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第一章 居候、始めます
第六話 フラグが立った
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壷の精であるおっさんがいた場所は少し西よりだったけど、今は小屋から真っ直ぐ南に向かっている。
足取りは少し早めだ。
日が暮れ始めていることもあるが、俺が身分証を持っていないことも理由になっている。
門で止められて時間がかかれば門が閉められ、その結果翌日まで野宿になる可能性もあるだろう。
それゆえ、時間的余裕を確保するため早めに歩いている。
まぁそれは問題ない。
むしろ感謝しているくらいだ。
ただ、そろそろ手を離して欲しい。
「見えるかしら? あれが領都【ポット】よ」
「見えます」
「変な名前でしょ?」
「見た目も変です」
「そうでしょ。もちろん、見た目が先よ」
「鍋みたいですね」
「その通りっ! 外壁は普通の円形よね。あの取っ手の部分が、鍋っぽさを表しているわよね!」
そうなのだ。
外壁から二つ飛び出したところがあり、遠目から町全体を見ると鍋に見える。
「それに有名なダンジョン都市だから、いろんな人がいるがいるの。それが余計鍋っぽくなっていると思うの」
闇鍋みたいってことかな。
でも本当にその通りで、この場所を逃亡先に選んだのはダンジョンがあることと、闇鍋みたいな場所だったからだ。
そもそも子爵領なのに、伯爵領規模に繁栄している。
その繁栄している場所に訪れる人の多くは冒険者だ。
冒険者は暗黙の了解で出身など個人情報に関する詮索を互いに禁じ、ギルドも情報漏洩に対して細心の注意を払っているらしい。
だから俺も気にはされるだろうけど、詮索されるということなく生活できると思ったのだ。
「取っ手の部分が有名なダンジョンだから、一度は行ってみるといいわ」
「誰でも入れるんですか?」
「階層制限があるし監視官がつくけど、ギルドに登録していない一般人でも観光することができるわよ」
「そうなんですね。行ってみます」
「それが良いわ」
監視付きは嫌だから当初の予定通り冒険者ギルドに登録するとして、宿をどうするべきか。新人冒険者向けの、ギルド施設宿泊プランというものがあればいいけど。
「手頃の宿ってあります?」
「もちろんあるわよ」
「なんて名前ですか?」
「【双竜の楽園亭】って言うのよ。料理が美味しいの」
「すごい名前ですね」
「冒険者はそういう名前が好きでしょ?」
やっぱり厨二病みたいな人達がいるようで、その人達の琴線に触れるような名前にしているらしい。
「利用したことありますか?」
「えぇ。初めて町に来た時に利用したわ」
「人に聞けば分かりますか?」
「ギルドに聞けば一発よ」
「分かりました。では二つ目はあります?」
「──え? 二つ目? 何で?」
「え? ギルドの覚えも良い優良店で、冒険者受けも考えた名前に食事も美味しいと。普通に考えたら満室だと思うのですが?」
「それは大丈夫よっ」
「えっと……なぜですか?」
「まだデメリットを言ってなかったわね。その店は外壁に近くて、どちらのダンジョンからも遠いのよ。ダンジョンは朝早くから行列を作るくらい人気だから、みんな近くに泊まりたがるのよ。屋台も多く並んでいるしね」
「あぁ、なるほど。じゃあ泊まれなかったら、【双竜の楽園亭】の人に聞いてみます」
「それが一番いいわね」
「じゃあ門を通った後、ギルド、宿の順番で手続きしてくるので、食事は明日でいいですか?」
「いいわよ」
え? いいの? 逃げるかもしれないのに?
「すごく美味しいものを食べてもらいたいから、明日にしてくれるのは助かるわ」
逃げると思っていないと考えているのではなく、逃さない自信があるのか。
まさか、精霊をつける気か?
知覚系技能を全て試してみようかな。
まずは基本の〈魔力感知〉から──。
「どうしたの? もう着くわよ?」
……やめておこう。
眠っている竜を起こすことはない。
「……ちょっと緊張しちゃったみたいです」
「そうなのね。でも私たちに任せておけば大丈夫だからね」
「はい」
「良い子ね」
多分悪い子です。
と思っている内に、自分の番になった。
「次の者っ!」
「二人は問題ない。しかし、この子は?」
俺達は今、ほぼ平民用になっている北門から入っている。
この町はダンジョンのせいで東西に門が作れない。
その結果、北門に多くの人が集中することに。
多くの人の中には入町して欲しくない人もいるため、他領に比べて審査が厳しいらしい。
代わりに人員を多く配置して、待ち時間による混雑を避ける対策をしてくれているらしい。
そして身分証がない俺は、現在進行系で要注意人物ってわけだ。
「この子は田舎から出てきたみたいなの。道に迷っていたみたいだから案内したのよ」
「身分証はどうした? 十二歳なら冒険者証くらい持っているだろ」
「これから作るのよ」
さっきからタメ口だけど大丈夫なのか?
