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3章 出会い
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食事も済んだので、いよいよ蒼の帰る時が来る。彰久の雲行きがみるみるうちに悪くなる。蒼の手を握る力も強くなる。まるで離さないぞっ! というばかりに。目には涙が溜まり、今にも泣き出しそうだ。
「あき君今日はありがとう。楽しかったよ」
「あおくんかえらないでっ! かえっちゃいやだっ!」
泣き出した彰久を、高久が抱き上げる。
「ちゃんと、あお君にありがとう、さようならって言わないとだめだぞ」
「だって……ひぐっ……あっ、あおくんすきだもん、ひぐっ……」
涙をぼろぼろ流す彰久に、蒼も泣きたい思いになるが、なんとか堪えて言う。
「僕も……あき君大好きだよ、また来るからね」
雪哉が彰久の頭を優しく撫でながら言う。
「彰久がちゃんと、ありがとう、今日はさようならって言えたら、あお君また来てくれるって! そうだ! 今度はお泊りしてくれるかもだぞ!」
「えっ!」と驚く蒼に、雪哉は言う。
「ねえ、蒼君いいだろ? 今度は土日でおいでよ」
その誘いは、蒼も嬉しい。嬉しいが……さすがに泊りがけになると父の許可がいるのではと思う。
「あっでも、父が……」
「お父さんには僕からお許しをもらうから、ねっ、いいだろ」
それなら蒼も問題ない。蒼の次の訪問は泊まり掛けということで、彰久も漸く納得した。
高久の車に乗り込む蒼を、彰久は目に涙を一杯ためて見送る。蒼も後ろ髪引かれる思いだった。
「なんだかすまないねえ、今日は疲れただろう」
「そんなことないです。僕も楽しかったです」
「勝手に食事までさせて、お父さんに挨拶するよ。次の許可もいただかないといけないしね」
「食事は大丈夫です。僕いつも一人だから」
「自分の部屋で?……誰か運んでくれるの?」
「僕は母屋とは別の離れ屋に住んでいます。食事は、週二回本宅の家政婦さんが冷蔵庫に補充してくれるのを、適当に食べています」
高久は絶句した。可哀そうというか、悲惨な扱いだ。未だ高校生の少年が、遺棄されていると言っても過言ではない。蒼の父親に対して怒りも湧いてくる。彰久が懐き過ぎて大変だろうとの思いもあったが、積極的に誘って、温かみのある経験をさせるのは、この少年のためにもなると思った。
西園寺家に到着し、二人は車を降りた。立派な門構えの邸宅だ。
「今日は本当にありがとうございました。僕は、本宅には入れないのでここで失礼します」
本宅に入れない!? 入ることも許されてないのか!? 高久の怒りが増す。
「そうか、じゃあここで。こちらこそありがとう。私はお父さんに会っていくからね。結果は雪哉から知らせるようにするからね」
「はい、お世話かけますがよろしくお願いします。おやすみなさい」
高久は本宅に入り、応対した多分執事と思われる人物に来訪の意図を告げる。
「主に伝えてきますので、少々お待ちください」
その人物は、胡散臭そうに高久を見ながら奥に引っ込み、ほどなくして戻って来た。
「主は、承知したと申しております」
えっ! それだけ! 出てくることもせず伝言で! と高久は思う。
「あっ……泊りがけの件も」
「ですから承知したと」
用はすんだ、帰れとばかりの態度にさすがにむっとするが、そのまま辞去した。益々怒りが増す。同時にこれでは蒼の身が思いやられると、蒼に対する同情も増した。
「えーっ! そんな応対だったのか!」
高久は、帰宅後あらましを雪哉に話して聞かせる。
「そうだよ、さすがに怒りがわいた。あれでは蒼君は、離れにぽつんと遺棄されてるようなもんだろう」
「食事を週二回冷蔵庫に補充するだけなんて……可哀そう過ぎる。彰久がまとわりついてゆっくり食べられなかったんじゃ? って思ったけど、良かったのかな」
「ああ、世話をしながらも彼もちゃんと食べてたからね。凄く楽しそうだったし、良かったと思うよ」
「そうだよね、これからも積極的に誘った方がいいよね。ここに来てる時だけでも、みんなで食べるご飯美味しいよね」
ひとりぼっちで、冷蔵庫から出したものを食べる。せめてレンジで温めるぐらいはしているのだろうか? 雪哉はそんなことも気になる。
雪哉は早速に蒼にメールした。お父さんの許可は得たから、次は土日で遊びにおいでよと。そして、もし勉強で困っていることがあれば教えるよ、とも付け加えた。
蒼からも速攻で返事がきた。今日の御礼と、次回の誘いが嬉しいとの内容。勉強の件は、それでは教えてもらいたいことがありますとあった。
メールを読んでも、しっかりした子だと分かる。亡くなった母親が、愛情をもってしっかり育てたのだろう。だから、今の悲惨な環境でも、健気に頑張っていられるのだろう。だが、いまだ少年だ。愛の手は差し伸べてやりたいと雪哉は思った。
「ねえママ~っ、あおくんこんどいつくるの?」
「次の土曜日だよ」
雪哉は、カレンダーに指し示してやる。
「えっと、えっときょうはここだから、1、2、3,4! あと4こ! あと4こねたらあおくんくるね! はやく、はやくこないかな! あっ! ぼくもうねよっ! そしたらあおくんはやくくるよね」
「ふふっ彰久は全く、昼間寝たってだめだよ。夜寝るのが4個だから」
「そっか~……はやくよるにならないかな」
