記憶なし、魔力ゼロのおっさんファンタジー

コーヒー微糖派

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第8章 気付き始めた思い

第99話 世界終焉の予感

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「ふんふ~ん。クフフフ~」

 リョウ大神官の様子がおかしい。
 出かけていたようだが、聖堂に戻ってくるやいなや、自室で服を探し始めた。

「う~ん。フリフリの服は合わないかな? やっぱりここは清楚系で……」

 アタシとシスター達は扉の隙間からリョウ大神官の様子を伺っているが、気付いていないようだ。

「ど、どうしちゃったんでしょう、リョウ大神官」
「ものすごく嬉しそうに服を選びながら鏡の前に立ってますよ……」
「落ち着きなさい、あれはきっとアタシに着せたい服でも選んでるのよ」

 リョウ大神官の普段の行動を考えれば、アレはきっとアタシに着せる服を選んでるだけに違いない。きっとそうだ。

「おや? ミリア様じゃないか。丁度よかった。聞きたいことがあるんだよね」

 リョウ大神官がアタシ達に気付いた。ほら、やっぱりアタシに着せる服を選んで――

「白のワンピースと水色のワンピース。どっちがボクに似合うと思う?」

 ――今、コイツは何て言った?

「き、聞き間違いでしょうか? リョウ大神官が着る服を選んでるのですか?」
「ミリア様に着せたい服なんですよね?」
「いやいや、ボクが着る服だよ」

 …………。


 世界が……終わる!!

 あのリョウ大神官が自分の服を選んでる!? 普段は白衣しか着てないような人間が!? 気に入った相手に無理矢理着せて悦に浸ろうとする"あの"リョウ大神官が!?

「あ、ありえません……。どんな天変地異よりもありえない光景が今目の前に……!?」
「神よ! どうか我らをお救い下さい!」
「審判の日が来てしまったのね……」
「君達かなり失礼なこと言ってるよね?」

 アタシたちが世界の終焉を覚悟しているとリョウ大神官にツッコまれた。普段とは逆の光景ね……。
 どうやらリョウ大神官は本当に自分で着る服を選んでいるようだ。

「でもなんで急にオシャレなんか始めたのよ?」
「ふむ。それについてなんだが、どうやらボクは恋しているようなんだ」

 ……リョウ大神官が恋? やっぱり世界の終焉が近づいてるんじゃ……。

「また失礼なことを考えられてそうなので、先に断っておくよ。断じて世界の終焉なんてものは来ない」

 否定された。

「それにしてもアンタが誰に恋してるっていうのよ?」
「ゼロラ殿さ」
「あー! やっぱりリョウ大神官もゼロラさんのこと好きだったんですね!?」

 リョウ大神官とゼロラさんって確かに仲が良かったわよね。普段は悪態をつき合ってるみたいだけど、それも"喧嘩するほど仲がいい"って感じだったわ。それでリョウ大神官も自らの気持ちに気付いたってところかしら。

「でもマカロンさんもゼロラさんのことが好きってラルフルから聞いたけど?」
「当のマカロンちゃん本人は自身の気持ちに気付いてないみたいだけどね。でもこのままゼロラ殿にボクの思いだけを伝えに行くのはフェアじゃない。そのあたりも考えて告白しようと思ってる」

 『フェアじゃない』……か。リョウ大神官は変な所で律儀というかなんというか。とりあえずマカロンさんのことも考えて何か行動するつもりらしい。
 コイツの恋路を邪魔するのは野暮ね。ゼロラさんが誰を選ぼうと、部外者のアタシが口を挟むことなんてないわ。

「あの~、お取込み中すみません。リョウ大神官宛てに手紙が届いているのですが……」

 アタシたちの話の空気に割り込みづらかったのか、門番が遠慮しながら部屋に入ってきた。

「おや? ボクに手紙かい? どれどれ、ふむふむ。む……」

 門番から受け取った手紙を読んだリョウ大神官の顔が険しくなった。

「何が書いてあるのよ?」
「ボクへの"魔幻塔"への転属届だね。差出人はボーネス公爵か」

 "魔幻塔"はスタアラ魔法聖堂のように魔法を研究している場所だが、こことの最大の違いは"生活向上"ではなく"戦力拡充"を目的とした魔法を研究しているということだ。ボーネス公爵をはじめとする貴族達も"魔幻塔"への協力は惜しんでおらず、リョウ大神官にとっては栄転ともいえる。
 それにしてもボーネス公爵がなんでリョウ大神官に……?

「どうやらこの間、暴れすぎちゃったせいで目をつけられたらしいね」

 アタシとオジャル伯爵の婚約騒動。その時リョウ大神官は前線に立って盛大にその魔力を披露し、ボーネス公爵たちを退けていた。

「断りなさい。ボーネス公爵に従う必要なんてないわ」
「いや……。ここでボクがごねたらスタアラ魔法聖堂にまで迷惑がかかっちゃうね」
「でも、そうなったらアンタ、ゼロラさんに会えなくなるかもしれないわよ!?」

 "魔幻塔"はこことは違い、王国の実権を握る貴族達の管理下にある。もしそこに配属されれば、リョウ大神官はゼロラさんに会えなくなるかもしれない。

「この程度のことでゼロラ殿をあきらめる気はないよ。でも……準備することは増えちゃったかな……」

 リョウ大神官は窓の方を見るとアタシ達を退室させた。

 彼女が窓の方に振り替える瞬間、涙が見えたような気がした。
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