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9章 思いを胸に
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翌日蒼は、結局のところ勤務終了まで三条に会うことはなかった。仕方ないなあ、でも本当に待ってるのかなと思いながら通用門を出た。すると、車から降り立った三条に声を掛けられる。
「西園寺先生ここだよ」
「三条先生、あの僕本当に食事なんて行けませんから、すみません」
「もう予約したから、いいだろ、ほんと遠慮はいらないから、さあ乗って」
助手席のドアを開けて、にこやかに言う。強引な人だなあ、でも乗ったらだめだよな。まさかさすがにそれは無いと思うけど、でももし車に乗って襲われたら、体格的にいって抵抗するのは無理だ。逡巡する蒼に、三条はその理由に気が付いた。
「そうか、車に乗るのはためらわれるかあ。うん、確かにそうだよね、分かった、タクシーを使おう。この車駐車場に置いてくるから、ここにいて」
そう言ったかと思うと車に乗って走り去った。あっという間だった。えっ、どうしよう。さすがにこのまま消えるのは失礼かな……。でもこのままここにいたら、一緒に食事する流れだよな……。あれこれ悩んでいるうちに、三条が小走りに近づいてきた。
「待たせてごめんね、タクシー呼んだから、もうすぐ来ると思うから、そこで待とう」
もうこうなったら食事には付き合うしかないか、蒼はあきらめの胸中になる。
強引な三条だが、エスコートぶりは紳士的だ。自分が車道側を蒼を守るように歩き、タクシーも蒼を先に乗せ、降りた時も蒼が降りるのを待って、そのまま蒼を店に導く。女性に対する扱いと同じだし、慣れていると思われた。自分をオメガと気付いているのだろうなと、蒼は思う。
「着いてから聞くのもあれだけど、イタリアン大丈夫?」
「はい、大丈夫というほど、こういうお店慣れてませんが」
「そうなの? ここは昨年オープンしたばかりでね、こじんまりとした店だけど、味は確かなんだ。オーナーシェフがイタリアで修行した人なんでね。そしてむしろ、このこじんまりした感が落ち着けるから気に入ってるんだ」
三条が言う通り、店はさほど大きくなく、落ち着いた雰囲気で客層も良い感じがする。オーナー夫人が挨拶に来る。ソムリエでもあるとのこと。三条との会話から、かなりの常連だと察せられた。
「料理は基本お任せのコースなんだけど、アレルギーとか苦手なものはある?」
「特にないです」
「お酒は大丈夫? 飲めるの?」
「全くだめではないですが、弱いのでほんの少しでお願いします」
「じゃあ軽いカクテルがいいかな、こちらはそれでお願いします。俺はいつもの通りお任せするよ」
「かしこまりました」
オーナー夫人が去っていくと、ほどなくして前菜が運ばれてきた。蒼は正直お腹も空いていたので、遠慮なく食べていく。
三条は場の取り持ち方が上手い。自ら色々話すのだが、己が一方的に話すばかりではなく、蒼の話も上手に引き出す。蒼は心地よく食事を進めることができた。誘われ方が強引だったので、気配り上手な三条に、蒼は意外の思いを抱いた。
「口に合ったかな」
最後に出された、ジェラートとフルーツの盛り合わせを食べながら三条が聞く。
「はい、美味しかったです。今日はほんとご馳走になりました」
「満足してもらったようで俺も嬉しいよ。またこうして時折会ってくれる」
「えっ、時折って……今日はお祝いってことで特別だと思ってましたが……」
「まあそうだけど、これをきっかけに君と付き合いたいと、申し込んでいるんだよ」
「いや、それはちょっと……」
「難しく考えることはないよ、こうして一緒に食事したり、ドライブとかして徐々に親交を深めたいと思ってね」
「あの、こんなご馳走になって申し訳ないですが、お付き合いとかは僕できませんので……すみません」
