記憶なし、魔力ゼロのおっさんファンタジー

コーヒー微糖派

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エピローグ

第474話 アフター・エピソード

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 ルクガイア王国は今日も至る所で賑わいを見せる。
 国の発展を目指し、国民がそれぞれの形で、己の職務を全うしている。

 【栄光の勇者】――レイキース。
 自らを異形の怪物と化してまで栄光を欲した愚かの勇者が起こした騒動から、一ヶ月程経とうとしていた。

「な……なぜ僕が……こんな目に……」
「わたくしは……賢者なのですよ……?」

 ゼロラとラルフルに倒された後、異形化が解けたレイキースは、王国の厳重管理下で牢獄に閉じ込められている。
 同じく洗脳と異形化が解けたリフィーも、牢獄に閉じ込められることとなった。

 騒動が終焉したことで、レイキースとリフィーの悪事は世間にも公表された。
 王都の人々も元に戻り、全ての真実を理解した。

 今回の騒動を起こすために行った、ボーネス公爵、レーコ公爵、王国騎士団軍師ジャコウの殺害。
 それだけでなく、先代勇者ユメをも殺害した罪。
 これらの罪を王国で裁くため、二人は孤独な地下深くへと幽閉されることとなっていた。





「勇者レイキースの件は面倒そうなのです。今後は神聖国への説明と責任追及も必要になってくるのです」
「そうですね、ガルペラ様。ただ、公務は他にもございます。そちらもよろしくお願いします」
「わ、分かってるのです……。ローゼスは口うるさいのです……」

 侯爵としての爵位を返上したガルペラは、今はルクガイア王国の大臣となった。
 レイキースの件だけでなく、国全体の発展と安寧を任された立場――
 そんなガルペラの世話役を続け、側近として警告を促すローゼスの存在――

 ――ガルペラは時折、『侯爵の時の方が楽だったのです』と愚痴をこぼすようになっていた。

「でも、頑張るのです! 黒陽帝国の父上とも協力すれば、ルクガイア王国はもっとよくなるのです!」

 それでもガルペラは挫けない。
 ルクガイア王国の新しい未来のために、今日も激務をこなし続ける。

「ヒーローショーの方はローゼスに任せるのです。私ではもう手が回らないのです」
「本当にまだ続けるのですね……。ハァ~……」

 そしてローゼスはガルペラからヒーローショーの仕事を任されている。
 本人は主のガルペラに対して嫌がるそぶりを見せてはいるが、本当はそこまで嫌がっていない。
 時折一人部屋で、"ヘンショ・クイーン"の衣装を着て練習しているそうな。





「今日も皆、応援ありがとう! シーユー・ネクスト・ヘルシー!」

 そんなローゼスが取り仕切るヒーローショーでは、今日もキャプテン・サラダバーが熱心にショーを行っていた。
 本来の目的であったパサラダ野菜の販売も軌道に乗り、目的は達成されているが、それとは別にショーを続けている。
 なんだかんだでキャプテン・サラダバーとしての役に、大分ハマってしまったようだ。

「お疲れ様! 今日も大反響だったね!」
「ヘンショッカー――じゃなかった、商会長もお疲れ様です!」

 ヘンショッカー役であるセンビレッジの商会長も、ヒーローショーを続ける意向を示していた。
 最近ではローゼスと協力して、海外進出も目指している。

 センビレッジから始まった一大興行計画が、後に世界的なブームになるのだが、それはまた別の話。





「おや? 我が息子、オジャルよ? ダイエットを始めたのざますか?」
「母上! まろは今度こそ意中の相手を見つけたのでおじゃる! その女性は痩せ型が好みでおじゃる! まろは痩せるでおじゃる!」

 ザ・マス夫人とその息子オジャル元伯爵は今も王都で暮らしている。
 貴族ではなくなったが、ダウンビーズを始めとした魔物達との交友を取り仕切っている。
 忙しい毎日を送る親子だったが、オジャルはその合間を縫ってダイエットに励んでいた。
 相手は旅の女騎士だそうで、一目惚れで告白したら見事に玉砕。
 それでも諦めきれず、こうして痩せる努力を重ねていた。

「母上! 痩せるトレーニングをつけてほしいでおじゃる!」
「ホッホッホッ。いいざますよ。久しぶりに、"軍曹貴族"の血が騒ぐざます」

 己の職務を全うしながら、オジャルの婚活に精を出す二人。
 その道のりはまだまだ遠い。





「チャン老師。早速、拙者らにご教授願います」
「フォフォフォ。よかろう。わしの知識をお主らに授けるとしよう」

 バルカウスは今も王国騎士団団長を務めている。
 かつての仲間だったレイキースが起こした騒動により、一度は自ら騎士団長の職を辞めようともしたが、国王等の進言もあり、今も変わらず王国騎士団を率いている。
 だがその胸に宿る魂は、レイキースの仲間だった頃とは違う。
 今度こそは道を違えないように、自らと騎士団に心の在り方を必要だと考えたバルカウスは、チャン老師を王国騎士団の特別顧問として招き入れた。
 武闘家としての心を元に、精神的な成長を促すこと――
 今回の騒動で、バルカウスはその必要性を身に染みて理解した。

