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第一章
第23話 ビリーさんとカリーナさん
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街道沿いに生えた草を摘みつつ歩き続けること数時間、太陽はすでに中天を過ぎていた。
遠くに木の柵が見えてきたので民家がありそうだと考えた私は、早く様子が見たくて自然と駆け足になっていた。
近寄って覗いてみると、柵の内側に数軒の家が建っており、ちらほらと人の姿が見えた。
規模としてはロージスの街よりも随分と小さく、街というより村といった方が近いだろう。
柵の向こうを眺めながら歩いていると、丸太で作られた門が視界に入った。
門の横には中年、いや、もっと年嵩の年配の白髪頭の男性が、槍を手に持ち椅子に腰を下していた。
私はその男性に近づくと、声をかけた。
「こんにちは」
声をかけられた男性は、一瞬驚いたように目を見開いた後、すぐに柔らかく微笑んで応えた。
「おぉ、坊主。一人かい?……その格好は冒険者か?」
男性は私の格好を一目見て冒険者だと気づくと、どっこいしょと言って立ち上がった。
坊主と呼ばれたので、私は否定せずに頷いた。
この際だから、性別は曖昧にしておいた方が良いだろうと判断してのことだ。
「はい。冒険者になったばかりです」
そう返事をしたら、男性は白くなった顎ひげを触りながら話し始めた。
「ほぉ、そうかそうか。それなら坊主は次の街に行くつもりなのじゃな?」
男性の問いかけに頷き返すと、男性は困ったように眉尻を下げて話しを続けた。
「ふぅむ。じゃが、カントーリへ行くには山を越えなければならん。今からじゃと山越えは夜になるじゃろう。夜は強い魔物が現れるから、今晩は村に泊まって行きなされ。ここは年寄りの忠告を聞いておくべきじゃと思うのじゃが、どうかの?」
男性の諭すような話し方には、私を気遣う気持ちがこめられていた。
その気持ちが嬉しくて、素直に従うことにした。
「はい。それでは今晩はこちらでお世話になりたいと思います。……あの、宿はどちらに行けば良いでしょうか?」
そう尋ねられた男性の口から出てきたのは、驚きの言葉だった。
「宿なんてもんは村にはありゃせん。儂の家に泊まっていきなさい」
返す言葉もなく固まっている私を余所に、男性は偶々通りかかった村人に声をかけた。
「おぉ、いい所に来てくれた。すまんが、ばあさんに伝えてもらえんかのぅ」
男性は村人に言伝を頼むと、こちらに振り返って言った。
「ばあさんに迎えを頼んだからもう少しここで待っててもらえるかい?それまでこのじいさんの話し相手になっておくれ」
柔らかく微笑んだ男性に、いつの間にか私も微笑んで頷いた。
男性の奥様が迎えに来てくれる間、私達は軽く自己紹介をした後、会話を楽しんだ。
男性の名前はビリーさんといって、カントーリの街よりずっと向こうの小さな村の生まれで、十五歳から冒険者として活動していたそう。
ある日、王都で奥様と出会って一目で恋に落ちて猛アタックしたのだとか。
結婚して息子さん二人を授かってしばらく王都で過ごしていたのだけど、二人が成人したのを機にこの村に引っ越して来たんだって。
奥様の名前はカリーナさんといって、ビリーさん曰く美人で優しい女性なのだそう。
カリーナさんの話しをするビリーさんの目尻は、これ以上ないくらいに垂れ下がっていた。
言葉の端々に奥様に対する愛情を感じられて、羨ましいを通り越して胸やけしそうだったのは内緒だ。
肩で大人しくしていたメイスは、いつの間にか本気で寝入っていた。
二人で会話、というよりは一方的に話しを聞いているうちに、奥様が迎えに来てくれた。
「ビリー、その子が家に泊まってもらう子かしら?」
ビリーさんが話していた通り、若い頃は相当な美人だったのだろうと容易に想像がつくくらいその片鱗は残っていた。
年の割には若々しい張りのある声と美貌に、私の目が釘付けになる。
すると、私と視線が合ったカリーナさんがふわりと微笑んだ。
「あら、その子が冒険者なの?随分と愛らしいわね」
カリーナさんの声にハッと我に返った私は、ポカンと開けていた口を閉じて頭を下げた。
「初めまして。冒険者のユーリです。一晩お世話になります。……ご無理を言ってすみません」
頭を下げた私の頭を優しく撫でたカリーナさんは、明るい声で言った。
「まぁ!小さいのにしっかりしているのねぇ。ふふふ。そんなに畏まらないで。あなたのような愛らしい冒険者さんなら大歓迎よ。さ、我が家に案内するわ。ついて来てちょうだい」
