運命の息吹

梅川 ノン

文字の大きさ
29 / 39
14章

アルマ公爵家

しおりを挟む
 ルシアは、老公爵に挨拶に行く前日、アレクシーに伴われアルマ公爵邸に入った。セリカも一緒だった。実は、この件が決まった後、ルシアはセリカの事が心配だった。生まれた時から常にセリカがそばにいて、身の回りの世話はセリカがいないとだめなのだ。アレクシーにそれを話すと、セリカは、今後もルシアの乳母としてそばにいられることを約束してくれた。ルイーズもそれは当然のことと承知してくれた。ルイーズの乳母も、公爵に降嫁する際、一緒に公爵家についてきた。乳母は主が、養子にいこうが、嫁ごうが生涯を共にする、それは普通のことだった。

「アレクシーあなたはもう帰っていいわよ。そんな心配しなくても大丈夫。ねえ、ルシア」
 そう言われてもルシア一人で大丈夫かと思い、ルシアを見ると不安気な様子ながら、ルイーズの問いかけに頷いている。これからの事を考えるなら、姉に任せるべきかと思う。
「それでは、姉上よろしく頼みます。義兄上にもよろしくお伝えください。」
 ルシアは一人帰っていくアレクシーを、精一杯の微笑みで見送ったが、心は不安と寂しさで一杯だった。一人取り残された思いになる。つくづくセリカが一緒で良かったと思う。
「アレクシーが帰って寂しい?」
 本音は勿論そうだが、ルイーズに悪いと思い曖昧に微笑む。
「いいのよ、遠慮しなくて。寂しいと思うのが当然ですもの。でもね、ここはあなたのお家になるの。だから、奥の宮と同じように寛いでもらいたいのよ。年は下だけど、私の事も本当の姉と思って頼って欲しいの。」
 ルシアは、ルイーズの気持ちが嬉しかった。自分のようなオメガを大切に思ってもらってると実感できた。アレクシーの考えに最初は、驚き戸惑ったものの、こうなってみると良かったのでは? と思えてくる。ただ、妃になるのは無理だと思うが……。
「ありがとうございます。私は三十過ぎているのにこのように頼りないから、嬉しいです。」
 それからは、ルシアはルイーズの話についていくのが精一杯だった。女の人は皆、こんなにおしゃべりなんだろうか? とルシアは密かに思う。
 そして、あした着てく服も見せられた。「どう? 素敵でしょ?」と言われたそれは、白を基調とした清楚な物だった。
「ふふっ、私が選んだのよ。ルシアの良さを引き立てると思って。これなら義父上達も、良い印象を持たれるはずよ」
「あ、あの老公爵夫妻はどんな方達ですか?」
 ルシアが一番気にしていることだった。アレクシーにも尋ねたが、「心配いらない」としか答えてくれなかった。
「義父上はとても寡黙な方。義母上も物静かな方かしら。でも大丈夫、お二人とも気難しい方ではないから。大丈夫よ、あなたを気に入らない人はいないわ」
 そうだろうか? とは思うが、今これ以上心配しても仕方がないと思う。ルシアは、ここ最近驚きと戸惑いの連続で、ある意味達観して身を任せるすべを、自覚なく身に着けていた。

 ルシアの心配は杞憂に終わった。ルシアの老公爵への挨拶は、問題なく、むしろ和やかに終わったからだ。
 老公爵は、事前にルシアの件は、公爵家のためにも良い事と承知はしていた。しかし、それは当主を譲った息子夫婦の決定を覆すのもどうかと、悩んだ末のことだった。やはり、ルシアがオメガであることに抵抗があったからだ。故に、ルシアの挨拶は形だけのものと、淡々とすませばよいと考えていた。つまり、心からの歓迎というわけではなかった。
 ところが、実際にルシアに会ってみると、印象が変わった。ルシアの魅力に惹きつけられたといえた。日頃寡黙な人だけに、口数は多くなかったが、微笑みを浮かべて優しく接した。確かに、国王、そして王太子が夢中になるのも分かるなと思った。傾国のオメガというわけではなく、人としての魅力に溢れていると思ったのだ。
 これが、アレクシーの思うルシアの最大の魅力だった。ルシアは、会う人を魅了する稀有な力を持っていた。妃として、これほどの魅力はない。奥の宮に隠しておくのはもったいないと思う所以だった。
 アレクシーは、ルシアの魅力を独り占めしたいという独占欲も大きいが、自慢したいとの思いも強かった。こんなに素晴らしい魅力溢れた人が、自分の妃だとすべての国民に告げたいのだ。

 正式にアルマ公爵家の養子になったルシアは、住まいを公爵邸に移した。セリカと侍医が共に従ったのは、ルシアにとって心強いことだった。
 ルシアが公爵家の養子になったことで、アレクシーの計画は第二幕を迎えた訳だが、ここからが本番と言えた。第二幕は、波乱に満ちた幕開けとなるが、それはアレクシーも覚悟の上だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ふた想い

悠木全(#zen)
BL
金沢冬真は親友の相原叶芽に思いを寄せている。 だが叶芽は合コンのセッティングばかりして、自分は絶対に参加しなかった。 叶芽が合コンに来ない理由は「酒」に関係しているようで。 誘っても絶対に呑まない叶芽を不思議に思っていた冬真だが。ある日、強引な先輩に誘われた飲み会で、叶芽のちょっとした秘密を知ってしまう。 *基本は叶芽を中心に話が展開されますが、冬真視点から始まります。 (表紙絵はフリーソフトを使っています。タイトルや作品は自作です)

