78 / 476
第7章 家族
第78話 不穏
しおりを挟む
「こんなはずではなかったのでおじゃる! こんなはずでは……!」
王都・貴族街の屋敷でオジャル伯爵は焦っていた。
先日のスタアラ魔法聖堂の一件からなんとか逃げ出せたものの、ボーネス公爵からは見限られそうになっていた。
ミリアとの縁談は破談となり、ボーネス公爵から見たオジャル伯爵の価値が大きく下がってしまったのだ。
「ボーネス公爵に見限られそうなこともまずいでおじゃるが、問題は母上でおじゃ……!」
オジャル伯爵はボーネス公爵よりも自身の母親を恐れていた。
母からは『伯爵家存続のために早急に結婚せよ』と迫られている。そんなところにボーネス公爵から飛び込んできたミリアとの縁談はまさに渡りに船であった。
だがその縁談が破断した以上、早く次の縁談を探さないと母の雷がいつ降るか分からない。
「ブヒヒヒ。お困りのようだな、オジャル伯爵。なんならおでが手を貸してやろうか?」
「おお! 我が友、オクバ殿!」
オジャル伯爵が友と呼んだオクバという男は身の丈2メートル以上はあるオークであった。
元魔王軍の幹部で亜人隊隊長。密かに裏でオジャル伯爵とつながっている魔王軍の残党だ。
「人間の女の紹介ならいい女がいる。昔魔王様の下にいたころに捕まえた奴隷なんだが、かなりの別嬪さんだ。魔王軍解散のおりに逃げられちまったが、最近その足取りがつかめてな」
「伯爵家の存続にかかわる話でおじゃ。ただの女ではだめでおじゃ」
「その女は元々辺境の地の領主の娘で、元勇者パーティーの一員の姉でもある。及第点ぐらいの身分はあると思うど?」
「ほう……。ならばその娘と婚約するのもよいでおじゃるな。して、オクバ殿に連れてこれるでおじゃるか?」
オクバは自信満々の笑みで答える。
「心配ないど。あの女は元々"魔王軍に従った"弱みがある。そいつを言えば、ついてくる他あるまい。ブヒヒヒヒ!」
「お主も悪でおじゃるのう。ならば任せるでおじゃ。早うその娘を連れてくるでおじゃ。ホホホホ!」
オジャル伯爵とオクバは下卑た笑いを上げながら計画を立てた。
「オジャルの旦那のためにも必ず連れてきてやるど。……裏切り者のマカロンお嬢ちゃんをよ」
■
「【虎殺しの暴虎】を探るつもりが、とんでもないものを釣り上げちまったな……」
「前隊長さ残すた"盗聴器"ば役に立ちょったばいね」
オジャル伯爵邸から少し離れたところで"盗聴器"で二人の会話を盗み聞ぎしていた五人の男、黒蛇部隊。
国王の命令により【虎殺しの暴虎】を探るために雇い主と思われるジャコウに肩入れするボーネス公爵を探ろうとするも、中々近づけなかったため、その配下であるオジャル伯爵を調べていたところであった。
「しかし今の会話……"マカロン"って名前が出たよな? 会話の内容から十中八九ラルフルの姉貴のマカロンのことで間違いないだろう。しかも攫うつもりだ」
黒蛇部隊隊長のジフウはとある事情でマカロンのことを知っている。ラルフルがマカロンの弟であることも含めてだ。
「ヘイ、サー・ジフウ。ディスモーメントはオールド・サーにもトークするがニードね」
「……トム。訳せ」
「押忍。この出来事は前隊長にも報告する必要があるで、押忍」
アーサーの提案、及びそれを訳したトムはこのことを黒蛇部隊の前身である、ルクガイア王国騎士団二番隊の前隊長にも報告すべきだと考えた。
「じゃげ、前隊長ば素直に動かいね? あん人ばテコロンさ山だ籠りぱけ」
「……ボブ。訳せ」
「……だガ、前隊長が素直に動くだロウカ? アノ人はテコロン鉱山に籠りっぱなしダ」
副隊長ポール、及びその話を訳したボブは前隊長が動いてくれるかを心配する。
「ともかく報告は必要だろ。後でこのことを知って怒り狂われたら、この国が滅んじまう」
ジフウの発言に他の四人も同意する。黒蛇部隊は元二番隊隊長の恐ろしさをよく分かっている。"マッドサイエンティスト"とも称され、魔法とは異なる科学の力を駆使し、追放されて今なお戦力を密かに拡大しているという噂もある。
「ポール。お前は元二番隊隊長の"ドク"にすぐ連絡を入れに行け。トムはオジャル伯爵を、ボブはオクバを追え。俺とアーサーは手分けしてマカロンを探しに行くぞ」
この話を聞いてしまった以上、"国王直轄黒蛇部隊"としてではなく、"元ルクガイア王国騎士団二番隊"として独断で動くことをジフウは決断した。
「分かったじゃけ。時間ばちいとかかるけん、あん人ば伝えに行くばい」
「オーケー。レディ・マカロンは必ずガードするね」
「押忍、オジャル伯爵の方は任せて、押忍」
「……隊長。オクバを追うにしてもダ、俺一人では亜人隊を追い続ける保証ができナイ」
「それについてはできる範囲でいい。亜人隊は衰えたとはいえ数も揃った精強だ。無理せず何かあったら俺に"無線"で連絡を入れろ」
