暗殺者から始まる異世界満喫生活

暇人太一

文字の大きさ
11 / 106
第一章 居候、始めます

第十話  隣人の名前はゴブリン

しおりを挟む
 説教は終わり、娘のナディアも席に着いて帰郷の説明が行われることに。

「そもそも何で勝手に鑑定なんかしたのよ」

「えっと……二人しかいないはずなのに、もう一人気配があったからです」

「はい? 宿屋なのよ。二人なわけないじゃない」

「え? でも、町では閉店したって聞きましたし、フリードも店を閉めたって言ってましたよ」

「……あの子が?」

「えぇ。町の噂だけならともかく、この町に住んでいる弟が言ったことですからね。一緒にいるのが誰か気になりますよ」

「お客さんから家族になったわ。あの子達にも伝えておいて」

「えっ……分かりました」

 うんうんと、満足そうに頷く母親を見て答えが間違っていなくて安心する。

「それで、何かあったの?」

「……はい。私の子供を預かってほしいのです」

「どういうことかしら? 捨てるってこと?」

 話の流れ的に最悪な状況だけども、そのために帰郷したし、娘の安全のために鑑定も行った。無駄だったけど。

「違いますっ! ただ、あの人から……キースから離さないとっ!」

「エルフの国の大使だったかしら? 暴力夫なの?」

「違うと思います……。でも、娘の儀式の後から豹変したのですっ!」

「うーん、よくわからないわね。落ち着いて詳しく話しなさい」

「娘は……ニアは……ハイエルフなんです……」

「「──えっ?」」

「隔世遺伝というものらしく、適性属性も共通の無属性も含めれば八属性と多く、上位属性も持っています。【神字】は一文字なので、人族の中ではハズレと考える者がいるようですが、私たちにとっては不幸中の幸いです」

「それは……」

「このままではいつ売られてしまうか……」

「そこまでする?」

「すでに長期遠征を狙って誘拐されそうになったのですっ! 王都詰めの部下が気づいてくれて事なきを得ましたが……。私一人では守りきれないのですっ!」

 素性が分からず、それでいてかなりの実力者の少年が同居するという状況は不安を煽るが、それでも王都にいるよりは両親の下にいる方が安全だと判断した。
 娘の成長を見ることもできず、離れ離れになってしまうけど、娘には安全な場所で幸せになって欲しかった。

 あわよくば少年を護衛にでもと思わなくもない。
 口には絶対に出せないが、孤児よりも実の娘のほうが大切なのだ。

「あの子を巻き込むことは理解している?」

「はい……。いるとは知らず……」

「そういうことじゃないのよ。巻き込むなら本人の了承が必要でしょ?」

「はい。でも寝ているって……」

「さぁ入っていらっしゃい」

「えっ!?」

 全く気配がなかった。
 いくら防音の結界が張ってあるとはいえ、極秘の話をしている最中に油断するなんてことはありえない。
 気配も魔力も全く知覚できないなんてことは過去一度もなく、ナディアは驚きを隠せないでいた。

「母上は何でっ!?」

「愛よっ!」

「でも、入ってきませんよ。本当にいるんですか?」

「恥ずかしがっているだけよ。ねっ?」

 そういって母が扉を開けると、確かにそこに少年はいた。
 初めは気づかなかったが、とても暗い瞳をしており、暗い部屋の中で見ると背中に氷を滑らせたように体が硬直する。

 直後、自分を猛烈に恥じた。

 どれほど辛いことがあったのか。
 どれほど怖いことがあったのか。
 どれほど愛を求めていたか。

 部下が助けてくれていなかったら、自分の娘も近い未来に同じ瞳をしていたのだろうか。
 そう思うと胸が締め付けられた。
 少年に不義理を働き、さらなる地獄に叩き落とそうとしていたということに自分を許せなくなった。

「先ほどはすみませんでした。この後の展開次第では君を危険に巻き込んでしまうだろう。どうしたらいいか一緒に考えてくれないだろうか」

「あら、素直ね。ようやく王都の毒が抜けたかしら? 昔は優しい子だったものね」

「余裕がなかっただけだろ」

「なるほどね。同じ親だから、私も気持ちはよくわかるわ。だから、私は許してあげる。あなたはどう?」

「……離してくれませんか?」

 クッションのように抱かれているのが恥ずかしいのか、脱出しようと体を捻る少年。
 そして脱出させないどころか頬ずりする母。

「ねぇ、どうなの?」

「ステータスを見られたわけではないので、今回は許します」

「だって。よかったわね」

「ありがとう」

 安心したら少しお腹が空いてきたが、娘の問題が片付いていないため我慢する。

「あの、娘さんの問題を解決するのは簡単です」

「「「えっ?」」」

 最悪国外逃亡も考えていた問題を簡単に解決できると言われ、両親ともども間の抜けた返事をしてしまった。
 あの無表情の父親が驚いたのだ。
 十分な珍事件である。

「それはなぁに?」

「殺せばいいんですよ」

「あ、アウトォォォッ!」

 何を言うんだ、この少年はっ!?

