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2章 手術
③
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蒼の手術は成功裡に終わった。雪哉や林田にとっては、高久先生が執刀するんだから、それは当たり前のことだった。
雪哉は、電話で晃一に手術の成功を知らせた。
「そうですか、ありがとうございます」
それだけだった。なんの情も籠っていない。怒りが再燃したが、礼を言っただけましかと思い直した。
自分の親兄弟もそうだが、エリート意識の高いアルファとはそんなものだ。オメガのことなど、同じ人間と思っていない。
それからすると、我が夫は偉いよな。自分は本当に素晴らしい人に出会って番になり、結婚した。オメガが一人で生きていくことも可能だ。自分もそれを目指した。しかし、やはりアルファの支えはオメガにとって大きいと思う。オメガを対等な立場として支え、愛してくれるアルファ。蒼もそんな人に出会って欲しい。雪哉は、将来の蒼の幸せを心から願った。
手術の一週間後、午後から高久が蒼の様子を見に来た。基本執刀医は手術直後に、担当医に引き渡したら、その後の診察はしない。しかし、高久にとって蒼は、自分の夫が目を掛けている患者で、手術も難しい症例であったため気にかけていたのだ。
高久が病室に入ると、林田ともう一人の看護師がいた。蒼は例のごとく林田の差し入れのお菓子を食べていた。突然の訪れに蒼は慌てた。
「ああ、いいんだよそのまま食べていなさい。ちょうど三時だ、おやつの時間にすまないね」
蒼は、赤くなりながら頷いた。しかし、恥ずかしくてそれ以上は入らない。
「おや、綺麗な花だね」
林田とは別の看護師が答えた。
「病室が華やぐかと思って。ちょうど林田さんがおやつを差し入れると言ったので、一緒に来て活けました」
「そうか、それは優しい心遣いだね。蒼君、どうかな調子は?」
「はい、とてもいいです」
「そうか、散歩はしているかな?」
「はい、さっきも中庭を歩いて来ました」
「一時間ほどしたので、休憩とおやつににしていました」
林田が補足した。
「そうか、じゃあ、心配ないね。体を慣らすのに散歩はいいからね。でも、無理はいけないよ」
高久は、頷く蒼の頭を撫でた。そして、これ以上自分が長居すると、緊張するだろうと、二人の看護師に「頼んだよ」と言って出ていった。
「あなた、今日蒼君の様子を見に来てくださったんですね」
「ああ、顔色もよく、元気そうだった。ちょうど三時だったからかな、おやつを食べていたよ」
「みんな、寄ってたかって蒼君に差し入れするんだ。お菓子だけじゃなく、お花やぬいぐるみなんかも」
「花も飾ってあったな。そういえば枕元にぬいぐるみもあって、まだ子供だなと思ったよ。あれ看護師からのだったのか」
「そうなんだ、あと、寒くないようにって、肩掛けやマフラーなんかも」
「大変な人気者だね。西園寺家からは顧みられなくても、淋しくなくて良かったな」
「はい、見ていて微笑ましいよ。蒼君はとても不幸な生い立ちだけど、その分他人から愛されるっていうか、持ってるものがあるよね」
「彼の人徳だろう、いい子なんだって思うよ。君が可愛がるのも頷ける」
「ほんとにいい子だよ。真面目だし。なんであんないい子に、あんな扱いをって思う」
「それだけ、オメガに対する偏見は根強い。特に西園寺家のように平安貴族から続くような家柄ではな」
「それは僕自身も経験したからな。僕の親兄弟も酷いもんだよ。それからすると、北畠家も、相当古い家柄だけど、よく僕を受け入れてくれたよね」
実際のところ、北畠家の偏見も相当なもので、受け入れたと言うよりも、そうせざる負えないように、高久が追い込んだのだった。しかし、最初は渋々認めた雪哉だったが、今では高久の配偶者と認めていた。雪哉の人となりを徐々に知ったからだ。生まれた孫が可愛いということもある。
頻繁ではないが、交流も時折ある、そんな状態であった。
蒼の退院の日がやってきた。
病院のロビーまで、小児科病棟の看護師が大半見送りに来た。皆退院は喜ばしいことだけど、蒼との別れを惜しんだ。涙ぐんでいる者もいた。
「じゃあ、蒼君気を付けてね。僕はこれから産休だから病院にはしばらくこれないけど、引継ぎしているから、心配いらないからね。あっ、そして赤ちゃん見に来て、約束だよ」
雪哉は、自宅へ遊びに来るようにと誘っていた。蒼もその誘いが嬉しかったようで、遠慮はあるものの、受けていた。