ボブが追うことになる元魔王軍亜人隊隊長オクバは今も魔王軍の残党を集めて亜人隊を率いている。その実力は黒蛇部隊でも勝てるか分からない。深追いはせずに動向をジフウに連絡するように伝えた。
「不穏だな……。マカロンの身に何かあってからじゃ遅い。それこそ"ドク"が本気でこの国を潰しにかかっちまう……」
王都・貴族街の屋敷でオジャル伯爵は焦っていた。
先日のスタアラ魔法聖堂の一件からなんとか逃げ出せたものの、ボーネス公爵からは見限られそうになっていた。
ミリアとの縁談は破談となり、ボーネス公爵から見たオジャル伯爵の価値が大きく下がってしまったのだ。
「ボーネス公爵に見限られそうなこともまずいでおじゃるが、問題は母上でおじゃ……!」
オジャル伯爵はボーネス公爵よりも自身の母親を恐れていた。
母からは『伯爵家存続のために早急に結婚せよ』と迫られている。そんなところにボーネス公爵から飛び込んできたミリアとの縁談はまさに渡りに船であった。
だがその縁談が破断した以上、早く次の縁談を探さないと母の雷がいつ降るか分からない。
「ブヒヒヒ。お困りのようだな、オジャル伯爵。なんならおでが手を貸してやろうか?」
「おお! 我が友、オクバ殿!」
オジャル伯爵が友と呼んだオクバという男は身の丈2メートル以上はあるオークであった。
元魔王軍の幹部で亜人隊隊長。密かに裏でオジャル伯爵とつながっている魔王軍の残党だ。
「人間の女の紹介ならいい女がいる。昔魔王様の下にいたころに捕まえた奴隷なんだが、かなりの別嬪さんだ。魔王軍解散のおりに逃げられちまったが、最近その足取りがつかめてな」
「伯爵家の存続にかかわる話でおじゃ。ただの女ではだめでおじゃ」
「その女は元々辺境の地の領主の娘で、元勇者パーティーの一員の姉でもある。及第点ぐらいの身分はあると思うど?」
「ほう……。ならばその娘と婚約するのもよいでおじゃるな。して、オクバ殿に連れてこれるでおじゃるか?」
オクバは自信満々の笑みで答える。
「心配ないど。あの女は元々"魔王軍に従った"弱みがある。そいつを言えば、ついてくる他あるまい。ブヒヒヒヒ!」
「お主も悪でおじゃるのう。ならば任せるでおじゃ。早うその娘を連れてくるでおじゃ。ホホホホ!」
オジャル伯爵とオクバは下卑た笑いを上げながら計画を立てた。
「オジャルの旦那のためにも必ず連れてきてやるど。……裏切り者のマカロンお嬢ちゃんをよ」
■
「【虎殺しの暴虎】を探るつもりが、とんでもないものを釣り上げちまったな……」
「前隊長さ残すた"盗聴器"ば役に立ちょったばいね」
オジャル伯爵邸から少し離れたところで"盗聴器"で二人の会話を盗み聞ぎしていた五人の男、黒蛇部隊。
国王の命令により【虎殺しの暴虎】を探るために雇い主と思われるジャコウに肩入れするボーネス公爵を探ろうとするも、中々近づけなかったため、その配下であるオジャル伯爵を調べていたところであった。
「しかし今の会話……"マカロン"って名前が出たよな? 会話の内容から十中八九ラルフルの姉貴のマカロンのことで間違いないだろう。しかも攫うつもりだ」
黒蛇部隊隊長のジフウはとある事情でマカロンのことを知っている。ラルフルがマカロンの弟であることも含めてだ。
「ヘイ、サー・ジフウ。ディスモーメントはオールド・サーにもトークするがニードね」
「……トム。訳せ」
「押忍。この出来事は前隊長にも報告する必要があるで、押忍」
アーサーの提案、及びそれを訳したトムはこのことを黒蛇部隊の前身である、ルクガイア王国騎士団二番隊の前隊長にも報告すべきだと考えた。
「じゃげ、前隊長ば素直に動かいね? あん人ばテコロンさ山だ籠りぱけ」
「……ボブ。訳せ」
「……だガ、前隊長が素直に動くだロウカ? アノ人はテコロン鉱山に籠りっぱなしダ」
副隊長ポール、及びその話を訳したボブは前隊長が動いてくれるかを心配する。
「ともかく報告は必要だろ。後でこのことを知って怒り狂われたら、この国が滅んじまう」
ジフウの発言に他の四人も同意する。黒蛇部隊は元二番隊隊長の恐ろしさをよく分かっている。"マッドサイエンティスト"とも称され、魔法とは異なる科学の力を駆使し、追放されて今なお戦力を密かに拡大しているという噂もある。
「ポール。お前は元二番隊隊長の"ドク"にすぐ連絡を入れに行け。トムはオジャル伯爵を、ボブはオクバを追え。俺とアーサーは手分けしてマカロンを探しに行くぞ」
この話を聞いてしまった以上、"国王直轄黒蛇部隊"としてではなく、"元ルクガイア王国騎士団二番隊"として独断で動くことをジフウは決断した。
「分かったじゃけ。時間ばちいとかかるけん、あん人ば伝えに行くばい」
「オーケー。レディ・マカロンは必ずガードするね」