「彼に聞いている」
「だから答えているでしょ? 私が先に聞いたから教えているじゃない。それでは駄目なの?」
「駄目だから聞いている」
「もう一度聞いてあげるわね。本当に駄目かしら?」
「だから──「待て待て待て待て」」
俺も本当に駄目だと思うから、若い衛兵さんに協力しようと思っていた。
でも、仲裁に入る壮年の衛兵が現れた。
しかも若い衛兵を静止するという意味不明な行動を取っている。
「隊長っ! 何故止めるのですか!?」
ホントな。マジで意味不明だぞ。
「彼女が言うならいいんだ。間違いない」
「そんな馬鹿なっ」
「馬鹿?」
「いやいや、部下がな。あなたにそんなことを言うはずがないでしょう? 今の時間は少し新人が多いんです。ですので、少しだけ目を瞑っていただけるとありがたいのですが……」
「そうね。忙しい時間帯だものね。私も配慮が足りなかったわね。ごめんなさい」
「いえいえ、こちらこそ配慮が足りませんで。そちらの子供は、どうしてもこの町で冒険者登録したかった少年なのでしょう?」
「そうなのよ。有名なダンジョン都市で登録すれば箔付けになるもの」
「賢い子ですね。活躍に期待してしまいますよ」
「あら、気が合うわね」
「光栄です。ささっ、どうぞお通りください。ギルドも混んでいると思いますが、できるだけ早く登録しておいた方が面倒がないですからね」
「ありがとう。奥さんによろしくね」
「妻も喜びます」
……いったい何だったんだ?
途中から若い衛兵の口を塞ぎながら話す腰の低い隊長と、終始笑顔で話す美人エルフの会話は、本人を置き去りにして進み、気づいた頃には門を通過していた。
そして俺以上に納得がいかない若い衛兵は、俺たちに視線だけで抗議の念を送っていた。
後々もめないといいなぁ。
足取りは少し早めだ。
日が暮れ始めていることもあるが、俺が身分証を持っていないことも理由になっている。
門で止められて時間がかかれば門が閉められ、その結果翌日まで野宿になる可能性もあるだろう。
それゆえ、時間的余裕を確保するため早めに歩いている。
まぁそれは問題ない。
むしろ感謝しているくらいだ。
ただ、そろそろ手を離して欲しい。
「見えるかしら? あれが領都【ポット】よ」
「見えます」
「変な名前でしょ?」
「見た目も変です」
「そうでしょ。もちろん、見た目が先よ」
「鍋みたいですね」
「その通りっ! 外壁は普通の円形よね。あの取っ手の部分が、鍋っぽさを表しているわよね!」
そうなのだ。
外壁から二つ飛び出したところがあり、遠目から町全体を見ると鍋に見える。
「それに有名なダンジョン都市だから、いろんな人がいるがいるの。それが余計鍋っぽくなっていると思うの」
闇鍋みたいってことかな。
でも本当にその通りで、この場所を逃亡先に選んだのはダンジョンがあることと、闇鍋みたいな場所だったからだ。
そもそも子爵領なのに、伯爵領規模に繁栄している。
その繁栄している場所に訪れる人の多くは冒険者だ。
冒険者は暗黙の了解で出身など個人情報に関する詮索を互いに禁じ、ギルドも情報漏洩に対して細心の注意を払っているらしい。
だから俺も気にはされるだろうけど、詮索されるということなく生活できると思ったのだ。
「取っ手の部分が有名なダンジョンだから、一度は行ってみるといいわ」
「誰でも入れるんですか?」
「階層制限があるし監視官がつくけど、ギルドに登録していない一般人でも観光することができるわよ」
「そうなんですね。行ってみます」
「それが良いわ」
監視付きは嫌だから当初の予定通り冒険者ギルドに登録するとして、宿をどうするべきか。新人冒険者向けの、ギルド施設宿泊プランというものがあればいいけど。
「手頃の宿ってあります?」
「もちろんあるわよ」
「なんて名前ですか?」
「【双竜の楽園亭】って言うのよ。料理が美味しいの」
「すごい名前ですね」
「冒険者はそういう名前が好きでしょ?」
やっぱり厨二病みたいな人達がいるようで、その人達の琴線に触れるような名前にしているらしい。
「利用したことありますか?」
「えぇ。初めて町に来た時に利用したわ」
「人に聞けば分かりますか?」
「ギルドに聞けば一発よ」
「分かりました。では二つ目はあります?」
「──え? 二つ目? 何で?」
「え? ギルドの覚えも良い優良店で、冒険者受けも考えた名前に食事も美味しいと。普通に考えたら満室だと思うのですが?」
「それは大丈夫よっ」
「えっと……なぜですか?」
「まだデメリットを言ってなかったわね。その店は外壁に近くて、どちらのダンジョンからも遠いのよ。ダンジョンは朝早くから行列を作るくらい人気だから、みんな近くに泊まりたがるのよ。屋台も多く並んでいるしね」
「あぁ、なるほど。じゃあ泊まれなかったら、【双竜の楽園亭】の人に聞いてみます」
「それが一番いいわね」
「じゃあ門を通った後、ギルド、宿の順番で手続きしてくるので、食事は明日でいいですか?」
「いいわよ」
え? いいの? 逃げるかもしれないのに?