「あれはわしの若い日の頃で――」
「じいちゃん……。その話はさっきしたじゃん……」

 問題はチャン老師のボケっぷり。
 同席している孫のジャンにも呆れられるほど、何度も同じ内容の昔語りが続いていた。

「……拙者は頼む相手を間違えたか?」

 バルカウスは悩みながらも、チャン老師の話を聞いていた。
 今度こそ道を違えないのと同時に、チャン老師の話の内容も聞き分ける技術を身に着けていった――





「どうも~。エルフ料理はいかがですか~」
「オーク製の丈夫な工作道具も揃ってるどー!」

 オクバ夫妻は家族一緒にルクガイア王国中を回りながら、商売に精を出していた。
 魔物でも商売ができる環境が整い、オクバ達のような魔物も少しずつ増え始めた。
 友人であるオジャルの助けもあり、オクバも夫婦そろって得意分野での商売で成功を収めていた。

「ブタの丸焼きがオススメですよ~」
「おっかぁ!? おでの隣でそんなもの売らないでほしいど!? おではブタの魔物だど!?」

 時折オクバの奥さんが夫を戦々恐々させるが、それでもオクバ一家は幸せに過ごしていくことになる。





「元陛下? そんなにラフな格好でどこに行かれるのですか?」
「おお、ジフウ。何、余も王位を降りたことだ。少しバカンスにでも出かけようと思ってな」

 黒蛇部隊隊長のジフウは元国王となったルクベール三世に今も仕えていた。
 王位を降りたとはいえ、ジフウにとってはルクベール三世が恩人であることに変わりはない。
 だからこそ仕え続けていたが、さすがにルクベール三世がアロハシャツとサングラスで船を出そうとすることには、ツッコミを入れずにいられなかった。

「いや……あなた、はっちゃけすぎでしょ? それに今こうして王都を離れられては、問題が起こった時に俺の胃が次こそ破裂します」

 国王という重責から解放されたことに理解を示しつつも、ジフウが何より心配しているのは自らの身であった。
 ジフウが現在ルクベール三世から頼まれている任務は、新しい国王の側近。
 その新しい国王の性格を考えると、ルクベール三世抜きでの職務は考えただけでも胃が痛かった。

「なんだ、ジフウ? ならばお主も一緒にバカンスに来るか?」
「え? いやいや、そんなことしたら、新しい陛下が――」
「安心するがいい。そもそも今回のバカンスにはお主も同伴させようと思い、裏で他の黒蛇部隊に手筈させておいたのだ」
「……へ?」

 ルクベール三世の言葉を聞きジフウが後ろを見ると、部下の四人が笑顔でジフウを見送ろうとしていた。

「サー・ジフウ! ディスタイムはリフレッシュにゴーね!」
「押忍! 隊長はこれまで相当お疲れで、押忍!」
「……俺達で新しい陛下を支える準備はできてル」
「後んこった、おいどもさ任せるけん!」

「アーサー、トム、ボブ、ポール……」

 部下四人もジフウのためを思い、喜んでバカンスを勧めてくれた。

「……よっしゃぁああ!! 俺も久々に休暇と行くぜぇええ!! これまで苦労した分、俺も楽しませてもらいますよぉお!! 元陛下ぁあ!!」
「ファファファ! それでよい! さあ、ジフウよ! 余と共にバカンスを満喫しようではないか!」

 ジフウとルクベール三世は船に乗り、バカンスへと向かう。
 ルクベール三世とて、全く考えていないわけではない。
 考えた上で今のルクガイア王国ならば、少しの間自身がいなくても問題ないことを、はっきりと認識した上でのバカンスだった。





「おい、バカフロスト! 例の医療器具の件はどうなってるんだ!?」
「うるせー、アホバクト! こっちだって立て込んでる仕事があるってーんだよ!」

 元侯爵のバクトは現在国の支援の下に、ルクガイア王国初の医療機関を立ち上げた。
 他国の医療技術も取り入れ、これまで遅れていたルクガイア王国の医療技術は、飛躍的に進化を遂げていた。
 そんな進化の陰には、天才科学者フロストの技術もある。
 これまで理論上でしかできなかった医療技術を、フロストの力で次々に再現。
 フロスト自身も自由の身となり、バクト以外から様々な仕事を請け負うようになった。

「フオオオオ」
「なんだ、フレイム? 『お腹すいた』だって~? 飯ぐらいニナーナに用意してもらえ!」
「ドクター・フロスト様。私のマスターは現在、ラルフル様とマカロン様です。あなたの命令は聞けません」
「うるせーな~! それぐらい融通を利かせろ~!」
「ニナーナを作ったのは貴様だろ……」

