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14章
アルマ公爵家
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ルシアは、老公爵に挨拶に行く前日、アレクシーに伴われアルマ公爵邸に入った。セリカも一緒だった。実は、この件が決まった後、ルシアはセリカの事が心配だった。生まれた時から常にセリカがそばにいて、身の回りの世話はセリカがいないとだめなのだ。アレクシーにそれを話すと、セリカは、今後もルシアの乳母としてそばにいられることを約束してくれた。ルイーズもそれは当然のことと承知してくれた。ルイーズの乳母も、公爵に降嫁する際、一緒に公爵家についてきた。乳母は主が、養子にいこうが、嫁ごうが生涯を共にする、それは普通のことだった。
「アレクシーあなたはもう帰っていいわよ。そんな心配しなくても大丈夫。ねえ、ルシア」
そう言われてもルシア一人で大丈夫かと思い、ルシアを見ると不安気な様子ながら、ルイーズの問いかけに頷いている。これからの事を考えるなら、姉に任せるべきかと思う。
「それでは、姉上よろしく頼みます。義兄上にもよろしくお伝えください。」
ルシアは一人帰っていくアレクシーを、精一杯の微笑みで見送ったが、心は不安と寂しさで一杯だった。一人取り残された思いになる。つくづくセリカが一緒で良かったと思う。
「アレクシーが帰って寂しい?」
本音は勿論そうだが、ルイーズに悪いと思い曖昧に微笑む。
「いいのよ、遠慮しなくて。寂しいと思うのが当然ですもの。でもね、ここはあなたのお家になるの。だから、奥の宮と同じように寛いでもらいたいのよ。年は下だけど、私の事も本当の姉と思って頼って欲しいの。」
ルシアは、ルイーズの気持ちが嬉しかった。自分のようなオメガを大切に思ってもらってると実感できた。アレクシーの考えに最初は、驚き戸惑ったものの、こうなってみると良かったのでは? と思えてくる。ただ、妃になるのは無理だと思うが……。
「ありがとうございます。私は三十過ぎているのにこのように頼りないから、嬉しいです。」
それからは、ルシアはルイーズの話についていくのが精一杯だった。女の人は皆、こんなにおしゃべりなんだろうか? とルシアは密かに思う。
そして、あした着てく服も見せられた。「どう? 素敵でしょ?」と言われたそれは、白を基調とした清楚な物だった。
「ふふっ、私が選んだのよ。ルシアの良さを引き立てると思って。これなら義父上達も、良い印象を持たれるはずよ」
「あ、あの老公爵夫妻はどんな方達ですか?」
ルシアが一番気にしていることだった。アレクシーにも尋ねたが、「心配いらない」としか答えてくれなかった。
「義父上はとても寡黙な方。義母上も物静かな方かしら。でも大丈夫、お二人とも気難しい方ではないから。大丈夫よ、あなたを気に入らない人はいないわ」
そうだろうか? とは思うが、今これ以上心配しても仕方がないと思う。ルシアは、ここ最近驚きと戸惑いの連続で、ある意味達観して身を任せるすべを、自覚なく身に着けていた。
ルシアの心配は杞憂に終わった。ルシアの老公爵への挨拶は、問題なく、むしろ和やかに終わったからだ。
老公爵は、事前にルシアの件は、公爵家のためにも良い事と承知はしていた。しかし、それは当主を譲った息子夫婦の決定を覆すのもどうかと、悩んだ末のことだった。やはり、ルシアがオメガであることに抵抗があったからだ。故に、ルシアの挨拶は形だけのものと、淡々とすませばよいと考えていた。つまり、心からの歓迎というわけではなかった。
ところが、実際にルシアに会ってみると、印象が変わった。ルシアの魅力に惹きつけられたといえた。日頃寡黙な人だけに、口数は多くなかったが、微笑みを浮かべて優しく接した。確かに、国王、そして王太子が夢中になるのも分かるなと思った。傾国のオメガというわけではなく、人としての魅力に溢れていると思ったのだ。
これが、アレクシーの思うルシアの最大の魅力だった。ルシアは、会う人を魅了する稀有な力を持っていた。妃として、これほどの魅力はない。奥の宮に隠しておくのはもったいないと思う所以だった。
アレクシーは、ルシアの魅力を独り占めしたいという独占欲も大きいが、自慢したいとの思いも強かった。こんなに素晴らしい魅力溢れた人が、自分の妃だとすべての国民に告げたいのだ。
