63 / 66
第63話 明かされる過去
しおりを挟む
「ミリー。お茶の用意が出来たから飲んで落ち着こう」
ディラン様の声でようやく我に返った私は、いつの間にか用意されていたお茶を一息に飲んで、気持ちを落ちつかせた。
その間、彼はというと、お茶をゆっくり飲みながら私が落ち着くのを待っていた。
私は意を決して尋ねた。
「……ディラン様はいつから前世の記憶を持っていることに気づいたのですか?」
彼はカップをテーブルに置くと、膝の上で手を組んで答えた。
「君と初めて出会った日に思い出した。いや。君の香りが俺の記憶を呼び起こした、が正解かな。確信に変わったのは、君を目の当たりにした時。懐かしい気持ちともう二度と離したくない、という強い想いがこみ上げてきたんだ。自分でも不思議だが、今まで女性にそんな感情を持ったことがなかったのに、君だけはそうは思えなかった。」
そう言うと体の向きを変えて、私の両肩に手を置くと目を見つめて問いかけた。
「…君は、佐原さん?佐原美咲さんだろう?」
そう問われた私は体が大きく飛び跳ねた。
「……え?どうして、私の名前を?あ、あなたは誰?」
否定も肯定も出来ずに、彼の金色の瞳を見つめたまま聞いた。
「俺か?俺は……高槻だ。高槻淳也だ。君の元上司だ」
悪戯が成功した子供のように白い歯を見せて笑う彼は、とても眩しかった。
「えぇっ!?」
そして私は素っ頓狂な声を上げていた。
その後、従者が夕食の準備が整ったことを伝えてきたため、夕食後に話しの続きをすることになった。
食事の間は緊張で、何を食べたかどんな味だったか覚えていない。
「…悪かったな」
部屋に戻るなり謝ってきた彼に、まだ頭の整理が済んでいない私は首を傾げた。
「?何がです?」
「食事前に話したことだ。余計なことを言ってすまない」
前世の記憶を持っている、と言ったことを後悔しているように見えた。
咄嗟に私は否定した。
「いいえ!私の方こそすみません。嫌という訳ではなくて…ただ、本当にただ驚いただけなんです!まさか会えるなんて思ってもみなかったですから。会えて嬉しいです!」
勢いで素直な気持ちが口をついて出ていた。
キョトンとしていた彼の顔が一瞬にして破顔した。
「…本当か?これは夢か?……痛っ!ああ。本当だ。夢じゃない!良かった!良かった!」
彼は自身の頬を抓り確認すると、体全体で喜びを表した。
もちろん、尻尾はブンブンと激しく揺れている。
「…それにしても、高槻さんが獣人だなんて驚きました」
揺れる尻尾を眺めながらそんな言葉が零れた。
「ああ。俺は君に再び出会えたことで、そんなこと忘れていたよ」
素直な感想を満面の笑みで告げられて私の顔は真っ赤に染まった。
ディラン様の声でようやく我に返った私は、いつの間にか用意されていたお茶を一息に飲んで、気持ちを落ちつかせた。
その間、彼はというと、お茶をゆっくり飲みながら私が落ち着くのを待っていた。
私は意を決して尋ねた。
「……ディラン様はいつから前世の記憶を持っていることに気づいたのですか?」
彼はカップをテーブルに置くと、膝の上で手を組んで答えた。
「君と初めて出会った日に思い出した。いや。君の香りが俺の記憶を呼び起こした、が正解かな。確信に変わったのは、君を目の当たりにした時。懐かしい気持ちともう二度と離したくない、という強い想いがこみ上げてきたんだ。自分でも不思議だが、今まで女性にそんな感情を持ったことがなかったのに、君だけはそうは思えなかった。」
そう言うと体の向きを変えて、私の両肩に手を置くと目を見つめて問いかけた。
「…君は、佐原さん?佐原美咲さんだろう?」
そう問われた私は体が大きく飛び跳ねた。
「……え?どうして、私の名前を?あ、あなたは誰?」
