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第56話 つがい?
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毎日のように屋敷に訪れるディラン様に、弟のマーカスはすっかり懐いていた。
男の兄弟がいないから寂しいのだろう。
従兄弟のバリーの時も嬉しそうな様子だったことから、同性で年が近い男友達を欲していたのだと思った。
ディランの方もマーカスを可愛がっているので、父も母も安心して任せている。
「あのフワフワの耳と尻尾素敵ねぇ。獣人って恐ろしいって噂だったけど、そんなことないわね。マーカスがあんなに懐いているんですもの。きっと良い人ね」
母はマーカスと遊ぶディランを眺めて、嬉しそうに微笑む。
父は若干渋い顔をして、二人の様子を見守っていた。
「明日は工場の視察だろう?一緒に行けなくて悪いが、ディラン殿のこと頼んだぞ」
彼が工場の視察がしたいと言い出したので、忙しい父に代わり私が案内することになった。
「はい。失礼のないように気をつけます」
「…いいか、ミリー。くれぐれも二人きりにならないように気をつけなさい。未成年とは言え、ミリーは女性でディラン殿は男性だ。不用意に近づき過ぎないように。可愛いミリーに手を出したらただじゃおかない!」
父が渋い表情をしていたのは、若い男女(しかも、私は未成年)が、二人きりで出掛けることを心配してのことだった。
「お父さま。心配し過ぎです。ディラン様も私もそのようなこと考えていませんよ」
ぶつぶつと呟く父はまだ何か話していたが、私は無視を決め込んだ。
翌朝、宿泊している宿に向かうと、ディラン様が出迎えてくれた。
慌てて馬車から降りようとしたが止められた。
「気にしなくて良いよ。私が大人しく待っていられなかったんだ。それじゃあ、案内を頼む」
馭者に声を掛け、馬車に乗り込み私の前に腰掛けた。
「ここは自然豊かで、人々は思いやりがあって素敵な場所だ。私の生まれ育った所と似ていて居心地が良い。領主である伯爵の人柄が表れているようだ」
窓から人々の行きかう様子や明るい表情を見て、柔らかな笑みで語るディラン様に誇らしい気持ちになる。
「ありがとうございます。そのように仰って頂けると父も私も嬉しいです」
彼の言葉は純粋に嬉しくて、心を温かくしてくれた。
工場に到着した私達は、ベラさんの出迎えを受ける。
「ようこそお越しくださいました。工場の案内をさせていただきますベラと申します。分からないことがございましたら何なりとお申し付けください」
「ありがとう。興味があって伯爵に無理を言ってしまった。邪魔にならないようにするから、いつも通りにしてくれて構わない。今日はよろしく頼む」
ベラさんの案内で工場を一通り見学した後、工場裏の小さなハーブ畑を眺めて質素なベンチで休憩していた。
「本日は簡単に工場をご案内しましたが、獣人の方にはハーブの香りは辛くありませんでしたか?」
身体能力が高い獣人は嗅覚も鋭いはずだから、ずっと気になっていた。
「はは。少しね。でも、工場の皆の楽しそうな顔を見ていたら、そんなに気にならなかったよ」
そう言った彼の顔色は少し悪かったが、本心からの言葉にほっと胸を撫で下ろした。
「そうですか。それは良かったです」
暫く景色を眺めていた彼は、意を決した表情で私に視線を移すと問いかけた。
「…ミリアーナ嬢は番というものを聞いたことがある?」
男の兄弟がいないから寂しいのだろう。
従兄弟のバリーの時も嬉しそうな様子だったことから、同性で年が近い男友達を欲していたのだと思った。
ディランの方もマーカスを可愛がっているので、父も母も安心して任せている。
「あのフワフワの耳と尻尾素敵ねぇ。獣人って恐ろしいって噂だったけど、そんなことないわね。マーカスがあんなに懐いているんですもの。きっと良い人ね」
母はマーカスと遊ぶディランを眺めて、嬉しそうに微笑む。
父は若干渋い顔をして、二人の様子を見守っていた。
「明日は工場の視察だろう?一緒に行けなくて悪いが、ディラン殿のこと頼んだぞ」
彼が工場の視察がしたいと言い出したので、忙しい父に代わり私が案内することになった。
「はい。失礼のないように気をつけます」
「…いいか、ミリー。くれぐれも二人きりにならないように気をつけなさい。未成年とは言え、ミリーは女性でディラン殿は男性だ。不用意に近づき過ぎないように。可愛いミリーに手を出したらただじゃおかない!」
父が渋い表情をしていたのは、若い男女(しかも、私は未成年)が、二人きりで出掛けることを心配してのことだった。
「お父さま。心配し過ぎです。ディラン様も私もそのようなこと考えていませんよ」
ぶつぶつと呟く父はまだ何か話していたが、私は無視を決め込んだ。
翌朝、宿泊している宿に向かうと、ディラン様が出迎えてくれた。
慌てて馬車から降りようとしたが止められた。
「気にしなくて良いよ。私が大人しく待っていられなかったんだ。それじゃあ、案内を頼む」
馭者に声を掛け、馬車に乗り込み私の前に腰掛けた。
「ここは自然豊かで、人々は思いやりがあって素敵な場所だ。私の生まれ育った所と似ていて居心地が良い。領主である伯爵の人柄が表れているようだ」
窓から人々の行きかう様子や明るい表情を見て、柔らかな笑みで語るディラン様に誇らしい気持ちになる。
「ありがとうございます。そのように仰って頂けると父も私も嬉しいです」
彼の言葉は純粋に嬉しくて、心を温かくしてくれた。
工場に到着した私達は、ベラさんの出迎えを受ける。
「ようこそお越しくださいました。工場の案内をさせていただきますベラと申します。分からないことがございましたら何なりとお申し付けください」
「ありがとう。興味があって伯爵に無理を言ってしまった。邪魔にならないようにするから、いつも通りにしてくれて構わない。今日はよろしく頼む」
ベラさんの案内で工場を一通り見学した後、工場裏の小さなハーブ畑を眺めて質素なベンチで休憩していた。
「本日は簡単に工場をご案内しましたが、獣人の方にはハーブの香りは辛くありませんでしたか?」
身体能力が高い獣人は嗅覚も鋭いはずだから、ずっと気になっていた。
「はは。少しね。でも、工場の皆の楽しそうな顔を見ていたら、そんなに気にならなかったよ」
そう言った彼の顔色は少し悪かったが、本心からの言葉にほっと胸を撫で下ろした。
「そうですか。それは良かったです」
暫く景色を眺めていた彼は、意を決した表情で私に視線を移すと問いかけた。
「…ミリアーナ嬢は番というものを聞いたことがある?」
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