「押忍、オジャル伯爵の方は任せて、押忍」
「……隊長。オクバを追うにしてもダ、俺一人では亜人隊を追い続ける保証ができナイ」
「それについてはできる範囲でいい。亜人隊は衰えたとはいえ数も揃った精強だ。無理せず何かあったら俺に"無線"で連絡を入れろ」
ボブが追うことになる元魔王軍亜人隊隊長オクバは今も魔王軍の残党を集めて亜人隊を率いている。その実力は黒蛇部隊でも勝てるか分からない。深追いはせずに動向をジフウに連絡するように伝えた。
「不穏だな……。マカロンの身に何かあってからじゃ遅い。それこそ"ドク"が本気でこの国を潰しにかかっちまう……」
0
あなたにおすすめの小説
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……
タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。
異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!
ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!?
夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。
しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。
うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。
次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。
そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。
遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。
別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。
Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって!
すごいよね。
―――――――――
以前公開していた小説のセルフリメイクです。
アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。
基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。
1話2000~3000文字で毎日更新してます。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
【改訂版アップ】10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~
ばいむ
ファンタジー
10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~
大筋は変わっていませんが、内容を見直したバージョンを追加でアップしています。単なる自己満足の書き直しですのでオリジナルを読んでいる人は見直さなくてもよいかと思います。主な変更点は以下の通りです。
話数を半分以下に統合。このため1話辺りの文字数が倍増しています。
説明口調から対話形式を増加。
伏線を考えていたが使用しなかった内容について削除。(龍、人種など)
別視点内容の追加。
剣と魔法の世界であるライハンドリア・・・。魔獣と言われるモンスターがおり、剣と魔法でそれを倒す冒険者と言われる人達がいる世界。
高校の休み時間に突然その世界に行くことになってしまった。この世界での生活は10日間と言われ、混乱しながらも楽しむことにしたが、なぜか戻ることができなかった。
特殊な能力を授かるわけでもなく、生きるための力をつけるには自ら鍛錬しなければならなかった。魔獣を狩り、いろいろな遺跡を訪ね、いろいろな人と出会った。何度か死にそうになったこともあったが、多くの人に助けられながらも少しずつ成長し、なんとか生き抜いた。
冒険をともにするのは同じく異世界に転移してきた女性・ジェニファー。彼女と出会い、ともに生き抜き、そして別れることとなった。
2021/06/27 無事に完結しました。
2021/09/10 後日談の追加を開始
2022/02/18 後日談完結しました。
2025/03/23 自己満足の改訂版をアップしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる