運命の息吹

梅川 ノン

文字の大きさ
38 / 39
最終章

ルシア王太子妃に

しおりを挟む
 婚儀当日、早朝からルシアは準備に取り掛かった。と言っても本人はされるがままの状態ではあった。
 セリカ達が化粧を施し、衣装を着つけていくのをルイーズが見守る。公爵は男だからとルイーズに追い出された。
 ルシアも男だから問題ないともいえるが、公爵に見られるのは気恥ずかしい。でも自分からは、言えないからルイーズに感謝する。
「完成ね! ルシア素晴らしいわ! ほんとに綺麗!」
 ルイーズの歓声通り、花嫁衣装を身に着けたルシアは神々しいまでに美しかった。その肌は真珠色に輝き、全身が光輝くようだ。セリカは感動のあまり、涙ぐんでいる。
「あなた、いらしてください! 支度がすみましたわ」
 ルイーズの声掛けに、待っていたのだろう公爵が駆け込んでくる。
「おおーっ! ルシアなんと美しいのか! 素晴らしい!」
 公爵も感嘆の声をあげ、暫しルシアに見とれた。そしてルイーズの手を取り頷きあった。二人の思いは、等しく深い満足感だった。
 その後ルシアは、応接間で老公爵夫妻にも挨拶する。二人もルシアの高貴な気品に圧倒され、仮にも親として参列できる幸せに感謝する。老公爵は、「冥途の土産が出来た」と何度も口にした。
「お父様、お母様、そしてお兄様、お姉様本当にありがとうございます。感謝の気持ちでいっぱいでございます。」
 ルシアは四人に向き合い、しっかりと挨拶する。今日はもう涙を流さない。しかし、しんみりとしみじみとした空気で包まれる。
 四人を代表するように、公爵が口を開く。
「ルシア、私たちの方が感謝で一杯だ。そなたは我がアルマ公爵家の誇りだ。ここはそなたの実家だ、決して忘れないで欲しい」
 ルシアは、深く頷いた。何か言わなければと思うが、言えば涙が溢れそうで言えなかった。それは、四人にも十分に伝わった。

 ルシアは、王宮差し回しの馬車に乗り神殿に向かった。ルイーズと公爵が同乗し、老公爵夫妻は公爵家の馬車で後に付く。
 神殿に着き、馬車を降り立つと周りは人で溢れ、ルシアの姿を見ると、大きな歓声が上がる。皆、新しく妃になる人を一目見たいと早朝から集まってきていたのだ。
 ルシアの美しさに興奮する群衆たちを、近衛兵が必死に制している。どうか怪我人が出ませんようにと、ルシアは心の中で祈る。
 
 神殿に入り、控えの間に入る。ここで、儀式まで待機することになる。ルシアは、心臓が徐々に昂ってくるのを感じる。落ち着くのだと自身に、心の中で言い聞かせる。そんなルシアの背を、ルイーズが優しく撫でる。
「ルシア大丈夫よ。あなたほど王太子妃に相応しい人はいない。自信を持つのよ。じゃあこれで、神殿で見守っているから」
 そう言ってルイーズは、控えの間から出ていった。ルイーズと老公爵夫妻は親族席で見守ることになる。
 参列する人々が見守る中、アルマ公爵のリードで、中央の神前で最高神官と共に立つアレクシーの許へ行くことになる。つまり、実家の当主が、花婿へ花嫁を引き渡すことになるのだ。
 神官が時間になったことを告げる。
「ルシア行くよ」
 公爵が決心したように言う。公爵の胸中は感無量だった。アレクシーに引き渡したら、ルシアは妃になる。寂しさが過るのは拭えなかった。
 ルシアは、公爵に手を取られ神殿に入っていく。参列する人々に静かにだが感嘆が広がる。参列を許されたのは、王族などのごく僅かな人で、皆ルシアとは面識がある。その人たちでも、今日のルシアは特別美しいと思った。神の前に相応しい、神々しい美しさだった。
 アレクシーも、自分に近づいてくるルシアの美しさに見惚れる。最高の花嫁! 早くルシアの手をとりたいと心が逸る。
 公爵に手を取られたルシアが、アレクシーの前まで来た。そこで公爵は一呼吸おいて、ルシアの手をアレクシーに渡す。そしてルシアとアレクシーの背に手を触れた後、親族席に下がった。
 ルシアの手を取ったアレクシーは、ルシアを促すように二人で神前に向き合った。そして始まった最高神官の祈りに頭を下げて聞き入る。
 祈りが終わると、最高神官の先導で、誓いを結び合う。これで、二人は神の承認のもと夫婦、否夫夫になった。この国の歴史が始まって以来の男の妃の誕生だった。
 正式に妃になったルシアに、王太子妃の証である指輪と、冠が授けられた。王太子妃の冠は、ルシアの美しさを更に引き立て人々に感嘆の声を上げさせた。寡黙を常とする最高神官までが、声を上げたくらいだ。
 国王王妃が二人に近づく。エドワード王子も付いてきた。今日からこの五人が王の家族なる。新しく家族の一員になったルシアを四人が囲むその様は、穏やかで愛に溢れている。離れて見守るアルマ公爵とルイーズの胸には熱い物が過る。どちらからともなく手をつなぎ合った二人は、お互いが同じ気持ちでいることを知っていた。夫婦の絆もより強まったと感じていた。
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

