星屑のビキニアーマー

ぺんらば

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第1章 ビキニアーマーができるまで

皮の鎧は序盤の装備

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 男子高校生の朝は、目覚めよりも先に身体の一部分が起き上がる。

「ぐはっ! めちゃくちゃリアルでエッチィ夢を見たっ!」

 彼の名前は小須藤コスドウタケル。運動、学力、見た目などは平均値だが、手先の器用さに関しては、クラスで彼の右に出る者はいない。そして、微妙に癖っ毛だ。

 タケルは夢に出てきた少女の姿を思い出す。柔らかそうな白い肌に、防御力の期待できない鎧を装着している。それはまるで下着のような形の鎧で、肌の露出している面積の方が遥かに多い。

「間違いない。あれはビキニアーマーだ。でも、どうして笠原さんがあんな格好を? 同じクラスだけど、会話だってあまりしたこと無いのに」

 タケルの中で笠原雪見は、クラスの数いる女子生徒の一人に過ぎなかった。深く意識したことなど一度も無い。

 雪見はあまり目立つタイプではなく、物静かな生徒だ。テストの成績はそこそこで、運動神経も悪くない。可も無く不可もなく。そんな言葉がしっくりくる生徒である。

「もしかすると、僕って実は笠原さんのことが好きなのか? 今の今まで全然気にもしてなかったけど。夢に出るってことは、きっとそうだよな……」

 男の思考は意外なほどに単純であり、タケルもその例外ではない。女子が微笑みかけてくれただけで自分に気があるものだと思い込んでしまうのだ。夢の中に出てきたのなら尚更、タケルは勝手に運命を感じていた。

「メガネを外した笠原さん、可愛かったなぁ……」

 雪見は普段、メガネをかけている。しかし、夢の中の雪見はメガネをかけていなかった。これがなかなか可愛かったので、タケルはもう一度眠って夢の続きを見たいと思った。しかし、今日は始業式、二度寝している余裕は無い。

 タケルは制服に着替え、食卓へ向かう。一人で朝食をとりながら、スケッチブックに今朝見た夢の映像を描き起こす。

 食パンを咥えながら、ビキニアーマー姿の同級生をひたすら淡々と描いていく。タケルには中学生の妹がいるが、その妹がタケルの後ろを通った時、冷たい視線を兄に向けていたことをタケルは知らない。痛い目で見られながらも、ついにタケルはラフ画を描き切ったのだ。

「よし、こんなもんかな。鎧の細かな部分は帰ってきてから描こう……って、やばいぞ! 遅刻だ……。新学期早々、僕は何をしてるんだ~!」

 牛乳を飲み干し、タケルは慌てて玄関を飛び出した。

 家から高校までは歩いていける距離にある。普段ならのんびり通学するところだが、この日ばかりは遅れを取り戻すために走っていた。

 閑静な住宅街。曲がり角を曲がったその時だった。見知らぬ男が、タケルの目の前に颯爽さっそうと現れたのである。男はタケルよりも頭一つ分身長が高く、年齢もタケルより上のようだ。しかし、問題なのはそこじゃない。男はファンタジー風な鎧を身につけ、腰には平らな長い剣を剥き出しの状態でぶら下げているのだった。

 タケルは男の鎧をまじまじと見た。

「あれは、皮の鎧じゃないか……! ロールプレイングゲームの序盤で手に入る、安価でそこそこ丈夫な鎧だ!」

 コスプレの衣装作りが趣味のタケルは、男のリアルな鎧を見て目を輝かせた。しかし、こんな朝っぱらから街中でコスプレをしている人なんて普通じゃないと思い、タケルは男を無視して進むことに決めた。

「ダメだダメだ……! 家の外ではオタクな趣味を封印するって決めたじゃないか。それに、変な人には関わらないんだ。高校デビューをしてから一年間、僕の毎日は平和だったじゃないか。そうとも……。このまま普通に過ごしていれば、いつか必ず彼女ができるはずさ!」

 タケルは父親の転勤に合わせて高校を選んだ。家族全員でこの街に引っ越してきたのだ。自分の過去を知らない高校で、タケルはな男を演じてきた。コスプレ衣装作りという趣味を隠し、癖っ毛に合う髪型もおしゃれな雑誌で研究した。タケルの高校デビューは成功しているはずなのだ。

「だけど、あの鎧のクオリティーは高いよな……。もっと近くで見てみたい。だって、あの人とはもう二度と会えないかもしれないんだぞ。せめて名刺くらいはもらっておくべきか」

 鎧を着ている人物がどうであれ、あの衣装は超一級品と呼べるものだった。それは、縫い目一つ見ても職人技だと分かるほどに。しかし、タケルは心を鬼にしてグッと堪えた。後ろを振り向かずに走ったのだ。タケルは誘惑に打ち勝った。

 走り去るタケルの後ろ姿を、男は何かを思うようにじっと見つめていた。

 ✳︎  ✳︎  ✳︎

 学校近くの交差点でタケルが信号待ちをしていると、その真横を猛スピードで何かが通り過ぎていった。それはまるで犬のようでもあり、はたまた熊のようにも見えたが、全体的に黒い霧で覆われており、正直なところタケルには良く分からなかった。一つだけハッキリ言えることは、それはめちゃくちゃ獣臭かったということである。

「今のは何だろう? 車を軽く飛び越えて行ったようにも見えたけど……」

 ほんの一瞬の出来事だったが、タケルは足がすくみ、青信号になっても、しばらく呆然としていた。信号が点滅し、慌てて横断歩道を渡ろうとした時、タケルは誰かが隣に立っていることに気づいた。それは、さっきのコスプレ男だった。

 男は躊躇なくタケルに話しかける。

「また会ったな、少年。運命すら感じるぞ」
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