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9章 思いを胸に
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「院長、整形の三条先生が面談を求められておりますが」
院長秘書が、高久にお伺いをたてる。
「三条君が? 何だろうな……今日でも調整がつくならかまわない、君に任せるよ」
「かしこまりました」
その日の夕方、高久と三条の面談がセッティングされた。
「今日はお時間取って頂きありがとうございます」
「今日はもう何もないからかまわない、で、話とはなんだね」
「実は、西園寺先生のことです」
「蒼君の……」
「蒼君とお呼びになるのですね」
「まあ彼はね、学生時代というか子供の頃から知っているからね。で、蒼君がどうしたのだね」
「院長から彼に私と付き合うことを勧めていただきたいなと思い、図々しいのは承知でお願いに上がりました」
「……何かあまりに唐突な申し出だね、彼と付き合いたいのなら、本人に直接申し込めばいいのじゃないかね」
「勿論申し込みました。しかし、受けてはもらえませんでした。心に思う人がいるようで」
「だったらなおさら私がどうこうできるとは思えないね」
「その思う人が院長ではと思うからなのです。院長を思っていても彼が報われることはないでしょう」
未だに蒼と自分の仲を疑う輩がいるのか。というか、三条が言っているのは、蒼の片思いの相手が自分ということか。高久はやや呆れ気味の思いを抱く。
「なぜそう思うのかね、彼がそれらしいことをほのめかしたのかな」
「彼と話していて私がそう思いました。彼の思いは報われない、悲しみを帯びたものと感じられたからです。故に、私の勘ではありますが、相手は院長だと。院長が相手なら彼の思いは報われない。過去には院長の番だとか、いずれはそうなるとかの噂もありましたが、そうではありませんよね。彼に番がいないのは明らか。もし、院長が彼を番にする気持ちなら、既にしているでしょう。つまり、院長夫夫の絆に彼は入り込めない。違いますか」
なんという想像力! 高久は半ば感心する。確かに話の辻褄は合っているようには思えるが、事実は全く違う。この男をどう納得させる。
三条はアルファだ。それは病院に誘う以前から知っていた。というか、医者のアルファ率は高い。珍しくない。まさか、蒼に目を付けるとは……。このオメガは自分のオメガと思いこんだアルファは面倒くさい。脇目も降らず攻めて来るからだ。それは己もそうだった。ある意味彰久もそうだろう。
「君の想像力がたくましいのは分かった。まあそれは置いておいて、それで何故この依頼に繋がるのかな」
「思う人から、私への交際を勧められたら、彼の思いも踏ん切りがつくと思うのです。彼自身、あの憂いを帯びた表情から察して、どこか解放を願っている。だが、断ち切ることができない、そう感じるのです。彼を苦しい恋から解放してやって下さい。その後は私が、彼を大切にし、幸せにします。それは誓います」
三条は力強く断言した。三条は並みのアルファではない。かなりランクが高い、これは手強いな、どうすべきか……。
「分かった、蒼君には君のことを話しておこう。しかし、その後のことは私の知る所ではない。決めるのは彼自身だ。そもそも彼の思い人が私とは思えないがね」
「結構です。それでも私に振り向いてもらえないなら、潔く諦めます。それでは、大変お手数をおかけしますがよろしくお願いいたします」
ああ、諦める時は潔くしてくれと、思いながら、院長室を出て行く三条を見送った。
高久はその晩、夫夫の寝室に入ると、雪哉に三条の話をした。蒼との仲は、雪哉の方がはるかに長く深い。
「そんなことを……それにしてもよくそこまで想像できるなあ」
「ああ、全くだ。ある意味感心したくらいだ。で、どうするかね」
「そうだよな……心情的には彰久の帰りを待ていて欲しいけど、八年だもんな。蒼君は三十八になるんだよな、それまで待ってと言うのは親のエゴかなとも思うしね」
「私はね、彼の気持ち次第と思うのだよ。蒼君が彰久を思い、待っていると思っているなら、彼を見守り、守って行くのが我々の務めだと思う。つまり、彼の気持ちが一番なんだ」
「考えたら、その肝心なところを蒼君とは話していないんだよね。空港へ見送りに来てくれたとか、様子で察してるだけで。そして気になるのは、三条君の、蒼君の思いに憂いを感じたってとこなんだ。彰久と遠くに離れているからだろうとは思うけど」
「一度会って、腹を割って話してみるか。今後のこともあるし」
「そうだな、……もしかして蒼君にとっては三条君と結ばれた方が幸せなのかなあ……八年は長いからな……三十代って人生で一番実りのある時期だもんな……」
「それは残念ながら否定できない」
「三条君の実家とか、背景はどうなの」
「三条家も医師家系だ。錚々たる面子といっていい。おそらくほとんどがアルファだろう」