「誘拐犯をですよ?」

 あぁ、そっち。
 それならいいか。いや、良くないか。

「それでも駄目よっ」

「どうしてです?」

 ナディアが混乱している間にも、母と少年の会話は続く。

「簡単に殺生するのはよくないわ」

「ゴブリンと同じですよ。欲望のままに誘拐して、欲望を満たしているんですから。ゴブリン討伐は常設依頼でしたよ?」

「それを言われると……、ねぇ?」

「じゃあ次策です。護衛を付けます」

「それだと同じじゃない?」

「いえ、僕が言ってるのは従魔です。わかりやすい強さの魔獣をつければ、昼間から襲ってこないと思いますよ」

「それは良いわね。どうかしら?」

 従魔や精霊のことは考えていたが、いくらハイエルフでも五歳の幼児に高位の魔獣や精霊との契約は無理だった。

「娘にはまだ無理だ……」

「それは大丈夫です。僕が契約しますから」

「「「えっ?」」」

 人族の子供が高位の魔獣と契約?
 できるのか?

「えっ? できるの?」

「はい。思い当たる魔獣もいるので、これから行ってきます。明日の夜までには戻れると思います」

「門は閉まってるし、まだ深夜よ?」

「門は問題ありませんし、僕は夜の方が早く動けるので」

「わかった。用意する間に弁当を作ろう」

「ありがとうございます」

「気にするな」

「ちょっとっ!」

 厨房に向かう父を追いかけるように母も厨房に向かった。
 結果、少年と二人になったわけだが、正直気まずい。

「美人エルフさんと娘さんを迎えに行った方が良いと思いますよ」

「──あっ! 感謝するっ!」

 美人エルフとは誰だと思ったが、娘を宿屋に預けたままだと思い出し疑問は吹っ飛んだ。

「母上、一緒に来てくださいっ!」

「もうっ! 早く言いなさいよっ!」

 母親と二人宿屋に向かって走っている最中、大切なことを忘れたことを思い出してしまった。

「あっ! お願いしますって言ってない……」

「あっ! 私もいってらっしゃいって言ってない……」

 こういううっかりしているところは似ているのだなと、親子であることを改めて実感するのだった。


 ◆ ◆ ◆


しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

称号は神を土下座させた男。

春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」 「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」 「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」 これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。 主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。 ※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。 ※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。 ※無断転載は厳に禁じます

社畜の異世界再出発

U65
ファンタジー
社畜、気づけば異世界の赤ちゃんでした――!? ブラック企業に心身を削られ、人生リタイアした社畜が目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界。 前世では死ぬほど働いた。今度は、笑って生きたい。 けれどこの世界、穏やかに生きるには……ちょっと強くなる必要があるらしい。

異世界は流されるままに

椎井瑛弥
ファンタジー
 貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。  日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。  しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。  これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
「初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎」  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  神々から貰った加護とスキルで“転生チート無双“  瞳は希少なオッドアイで顔は超絶美人、でも性格は・・・  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  だが、死亡する原因には不可解な点が…  数々の事件が巻き起こる中、神様に貰った加護と前世での知識で乗り越えて、 神々と家族からの溺愛され前世での心の傷を癒していくハートフルなストーリー?  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのか?のんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

湖畔の賢者

そらまめ
ファンタジー
 秋山透はソロキャンプに向かう途中で突然目の前に現れた次元の裂け目に呑まれ、歪んでゆく視界、そして自分の体までもが波打つように歪み、彼は自然と目を閉じた。目蓋に明るさを感じ、ゆっくりと目を開けると大樹の横で車はエンジンを止めて停まっていた。  ゆっくりと彼は車から降りて側にある大樹に触れた。そのまま上着のポケット中からスマホ取り出し確認すると圏外表示。縋るようにマップアプリで場所を確認するも……位置情報取得出来ずに不明と。  彼は大きく落胆し、大樹にもたれ掛かるように背を預け、そのまま力なく崩れ落ちた。 「あははは、まいったな。どこなんだ、ここは」  そう力なく呟き苦笑いしながら、不安から両手で顔を覆った。  楽しみにしていたキャンプから一転し、ほぼ絶望に近い状況に見舞われた。  目にしたことも聞いたこともない。空間の裂け目に呑まれ、知らない場所へ。  そんな突然の不幸に見舞われた秋山透の物語。

スライムに転生した俺はユニークスキル【強奪】で全てを奪う

シャルねる
ファンタジー
主人公は気がつくと、目も鼻も口も、体までもが無くなっていた。 当然そのことに気がついた主人公に言葉には言い表せない恐怖と絶望が襲うが、涙すら出ることは無かった。 そうして恐怖と絶望に頭がおかしくなりそうだったが、主人公は感覚的に自分の体に何かが当たったことに気がついた。 その瞬間、謎の声が頭の中に鳴り響いた。

狼になっちゃった!

家具屋ふふみに
ファンタジー
登山中に足を滑らせて滑落した私。気が付けば何処かの洞窟に倒れていた。……しかも狼の姿となって。うん、なんで? 色々と試していたらなんか魔法みたいな力も使えたし、此処ってもしや異世界!? ……なら、なんで私の目の前を通る人間の手にはスマホがあるんでしょう? これはなんやかんやあって狼になってしまった私が、気まぐれに人間を助けたりして勝手にワッショイされるお話である。

処理中です...