暗殺者から始まる異世界満喫生活

暇人太一

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第三章 雑用、始めます

第七七話 必死の保身

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 子どもの何人かは突然苦しみ出した神父もどきに驚いて泣いていたが、俺のせいではないから無視だ。
 子どもは泣く生き物。
 何もしなくても泣くのだ。
 問題ない。

「おい。こっち来るなよ。共犯だと思われるだろ」

「審判やってたんだから十分共犯でしょ? というか、罪は犯してない」

「アレを見て無罪を主張するのは無理だろ」

「アレは彼の持病だと、僕は思うな。敬虔なる信者である神父様なら、神様がそのうち治してくれるよ」

「お姉様が来る前に治して欲しいな……」

「残念。間に合わなかったみたい」

 神父の魔力放出を感じ取ったシスターを筆頭に、厳しい表情をしたエルフ三傑たちが運動場に駆け込んできた。

「これは一体……?」

「「「…………」」」

 俺達視察組は沈黙を貫くことにした。
 ルークとヴァルは専用回線で『楽しかったぞ』と言ってたから、彼らには説明が不要らしい。

「ママぁっ! 神父様が苦しそうにねっ。なったのっ」

 と、泣いていた子どものうちの何人かがシスターに伝える。

「大変そうでした」

「「…………」」

『お前が言うのかっ』

 便乗して発言する俺に、「マジでっ!?」という視線を向けるテオとエイダンさん。
 専用回線ではルークが爆笑しながらツッコミを入れる。

「ディル? ママ、本当のことを聞きたいなぁ」

「分かりました。ヴァル様、お願いします」

『仕方ないな』

 ポテポテと歩いて来たヴァルは、俺の頭に右手を置き、左手を空中に向けて俺の記憶を映し出した。

 ルイーサさんは冒頭の部分を見て表情を変えた。
 すると、ブルーノさん始め周囲にいた人が少しずつ距離を取り始めた。

「居候……? 家族ごっこ……?」

「僕は、遊び感覚で決闘を申し込む危険性を教えたかっただけなんですっ。決闘はれっきとした契約です。責任を取れるはずもない子供が気軽に行って良いものではないとっ!」

「「…………」」

 テオとエイダンさんの視線は無視し、言い訳を力説させていただく。

「その証拠に手加減してあげたでしょう?」

 ヴァルがその瞬間を巻き戻して映し出してくれる。
 ナイスアシストです。

「そのときに潔く負けを認めていれば、神父様もそのときに乱入して彼を止めていればと思わずにはいられませんっ」

「まぁ……」

 テオも思わずといった感じで、賛同とも取れるような相槌を打ち始めた。

「何故ズルという発言を許し、決闘の続行をさせ、決着を武力を持って邪魔しようとしたのか……。本当に理解に苦しみますっ」

「それはお前が──」

 首を刈ろうとしたとは言わせんぞ? テオ様。

「奴隷になることを賭けておいて、負けそうになると上位者である神父様が登場し、武力で持ってその結果を操作するという悪逆無道な行いっ。神に仕えるものが、卑怯で愚かな契約を子供に課していることを恥だと思えっ」

 さぁ、トドメの一言を言わせて頂こう。

「まぁ悪徳違法奴隷商の手法としては常套でしょう。きっと素晴らしい実績がお有りなんでしょうね」

 直後、シスターと神父から殺気が放出される。
 いくら方向に気をつけていても子供たちにも影響が出ており、既に何人かの子供は泡を吹いて気絶していた。

 こうなることを予想していたからこそ、立ち位置を微妙に調節しておいたのだ。

「それは少々言葉が過ぎるのではないか?」

「そうかな? では、神父様の行動を説明頂いても? それは【調停者】として相応しいかどうかもお願いします」

 神父は絶賛苦しんでいる最中だから、苦しみながら説明してもらおう。もちろん、沈黙は犯罪を肯定しているものとして受け取らせていただく。

「…………」

「おや? 口が聞けないのかな? 映像では話していた気がするんだけど? 都合が悪いことはだんまりかな?」

「……蹴りが、危険だと……感じた」

「寸止めするに決まってるじゃん」

「「…………」」

 テオとエイダンさんからも疑いの視線を向けられるも、寸止めに関しては本当だ。
 代わりに大きな音を鳴らす予定ではあったけど。

「見極められず早とちりした上で、賭けた内容の取り消しを伏してお願いすることもせずに武力を用いる行動は、果たして神官がすることでしょうか? それも自称【調停者】が。理解不能な行動を為さりましたので、てっきり転職なさったのかと。いかがです?」