「すごく美味しいものを食べてもらいたいから、明日にしてくれるのは助かるわ」
逃げると思っていないと考えているのではなく、逃さない自信があるのか。
まさか、精霊をつける気か?
知覚系技能を全て試してみようかな。
まずは基本の〈魔力感知〉から──。
「どうしたの? もう着くわよ?」
……やめておこう。
眠っている竜を起こすことはない。
「……ちょっと緊張しちゃったみたいです」
「そうなのね。でも私たちに任せておけば大丈夫だからね」
「はい」
「良い子ね」
多分悪い子です。
と思っている内に、自分の番になった。
「次の者っ!」
「二人は問題ない。しかし、この子は?」
俺達は今、ほぼ平民用になっている北門から入っている。
この町はダンジョンのせいで東西に門が作れない。
その結果、北門に多くの人が集中することに。
多くの人の中には入町して欲しくない人もいるため、他領に比べて審査が厳しいらしい。
代わりに人員を多く配置して、待ち時間による混雑を避ける対策をしてくれているらしい。
そして身分証がない俺は、現在進行系で要注意人物ってわけだ。
「この子は田舎から出てきたみたいなの。道に迷っていたみたいだから案内したのよ」
「身分証はどうした? 十二歳なら冒険者証くらい持っているだろ」
「これから作るのよ」
さっきからタメ口だけど大丈夫なのか?
「彼に聞いている」
「だから答えているでしょ? 私が先に聞いたから教えているじゃない。それでは駄目なの?」
「駄目だから聞いている」
「もう一度聞いてあげるわね。本当に駄目かしら?」
「だから──「待て待て待て待て」」
俺も本当に駄目だと思うから、若い衛兵さんに協力しようと思っていた。
でも、仲裁に入る壮年の衛兵が現れた。
しかも若い衛兵を静止するという意味不明な行動を取っている。
「隊長っ! 何故止めるのですか!?」
ホントな。マジで意味不明だぞ。
「彼女が言うならいいんだ。間違いない」
「そんな馬鹿なっ」
「馬鹿?」
「いやいや、部下がな。あなたにそんなことを言うはずがないでしょう? 今の時間は少し新人が多いんです。ですので、少しだけ目を瞑っていただけるとありがたいのですが……」
「そうね。忙しい時間帯だものね。私も配慮が足りなかったわね。ごめんなさい」
「いえいえ、こちらこそ配慮が足りませんで。そちらの子供は、どうしてもこの町で冒険者登録したかった少年なのでしょう?」
「そうなのよ。有名なダンジョン都市で登録すれば箔付けになるもの」
「賢い子ですね。活躍に期待してしまいますよ」
「あら、気が合うわね」
「光栄です。ささっ、どうぞお通りください。ギルドも混んでいると思いますが、できるだけ早く登録しておいた方が面倒がないですからね」
「ありがとう。奥さんによろしくね」
「妻も喜びます」
……いったい何だったんだ?
途中から若い衛兵の口を塞ぎながら話す腰の低い隊長と、終始笑顔で話す美人エルフの会話は、本人を置き去りにして進み、気づいた頃には門を通過していた。
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