カリーナさんに手をとられた私はビリーさんに会釈をすると、促されるままついて行った。
遠くに木の柵が見えてきたので民家がありそうだと考えた私は、早く様子が見たくて自然と駆け足になっていた。
近寄って覗いてみると、柵の内側に数軒の家が建っており、ちらほらと人の姿が見えた。
規模としてはロージスの街よりも随分と小さく、街というより村といった方が近いだろう。
柵の向こうを眺めながら歩いていると、丸太で作られた門が視界に入った。
門の横には中年、いや、もっと年嵩の年配の白髪頭の男性が、槍を手に持ち椅子に腰を下していた。
私はその男性に近づくと、声をかけた。
「こんにちは」
声をかけられた男性は、一瞬驚いたように目を見開いた後、すぐに柔らかく微笑んで応えた。
「おぉ、坊主。一人かい?……その格好は冒険者か?」
男性は私の格好を一目見て冒険者だと気づくと、どっこいしょと言って立ち上がった。
坊主と呼ばれたので、私は否定せずに頷いた。
この際だから、性別は曖昧にしておいた方が良いだろうと判断してのことだ。
「はい。冒険者になったばかりです」
そう返事をしたら、男性は白くなった顎ひげを触りながら話し始めた。
「ほぉ、そうかそうか。それなら坊主は次の街に行くつもりなのじゃな?」
男性の問いかけに頷き返すと、男性は困ったように眉尻を下げて話しを続けた。
「ふぅむ。じゃが、カントーリへ行くには山を越えなければならん。今からじゃと山越えは夜になるじゃろう。夜は強い魔物が現れるから、今晩は村に泊まって行きなされ。ここは年寄りの忠告を聞いておくべきじゃと思うのじゃが、どうかの?」
男性の諭すような話し方には、私を気遣う気持ちがこめられていた。
その気持ちが嬉しくて、素直に従うことにした。
「はい。それでは今晩はこちらでお世話になりたいと思います。……あの、宿はどちらに行けば良いでしょうか?」
そう尋ねられた男性の口から出てきたのは、驚きの言葉だった。
「宿なんてもんは村にはありゃせん。儂の家に泊まっていきなさい」
返す言葉もなく固まっている私を余所に、男性は偶々通りかかった村人に声をかけた。
「おぉ、いい所に来てくれた。すまんが、ばあさんに伝えてもらえんかのぅ」
男性は村人に言伝を頼むと、こちらに振り返って言った。
「ばあさんに迎えを頼んだからもう少しここで待っててもらえるかい?それまでこのじいさんの話し相手になっておくれ」
柔らかく微笑んだ男性に、いつの間にか私も微笑んで頷いた。
男性の奥様が迎えに来てくれる間、私達は軽く自己紹介をした後、会話を楽しんだ。
男性の名前はビリーさんといって、カントーリの街よりずっと向こうの小さな村の生まれで、十五歳から冒険者として活動していたそう。
ある日、王都で奥様と出会って一目で恋に落ちて猛アタックしたのだとか。
結婚して息子さん二人を授かってしばらく王都で過ごしていたのだけど、二人が成人したのを機にこの村に引っ越して来たんだって。
奥様の名前はカリーナさんといって、ビリーさん曰く美人で優しい女性なのだそう。
カリーナさんの話しをするビリーさんの目尻は、これ以上ないくらいに垂れ下がっていた。
言葉の端々に奥様に対する愛情を感じられて、羨ましいを通り越して胸やけしそうだったのは内緒だ。
肩で大人しくしていたメイスは、いつの間にか本気で寝入っていた。
二人で会話、というよりは一方的に話しを聞いているうちに、奥様が迎えに来てくれた。
「ビリー、その子が家に泊まってもらう子かしら?」
ビリーさんが話していた通り、若い頃は相当な美人だったのだろうと容易に想像がつくくらいその片鱗は残っていた。
年の割には若々しい張りのある声と美貌に、私の目が釘付けになる。
すると、私と視線が合ったカリーナさんがふわりと微笑んだ。
「あら、その子が冒険者なの?随分と愛らしいわね」
カリーナさんの声にハッと我に返った私は、ポカンと開けていた口を閉じて頭を下げた。
「初めまして。冒険者のユーリです。一晩お世話になります。……ご無理を言ってすみません」
頭を下げた私の頭を優しく撫でたカリーナさんは、明るい声で言った。
「まぁ!小さいのにしっかりしているのねぇ。ふふふ。そんなに畏まらないで。あなたのような愛らしい冒険者さんなら大歓迎よ。さ、我が家に案内するわ。ついて来てちょうだい」
カリーナさんに手をとられた私はビリーさんに会釈をすると、促されるままついて行った。
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