』のこと、教えてくれてありがとう。教えてもらわなかったらきっと素通りしていたわ」
『お前はまだ外の事を知らないからな。お前の成長を手助けするのもこの俺の仕事だ。気にするな』
自分の無知が恥ずかしくてメイスに感謝の気持ちを伝えたのだが、そんな私の心の内を見透かしたかのようにメイスの重低音の優しい声音が応えてくれた。
それと同時に、黒くて艶のある尻尾が宥めるように優しく首筋を撫でた。
そうだ。
これから覚えていけば良いんだ。
メイスに励まされて、ふさぎ込んでいた気持ちが浮上していく。
単純な自分がおかしくて自然と口元が緩んでいた。
「ふふ。メイスったら。仕事って言われてもお給料は支払っていないわよ。いつも美味しい食事と魔法の鍛錬をしてくれてありがとう。感謝してる」
『……俺がしたいからしているだけだ。そう何度も感謝の言葉はいらない。ほら、さっさと行くぞ』
プイッと顔を背けたメイスだったが、照れたように見えたのは気のせいだろうか。
痛くはないが、しつこく叩かれて鬱陶しい。
「ん~……」
あまりの鬱陶しさにそれを手で払いのけて寝返りを打つと、はぁ~と深いため息が耳に届いた。
『起きろ。もう朝だぞ。さっさと支度しないと出発出来ないぞ』
呆れたようなメイスの重低音の声に、もう少し寝させてと心の中で返事をしかけてハッとする。
出発という単語に意識が一気に浮上して、ガバッと起き上がる。
「そうだった!お家じゃなかったんだ!」
昨日、慌ただしく逃げるように離れを出たのをすっかり忘れていた。
ううん、逃げるようにではなくて逃げ出したのだ。
辺りに視線を巡らせて、テントの中だと理解する。
その後、枕元に座り私を見上げているメイスと視線を合わせると、挨拶の言葉を口にした。
「メイス、おはよう」
『ようやくお目覚めか。とっとと支度して出発するぞ』
やれやれと言わんばかりのメイスは、体を起こすと私を残してテントから出て行った。
急いで私も身支度を整えてテントから出る。
テントから出た瞬間、太陽の日差しを浴びてその眩しさに目を細めた。
今日も絶好の冒険日和となりそうだ。
慌ただしく朝食を済ませてテントを片付けると、一旦街道を目指して歩き始めた。
街を出発して二日目。
大自然に囲まれた中、一向に変わらない景色を眺めながら黙々と先を進む。
すると、肩で器用に微睡んでいたメイスが口を開いた。
『おい、ユーリ。あの草を摘んでおけ。あれは金になる』
メイスの言葉に、退屈していた私の気持ちが一気に高揚していく。
「え?どこどこ?」
メイスの視線を追って草に近づくと、しゃがみ込んで鑑定のスキルを使う。
普段から人以外に対して鑑定のスキルを使ってきたおかげで、以前よりは表示される内容も詳細になっていた。
「え~と、葉の形がギザギザしているこの草のことかな?……『ホーリー草』は万病の薬と呼ばれていて非常に希少である。……希少……」
なぜ、希少な草が街道沿いに生えているのだろう?
疑問に思いつつも、お金になるのならと数本を残して『ホーリー草』を摘み取っていく。
こんなことならもっと早く街道に生えている草や花を鑑定しておけば良かった。
後悔先に立たずとはこのことだ。
摘み取った『ホーリー草』を亜空間に収納して立ち上がる。
今まではただ歩くだけで、一向に変わらない景色に退屈していた。
だが、足元に視線を向ければ、ただの雑草だと気にも留めていなかった草が、実は有用性のあるものだとは誰が想像出来ただろうか。
私は、メイスに言われるまで足元を見ようとはしなかった。
同じ景色ばかりで退屈だと、そればかり考えていた。
どこかでメイスに甘えて頼りきっていた。
そんな自分が恥ずかしい。
体は十歳の子供でも、中身はとっくに成人した大人だ。
顔から火を吹き出しそうになりながら、気持ちを落ち着かせようと深呼吸を繰り返した。
「……メイス。『ホーリー草』のこと、教えてくれてありがとう。教えてもらわなかったらきっと素通りしていたわ」
『お前はまだ外の事を知らないからな。お前の成長を手助けするのもこの俺の仕事だ。気にするな』
自分の無知が恥ずかしくてメイスに感謝の気持ちを伝えたのだが、そんな私の心の内を見透かしたかのようにメイスの重低音の優しい声音が応えてくれた。
それと同時に、黒くて艶のある尻尾が宥めるように優しく首筋を撫でた。
そうだ。
これから覚えていけば良いんだ。
メイスに励まされて、ふさぎ込んでいた気持ちが浮上していく。
単純な自分がおかしくて自然と口元が緩んでいた。
「ふふ。メイスったら。仕事って言われてもお給料は支払っていないわよ。いつも美味しい食事と魔法の鍛錬をしてくれてありがとう。感謝してる」
『……俺がしたいからしているだけだ。そう何度も感謝の言葉はいらない。ほら、さっさと行くぞ』
プイッと顔を背けたメイスだったが、照れたように見えたのは気のせいだろうか。
192
あなたにおすすめの小説
異世界に来ちゃったよ!?
いがむり
ファンタジー
235番……それが彼女の名前。記憶喪失の17歳で沢山の子どもたちと共にファクトリーと呼ばれるところで楽しく暮らしていた。
しかし、現在森の中。
「とにきゃく、こころこぉ?」
から始まる異世界ストーリー 。
主人公は可愛いです!
もふもふだってあります!!
語彙力は………………無いかもしれない…。
とにかく、異世界ファンタジー開幕です!
※不定期投稿です…本当に。
※誤字・脱字があればお知らせ下さい
(※印は鬱表現ありです)
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます
無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。
異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!
転生先ではゆっくりと生きたい
ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。
事故で死んだ明彦が出会ったのは……
転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた
小説家になろうでも連載中です。
なろうの方が話数が多いです。
https://ncode.syosetu.com/n8964gh/
最底辺の転生者──2匹の捨て子を育む赤ん坊!?の異世界修行の旅
散歩道 猫ノ子
ファンタジー
捨てられてしまった2匹の神獣と育む異世界育成ファンタジー
2匹のねこのこを育む、ほのぼの育成異世界生活です。
人間の汚さを知る主人公が、動物のように純粋で無垢な女の子2人に振り回されつつ、振り回すそんな物語です。
主人公は最強ですが、基本的に最強しませんのでご了承くださいm(*_ _)m
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~
志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。
けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。
そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。
‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。
「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる