記憶なし、魔力ゼロのおっさんファンタジー

コーヒー微糖派

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第15章 メカトロニクス・ファイト

第212話 ヒーロー・マネージド・マーカス

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 準備をしていたら夜になったのです。
 街中にお触れを出したので、お客さんはいっぱいなのです。準備万端なのです。

「あの~……ガルペラ様? やっぱり……やめませんか?」
「何を言っているのです、ローゼス。折角ローゼス用の衣装まで用意したのですよ?」
「……すごく恥ずかしいのですが?」

 ローゼスには仮面眼鏡と露出が多い服とマントを身に着けてもらったのです。これは悪役用なのです。
 そう! 今のヒーローショーには"敵の美人女幹部"が足りていないのです!

「た、確かにこれなら客寄せになるかもしれませんが……」
「このショー……一応パサラダ野菜の宣伝が目的ですからね? ガルペラ侯爵?」

 細かいことは気にしたらダメなのです。

「ローゼスにはヘンショッカーの組織の幹部、"ヘンショ・クイーン"を演じてもらうのです」
「……これでショーが大コケしたら、晩御飯抜きにしますよ?」
「……か、覚悟の上なのです」

 『晩御飯抜き』という言葉に思わず心が揺らいでしまったのですが、私は挫けないのです。

「それではキャプテン・サラダバーさんにはこちらに来てほしいのです」
「台本も一応読みましたが……本当に上手くいくのですか?」

 そのために大掛かりな準備をしたのです。死角はないのです。

「さあ! ヒーローショーの開演なのです!」


◇◇◇


「ぐへへへ~。愚かな住人どもが~! まんまと騙されて街中の野菜を集めてくれたものよ~!」
「そ、そんな!? まさかヘンショッカーの罠だったなんて!?」

 ヘンショッカーは積まれた野菜の山を満足げに眺めながら、目の前の住人達を見下す。
 全てはヘンショッカーによって仕組まれた罠だった。
 街中の野菜を集めて忌まわしき邪魔者、キャプテン・サラダバーの力の源を全て奪い去り、滅却する。
 そのためにヘンショッカーは街中の住人を騙し、街中の野菜を集めさせていたのだ。

「しかし……随分と大量に野菜を用意してくれたものだ。これでは処分しようにも時間がかかってしまうな。だが……ヘンショ・クイーン!」

 ヘンショッカーに名を呼ばれ、颯爽とその場に現れた黒マントの美女。
 顔の一部を仮面で隠しているが、ヘンショッカーと同じくその気配は邪悪なもの。
 そしてマントをひるがえしながら彼女は宣告する――



「オーホホホ! 我が名はヘンショ・クイーン! ヘンショッカー様の一の子分! 我が紅蓮の業火はどんな野菜であろうと焼き尽くす! 我が主、ヘンショッカー様の邪魔者であるキャプテン・サラダバー……。その力の源を、全て灰塵へと返してさしあげますわ! オーホホホ!」

 高笑いを上げて、ヘンショ・クイーンが掲げた手の平から燃え盛る業火を呼び起こす。

「うわ!? なんだかすげー強そうだ!」
「こ、こわいよー!」
「うおおおお! ヘンショ・クィイイイン!!」

 驚愕する少年。怯える少女。
 一部から湧き上がる歓喜の声。

「た、大変なのです! みんな! 一緒にキャプテン・サラダバーを呼ぶのです!」

 ヘンショッカーの前で嘆いていた住人の中から、一人の少女が提案した。

 そう。こんな時こそ彼の出番だ。
 ヘンショッカーの天敵。何度もヘンショッカーの襲撃からセンビレッジを救ってきた、愛と正義と野菜の戦士。
 その場にいる皆が心を一つにして、その名を叫んだ――



『助けて! キャプテン・サラダバー!!』



 キィイイイイン!!

 その叫びに、心に反応するかのように、光り輝き描かれる魔法陣。

「――私を呼ぶ声がする。その声を、願いを――叶え助けろと、私の中のサラ魂が轟き叫ぶ!」

 ――そしてその中から現れる、皆が待ち望んだ英雄の影!

「この街の人々を、人々が愛する野菜を! 虐げることなど許さない! レッツ・ゴウ・ヘルシー! このキャプテン・サラダバーがお前達をさわやかな野菜の加護の元……成敗してくれる!!」

 ――キャプテン・サラダバー! 皆の願いがここに届いた!

