記憶なし、魔力ゼロのおっさんファンタジー

コーヒー微糖派

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第4章 王国の影

第38話 追いやられた者達

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 俺とラルフルはジャンに"壁周り"へと案内されていた。

「本当にこんなところにチャン老師がいるのか?」
「まあ、驚くじゃんね。栄えあるルクガイア王国にこんな場所があって、その中にじいちゃんがいるなんて」

 ジャンは俺達をチャン老師の元へ案内してくれるそうだ。

「驚いたと言えばラルフルが男だってことにも驚いたじゃん」
「ジャンさんのフルネームのほうが驚きですよ……」

 どっちもどっちだと思うぞ。

 しばらく歩いていると少し広い場所に出た。貧相だが武術の稽古用の道具がいくつか置かれていた。

「じいちゃん、お客さんじゃん。俺が前に言ってたゼロラさんじゃん」
「おぉ……このような所までよくぞおいで下さいました」

 奥にあった小さな小屋から杖をついた老人が現れた。

「孫のジャンよりお聞きしてるとは思いますが改めて自己紹介を。わしの名はオ・ジー・チャン。かつて王宮にて武術顧問を務めておった者ですじゃ」

 オ・ジー・チャン。孫のジャン同様変わった名前だが、その佇まいは武術の心得がある者ならば、思わず緊張してしまうほど隙が無い。ただの老体ではない。老師と呼ばれ、ジャンから貰った本を書くほどの人物であることが納得できる。

「ふむ……。ゼロラ殿は噂にたがわぬ……いや、噂以上の腕前をお持ちのようですな。拳、蹴り、投げ。あらゆるスタイルを使いこなせる可能性を感じるのう」
「お褒めにあずかり光栄です」

 思わず敬語で返す。チャン老師は見ただけで相手の実力を細かく分析できるのか……。

「それにそちらの少年はかつて勇者レイキース殿と共に旅をしたラルフル殿じゃな。魔法使いを辞めて武闘家になられたか。発展途上じゃが、伸びしろは大きいようじゃ」
「あ、ありがとうございます!」

 ラルフルも緊張して嬉しそうにお礼を言う。やはりラルフルの潜在能力は大きいようだ。

「は、初めて初見で女性と間違われませんでした……!」

 ……嬉しかったのそっちかよ。

「こんな粗末な場所です故、大したもてなしはできませぬが、どうぞごゆっくりと」
「気にしないでくれ。それよりもチャン老師は何故"壁周り"に? 支障がなければお聞かせ願いたい」

 チャン老師は一瞬苦い顔をしたが話し始めてくれた。

「【伝説の魔王】が討伐されたころより、国内の政策は剣と魔法の技術を尊重し、素手による武術はないがしろにされてしまったのじゃ。原因はこの王国に古くから根付く"魔力信仰"。そして泥臭い武術よりも華やかな剣術の発展を貴族が推奨したためじゃ」
「そして不要どころかむしろ邪魔になったチャン老師はここに追いやられたと……」
「うむ」

 だとしたら酷い話だ。戦い方なんてものはいくつもあってこそ相手や場面で選べるものだ。その選択肢を国の方から切り捨てるなんて……。

「それって、国王陛下も承認したのですか?」
「結果的に認めちゃったじゃんけど、"認めざるを得なかった"状況だって聞いたじゃん」

 ラルフルの問いにジャンが答える。

「認めざるを得なかった?」
「陛下は武術の発展の中止、そしてわしの解任には最後まで反対しておられた。ただ、魔王の脅威がなくなったことで貴族の主張に歯止めが利かなくなってのう。結局貴族の意見に従わざるを得なくなった。陛下も苦い思いをしておったじゃろうて」

 国王陛下……ルクベール三世でも止められないほど貴族たちの発言力は膨れ上がってるってことか。

「誤解なきよう申しておくが、現国王・ルクベール三世は決して暗君にあらず。陛下は恐らく誰よりもこの国の現状を憂いておる。じゃが、陛下の思いも今は直属の貴族達によって邪魔をされ、身内で足の引っ張り合いじゃ」

 どうにもこの国の問題は根が深い。
 "勇者と魔王の物語"ばかりに目を向けられて、その体面を守ろうとするあまり、国力は緩やかに低下しているようだ。

「しかしのう、面白いこともあるのじゃ。……ゼロラ殿にラルフル殿。お主ら二人に今日会えた」

 俺とラルフルに会えたことが面白いこと?

「わしにはわかる。お主ら二人は今日この"壁周り"を見て『何とかしなければ』と思ってくれた。詳しくは分からぬが、味方もいるのじゃろう。お主らならば、この国を変えてくれるかもしれん」

 そう言ったチャン老師の目には強い期待が込められていた。

「買いかぶりすぎだぜ。俺は自分の手が届く範囲なら守れるが、国中に手は届かねえよ」
「フォフォフォ。じゃからこそラルフル殿をはじめとする味方も必要になるじゃろう」
「そんな……自分に期待されましても……」
「無理にとは言わぬ。じゃが、お主らがこの国に対して抱いた気持ちを忘れずに抱いておいてほしい。フォフォフォ」

 それだけ言い残してチャン老師は小屋へと戻っていった。

「じいちゃんがあそこまで誰かに期待するところなんて初めて見たじゃん。二人とも相当気に入られたみたいじゃん」
「その言葉、ありがたく受け取っておくぜ」
「自分も何かできることがないか考えてみます!」

 チャン老師から期待された俺とラルフルは気持ちを入れなおして再び"壁周り"の散策へと戻った。

◇◇◇

「じいちゃんも珍しいじゃんね。そんなにあの二人が気になるじゃんか?」
「うむ。あの二人を見ていると若い日のことを思い出したのじゃ……」

 チャン老師が感慨深く語る。

「一歳の頃、初めて立ち上がれた日のことを……!」
「遡り過ぎじゃん!? てか、なんで覚えてるじゃん!?」
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