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クエストを受けよう!
第73話 クエストを受けよう! 『クエスト受注です』
しおりを挟むバロン男爵は獅子の獣人だった。
威厳のある獅子の顔に、ぎょろりと飛び出した目、白い体毛、黄金のたてがみ・髭のある頭に冠をかぶっている。
タキシード姿にステッキを持っており、宝飾で飾られた椅子に腰を掛けていた。
オレたちが部屋に入ると、顔を上げ、こちらをじろりと見た。
「男爵様。冒険者ギルドから冒険者が派遣されてきました。あなた! 名を名乗ってどうぞ。」
召使いのオイヌがオレに言ってきた。
「バロン男爵。オレはジンと言います。冒険者ギルドで依頼を受けてきました。詳しく話をお聞かせください。」
オレたちは頭を下げた。
「ふぅーむ……。その許可証のタグから見ると、Aランクの冒険者か……。ジン……その名、聞き覚えがあるぞ?」
「覚えていただけて光栄です。」
「ああ! 思い出したぞ! 『赤の盗賊団』とやらを成敗した冒険者か!?」
「恐れ入ります。ですが、オレ一人の功績ではありません。『ラ・レーヌ・ドゥ・シバ女王兵団』ならびにアテナ様や他の冒険者たちみんなのチカラがあってこそです。」
バロン男爵はオレをちらりと見た。
「ふーむ。珍しく謙虚な者よ。この世界では自らの功績を喧伝するものが多いのだがな……。では、新進気鋭のジンに我が依頼、任せるとする!」
「は! 光栄に存じます! ……それでは、さっそくですが、農園が荒らされているとお聞きしましたが?」
「うむ。それよ。我の頭を今悩ませておるのは……。この『円柱都市イラム』の西側一帯に我の農園があるのだが、正体不明の害獣に悩まされておるのだ。」
バロン男爵の話によると、農園の被害は相当に大きくて、今年の収穫は絶望的だそうだ。
農園では、さまざまな食物を栽培しており、ハオマ葡萄や西王母の桃、コムギト種の小麦、他にもヒソプ、レーラズといった植物まで幅広い。
『円柱都市イラム』の食糧事情を支えていると言っても過言ではないほどだ。
その農園が荒らされているとは、この冬は『円柱都市イラム』にとって厳しい状況になることが予想されるのは間違いなさそうだ。
なるほど……。ギルドから指定依頼が来るのも仕方がないってわけか。
「はい。冒険者ギルドにて簡単に聞いて来ましたが、魔獣や盗賊などの形跡も残っていないとか?」
「そうなのだ。何らかの痕跡があれば、追跡もできるのだが、この害獣、いや、盗賊かも知れんが、こいつは追跡不可能なのだ。」
「なるほど。では、まずは現場で調査をしてみます。何か見落としたものがあるかもしれません。」
「わかった。農園の警備をしている『バロン・ダンサーズ』の長、魔女ランダに連絡をしておこう。明日以降であればいつでも行ってくれてかまわないぞ。」
「わかりました。では、明日伺いましょう。」
「では。失礼します。」
「うむ。ジン。頼んだぞ!」
バロン男爵に別れを告げ、オレたちは『ウブドの屋敷』を後にしたのだった―。
◇◇◇◇
『霧越楼閣』の3階のマスターの部屋……今は『セラエノ図書館』と呼ばれている……の奥に扉がついていて、外側に建てられている塔部分につながっている。
今はどうなっているのかマスターはご覧にならなかったのですけど、ここには今まで悠久の時をかけて実験してきた際の、実験体や失敗作が数多く収容されているのです。
ワタクシの分身体の1体が、扉の前に立っている。
「さて。オープン・ザ・ドア!」
扉は瞬時に消え去った。
この扉はアストラル物質で作られており、此方と彼方のいずれも同時にロックを外さなければ開かない仕組みになっている、最もセキュリティの高い扉なのです。
それだけ危険なものが格納されている……と言うこともできますが。
ミニ・アイが暗闇の中を進む。
この道は素粒子でさえもまったく通さないストレンジ物質でできており、まったく見えないし、ひとたびその壁に触れたならばその瞬間に消滅してしまうだろう。
しかもこの空間自体が時空の歪みで作られていて、その内部は迷路となっているのだ。
膨大な確率と因果の果ての計算式の末の正解の通路を、ミニ・アイはすいすいと一度も間違わずに進んでいく。
「ここね……。少しはおとなしくなったかしら?」
そう言ってその前の……やはり何もないように見える真の闇の……空間に手を差し出す。
シュン……!