正式にアルマ公爵家の養子になったルシアは、住まいを公爵邸に移した。セリカと侍医が共に従ったのは、ルシアにとって心強いことだった。
ルシアが公爵家の養子になったことで、アレクシーの計画は第二幕を迎えた訳だが、ここからが本番と言えた。第二幕は、波乱に満ちた幕開けとなるが、それはアレクシーも覚悟の上だった。
「アレクシーあなたはもう帰っていいわよ。そんな心配しなくても大丈夫。ねえ、ルシア」
そう言われてもルシア一人で大丈夫かと思い、ルシアを見ると不安気な様子ながら、ルイーズの問いかけに頷いている。これからの事を考えるなら、姉に任せるべきかと思う。
「それでは、姉上よろしく頼みます。義兄上にもよろしくお伝えください。」
ルシアは一人帰っていくアレクシーを、精一杯の微笑みで見送ったが、心は不安と寂しさで一杯だった。一人取り残された思いになる。つくづくセリカが一緒で良かったと思う。
「アレクシーが帰って寂しい?」
本音は勿論そうだが、ルイーズに悪いと思い曖昧に微笑む。
「いいのよ、遠慮しなくて。寂しいと思うのが当然ですもの。でもね、ここはあなたのお家になるの。だから、奥の宮と同じように寛いでもらいたいのよ。年は下だけど、私の事も本当の姉と思って頼って欲しいの。」
ルシアは、ルイーズの気持ちが嬉しかった。自分のようなオメガを大切に思ってもらってると実感できた。アレクシーの考えに最初は、驚き戸惑ったものの、こうなってみると良かったのでは? と思えてくる。ただ、妃になるのは無理だと思うが……。
「ありがとうございます。私は三十過ぎているのにこのように頼りないから、嬉しいです。」
それからは、ルシアはルイーズの話についていくのが精一杯だった。女の人は皆、こんなにおしゃべりなんだろうか? とルシアは密かに思う。
そして、あした着てく服も見せられた。「どう? 素敵でしょ?」と言われたそれは、白を基調とした清楚な物だった。
「ふふっ、私が選んだのよ。ルシアの良さを引き立てると思って。これなら義父上達も、良い印象を持たれるはずよ」
「あ、あの老公爵夫妻はどんな方達ですか?」
ルシアが一番気にしていることだった。アレクシーにも尋ねたが、「心配いらない」としか答えてくれなかった。
「義父上はとても寡黙な方。義母上も物静かな方かしら。でも大丈夫、お二人とも気難しい方ではないから。大丈夫よ、あなたを気に入らない人はいないわ」
そうだろうか? とは思うが、今これ以上心配しても仕方がないと思う。ルシアは、ここ最近驚きと戸惑いの連続で、ある意味達観して身を任せるすべを、自覚なく身に着けていた。
ルシアの心配は杞憂に終わった。ルシアの老公爵への挨拶は、問題なく、むしろ和やかに終わったからだ。
老公爵は、事前にルシアの件は、公爵家のためにも良い事と承知はしていた。しかし、それは当主を譲った息子夫婦の決定を覆すのもどうかと、悩んだ末のことだった。やはり、ルシアがオメガであることに抵抗があったからだ。故に、ルシアの挨拶は形だけのものと、淡々とすませばよいと考えていた。つまり、心からの歓迎というわけではなかった。
ところが、実際にルシアに会ってみると、印象が変わった。ルシアの魅力に惹きつけられたといえた。日頃寡黙な人だけに、口数は多くなかったが、微笑みを浮かべて優しく接した。確かに、国王、そして王太子が夢中になるのも分かるなと思った。傾国のオメガというわけではなく、人としての魅力に溢れていると思ったのだ。
これが、アレクシーの思うルシアの最大の魅力だった。ルシアは、会う人を魅了する稀有な力を持っていた。妃として、これほどの魅力はない。奥の宮に隠しておくのはもったいないと思う所以だった。
アレクシーは、ルシアの魅力を独り占めしたいという独占欲も大きいが、自慢したいとの思いも強かった。こんなに素晴らしい魅力溢れた人が、自分の妃だとすべての国民に告げたいのだ。
正式にアルマ公爵家の養子になったルシアは、住まいを公爵邸に移した。セリカと侍医が共に従ったのは、ルシアにとって心強いことだった。
ルシアが公爵家の養子になったことで、アレクシーの計画は第二幕を迎えた訳だが、ここからが本番と言えた。第二幕は、波乱に満ちた幕開けとなるが、それはアレクシーも覚悟の上だった。
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