「おのれ~、キャプテン・サラダバー! だがここまでは織り込み済みよ! ヘンショ・クイーン! あやつを倒すのだ!!」
「ヘンショッカー様のご命令とあらば! キャプテン・サラダバー! 我が紅蓮の業火で、まずはお前から灰塵へと帰してあげますわ!!」

 ヘンショッカーの命を受け、ヘンショ・クイーンは両手で巨大な火球を作り出す。
 あらゆる命を、野菜を焼き尽くす、紅蓮の業火。
 その非情な火球がヘンショ・クイーンの手から放たれ、キャプテン・サラダバーへと襲い掛かる!



 ボォオオオ!!

「ぐぅうう!? な、なんという力だ!? この火力! 焼き畑農業の比ではない!」

 必死で両手を使って火球を支えるキャプテン・サラダバー。だがその勢いは止まらない。
 ヘンショ・クイーンはなおも両手をキャプテン・サラダバーへと向け、火球へと力を注ぎ込む!

「ぐへへへ~! 残念だったな、キャプテン・サラダバー! ヘンショ・クイーンの攻撃を止めようにも、全ての野菜は我が手中にある! サラダチャージもできはしまい!」

 全てはヘンショッカーの思惑であった。
 街中、全ての野菜がヘンショッカーの元にある今、キャプテン・サラダバーにサラダチャージはできない!

「さあ、終わりよ! キャプテン・サラダバー!! オーホホホホ!!」

 ヘンショ・クイーンが火球により一層力を込める!
 キャプテン・サラダバーに対抗する手立てはない!

 絶望! 圧倒的、絶望!

「こ、このままではキャプテン・サラダバーが負けてしまうのです! みんな! キャプテン・サラダバーを応援するのです!」

 再び人々の前に立つ少女からの願い!
 その声は、人々の心を動かした――

「負けるなー! キャプテン・サラダバー!!」
「が、がんばってー! キャプテン・サラダバー!!」
「負けるなぁああ! ヘンショ・クイィイイン!!」

 必死にキャプテン・サラダバーを応援する少年少女の声!
 ヘンショ・クイーンを応援する一部の声!

「皆の声が私を奮い立たせる! 私のサラ魂へと反響する!!」

 その声は確かにキャプテン・サラダバーへと届いた! 皆の心が一つとなった!



 そして――



 ブワァ……!

「なっ!?」
「や、野菜が……!?」

 ――奇跡が起こった!

 ヘンショッカーの近くに積み重なった野菜が、風に流され舞い上がる!
 舞い上がった野菜はそのままキャプテン・サラダバーの口へと運ばれ――



 カジッ!

 ――サラダチャージ……成功!

「うおおおお!! 皆の思いが! 野菜の力が! 私の奥底から力を呼び起こす!!」

 キャプテン・サラダバーに恐れるものはなくなった。
 街の人々の思いと野菜の栄養が一つの力となり、キャプテン・サラダバーの両手に火球を押し戻す活力となる!

「ば、馬鹿な!? こんなことが!?」
「これが……人々の思いと野菜の力だというの!?」

 目の前の光景に戦慄する、ヘンショッカーとヘンショ・クイーン!

「サラダチャージ……フルパワァアア!! 今の私は……ホカホカ焼き芋のように甘くはないぞぉおお!!!」

 渾身! 全力! 絶叫! 焼き芋!

 キャプテン・サラダバーはついにヘンショ・クイーンの火球を――



 ドンッ!!

 ――押し返した!

「うぐあああ!!??」
「キャアアア!!??」

 ボシュゥウウン……!

 火球はヘンショッカーとヘンショ・クイーンに激突。
 巻き起こった煙が晴れた先にあったのは、倒れた二人の姿であった。

「イッツ・エブリワン・ヘルシー! センビレッジの人々の活力パワーとパサラダ野菜の健康パワー! この二つがあれば……恐れるものなどありはしない!!」

 ワァアアアアア!!

 キャプテン・サラダバーの勇姿に歓声が沸き上がる!

「すごいや! キャプテン・サラダバー!」
「わたしたちの力が届いたんだね!」
「ウワァアア!? ヘンショ・クィイイイン!?」

 その光景の中には感極まる少年少女の姿!
 ヘンショ・クイーンの敗北に嘆く一部の姿!

 過去最大の戦いは、キャプテン・サラダバーの勝利で終わったのだ……!
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