僕を惑わせるのは素直な君

秋元智也
BL
父と妹、そして兄の家族3人で暮らして来た。 なんの不自由もない。 5年前に病気で母親を亡くしてから家事一切は兄の歩夢が 全てやって居た。 そこへいきなり父親からも唐突なカミングアウト。 「俺、再婚しようと思うんだけど……」 この言葉に驚きと迷い、そして一縷の不安が過ぎる。 だが、好きになってしまったになら仕方がない。 反対する事なく母親になる人と会う事に……。 そこには兄になる青年がついていて…。 いきなりの兄の存在に戸惑いながらも興味もあった。 だが、兄の心の声がどうにもおかしくて。 自然と聞こえて来てしまう本音に戸惑うながら惹かれて いってしまうが……。 それは兄弟で、そして家族で……同性な訳で……。 何もかも不幸にする恋愛などお互い苦しみしかなく……。

婚約破棄を望みます

みけねこ
BL
幼い頃出会った彼の『婚約者』には姉上がなるはずだったのに。もう諸々と隠せません。

鈴木さんちの家政夫

ユキヤナギ
BL
「もし家事全般を請け負ってくれるなら、家賃はいらないよ」そう言われて鈴木家の住み込み家政夫になった智樹は、雇い主の彩葉に心惹かれていく。だが彼には、一途に想い続けている相手がいた。彩葉の恋を見守るうちに、智樹は心に芽生えた大切な気持ちに気付いていく。

婚約破棄された令息の華麗なる逆転劇 ~偽りの番に捨てられたΩは、氷血公爵に愛される~

なの
BL
希少な治癒能力と、大地に生命を呼び戻す「恵みの魔法」を持つ公爵家のΩ令息、エリアス・フォン・ラティス。 傾きかけた家を救うため、彼は大国アルビオンの第二王子、ジークフリート殿下(α)との「政略的な番契約」を受け入れた。 家のため、領民のため、そして―― 少しでも自分を必要としてくれる人がいるのなら、それでいいと信じて。 だが、運命の番だと信じていた相手は、彼の想いを最初から踏みにじっていた。 「Ωの魔力さえ手に入れば、あんな奴はもう要らない」 その冷たい声が、彼の世界を壊した。 すべてを失い、偽りの罪を着せられ追放されたエリアスがたどり着いたのは、隣国ルミナスの地。 そこで出会ったのは、「氷血公爵」と呼ばれる孤高のα、アレクシス・ヴァン・レイヴンだった。 人を寄せつけないほど冷ややかな瞳の奥に、誰よりも深い孤独を抱えた男。 アレクシスは、心に傷を抱えながらも懸命に生きようとするエリアスに惹かれ、次第にその凍てついた心を溶かしていく。 失われた誇りを取り戻すため、そして真実の愛を掴むため。 今、令息の華麗なる逆転劇が始まる。

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

【完結】出会いは悪夢、甘い蜜

琉海
BL
憧れを追って入学した学園にいたのは運命の番だった。 アルファがオメガをガブガブしてます。

カミサンオメガは番運がなさすぎる

ミミナガ
BL
 医療の進歩により番関係を解消できるようになってから番解消回数により「噛み1(カミイチ)」「噛み2(カミニ)」と言われるようになった。  「噛み3(カミサン)」の経歴を持つオメガの満(みつる)は人生に疲れていた。  ある日、ふらりと迷い込んだ古びた神社で不思議な体験をすることとなった。 ※オメガバースの基本設定の説明は特に入れていません。

流れる星、どうかお願い

ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる) オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年 高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼 そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ ”要が幸せになりますように” オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ 王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに! 一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが お付き合いください!

処理中です...