「どうして? さっきまでの話で付き合ってる人はいないって言ってたよね。だったら俺と付き合うのに何か問題でもあるかな」
「問題とかそういうことじゃなくて、僕は今誰とも付き合うとか考えてなくて」
「もしかして、付き合ってはいないけど好きな人がいるの?」
好きな人という言葉に蒼は動揺する。
「あっ、図星かあ……つまり片思い。君ほどの人が片思いって、そんな幸せな奴は誰だっ! まあ、それは置いといて、君はオメガだよね」
やはり三条はアルファだ。アルファとしてオメガの僕を求めるのか。
「はっきり言ってオメガが一人生きていくのは大変だろう。オメガを下に見るとかじゃなくて、特性がそうだから。俺はアルファだから君の助けになりたいし、守ってもいきたい。つまり、ゆくゆくは番になって結婚したい。アルファとオメガは番になることでお互いが幸せになれると、俺は考えているからね」
「いや番って、そんな急に」
「うん勿論すぐにとは言わないよ、だから少しずつ親交を深めたいと言ってるんだよ。俺はアルファとして君を幸せに出来る自信がある」
なんという自信、これがアルファか……蒼はもう言葉が見つからなかった。何と言えば理解してもらえるのか……分からない。
押し黙った蒼に、三条はそれ以上何も言わない。強引で押しも強いが、引き際は心得ているようだ。だから手強いともいえる。
その後三条はタクシーを呼び、蒼を家まで送り、自分はそのまま帰って行った。そんなところも強引に誘ったわりにはあっさりしていて、意外の思いを抱いた。
その晩蒼は、何故か体に熱を感じて自分を自分でを慰めた。発情期ではないのに、こんなことは珍しい。三条のアルファとオメガは番になることでお互いが幸せになるという言葉が蘇る。
そうなのだろうか……母さんは父さんと番になって幸せだったろうか……そうとは思えない。しかし、雪哉は幸せだと思う。結局相手次第ということだ。誰かの番になって、不本意な人生を送るなら、一人がいい。けれども共に幸せを築いていける人と番になるなら……幸せだろうがそれは、自分には望めない。でも三条だったら……。
蒼は、三条の言葉を懸命に振り払った。自分は彰久を待っている。その先が兄の立場でも、待ってる。彰久を裏切ることはできない。
「西園寺先生ここだよ」
「三条先生、あの僕本当に食事なんて行けませんから、すみません」
「もう予約したから、いいだろ、ほんと遠慮はいらないから、さあ乗って」
助手席のドアを開けて、にこやかに言う。強引な人だなあ、でも乗ったらだめだよな。まさかさすがにそれは無いと思うけど、でももし車に乗って襲われたら、体格的にいって抵抗するのは無理だ。逡巡する蒼に、三条はその理由に気が付いた。
「そうか、車に乗るのはためらわれるかあ。うん、確かにそうだよね、分かった、タクシーを使おう。この車駐車場に置いてくるから、ここにいて」
そう言ったかと思うと車に乗って走り去った。あっという間だった。えっ、どうしよう。さすがにこのまま消えるのは失礼かな……。でもこのままここにいたら、一緒に食事する流れだよな……。あれこれ悩んでいるうちに、三条が小走りに近づいてきた。
「待たせてごめんね、タクシー呼んだから、もうすぐ来ると思うから、そこで待とう」
もうこうなったら食事には付き合うしかないか、蒼はあきらめの胸中になる。
強引な三条だが、エスコートぶりは紳士的だ。自分が車道側を蒼を守るように歩き、タクシーも蒼を先に乗せ、降りた時も蒼が降りるのを待って、そのまま蒼を店に導く。女性に対する扱いと同じだし、慣れていると思われた。自分をオメガと気付いているのだろうなと、蒼は思う。
「着いてから聞くのもあれだけど、イタリアン大丈夫?」
「はい、大丈夫というほど、こういうお店慣れてませんが」
「そうなの? ここは昨年オープンしたばかりでね、こじんまりとした店だけど、味は確かなんだ。オーナーシェフがイタリアで修行した人なんでね。そしてむしろ、このこじんまりした感が落ち着けるから気に入ってるんだ」
