BLゲームの脇役に転生したはずなのに

れい

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脇役としての再スタート

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『星にネガイを。』――通称、星ネガ。
腐女子・腐男子のあいだで大ブームになった学園BLゲーム。ストーリーは分岐が多くて丁寧、キャラデザも美麗、攻略者は個性派揃い。飽きないやつ。
“前の俺”――牧野ひろ(18)は、このゲームをフルコンプしたばかりだった。二周目は後でいくか、とコントローラを置き、小腹を満たしにコンビニへ出た瞬間、クラクション。
そこで記憶は途切れている。たぶん、俺は車に撥ねられ、そのまま――終わった。

……はずなのに、今、俺はここにいる。
名前はアリエス・シェスターク。通称アリー。ゲーム内で“主人公の最初の友達”をやる脇役。
そして、目の前の彼――トーラス・チェルナー。俺のルームメイトにして、攻略対象のひとり。

転生か転移か、そのラベルは今はどうでもいい。大事なのは役だ。
主人公でも悪役でもない。脇役。主人公の隣に自然にいられる立場でありながら、自分は恋愛の当事者じゃないし致命的バッドな展開も訪れない。
つまり、攻略者たちが主人公にキャッキャウフフする場面を一番安全に近くで見られるということだ。
前世で腐男子だった俺にとっては――これ以上のポジションはない。

(最高じゃん……!)

胸の内側が勝手に跳ねて、声がこぼれた。

「いよっっっっしゃぁぁぁあああ!!」

「ちょ、アリー!? いきなり叫ばないで。ほんとに頭、打ってない?」

はしゃぎすぎた自覚はある。けど止まらない。
前世で愛したゲームの中にいて、しかも“見守るに最適な立ち位置”。
こんな幸運、ある?

「すまん、寝ぼけてたわ。起こしてくれてありがとうな。……支度する」

笑ってごまかすと、アリーの口調が舌に自然となじんだ。
記憶は牧野ひろでも、身体が覚えた癖がある。脳と体のミシン目を丁寧に合わせるように、今の自分を“着付け直す”。

今の俺は十五歳。
舞台は中高一貫・寮付きの星ヶ丘学園。ゲームが本格的に始まるのは高校から――つまり、中学三年の今は一年の猶予がある。

(なら、準備ができる。人間関係の土台、今のうちに)

ニヤッとしたとき、ラス(=トーラス)の瞳が、かすかに揺れた気がした。
……気のせいだろ。俺は脇役だ。深読みは不要。
――そう思っていた。この甘さが、のちのち効いてくるとも知らずに。
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