否定も肯定も出来ずに、彼の金色の瞳を見つめたまま聞いた。
「俺か?俺は……高槻だ。高槻淳也だ。君の元上司だ」
悪戯が成功した子供のように白い歯を見せて笑う彼は、とても眩しかった。
「えぇっ!?」
そして私は素っ頓狂な声を上げていた。
その後、従者が夕食の準備が整ったことを伝えてきたため、夕食後に話しの続きをすることになった。
食事の間は緊張で、何を食べたかどんな味だったか覚えていない。
「…悪かったな」
部屋に戻るなり謝ってきた彼に、まだ頭の整理が済んでいない私は首を傾げた。
「?何がです?」
「食事前に話したことだ。余計なことを言ってすまない」
前世の記憶を持っている、と言ったことを後悔しているように見えた。
咄嗟に私は否定した。
「いいえ!私の方こそすみません。嫌という訳ではなくて…ただ、本当にただ驚いただけなんです!まさか会えるなんて思ってもみなかったですから。会えて嬉しいです!」
勢いで素直な気持ちが口をついて出ていた。
キョトンとしていた彼の顔が一瞬にして破顔した。
「…本当か?これは夢か?……痛っ!ああ。本当だ。夢じゃない!良かった!良かった!」
彼は自身の頬を抓り確認すると、体全体で喜びを表した。
もちろん、尻尾はブンブンと激しく揺れている。
「…それにしても、高槻さんが獣人だなんて驚きました」
揺れる尻尾を眺めながらそんな言葉が零れた。
「ああ。俺は君に再び出会えたことで、そんなこと忘れていたよ」
素直な感想を満面の笑みで告げられて私の顔は真っ赤に染まった。
331
あなたにおすすめの小説
私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシェリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?
「洗い場のシミ落とし」と追放された元宮廷魔術師。辺境で洗濯屋を開いたら、聖なる浄化の力に目覚め、呪いも穢れも洗い流して成り上がる
黒崎隼人
ファンタジー
「銀閃」と謳われたエリート魔術師、アルク・レンフィールド。彼は五年前、国家の最重要儀式で犯した一つの失敗により、全てを失った。誇りを砕かれ、「洗い場のシミ落とし」と嘲笑された彼は、王都を追われ辺境の村でひっそりと洗濯屋を営む。
過去の「恥」に心を閉ざし、ひまわり畑を眺めるだけの日々。そんな彼の前に現れたのは、体に呪いの痣を持つ少女ヒマリ。彼女の「恥」に触れた時、アルクの中に眠る失われたはずの力が目覚める。それは、あらゆる汚れ、呪い、穢れさえも洗い流す奇跡の力――「聖濯術」。
これは、一度は全てを失った男が、一枚の洗濯物から人々の心に染みついた悲しみを洗い流し、自らの「恥」をも乗り越えていく、ささやかで温かい再生の物語。ひまわりの咲く丘で、世界で一番優しい洗濯が、今始まる。
離婚と追放された悪役令嬢ですが、前世の農業知識で辺境の村を大改革!気づいた元夫が後悔の涙を流しても、隣国の王子様と幸せになります
黒崎隼人
ファンタジー
公爵令嬢リセラは、夫である王子ルドルフから突然の離婚を宣告される。理由は、異世界から現れた聖女セリーナへの愛。前世が農業大学の学生だった記憶を持つリセラは、ゲームのシナリオ通り悪役令嬢として処刑される運命を回避し、慰謝料として手に入れた辺境の荒れ地で第二の人生をスタートさせる!
前世の知識を活かした農業改革で、貧しい村はみるみる豊かに。美味しい作物と加工品は評判を呼び、やがて隣国の知的な王子アレクサンダーの目にも留まる。
「君の作る未来を、そばで見ていたい」――穏やかで誠実な彼に惹かれていくリセラ。
一方、リセラを捨てた元夫は彼女の成功を耳にし、後悔の念に駆られ始めるが……?