この噛み痕は、無効。

ことわ子
BL
執着強めのαで高校一年生の茜トキ×αアレルギーのβで高校三年生の品野千秋 α、β、Ωの三つの性が存在する現代で、品野千秋(しなのちあき)は一番人口が多いとされる平凡なβで、これまた平凡な高校三年生として暮らしていた。 いや、正しくは"平凡に暮らしたい"高校生として、自らを『αアレルギー』と自称するほど日々αを憎みながら生活していた。 千秋がαアレルギーになったのは幼少期のトラウマが原因だった。その時から千秋はαに対し強い拒否反応を示すようになり、わざわざαのいない高校へ進学するなど、徹底してαを避け続けた。 そんなある日、千秋は体育の授業中に熱中症で倒れてしまう。保健室で目を覚ますと、そこには親友の向田翔(むこうだかける)ともう一人、初めて見る下級生の男がいた。 その男と、トラウマの原因となった人物の顔が重なり千秋は混乱するが、男は千秋の混乱をよそに急に距離を詰めてくる。 「やっと見つけた」 男は誰もが見惚れる顔でそう言った。

【完結】聖クロノア学院恋愛譚 ―君のすべてを知った日から―

るみ乃。
BL
聖クロノア学院で交差する、記憶と感情。 「君の中の、まだ知らない“俺”に、触れたかった」 記憶を失ったベータの少年・ユリス。 彼の前に現れたのは、王族の血を引くアルファ・レオン。 封印された記憶、拭いきれない傷、すれ違う言葉。 謎に満ちた聖クロノア学院のなかで、ふたりの想いが静かに揺れ動く。 触れたいのに、触れられない。 心を開けば、過去が崩れる。 それでも彼らは、確かめずにはいられなかった。 ――そして、学院の奥底に眠る真実が、静かに目を覚ます。 過去と向き合い、他者と繋がることでしか見えない未来がある。 許しと、選びなおしと、ささやかな祈り。 孤独だった少年たちは、いつしか“願い”を知っていく。 これは、ふたりだけの愛の物語であると同時に、 誰かの傷が誰かの救いに変わっていく 誰が「運命」に抗い、 誰が「未来」を選ぶのか。 優しさと痛みの交差点で紡がれる

【完結】出会いは悪夢、甘い蜜

琉海
BL
憧れを追って入学した学園にいたのは運命の番だった。 アルファがオメガをガブガブしてます。

刺されて始まる恋もある

神山おが屑
BL
ストーカーに困るイケメン大学生城田雪人に恋人のフリを頼まれた大学生黒川月兎、そんな雪人とデートの振りして食事に行っていたらストーカーに刺されて病院送り罪悪感からか毎日お見舞いに来る雪人、罪悪感からか毎日大学でも心配してくる雪人、罪悪感からかやたら世話をしてくる雪人、まるで本当の恋人のような距離感に戸惑う月兎そんなふたりの刺されて始まる恋の話。

ジャスミン茶は、君のかおり

霧瀬 渓
BL
アルファとオメガにランクのあるオメガバース世界。 大学2年の高位アルファ高遠裕二は、新入生の三ツ橋鷹也を助けた。 裕二の部活後輩となった鷹也は、新歓の数日後、放火でアパートを焼け出されてしまう。 困った鷹也に、裕二が条件付きで同居を申し出てくれた。 その条件は、恋人のフリをして虫除けになることだった。

【完結】言えない言葉

未希かずは(Miki)
BL
 双子の弟・水瀬碧依は、明るい兄・翼と比べられ、自信がない引っ込み思案な大学生。  同じゼミの気さくで眩しい如月大和に密かに恋するが、話しかける勇気はない。  ある日、碧依は兄になりすまし、本屋のバイトで大和に近づく大胆な計画を立てる。  兄の笑顔で大和と心を通わせる碧依だが、嘘の自分に葛藤し……。  すれ違いを経て本当の想いを伝える、切なく甘い青春BLストーリー。 第1回青春BLカップ参加作品です。 1章 「出会い」が長くなってしまったので、前後編に分けました。 2章、3章も長くなってしまって、分けました。碧依の恋心を丁寧に書き直しました。(2025/9/2 18:40)

初恋ミントラヴァーズ

卯藤ローレン
BL
私立の中高一貫校に通う八坂シオンは、乗り物酔いの激しい体質だ。 飛行機もバスも船も人力車もダメ、時々通学で使う電車でも酔う。 ある朝、学校の最寄り駅でしゃがみこんでいた彼は金髪の男子生徒に助けられる。 眼鏡をぶん投げていたため気がつかなかったし何なら存在自体も知らなかったのだが、それは学校一モテる男子、上森藍央だった(らしい)。 知り合いになれば不思議なもので、それまで面識がなかったことが嘘のように急速に距離を縮めるふたり。 藍央の優しいところに惹かれるシオンだけれど、優しいからこそその本心が掴みきれなくて。 でも想いは勝手に加速して……。 彩り豊かな学校生活と夏休みのイベントを通して、恋心は芽生え、弾んで、時にじれる。 果たしてふたりは、恋人になれるのか――? /金髪顔整い×黒髪元気時々病弱/ じれたり悩んだりもするけれど、王道満載のウキウキハッピハッピハッピーBLです。 集まると『動物園』と称されるハイテンションな友人たちも登場して、基本騒がしい。 ◆毎日2回更新。11時と20時◆

処理中です...