三条が言う通り、店はさほど大きくなく、落ち着いた雰囲気で客層も良い感じがする。オーナー夫人が挨拶に来る。ソムリエでもあるとのこと。三条との会話から、かなりの常連だと察せられた。
「料理は基本お任せのコースなんだけど、アレルギーとか苦手なものはある?」
「特にないです」
「お酒は大丈夫? 飲めるの?」
「全くだめではないですが、弱いのでほんの少しでお願いします」
「じゃあ軽いカクテルがいいかな、こちらはそれでお願いします。俺はいつもの通りお任せするよ」
「かしこまりました」
オーナー夫人が去っていくと、ほどなくして前菜が運ばれてきた。蒼は正直お腹も空いていたので、遠慮なく食べていく。
三条は場の取り持ち方が上手い。自ら色々話すのだが、己が一方的に話すばかりではなく、蒼の話も上手に引き出す。蒼は心地よく食事を進めることができた。誘われ方が強引だったので、気配り上手な三条に、蒼は意外の思いを抱いた。
「口に合ったかな」
最後に出された、ジェラートとフルーツの盛り合わせを食べながら三条が聞く。
「はい、美味しかったです。今日はほんとご馳走になりました」
「満足してもらったようで俺も嬉しいよ。またこうして時折会ってくれる」
「えっ、時折って……今日はお祝いってことで特別だと思ってましたが……」
「まあそうだけど、これをきっかけに君と付き合いたいと、申し込んでいるんだよ」
「いや、それはちょっと……」
「難しく考えることはないよ、こうして一緒に食事したり、ドライブとかして徐々に親交を深めたいと思ってね」
「あの、こんなご馳走になって申し訳ないですが、お付き合いとかは僕できませんので……すみません」
「どうして? さっきまでの話で付き合ってる人はいないって言ってたよね。だったら俺と付き合うのに何か問題でもあるかな」
「問題とかそういうことじゃなくて、僕は今誰とも付き合うとか考えてなくて」
「もしかして、付き合ってはいないけど好きな人がいるの?」
好きな人という言葉に蒼は動揺する。
「あっ、図星かあ……つまり片思い。君ほどの人が片思いって、そんな幸せな奴は誰だっ! まあ、それは置いといて、君はオメガだよね」
やはり三条はアルファだ。アルファとしてオメガの僕を求めるのか。
「はっきり言ってオメガが一人生きていくのは大変だろう。オメガを下に見るとかじゃなくて、特性がそうだから。俺はアルファだから君の助けになりたいし、守ってもいきたい。つまり、ゆくゆくは番になって結婚したい。アルファとオメガは番になることでお互いが幸せになれると、俺は考えているからね」
「いや番って、そんな急に」
「うん勿論すぐにとは言わないよ、だから少しずつ親交を深めたいと言ってるんだよ。俺はアルファとして君を幸せに出来る自信がある」
なんという自信、これがアルファか……蒼はもう言葉が見つからなかった。何と言えば理解してもらえるのか……分からない。
押し黙った蒼に、三条はそれ以上何も言わない。強引で押しも強いが、引き際は心得ているようだ。だから手強いともいえる。
その後三条はタクシーを呼び、蒼を家まで送り、自分はそのまま帰って行った。そんなところも強引に誘ったわりにはあっさりしていて、意外の思いを抱いた。
その晩蒼は、何故か体に熱を感じて自分を自分でを慰めた。発情期ではないのに、こんなことは珍しい。三条のアルファとオメガは番になることでお互いが幸せになるという言葉が蘇る。
そうなのだろうか……母さんは父さんと番になって幸せだったろうか……そうとは思えない。しかし、雪哉は幸せだと思う。結局相手次第ということだ。誰かの番になって、不本意な人生を送るなら、一人がいい。けれども共に幸せを築いていける人と番になるなら……幸せだろうがそれは、自分には望めない。でも三条だったら……。
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