記憶なし、魔力ゼロのおっさんファンタジー

コーヒー微糖派

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第28章 勇者が誘う、最後の舞台

第429話 望んでも届かない願い

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「うわぁああん! パパァアア!!」
「ミライ様! 大丈夫だど! おでたちがついてるど!」
「落ち着いて! ミライ様! お父さんもすぐに来てくれるから――」
「ミライ!!」

 俺は大急ぎでミライの元へと戻った。
 そこで見たのはオクバの夫婦に守られながら、大泣きするミライ――



 ――そして、そんなミライに憎しみの視線をぶつける、大勢の人々。
 ミライ達はその人々に、完全に囲まれていた。

「ミライ! しっかりしろ! お父さんが傍にいるぞ!」
「パパァアア!! うわぁああん!!」

 俺は人混みをかき分けて、ミライの元へと辿り着く。
 大泣きし、錯乱状態に陥っているミライ。
 どうしてこんなことに……?
 これがレイキースの仕業なら、まさかあいつの狙いは――



「お、おい! こいつがゼロラって奴だ!」
「じゃ、じゃあ、この男が【伝説の魔王】なの!?」
「くそ! こんな奴の好きにさせてたまるか!」

 俺が【伝説の魔王】だと分かるや否や、人々は俺とミライ目がけて石を投げつけてきた。
 俺はミライを抱きかかえ、背中で投げられた石を受ける。

 投げられた石自体は痛くない。俺なら十分に耐えられる威力だ。



 ――ただ、この状況は心が痛い。



「ミ、ミライちゃんを守るー!」
「おっとーとおっかーと一緒に、守るー!」

 オクバの子供達も、必死に身を挺して庇ってくれている。

「やっぱり魔物は魔物だ! 分かち合えたりなんかしない!」
「"魔王の娘"を守るなら、こいつらだって同罪だ!」

 だが人々は、そんなオクバ達家族にも石を投げつけてくる。
 怨嗟の声を交えながら、拾い上げた石を手当たり次第に投げつけてくる――

「くうぅ!? オクバ! すまない! 俺はミライを連れて、この場を離れる! お前達もすぐに逃げてくれ!」
「わ、分かったど!」

 今の俺にできることはそれだけだった。
 恐怖で泣き叫ぶミライを抱え、俺は人混みをかき分けながら逃げ出した。



 俺がどれだけ人間として生きていこうと願っても――

 どれだけこの国のためだと思っても――

 人々との垣根のない世界を望んでも――



 ――俺が【伝説の魔王】だった事実は残り、その願いを拒絶する。

 俺はひたすらに逃げた。
 とにかくミライを安全な場所に逃がすため、わき目もふらずに逃げ出した――


◇◇◇


「ゼロラさん! ミライちゃん!」
「どうやら、もうこの場にはいないみたいだね……」

 私とリョウさんはゼロラさんの後を追い、ミライちゃんがいた場所に戻ってきた。
 そこにはもう二人はいなかった。オクバさん達一家も、どこかへ避難したようだ。
 ただ、大勢の人々が狂ったように声を上げていた。

「【伝説の魔王】とその娘はどこに行った!?」
「逃げだしやがって! すぐに追い詰めてやる!」

 人々は今も尚、ゼロラさんとミライちゃんへの憎しみをぶつけている。

 確かに、ゼロラさんの正体は【伝説の魔王】で、ミライちゃんはその娘だ。
 それでも、ゼロラさんのおかげでここの人達の生活は改善されている。
 事実は色々あるけれど、ここの人達には"今"を見てほしい。

 それは……高望みなのかな?





「喝!! カァァアアツッ!!!」

 そんな風に私が願っていると、どこからか大声が飛んできた。
 まるで邪心でも払うかのような、お腹の底から出したような声――
 私も含め、皆がその声の主へと顔を向けた――



「一つの情報に流されるでない! 今のわしらの生活があるのは、誰のおかげかを考えよ! カァァアアツッ!!」
「じ、じいちゃん……。いつになく、気合いが入ってるじゃん……」

 そこにいたのはチャン老師と、そのお孫さんのジャンさん。
 チャン老師が鬼の形相をしながら大声で、民衆へと喝を入れていた。

「た、確かにそうだったな……」
「で、でも……あの人は【伝説の魔王】で……」
「やっぱり、そのことを考えると……」

 チャン老師の喝で、民衆は少しどよめいた。
 その心を完全に落ち着かせることはできなかったが、それでも人々はゼロラさん達を探すのをやめ、それぞれ元の場所へと戻って行った。

「あの、チャン老師……。ありがとうございます」
「お主はラルフル殿の姉じゃったか。何、この程度のこと、わしにとっては造作もない」
「流石はかつて王宮で武術顧問をしていた人だね。老いてもその気迫は健在か」

 私とリョウさんでチャン老師にお礼を言いました。
 だけど、チャン老師の表情はどこか曇っています――

「むぅ……。今回のこの騒動、わしも若き日に似たような経験がある……」
「『似たような経験』……ですか?」
「左様。あれは大国での革命戦争に参加した後、国の英雄の出自がみすぼらしいものと分かった時の話じゃ――」

 『革命戦争に参加』って……。
 この人、若い頃に色々やり過ぎじゃないかな?

「あの時も今回のゼロラ殿のように、英雄は一時的に陥れられた。じゃが、後に民衆も理解を示し、すぐに元に戻ることができた」
「そ、それなら、ゼロラさんも少し落ち着くのを待てば――」
「いや、問題はそこなのじゃ。わしが先程放った"喝"は、あの時の経験をもとに習得した、人々の邪心を振り払うもの。じゃが、その効果も期待できる程のものではなかった――」

 チャン老師の喝は確かにすごかった。
 人々の意識を一時的にとはいえ、ゼロラさんへの恨みから離れさせた。
 ただ、チャン老師の口振りからして、本来はこれで事を完全に納めることができたらしい。

「わしにも分からぬが、何か"想像もつかない陰謀"が潜んでいる気がするのう……」

 チャン老師は苦い顔をしながら、考え込んでいる。
 この人は若い頃に世界中を回った人。
 そんな人が言う話だから、私も不安になってくる。



「……マカロン。君は先に王宮に戻っていてくれないかな?」
「リョウさん……?」

 リョウさんはどこか心を決めた様子で、私に話しかけてきました。
 この人がこういう顔をする時は、大体自らを犠牲にしようと考えている時だ。

 魔幻塔に連れ戻される時と、同じ表情――

「大丈夫だよ、マカロン。今回はボクに危険はない。ただ……ゼロラ殿に"あやふやなまま"終わってほしくないんだよ」

 リョウさんは無理に笑顔を作りながら、私の気持ちを理解した上で、諭すように答えてくれた。

 『あやふやなまま終わってほしくない』――
 それはきっと、私とゼロラさんの関係の話。

 私も何となくだけど、理解できる。
 ミライちゃんが虐げられている以上、ゼロラさんはこの国を離れるかもしれない――
 ミライちゃんのことを思えば当然だけど、私はあの人と離れたくない――

「お願いしてもいいですか……? リョウさん」

 ――そんな私のわがままを、リョウさんに託すことにした。
 この人だって、ゼロラさんを本気で愛した人――
 私よりも機転が利くし、今はリョウさんに任せるのが一番だと思った。

「任せてよ、マカロン。ボクは君とゼロラ殿の仲を本気で応援してる。中途半端に終わらせたりなんてしないさ」
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