「……この度は大変申し訳なかった。どうか話し合いの場を設けて欲しい」

「えぇーっ。どうしよっかなぁーー」

 ──と、ゴネて遊びたい。

 しかし、現在進行形で直立不動状態のルイーサさんが気になって即答しかねている。

『主、ナディアが顔見てみてって』

『ルイーサさんの?』

『そう』

 ナディアさんのお知らせは非常に重要であるため、急いで立ち位置をズラして表情を伺ってみた。

「──っ」

 俺は恐怖の共有をしたくて、後ろに立っているテオたちに確認を促す。

 そこには般若様を超えた、能面様がいた。
 瞳から光が消えており、さらに瞳の焦点も合っていない。
 シスターたちの殺気より能面様の表情の方が十分怖かった。

「は、話し合いは今行いましょう」

「感謝する」

「では、持病の発作が出ている神父様は置いといて、まずは諸悪の根源である子供たちを母上の前に召喚してください」

「前に出ろ」

 さすがに決闘をしていたセントくんは逃げられず、子供たちに視線を向けられつつ歩いてきた。

「ひっ」

 そしてルイーサさんの顔を見て尻もちをついた。
 失礼なことをしたからだろうか、ルイーサさんはセントくんから視線を外さない。

「他の人がまだですぅー。あと三人いますよ。僕が手伝っても良いですか?」

「お願いしよう」

 ──【念動】

「確か、ライトとレフト兄弟。それからサクラのサッくんだね」

「「「うわっ」」」

 ちなみに観戦モードの我が家のモフモフたちは、ブルーノさんにおやつをもらってくつろいでいる。
 一番興奮していたときはシスターが謝罪したときで、その後は能面様の記録を取ってテオをからかっているだけだ。テオの夢に出してあげようとしているヴァルに便乗するルーク。
 それを固辞するテオ。
 俺もできることならそちら側に行きたい。

「どうして嫌な言葉を言ったの?」

「そ、それは……みんな言ってるから」

「誰?」

「みんなはみんなで」

「誰?」

 怖すぎる。
 セントくんも恐怖で泣いてるじゃん。

『──仕方ない。蜂蜜のために我が解決してやろう』

 後方でエルフたちによって行われた交渉は実を結んだようで、蜜菓子で餌付けされたヴァルが体を起こしてやる気を見せていた。

『【緑鬼】』

 ん? いつもより魔法陣が大きい?

『神官よ、ルイーサを癒やせ』

 巨体というか、巨デブの神官服を着た熊さんがポテポテ歩いてルイーサさんに近づいていく。
 太っているせいなのか、神官服の前が閉じずモフモフのお腹が露出している。

『落ち着け』

 横から抱きしめようとした熊さん。
 しかしタイミング悪く、『誰?』の質問に答えないことで苛つくルイーサさんの手が熊さんの手を弾く。

『痛い』

「──えっ?」

 熊さんが大きいおかげで俺達の位置からでも悲しそうな表情が窺え、熊さん大好きテオ様が発狂しかけてる。

「ご、ごめんね。わざとじゃないのよ」

 能面様が帰宅し、いつもの優しい表情ルイーサさんが帰って来た。
 心が汚れている俺とは違い、「痛くないでしょ」とは言わない。

『そう? じゃあ仕事する』

「お仕事?」

『ギュッ』

 ルイーサさんを抱きしめてお腹に埋もれさせる巨デブ神官熊。

「ふぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ」

 同時に羨ましすぎて発狂するテオ。
 まぁ気持ちは分かる。
 アレは癒やされそうだから、是非とも体験したい。

『癒せた?』

「ありがとう」

『仕事終わった』

「もう帰っちゃうの?」

『もう一個仕事ある』

「なぁに?」

『熊神様からの神託を伝える』

「熊神様」

『そう』

 言わなくても分かると思うけど、神様の正体はヴァルだ。
 ルイーサさんも気づいているせいか、チラッとヴァルを見た。

『神様も噂を聞いた。ルイーサが傷つくと思ったから既に調査済み。発生源はココ』

「「えっ?」」

 ルイーサさんとシスターが揃って驚く。
 声には出さなかったけど、俺も驚いている。

『犯人はお前だ』







 ◆ ◆ ◆





 大賞の途中から更新が止まって申し訳ありませんでした。
 文字数のノルマも達成できず散々でしたし、お待たせしてしまったことも申し訳なく思っています。

 保存が上手く行かずデータが消えたことと、体調を崩したことで心が折れました。

 言い訳になることは重々承知ですが……。
 引き続きお楽しみ頂ければ幸いです。





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