記憶なし、魔力ゼロのおっさんファンタジー

コーヒー微糖派

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第1章 その男、ゼロ

第4話 零の修羅

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「おうおう、おっさん! 一人で俺たちに挑むつもりかよ!?」

 俺は盗賊団の前に躍り出た。剣や槍で武装した連中が七人……いや、隠れていた奴も合わせて十人いたようだ。
 騒ぎを聞いた住人たちがその様子を眺める。「あの人は誰だ?」といった内容の小言が聞こえる。
 まあ、俺がこの村に来たのは昨日の夜中だ。村の住人からしてみれば部外者同士が争っているように見えるのだろう。

「俺は昨日この村に来たばっかりだし、そもそもそこの不良神官が言ってることもデタラメなんだがな」

 リョウ神官が「ソンナコトナイヨー」などとわざとらしく反論するが、もうこの際無視でいいだろう。

「てめえらみてえな人攫いだか火事場泥棒だかみたいな連中は俺も何となく気に入らねえ。仕方ねえから相手してやるよ」

 この盗賊団が気に食わないのは事実だ。どうにも俺は奴隷を連れたり、弱いと分かっている相手に喧嘩を吹っ掛ける連中が嫌いな性分らしい。

「んだとお!? すかしてんじゃねえぞ! おっさんがよぉお!」

 盗賊の一人が持っている剣で俺の首めがけて斬りかかってくる。周囲の住人は思わず悲鳴を上げる。



 だが、俺はそれをあっさりとしゃがんで回避した。いや、"回避できてしまった"
 体が勝手に反応したし、斬りかかってくる相手の動きが異様に遅く見えた。何故かはわからないが俺の身体が戦い方を覚えているような感覚だった。
 しゃがんだことで丁度相手の懐に俺が潜り込むような形になった。俺の身体は自然と次の動作へと移る。相手の腹に思いっきりパンチを放っていた。

「オボォオ!?」

 殴られた盗賊はすさまじい勢いで吹き飛び、木に激突していた。どうやら俺には武術の心得があるようだ。頭では覚えていなくても体が覚えている。そういえば俺はこいつらと相対した時も特に恐怖を感じなかった。この程度の相手なら勝てそうだ。不思議と俺は自信を手に入れていた。

「来いよ、雑魚共。てめえら全員殴り倒してやるよ」



 それからはあっという間だった。
 盗賊団が逆上して襲い掛かってきたが、難なく迎撃。振り下ろした剣はかわして弾き飛ばし、気絶する程度に一撃加えて無力化。突きつけられた槍は掴んでへし折り、逆に切っ先を相手に突き付けて戦意喪失。
 そうして九人の盗賊団を倒し、残りはリーダーと思われる男だけだったのだが……。

「く、来るんじゃねえ! こいつらがどうなってもいいのか!?」
「ひぃ……! た、助けて……!」
「おやおや」

 リョウ神官と女の奴隷が盗賊団のリーダーに刃を向けられていた。

「リョウ神官……。せめて自分と助けた女の安全ぐらいは何とかしてくれよ……」
「そうだね。さすがにこっちまで被害が来たらボク自ら動くしかないか」

 そう言ってリョウ神官が軽く指先をリーダーの男に向ける。すると雷がリーダーの男に放たれ、あっという間に黒焦げになってしまった。この腐れ不良神官、本当に優秀だったんだな。

「大丈夫。命までは奪ってないよ。ボクも君に合わせておいたから」
「……それはどうも」

 俺が倒した九人も含めてだが、盗賊団は全員死んではいないようだ。確かに相手を殺すのは後味が悪い。俺にはそのあたりの倫理観は備わってくれているようだ。

「おい、てめえら」
「ひ、ひぃ! な、なんでしょうか!?」

 俺は盗賊団のリーダーの頭を掴んで持ち上げ、交渉を持ち掛ける。

「てめえらが連れていた奴隷たちを全員解放しろ。そしたら見逃してやる。断ったらさらに殴る」
「は、はい! どうぞ、ご自由に!」

 いかん、交渉ではなく脅しになってしまった。まあいい。俺は奴隷たちを全員解放した。

「あの! 本当にありがとうございます! 私達、魔王軍から解放されたと思ったら、この盗賊達に攫われて……!」

 奴隷の一人、先程リョウ神官が助けた女が俺のもとに駆け寄って礼を言ってきた。他の奴隷たちも俺のもとに駆け寄ってきて俺に礼を言っていく。
 少し恥ずかしい気もするが、人助けをするのは気分がいいものだ。

「すごいじゃねえか! お前さん武道家だったのか!」
「お、お嬢さん! 君を助けたのはボクなんだけど!?」

 イトーさんも俺のほうに来て賛辞の言葉を述べてくれる。
 リョウ神官は自身が助けた女性に必死にアピールをしている。うん、あいつのことはもういいや。

「あなた様はさぞ名のある武道家様なのでしょう!」
「ありがたや。このように小さき村を救ってくださるとは」

 いつの間にか村の住人たちにも囲まれて俺は何やら祀り上げられていた。流石に少しどころではなく恥ずかしくなってきた。

「しっかし、さっきのお前さんの戦いっぷりはまるで"修羅"だったな」
「シュラ?」
「怖くて恐ろしくてものすごいって感じの言葉だよ。スマートでかっこいい英雄の逆なんじゃない?」

 イトーさんは俺の強さを見て修羅と例えた。リョウ神官は自分がお目当ての女性に見向き去れなくなった腹いせなのか、ものすごく雑で皮肉たっぷりに説明してくれた。

「魔力ゼロであれだけの強さなんだ。さしずめ【零の修羅ゼロのしゅら】とでも名乗ってみるかい?」
「その肩書は物騒すぎねえか?」

 【零の修羅ゼロのしゅら】か。イトーさんは物騒だからと否定的だが、俺は結構しっくりときた。

「いいんじゃねえか、【零の修羅ゼロのしゅら】。かっこいい英雄なんて俺の柄じゃねえし、そっちのほうがドスが利いてて馴染む感じがするな」
「おや? 気に入っちゃうのかい? 皮肉たっぷりに言ったんだけどね」

 知ってるよ。こいつは神より悪魔のほうに仕えてそうな思考回路であることは十分に分かった。

「まあ、本人が気に入ってるなら止はしないけどよ」
「でも【零の修羅ゼロのしゅら】じゃ名前としては呼びづらいね。"ゼロラ"なんて名前はどうかな?」

 リョウ神官が俺の名前として"ゼロラ"という名前を提案してくれた。
 うん。それなら名前としても呼びやすい。
 こうして記憶を失った俺はこの小さな村で"ゼロラ"という名で生活を始めることとなった。
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