 フロストは弟のフレイムや自身が開発したヒューマノイドのニナーナに振り回されながら、科学者としての仕事に追われる毎日を送っている。

「クカ~~!? こんなことなら、テコロン鉱山に籠ってた時のほーが、気楽だったぜ~!」

 そんな文句を言いながらも、フロストの生活は充実していた。
 喧嘩仲間であるバクトもまた、忙しくも満足のいく日々を送っていた。

 この二人にもう家族に隠すことはない。
 そんな開放感の中でそれぞれの家族のためにも、各々の責務を今日も果たす。

「まー、仕方ねーな。ラルフルとマカロンのために、ちょっとはがんばらねーとな」
「フン。俺もミリアのためにも、仕事をおろそかにはできんな」





「あの……シシバのカシラ? 本当にやるんスか?」
「当たり前やろが! 時代は海や!」

 ギャングレオ盗賊団は一度解体され、それぞれの分野に分かれた新たな組織として再編された。
 コゴーダ、ヤカタ、ネモトといった幹部衆はルクガイア王国内の各種事業を引き続き請負い、サイバラとシシバは別の事業を立ち上げようとしていた。

「今度は海軍作るぞ! 名前は……"獅子水軍"や!」
「まーたそんな行き当たりばったりな提案をして……。まあ、オレも付き合うッスけど」

 シシバは新たに海軍を編成しようと考え、サイバラもそれに無理矢理付き合わされていた。
 だが、サイバラは嫌な気はしなかった。
 自らを受け入れてくれたシシバのために、今後も体を張り続ける覚悟がサイバラにはあった。

 『獅子の傍では虎が牙を光らせている』――

 いつしかそんな噂がルクガイア王国だけでなく、海外にも広がるようになっていった。





「あっ、そこの君。中々かわいいね。よかったらボクとお茶しない?」
「リョウ……。王宮のメイドをナンパするのは控えてくれよ……」

 王妃となったリョウ。新たな国王となったロギウス。
 リョウがメイドをナンパし、ロギウスがそれを止めに入る。
 そんな光景がいつの間にか王宮の日常になっていた。

「ロギウスはケチだね。そんなにボクを独り占めしたいのかな?」
「ああ、独り占めしたいね。あなたは僕の心を盗み取った罪な女性だ」

 そしてもう一つ王宮の日常となった光景。
 それはロギウスがリョウのナンパを止めに入るたびに繰り広げられる、ロギウスの壁ドンだった。

「ロ、ロギウス!? ち、近い! ボクの顎をクイッとしないで!」
「いけない王妃様には、少しお仕置きが必要かな?」

 リョウに顔を近づけながら、甘い言葉をささやくロギウス。
 それに耐えきれず、顔を赤くしながらへたれこむリョウ。

 そんな何とも言えない甘い光景が、王宮の日常と化している。
 ルクガイア王国は今日も平和だった。





「おじいちゃーん! チャンバラー! チャンバラー!」
「おー! いいぞー、ミライ! さあ、おじいちゃんを倒してみろー!」

 ミライとイトーは二人で一緒に宿場村で遊ぶようになった。
 木の棒を使った孫と祖父のチャンバラごっこ。
 それは平和的で日常的な光景ではあった――



「……ねえ、ラルフル。あの二人、ものすごいスピードで木の棒を振り合ってない?」
「……そうですね。正直、自分も目で追うのがやっとです」

 ――ただ問題点として、そのレベルが高すぎること。
 元々理刀流宗家であるイトーだから何とか追いつけてはいるが、ミライは凄まじいスピードで木の棒を振るっていた。
 その光景をミリアとラルフルは、ただ眺めていることしかできなかった。

「ヒイ、ヒイ! だ、ダメだ! ミライ! ちょっと休憩!」
「わかったー! ちょっと休むー!」

 流石のイトーも年齢のせいもあって、ミライの全力に付き合い続けることはできない。
 休憩を挟みながら別のことをして時間を潰す。
 ミライも父ゼロラがいない時は素直に周囲の言うことを聞き、周りに迷惑をかけないように努めていた。

 ゼロラとミライの素性は知れ渡ってしまったが、それも周囲の中もの協力もあって、かなり理解されてきた。
 今のルクガイア王国はゼロラ達の努力のおかげで、人々の生活が支えられている。
 先代勇者ユメも望んだ世界を、人々が受け入れている。
 そうした中で人々には、ゼロラとミライを拒絶することもなくなっていった。

 過度に虐げられる者のいない国。
 ルクガイア王国は確かにその道を歩み続けていた。



「そういえば、ゼロラさんとマカロンさんは上手くいってるのかしら?」

 ラルフルと並んで話をしていたミリアは、ふとそんなことを口にした。
 今この場に娘のミライがいて、父のゼロラがいない理由。
 そのことを知っているミリアは、少し不安そうにラルフルへと尋ねた。

「大丈夫ですよ。あの二人のことは心配いりません」
「やけに断言するわね?」
「今のゼロラさんとお姉ちゃんは、自分やミリアさんと一緒ですから」
「……恥ずかしげもなく言わないでほしいわね」

 ラルフルとマカロンの仲も問題なく続く。
 この二人の絆もまた、これからも続いていく。

 そして、ゼロラとマカロンがこの場にいない理由――
 それはこれまでの騒動がようやく落ち着き、ゼロラの決心が固まった上で"ある行動"に出たからであった――
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