「はい、行かせてもらいます。雪哉先生も、お体大切に、元気な赤ちゃん産んでくださいね」
皆の見送りの中、名残惜しそうに、蒼は退院していった。
雪哉は、電話で晃一に手術の成功を知らせた。
「そうですか、ありがとうございます」
それだけだった。なんの情も籠っていない。怒りが再燃したが、礼を言っただけましかと思い直した。
自分の親兄弟もそうだが、エリート意識の高いアルファとはそんなものだ。オメガのことなど、同じ人間と思っていない。
それからすると、我が夫は偉いよな。自分は本当に素晴らしい人に出会って番になり、結婚した。オメガが一人で生きていくことも可能だ。自分もそれを目指した。しかし、やはりアルファの支えはオメガにとって大きいと思う。オメガを対等な立場として支え、愛してくれるアルファ。蒼もそんな人に出会って欲しい。雪哉は、将来の蒼の幸せを心から願った。
手術の一週間後、午後から高久が蒼の様子を見に来た。基本執刀医は手術直後に、担当医に引き渡したら、その後の診察はしない。しかし、高久にとって蒼は、自分の夫が目を掛けている患者で、手術も難しい症例であったため気にかけていたのだ。
高久が病室に入ると、林田ともう一人の看護師がいた。蒼は例のごとく林田の差し入れのお菓子を食べていた。突然の訪れに蒼は慌てた。
「ああ、いいんだよそのまま食べていなさい。ちょうど三時だ、おやつの時間にすまないね」
蒼は、赤くなりながら頷いた。しかし、恥ずかしくてそれ以上は入らない。
「おや、綺麗な花だね」
林田とは別の看護師が答えた。
「病室が華やぐかと思って。ちょうど林田さんがおやつを差し入れると言ったので、一緒に来て活けました」
「そうか、それは優しい心遣いだね。蒼君、どうかな調子は?」
「はい、とてもいいです」
「そうか、散歩はしているかな?」
「はい、さっきも中庭を歩いて来ました」
「一時間ほどしたので、休憩とおやつににしていました」
林田が補足した。
「そうか、じゃあ、心配ないね。体を慣らすのに散歩はいいからね。でも、無理はいけないよ」
高久は、頷く蒼の頭を撫でた。そして、これ以上自分が長居すると、緊張するだろうと、二人の看護師に「頼んだよ」と言って出ていった。
「あなた、今日蒼君の様子を見に来てくださったんですね」
「ああ、顔色もよく、元気そうだった。ちょうど三時だったからかな、おやつを食べていたよ」
「みんな、寄ってたかって蒼君に差し入れするんだ。お菓子だけじゃなく、お花やぬいぐるみなんかも」
「花も飾ってあったな。そういえば枕元にぬいぐるみもあって、まだ子供だなと思ったよ。あれ看護師からのだったのか」
「そうなんだ、あと、寒くないようにって、肩掛けやマフラーなんかも」
「大変な人気者だね。西園寺家からは顧みられなくても、淋しくなくて良かったな」
「はい、見ていて微笑ましいよ。蒼君はとても不幸な生い立ちだけど、その分他人から愛されるっていうか、持ってるものがあるよね」
「彼の人徳だろう、いい子なんだって思うよ。君が可愛がるのも頷ける」
「ほんとにいい子だよ。真面目だし。なんであんないい子に、あんな扱いをって思う」
「それだけ、オメガに対する偏見は根強い。特に西園寺家のように平安貴族から続くような家柄ではな」
「それは僕自身も経験したからな。僕の親兄弟も酷いもんだよ。それからすると、北畠家も、相当古い家柄だけど、よく僕を受け入れてくれたよね」
実際のところ、北畠家の偏見も相当なもので、受け入れたと言うよりも、そうせざる負えないように、高久が追い込んだのだった。しかし、最初は渋々認めた雪哉だったが、今では高久の配偶者と認めていた。雪哉の人となりを徐々に知ったからだ。生まれた孫が可愛いということもある。
頻繁ではないが、交流も時折ある、そんな状態であった。
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「じゃあ、蒼君気を付けてね。僕はこれから産休だから病院にはしばらくこれないけど、引継ぎしているから、心配いらないからね。あっ、そして赤ちゃん見に来て、約束だよ」
雪哉は、自宅へ遊びに来るようにと誘っていた。蒼もその誘いが嬉しかったようで、遠慮はあるものの、受けていた。
「はい、行かせてもらいます。雪哉先生も、お体大切に、元気な赤ちゃん産んでくださいね」
皆の見送りの中、名残惜しそうに、蒼は退院していった。
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