これは、捨てられた悪役令嬢が、農業で華麗に成り上がり、真実の愛と幸せを掴む、痛快サクセス・ラブストーリー!
転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ
karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。
しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。
婚約破棄された悪役令嬢の私、前世の記憶を頼りに辺境で農業始めます。~美味しい野菜で国を救ったら聖女と呼ばれました~
黒崎隼人
ファンタジー
王太子アルベルトから「悪役令嬢」の濡れ衣を着せられ、辺境へ追放された公爵令嬢エリザベート。しかし彼女は動じない。なぜなら彼女には、前世で日本の農業研究者だった記憶があったから!
痩せた土地、疲弊した人々――「ならば私が、この地を楽園に変えてみせる!」
持ち前の知識と行動力で、次々と農業改革を成功させていくエリザベート。やがて彼女の噂は王都にも届き、離婚を告げたはずの王太子が、後悔と疑問を胸に辺境を訪れる。
「離婚した元夫婦」が、王国を揺るがす大きな運命の歯車を回し始める――。これは、復縁しない二人が、最高のパートナーとして未来を築く、新しい関係の物語。
【完結】婚約者と仕事を失いましたが、すべて隣国でバージョンアップするようです。
鋼雅 暁
ファンタジー
聖女として働いていたアリサ。ある日突然、王子から婚約破棄を告げられる。
さらに、偽聖女と決めつけられる始末。
しかし、これ幸いと王都を出たアリサは辺境の地でのんびり暮らすことに。しかしアリサは自覚のない「魔力の塊」であったらしく、それに気付かずアリサを放り出した王国は傾き、アリサの魔力に気付いた隣国は皇太子を派遣し……捨てる国あれば拾う国あり!?
他サイトにも重複掲載中です。
悪役令嬢の身代わりで追放された侍女、北の地で才能を開花させ「氷の公爵」を溶かす
黒崎隼人
ファンタジー
「お前の罪は、万死に値する!」
公爵令嬢アリアンヌの罪をすべて被せられ、侍女リリアは婚約破棄の茶番劇のスケープゴートにされた。
忠誠を尽くした主人に裏切られ、誰にも信じてもらえず王都を追放される彼女に手を差し伸べたのは、彼女を最も蔑んでいたはずの「氷の公爵」クロードだった。
「君が犯人でないことは、最初から分かっていた」
冷徹な仮面の裏に隠された真実と、予想外の庇護。
彼の領地で、リリアは内に秘めた驚くべき才能を開花させていく。
一方、有能な「影」を失った王太子と悪役令嬢は、自滅の道を転がり落ちていく。
これは、地味な侍女が全てを覆し、世界一の愛を手に入れる、痛快な逆転シンデレラストーリー。
契約結婚のはずが、気づけば王族すら跪いていました
言諮 アイ
ファンタジー
――名ばかりの妻のはずだった。
貧乏貴族の娘であるリリアは、家の借金を返すため、冷酷と名高い辺境伯アレクシスと契約結婚を結ぶことに。
「ただの形式だけの結婚だ。お互い干渉せず、適当にやってくれ」
それが彼の第一声だった。愛の欠片もない契約。そう、リリアはただの「飾り」のはずだった。
だが、彼女には誰もが知らぬ “ある力” があった。
それは、神代より伝わる失われた魔法【王威の審判】。
それは“本来、王にのみ宿る力”であり、王族すら彼女の前に跪く絶対的な力――。
気づけばリリアは貴族社会を塗り替え、辺境伯すら翻弄し、王すら頭を垂れる存在へ。
「これは……一体どういうことだ?」
「さあ? ただの契約結婚のはずでしたけど?」
いつしか契約は意味を失い、冷酷な辺境伯は彼女を「真の妻」として求め始める。
――これは、一人の少女が世界を変え、気づけばすべてを手に入れていた物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる