記憶なし、魔力ゼロのおっさんファンタジー

コーヒー微糖派

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第9章 激突・ギャングレオ盗賊団

第117話 隻眼の凶鬼が生まれた日

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「サイバラ君は完全に負けてしまったようですね」
「せやな~。あいつもいい線まで行けとったのにな~」

 俺が待ち構える部屋の前からはサイバラとゼロラはんが戦っとった光景がよう見える。向こうからは都合よく見えへん。
 サイバラがあないな奥の手を隠し持っとったことにも驚きやが、それを打ち破るゼロラはんも大したもんや。

「それにしてもサイバラの奴、戦う前からえらい消耗しとったみたいやが?」
「報告によるとこれまでに六回出撃して六回とも撤退。また、六回すべてが自爆だったようです」

 アホやろあいつ。ちっとは見直そうかと思うたが、やっぱ頭悪いわ。

「キシシシ! これなら俺ともええ勝負ができるかもしれへんな~!」
「では私の出撃は不要でしょうか?」
「いいや、出撃せい。サイバラとの戦いでそれなりに消耗したみたいやが、その状態でどこまで戦えるかも確認したいからな」

 コゴーダも普段は頭脳担当やが、いざ喧嘩となればサイバラとは違った強さがある。そんな相手に勝ってこそ、俺と戦う資格もあるってもんや。

「ああ、それとや。回復薬も用意しとけよ。ゼロラはんとはベストの状態で戦いたいんや」
「かしこまりました。勝敗に関わらず、ゼロラ様にお渡しいたしましょう」

 【零の修羅】……ゼロラ。
 妹のリョウが惚れ込んだ相手だけのことはある。恐らくコゴーダは負けるやろ。せやけどそれぐらいの相手やないと俺もリョウの兄貴として会ってやる資格もない。もちろん、ギャングレオ盗賊団頭領としてもや。

「あ~……疼く、疼くで~……! なくなったはずの左目が疼いて疼いて仕方ないわ~!」

 思えばこないに高ぶるのはいつ以来やろか? おそらくは……"勇者と戦った"日以来やろうな~……!



 時は五、六年前までさかのぼる。当時の俺はまだ両目ともに健在で、今のギャングレオ盗賊団みたいな大規模盗賊団は作らずに港町ウォウサカ周辺で【凶獅子】なんて呼ばれながら、チンケな盗賊行為を繰り返しとった。【伝説の魔王】という隠れ蓑もあったし、両目がある俺に真っ向から勝てる人間なんておらんかった。

 二人の人間を除いてな。

 一人は俺の兄貴のジフウ。当時の勇者様と一緒に【伝説の魔王】討伐の前準備として、ルクガイア王国内の不安因子である俺を討伐にも来た。当人は乗り気やなかったけどな。
 そしてもう一人はその時兄貴と一緒におった――

「ヒィ……ヒィ……! ね、姉ちゃん……やるやないけ~!」
「あなたの実力も大したものです。ジフウさんと同じく素手でここまで戦える人間がいるとは、世界は広いですね」

 先代勇者、【慈愛の勇者】ユメってお嬢ちゃんや。最初は女と思って甘く見とったが、俺も見たことない剣術はあらゆる状況に対応し、さらには<勇者の光>を始めとする高度な魔法まで使い分けて踊るように戦うこともできる。サラ艶ロングの黒髪をなびかせながら戦う姿は、思わず見とれてしまうほどや。

「おい、シシバ! もうその辺でやめとけ! ユメ様もどうか命までは……」

 ジフウの兄貴が仲裁に入る。実際俺の方が負けとる。せやけどここまできたら最後までやりあいたかったんやが……。

「そうですね。もうこのぐらいでいいでしょう」

 ユメは刀を納めてもうた。

「なんや? 兄貴の言葉で情けをかけたくなったって言うんなら、そら俺への侮辱ってやつや」
「そうではありません。ただ、こうしてあなたと戦って分かったのです。あなたは盗賊ではありますが、決して根っからの悪人ではありません。事実、盗賊行為も世間的な悪人からしかしていません」

 ユメの透き通った瞳が俺のことを見透かしたように語り掛ける。気に食わん目ぇやが、不思議と逆らう気になれん。

「……俺は気に食わん相手をぶちのめしとっただけや」
「それでいいのです。あなたは相手を見極められるだけの目を持っています。あなたはいずれ、この国に必要な人間にもなれるでしょう」

 俺が必要な人間にねぇ……。【慈愛の勇者】様は未来でも見えとるんか?

「今ここで俺が背を向けたあんさんに襲い掛かるってことは考えへんのか?」
「その可能性はありません。あなたは真っ向勝負を好んでいます。それに――」

 刹那、鞘に納められていたはずの刀が俺の喉元へと一瞬で向けられた。

「私……刀を納めた状態からでも戦えるんですよ?」

 <居合>。刀を鞘に納めた状態からの神速の一閃。聞いたことはあるが、実際この目で見るんは初めてやった。いや、ユメの<居合>は恐らく、世界中の全ての剣豪の中でも最速やろう。この俺が"動きを見ることさえ"できんかった。

「……キシ、キシシシシ! ええやろ。今回は【慈愛の勇者】様のご慈悲を有難く受け取っとく。……あんさんが【伝説の魔王】を倒した後、正式に再戦を挑ましてもらいますわ」

 ユメは俺の再戦依頼を笑顔で了承しながら他のメンバーを連れて去っていった。
 あれから更なる特訓を重ね、俺は【慈愛の勇者】ユメとの再戦を心待ちにしとった。
 ……せやけど、【慈愛の勇者】は【伝説の魔王】に敗れてもうた。噂じゃ、魔王に見初められて無理矢理結婚させられ、孤立した果てに人知れず息を引き取ったそうな。無理もない。あないに器量のええべっぴんさんなら【伝説の魔王】といえども、惚れてまうやろ。

「シシバ……。俺はどうやったらユメ様を守れたんだろうな?」

 ジフウの兄貴はその凶報を聞いた後に直接俺に会って相談に来た。

「……なるようにしかならんかった。あの勇者様との再戦ができんかったのは残念やが、彼女は決して兄貴たちを恨んで死んだりはしとらんやろ」

 ユメ様の死はホンマに残念やった。せやけど直接やりおうた俺やから分かる。【慈愛の勇者】は最後まで人々のためを思い続けた、ホンマもんの勇者やった。

「そう言ってもらえると俺も少しは気が楽だ。お前も荒事なんかやめて、ユメ様の意志を汲んで真っ当に生きるんだぞ?」
「キシシシ。そっちこそ慣れへん宮仕えで胃を痛めへんこっちゃな」



 それからしばらく経って、現勇者、【栄光の勇者】レイキースがあの日と同じように俺の前に現れた。
 俺は期待しとった。ユメ様と同じ勇者なら、あの日挑めんかった再戦を果たせると思うとった。

「リフィー! バルカウス! シシバの動きを止めるんだ!」
「わかったわ! レイキース」

 せやけどあいつはユメ様とは違った。仲間と連携しての一対三の勝負。ユメ様とのタイマンガチンコ勝負とは違う。勝つことを優先とする戦い方。無論、勇者としてはそれも正しいんやろう。……せやけど、おもろなかった。

「レイキース殿! 今だ!」

 俺の動きは賢者リフィーの魔法と戦士バルカウスの剣術で止められてまい――

「ハァアアア!!」

 ザシュン!

 俺の"左目"は抉られた。
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