記憶なし、魔力ゼロのおっさんファンタジー

コーヒー微糖派

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第6章 少年少女の思いの先

第62話 聖女の胸の内

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「お、降ろしてください! こんなことをしてただで済むと思っているのですか!?」
「…………」
「黙ってないで何かおっしゃってください!」
「…………」
「……いい加減降ろせ! このおっさん!」
「それだけしゃべれるようなら十分そうだな」

 ミリア様を抱きかかえて聖堂内を走っていた俺だが、ミリア様の口調が変わったところで人のいない部屋に入って彼女を降ろした。

「アタシをいきなり無理矢理お姫様抱っこするってどういう了見よ!? アタシはアイツ以外の人間にそんなこと……!」
「"アイツ"ってのは、ラルフルのことだな?」
「!? そ、それは……」

 ミリア様が顔を赤くしながら恥ずかしがる。やはりミリア様はラルフルのことを本気で嫌ってるわけじゃないみたいだな。むしろ好いてる。

「聖女ミリア様。突然の無礼をお許し願いたい。だが、俺もラルフルの知り合いとして、あなた達の仲が険悪になるのは見ていられなかったもので」
「ハァ……"ミリア"でいいわよ。下手な敬語もいらないわ。ゼロラさんにはラルフルもお世話になってるみたいだしね」

 ならお言葉に甘えさせてもらおう。

「ミリア。正直に話してくれ。なんでラルフルを遠ざけるような真似をした?」
「……アイツを守るためよ。アタシの近くにいたら、アイツが危険にさらされる……」

 ミリアと一緒にいることがラルフルにとって危険だと?

「つい先日よ。アタシ、婚約することになったの」
「婚約? それはまた急な話だな。相手は誰だ?」
「ルクガイア王国貴族、オジャル伯爵よ。一方的に婚約を申し込まれたの」

 聞けばオジャル伯爵はミリアに『一目惚れした』とか言って無理矢理婚約を迫ったらしい。ミリアは嫌々ながら同意したそうだ。

「嫌なら断ればよかったじゃねえか。それに相手が伯爵なら、侯爵のガルペラに頼むことも……」
「それができるならそうしたいわよ! でも、オジャル伯爵のバックにはボーネス公爵がいるのよ!」

 ミリアが目に涙を浮かべながら訴える。伯爵のバックに公爵か……。爵位上、ガルペラでも簡単に手出しはできないな。

「それに……ボーネス公爵はアタシに言ってきたのよ……。『もしオジャル伯爵との婚約を断れば、ラルフルという少年が死ぬことになる』って……!」

 怒りと恐怖が混じった震え声。必死に耐えながらもミリアは話を続ける。

「アナタも分かってるでしょ? アタシはラルフルのことが好きなの。女の子に間違われるような容姿だけど、アイツはアタシにとって、誰よりも男らしい人なの。勇敢で、誠実で、強くて、優しくて……。そんな……そんなアイツがアタシのせいで殺されるなんて……そんなの見過ごせるわけないじゃない!!」

 胸の内を暴露するミリア。だからラルフルを遠ざけるような真似をしたのか。
 あわよくば自らが憎まれるような形でラルフルと別れて、二度と自身に近づかないようにする。そうやってラルフルを守ろうとしたのか。

「お前の気持ちはよく分かった。だが、こっちもその話を素直に聞くつもりはない。ラルフルはお前に別れを告げられた時、自殺しようとするまで追い込まれてたんだぞ」
「え!? 何考えてるのよ、あのバカは!?」
「お前が言えた義理でもないだろ」

 グゥの音も出ないといった表情のミリア。自らがラルフルを守るために放った言葉は、ラルフル自身の心をどん底まで追い込んでしまっていたのだから。

「ミリア。お前の素直な気持ちを言え。"守るため"だとかいう偽りじゃない。本当の気持ちをだ」
「ア、アタシは……アタシは……!」

 こみ上げる気持ちを吐き出すように、ミリアが答える。

「アタシは! ラルフルにもう一度会いたい! 会って謝りたい! ずっと一緒にいたい! そして……今度こそハッキリ言いたい! 『アタシはラルフルのことが好きだ』って!!」
「その気持ちだけで十分だ。俺がその願いを叶えてやる」

 これでやることが決まった。

「次にそのオジャル伯爵に会うのはいつだ?」
「明日……。王都に婚姻届けを出しに行く予定よ」

 時間は少ない。だが、ないわけでもない。

「ならば明日、ラルフルに花嫁を連れ去りに行かせるぜ」
「そ、そんなの危険よ!」
「お前はあいつと親しいんだろ? だったら信じろ。あいつがお前の婚姻を聞けば、諦めるようなことはしない」

 もちろん最悪の場合は俺が手助けに入るつもりだ。だが、ラルフル自身も決して弱くはない。

「分かった……信じるわ。ラルフルのことをお願いね、ゼロラさん」
「言われるまでもねえよ」

 俺はラルフルにこのことを伝えるために帰ろうとした。

 ……帰ろうとしたのだが、聖堂内はまだガルペラとリョウ神官の追いかけっこでパニック状態だ。

「……今回の一件は"聖女"ミリアの名において不問といたします。ゼロラ様とガルペラ侯爵が無事にお帰りいただけるよう、私の方で取り繕います」
「……すまん」

 ミリアが聖女モードで騒動を抑えてくれた。
 俺とガルペラは無事に聖堂を出て宿場村に帰ることができた。

 帰り道の馬車の中でガルペラにずっと愚痴を言われたけど。
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