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第三章
第139話 手の届く範囲で
しおりを挟む「……父上。体が軽くなったような気がします。それに、全身がポカポカと温かくて気力が漲っているような……。今なら走り回れそうな、そんな感じです」
彼のその言葉に、領主様は歓喜に涙を滲ませて全身に視線を走らせると、両手で顔を包み込んだ。
「っ!なんと!ルイス、顔をよく見せておくれ。……顔に赤みがさしている。冷たかった指先も温かい。……もう息苦しいことはないのか?」
薄っすらと赤みがさした顔を見たあと手に触れた領主様は、再び顔を上げて彼に尋ねた。
父親の過剰なスキンシップが恥ずかしかったのか、少し照れくさそうにしながら顔を逸らして口を開いた。
「はい。息苦しさだけでなく、ずっと続いていた痛みも無くなりました。父上、このポーションを作ってくれた方に感謝の気持ちを伝えたいのですが、どちらにおられますか?」
途端に困ったように眉尻を下げて、チラッと私に視線を向けてくる領主様。
誰にも言わないと約束した手前、どう答えたら良いのか困っているのだろう。
貴族は感情を表に出さないよう教育されるとラノベに書かれていたと記憶しているが、家族間では違うのかもしれない。
そう言えば、私は彼に病状を伝えていなかったなと不意に思い出した。
同じ症状で困っている人が居るのだとしたら、そのポーションで治してもらえるようにお願いしよう。
そう心に決めた私は、領主様に話しを持ちかけた。
「領主様。先ず、ご子息のご病気ですが、魔力器官の未発達によるものと判明しました」
話し始めると、私が居たことに気づいていなかったのか、ルイスさんが声を上げずに大きく肩を揺らした。
人生を諦めていたんだものね。
他人に興味を持てるわけがないよね。
今更ながら驚かれたことに内心傷ついたけど、私は領主様に視線を向けて待った。
「……魔力器官の未発達?それは初耳だ。詳しく説明してもらえるか?」
どうやらその言葉を初めて耳にしたらしく、領主様は首を傾げて話しの続きを促した。
私には優秀な鑑定のスキルがあるおかげで容易に情報が手に入るが、医療が発達していないこの世界では、魔法やスキルがあったとしてもそこまで詳しく調べるのは難しいのだろう。
「はい。魔力器官とは体内に巡る魔力を循環させる器官です。その器官が未発達のままですと、魔力を循環させることが出来ずにそのうち亡くなってしまう病気です。その未発達な器官を補うためにこのポーションを飲んでいただきました」
「……なんと。高名な医師ですら病状を突き止められなかったというのに……。ユーリ殿はその年で強いだけでなく博識でもあられたのか……」
感心した様子の領主様に、いいえ、鑑定のスキルのおかげですとは言えない私は、領主様のその発言を無視して本題に移る。
「ところで、十歳未満の子供で原因不明の病気で亡くなったという話しを耳にしたことはありませんか?」
「……ふむ。我が領でも年に一人か二人、原因不明の病で亡くなった子供が居たが……」
記憶の糸を辿るように顎に手を添えていた領主様は、何かに気がついたのかハッとして私に視線を向けた。
私は静かに頷くと、私見を述べた。
「おそらくですが、その亡くなった子供も魔力器官の未発達によるものではと推察します。もし、ご子息と似たような症状が現れた場合、このポーションを二口飲ませれば治るのではないでしょうか」
話しには聞いていたのだろう。
領主様は神妙な面持ちで頷くと、話しの続きを促した。
「そこでご提案があります。ホーリー草はとても希少な薬草なのですよね?」
そう問いかけた私に無言で頷き返す領主様。
私は更に話しを続ける。
「絶対に口外しないとお約束していただけるのでしたら領主様にお渡ししたポーションはお譲りします。それで魔力器官の未発達で亡くなるかもしれない子供たちを助けていただけませんか?もちろん、こちらでポーションは用意いたします。……いかがでしょうか?」
幸い、大鍋で作ったポーションは大量にストックしてある。
領主様が矢面に立ってもらえるなら私が目立つこともないし、面倒事に巻き込まれる心配もないだろう。
「その提案はありがたいが、ユーリ殿はそれで良いのか?名声や富に興味はないと?」
名声は興味ないけど、富かぁ……。
今のところお金に困っているわけでもないし、平穏に暮らせるなら要らないかなぁ。
それに面倒くさいことは苦手なので。
「そうですね。それよりも平穏に暮らせれば十分ですね」
晴れやかに答えた私に領主様はポカンと口を開けた。
貴族は地位や名誉を重んじるというけど、私は貴族じゃないただの平民だ。
そんなことよりも、今も魔力器官の未発達で苦しんでいる子供たちが居るのなら、手の届く範囲で手助けをしたい。
だって、今の私に出来るのはそれくらいしかないのだから。
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