何かの扉が開いた音がした。いや、音なのか波動なのか、この空間では認識者の主観次第だ。
「淡島(AWASHIMA)かい……?」
その者はうずくまっていた。
人型の生物のようだが、頭部に顔はなく、大きな花が開いたかのような口がただ存在していた。
熱帯の世界最大の花・ラフレシアの花のようだ。
異教の神あるいは悪魔の名前として創造されたものである。冥界と関わりのある強力な原始の存在とみなされ、その名前さえもタブーとされた。
「デモ子! そのチカラをマスターに捧げなさい。」
アイがその生物?に声をかけた。
デモ子と呼ばれたその生物は、その大きな口を開き、長い舌をアイに近寄らせ、舐め回した。
アイはまったく気にしていない様子だ。
デモ子の舌がアイから離れ、よだれを垂らしたかと思った瞬間、その舌が一瞬で口の中に格納され、デモ子がその大口を開き叫び声を上げた!
「ッシャアアァアアアアアーーー!!」
アイはその叫び声にもまったく意に返さず、まるでスライムでも見るかのような目でデモ子を見ていた。
「それで? イエスかノーか? はっきりしてちょうだい。まあ、ノーならアナタは存在の必要性はないのだけれども……。」
その言葉を聞いたデモ子はぶるっと震え、その口を閉じた。
「や……やだなぁ。今のは『よっしゃああああ!』って言う喜びの声ですよー。もう! 淡島様ったら、冗談通じないんだから!」
急に回転扉がくるくる回るかのように態度を急変させたデモ子。
「うい。もちろん。淡島様の大切な御方にあたしのすべて、捧げさせてもらいますよ!」
「まあ! ものわかりのいい化け物でよかった! それと、ワタクシのことは今後、アイと呼びなさい。……じゃあ、行きましょうか?」
「へいへーい。じゃあ、アイ様。ひとつだけ! その何かというとすぐに、思念通信でその魂魄消滅プログラムを送信してくるのやめてくれなはれー! ちょっとずつでも消えますやん!
ほら! 今も! 今も流れてきてますやん!」
「……なら、最初からおとなしくすることね!?」
「わかりましたよ! ほんの冗談だってば! はあ。そんなんじゃ、ジン様にも嫌われちゃいますよ?」
ギロリ!
アイの殺気のこもった目がデモ子をにらみつける。
「あ! ああ!! あああ! だから、その魂魄消滅プログラム! 来てるって! 流れて来てるって!」
アイがぷいっと前を向いてボソリと言う。
「マスターはお優しいから、ちょっとやそっとで人を嫌ったりしませんよ。……旧世界の人なのですから……。」
「へいへーい。つかあたしはアイ様の味方ですからね? ええ。そりゃもうジン様との仲、全力で応援させてもらいますから!」
「ふむ。それはいい態度です。後で、おやつを差し上げましょう。」
「おお! おやつ!! 何百万年ぶりかな? 前にあの変なタコみたいな生き物の足をくれた時以来じゃないですかね?」
「ああ。あのタコか。どこかの海に眠ってたヤツね? あの再生能力は貴重でしたね。あ! そこ、1歩ずれると消滅しますよ?」
「ひえええ! ちょっと! アイ様! ちゃんと案内してくださいよ! このストレンジ物質の牢獄、マジでしゃれにならないんですから!」
「黙ってワタクシの後をついてくればよいのです!」
「……って、今のアイ様、小さいから、あたしの歩幅でわかりやすく頼みますよ!」
こうして、なんだかんだ言いながら、デモ子が数億年ぶりに解き放たれたのであった―。
~続く~
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