雪哉は、子供が考えることは可愛いなあと思いながら、こうまで懐き惹かれるんだと思う。子供とはいえ、やはりオメガとアルファだからだろうかという思いもよぎるが、いやいやこんな小さな子がとも思う。しかし、子供といえど、二人がオメガとアルファであるのは事実だ。
「あき君今日はありがとう。楽しかったよ」
「あおくんかえらないでっ! かえっちゃいやだっ!」
泣き出した彰久を、高久が抱き上げる。
「ちゃんと、あお君にありがとう、さようならって言わないとだめだぞ」
「だって……ひぐっ……あっ、あおくんすきだもん、ひぐっ……」
涙をぼろぼろ流す彰久に、蒼も泣きたい思いになるが、なんとか堪えて言う。
「僕も……あき君大好きだよ、また来るからね」
雪哉が彰久の頭を優しく撫でながら言う。
「彰久がちゃんと、ありがとう、今日はさようならって言えたら、あお君また来てくれるって! そうだ! 今度はお泊りしてくれるかもだぞ!」
「えっ!」と驚く蒼に、雪哉は言う。
「ねえ、蒼君いいだろ? 今度は土日でおいでよ」
その誘いは、蒼も嬉しい。嬉しいが……さすがに泊りがけになると父の許可がいるのではと思う。
「あっでも、父が……」
「お父さんには僕からお許しをもらうから、ねっ、いいだろ」
それなら蒼も問題ない。蒼の次の訪問は泊まり掛けということで、彰久も漸く納得した。
高久の車に乗り込む蒼を、彰久は目に涙を一杯ためて見送る。蒼も後ろ髪引かれる思いだった。
「なんだかすまないねえ、今日は疲れただろう」
「そんなことないです。僕も楽しかったです」
「勝手に食事までさせて、お父さんに挨拶するよ。次の許可もいただかないといけないしね」
「食事は大丈夫です。僕いつも一人だから」
「自分の部屋で?……誰か運んでくれるの?」
「僕は母屋とは別の離れ屋に住んでいます。食事は、週二回本宅の家政婦さんが冷蔵庫に補充してくれるのを、適当に食べています」
高久は絶句した。可哀そうというか、悲惨な扱いだ。未だ高校生の少年が、遺棄されていると言っても過言ではない。蒼の父親に対して怒りも湧いてくる。彰久が懐き過ぎて大変だろうとの思いもあったが、積極的に誘って、温かみのある経験をさせるのは、この少年のためにもなると思った。
西園寺家に到着し、二人は車を降りた。立派な門構えの邸宅だ。
「今日は本当にありがとうございました。僕は、本宅には入れないのでここで失礼します」
本宅に入れない!? 入ることも許されてないのか!? 高久の怒りが増す。
「そうか、じゃあここで。こちらこそありがとう。私はお父さんに会っていくからね。結果は雪哉から知らせるようにするからね」
「はい、お世話かけますがよろしくお願いします。おやすみなさい」
高久は本宅に入り、応対した多分執事と思われる人物に来訪の意図を告げる。
「主に伝えてきますので、少々お待ちください」
その人物は、胡散臭そうに高久を見ながら奥に引っ込み、ほどなくして戻って来た。
「主は、承知したと申しております」
えっ! それだけ! 出てくることもせず伝言で! と高久は思う。
「あっ……泊りがけの件も」
「ですから承知したと」
用はすんだ、帰れとばかりの態度にさすがにむっとするが、そのまま辞去した。益々怒りが増す。同時にこれでは蒼の身が思いやられると、蒼に対する同情も増した。
「えーっ! そんな応対だったのか!」
高久は、帰宅後あらましを雪哉に話して聞かせる。
「そうだよ、さすがに怒りがわいた。あれでは蒼君は、離れにぽつんと遺棄されてるようなもんだろう」
「食事を週二回冷蔵庫に補充するだけなんて……可哀そう過ぎる。彰久がまとわりついてゆっくり食べられなかったんじゃ? って思ったけど、良かったのかな」
「ああ、世話をしながらも彼もちゃんと食べてたからね。凄く楽しそうだったし、良かったと思うよ」
「そうだよね、これからも積極的に誘った方がいいよね。ここに来てる時だけでも、みんなで食べるご飯美味しいよね」
ひとりぼっちで、冷蔵庫から出したものを食べる。せめてレンジで温めるぐらいはしているのだろうか? 雪哉はそんなことも気になる。
雪哉は早速に蒼にメールした。お父さんの許可は得たから、次は土日で遊びにおいでよと。そして、もし勉強で困っていることがあれば教えるよ、とも付け加えた。
蒼からも速攻で返事がきた。今日の御礼と、次回の誘いが嬉しいとの内容。勉強の件は、それでは教えてもらいたいことがありますとあった。
メールを読んでも、しっかりした子だと分かる。亡くなった母親が、愛情をもってしっかり育てたのだろう。だから、今の悲惨な環境でも、健気に頑張っていられるのだろう。だが、いまだ少年だ。愛の手は差し伸べてやりたいと雪哉は思った。
「ねえママ~っ、あおくんこんどいつくるの?」
「次の土曜日だよ」
雪哉は、カレンダーに指し示してやる。
「えっと、えっときょうはここだから、1、2、3,4! あと4こ! あと4こねたらあおくんくるね! はやく、はやくこないかな! あっ! ぼくもうねよっ! そしたらあおくんはやくくるよね」
「ふふっ彰久は全く、昼間寝たってだめだよ。夜寝るのが4個だから」
「そっか~……はやくよるにならないかな」
雪哉は、子供が考えることは可愛いなあと思いながら、こうまで懐き惹かれるんだと思う。子供とはいえ、やはりオメガとアルファだからだろうかという思いもよぎるが、いやいやこんな小さな子がとも思う。しかし、子供といえど、二人がオメガとアルファであるのは事実だ。
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