転生少女と黒猫メイスのぶらり異世界旅

うみの渚

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第二章

第63話 真っ白い大きな犬

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 手のひらを真っ赤にさせておにぎりを握っていく。
 中に入れる具材が無いのが寂しいが、それは追々考えていこう。
 おにぎりをひたすら握っていると、背後に気配を感じて振り返る。

「ひっ……」

『ちっ!』

 私が小さく悲鳴を上げたのと同時に、メイスが舌打ちする。
 気配の主は随分と大きく、その姿は犬のように見えた。

「わふっ!」

 結界のすぐ傍にお座りをしてこちらを見つめる眼差しは、澄みきった湖のように綺麗な色をしている。
 ふさふさの白い尻尾をぶんぶんと振っている様子から、どうやら危害を加える気は無いように思えた。
 大きさに驚いてしまったが、手触りの良さそうなもふもふ具合に触ってみたい衝動に駆られてしまう。

「はわぁ……。もふもふ。可愛い……」

 おにぎりを握る手を止めて、大きな犬に吸い寄せられるように足が無意識に動く。
 その間大きな犬は、お座りをしたまま大人しく待っていた。

『ユーリ!』

 珍しくメイスが声を上げたが、その声はユーリの耳には届かない。
 結界の境まで近寄ると、大きな犬を見上げて話しかけた。

「もっふもふだぁ。ねぇ、大きな犬さん。触っても良い?」

 その声に応えるように、犬は尻尾をさらに激しく振って吠えた。

「わふっ!わふっ!」

 可愛い!
 あまりの大きさにびっくりしたけど、改めてじっくりと見てみると、クリッとしたつぶらな瞳からは敵意も悪意も感じない。
 気がついた時には、目の前の真っ白いもふもふの毛並みに抱きついて顔をうずめていた。

『ユーリっ!』

 背後からメイスの叫び声が聞こえたが、そんなことよりも今は何も考えずにもふもふを堪能していたい。
 不思議なことに、もふもふの毛並みはお日様の匂いがしており、その匂いを嗅いでいると気持ちが癒されていく。
 トクントクンと一定のリズムで刻む鼓動が耳に心地良い。
 しばらく大きな犬に抱きついたままもふもふを堪能していたら、不意にズボンの裾を引っ張られた。

『ユーリ!そいつから離れろ!そいつが例のフェンリルだ!』

「……え?この子が……フェンリル?」

 メイスの声に顔を上げて大きな犬、じゃなくてフェンリルを見上げた。

「わふぅ。わふっ」

 フェンリルは、首を傾げて何かを訴えるように吠えた。
 う~ん。
 いくら転生特典で言語理解があったとしても、さすがにフェンリルの言葉は分からないみたい。
 助けを求めるようにメイスをちらりと見遣ると、ため息を吐いたメイスがこちらを見上げて渋々といった様子で話し始めた。

『はぁ……。そいつは、大きな犬ではなくフェンリルだと言っている』

 ……フェンリル。
 ラノベによると、狼のような見た目だとよく表現されていた気がする。
 そのフェンリルがこの子!?
 どう見ても人懐っこい大きな犬にしか見えないんだけど!?
 目を大きく見開いて固まっていたら、目の前のフェンリルが吠え始めた。

「わふっ!わふわふわふっ!」

『はぁ?それは駄目だ!』

 あからさまに不機嫌な声色を滲ませて断るメイス。
 しかし、フェンリルの主張は止まらない。

「わふっ!わふっ!わふっ!」

『だから!駄目だと言っているだろう!』

「きゅう~ん……」

 メイスに強い口調で断られると、耳と尻尾を垂らして項垂れるフェンリル。
 二人がどんな会話をしたのか分からないが、項垂れたフェンリルを見ていたら可哀想に思えてきた。

 元々メイスは、フェンリルがつきまとってきて鬱陶しいと言っていた。
 メイスの気持ちは分かるが、あんなに大人しくていい子そうなのにそこまで邪険にしなくても良いのに。
 お互いちゃんと話し合ってみたら、仲良くなれるんじゃないだろうか。


 ――なんて言うのは建前で、目の前の極上のもふもふを手放したくないのが本音だ。


 そんな邪な気持ちを抱えたまま口を開きかけた私の顔を、生温かいヌメッとした物が下から上へと移動していった。

「っ!?」

 驚いて顔を上げると、その正体に気がついた。
 フェンリルの舌だ。
 あの大きな舌で顔を舐められたようだ。
 すると、不意に脳内に幼い少年のような声が響いた。

『ふふふ。おじちゃんがダメだと言ってもマーキングしちゃった。これでどこにいても居場所が分かるから、いつでも駆け付けられるよ』

『なっ!お前っ!』



 驚愕した声を上げるメイスに、私は何が起きたのか理解出来ずに、口をポカンと開けて立ち尽くしているしかなかった。
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