「そんな家系に蒼君歓迎されるかな」
「それは三条君次第だろう。うちと同じようにな」
ああ、そうだった。北畠家もアルファの医師家系。そこへ受け入れられたのは高久の力だった。高久が力技で、北畠家と雪哉の実家双方を納得させたのだった。
二人の考えは、三条の件は包み隠さず話して、この際蒼の本音を聞き出すことに一致した。
十二月も半ばに入った日曜日、蒼は北畠家へ呼ばれた。街はクリスマスムード一色。蒼も皆にそれぞれプレゼントを用意てしていた。前回お祝いをしてもらったお礼も兼ねる気持ちからだった。
「わあーいあお君からのプレゼント! 嬉しいな! 開けていい?」
「うんいいよ、ちょっと早いけどね、気に入ってくれるといいけど」
「蒼君ありがとう、気を使わせてごめんね」
「いいえ、ほんの気持ちですから」
「今日はね、話があるんだ。食事の前にいいかな」
雪哉に促されて、蒼は高久の後を付いて書斎へ入る。改めてなんの話だろう……。
「実はね、先日三条君から君のことで話があった」
高久の話に蒼は、えっ! と二人を見る。
「君と付き合いたいから、私から勧めて欲しいとね」
えっ、えーっ諦めたんじゃないのか! でもなんで院長に!? 蒼は動揺する。
「直接申し込んだが、断られたと言っていたよ」
「はい、なので諦めたと思っていました」
「中々強引なタイプのようだね」
それは同意する。あの人強引です。
「それでね、雪哉とも相談して、この際君の本音を知りたいと思ってね。私としてはね三条君は悪い相手ではないと思う。医師としての腕は確かだし、少々強引なのも決して悪いことではない。ただそれが君の望みなのか、どうなのか。君にとってどうするのが一番幸せなのか。考えたら、一度も話し合ったことがないと思い至ったのだよ」
蒼はややうつむき加減で高久の話を聞く。
「率直に聞こう、君は彰久の帰りを待っているのかね」
蒼は顔を上げ、高久を見た。待っている、待っているけど……どう答えたらいいのだろう。
「八年、後まだ七年以上あるが、待ってくれるのかな」
「あっ、でも……でも僕は待ってるというか、あき君だけなので……あき君は帰国した時、僕に縛られることはないと思っています」
「それは、どういうこと」雪哉が問い掛ける。
「帰国した時、あき君は二十六です。それこそ花の盛りです。その時僕は三十八、とても釣り合わないです。そもそも庶子の生まれの僕があき君には釣り合いが取れない。あき君にはもっと相応しい人がいると思います。あき君の幸せの邪魔をしたいとは思っていません」
そうか、だから三条が蒼は思う人がいるが、その思いは憂いを帯びていたと感じたのか。蒼は彰久の帰国後身を引く覚悟をしていたのだ。二人は、蒼を哀れに思う。だが、それだけ蒼の彰久への思いが深いということだ。彰久の親として、それは率直に嬉しい。
しかし、今それを喜ぶ時ではない。今は、蒼を楽にしてあげたい。なぜ、こうも奥ゆかしいのか、子供の頃から変わっていない。
「釣り合いをいったら、釣り合うために背伸びしなければならないのは彰久だ。庶子であることも、なんの問題もない。それは君に責のあることではない。君が邪魔になるとか、まして身を引く必要はどこにも無い。むしろ、君のような成熟した人が彰久には相応しい」
「そうだよ、それに彰久の蒼君に対する思いは本物だよ。彰久は蒼君を自分のオメガにしたい一心でアメリカへ行ったんだ。あえて八年も会えない覚悟を持ってね。蒼君が待ってくれるのなら、彰久が帰国した時、二人は結ばれる、僕はそう思っている。二人は運命の仲だって、大分前から感じていた」
蒼は泣いた。溢れる涙が止まらない。彰久が好きだ。いつの頃からか、彰久は唯一ただ一人の人になっていた。最愛の人、その人の両親がこんなにも優しい。こんな幸せなことがあるのだろうか……。
雪哉は体を震わせて泣く蒼を抱きしめた。息子の愛しい人であると同時に、自分にとっても可愛い弟のような存在。蒼が彰久と結ばれたら息子になるのか……ちょっと不思議な感じだ。
「蒼君には話したことなかったかな、彰久はね、いつも蒼君が家に来るとき、君がインターフォン鳴らす前に察知して、玄関へ走って行ってたんだ」
「聞いたのは初めてですが、それで……いつも、インターフォン鳴らそうと思うと、その前にあき君がドアを開けてびっくりしてました」
「そうだろ、ふふっ、なんか不思議だよね、なんで分かるんだろう。アメリカへ行った日もそうだよ、突然走り出して、あれもなんで分かったんだろう」
「運命だからだろな」
「いつも理論的な高久さんが言うなら、その通り間違いないよ。蒼君と彰久は運命だろうね。改めて彰久の親として、彰久の帰国を待っていて欲しい。そして、その後も支えてやって欲しい」
「私からもお願いするよ」
「私には身に余るお言葉です……心から嬉しいです」
一度引いた涙が再び溢れ出す。
「今日は腹蔵なく話せて良かった。君の気持ちも確認できた。彰久が帰国するまで、私達二人で君を守っていくからね。三条君のことはとりあえず様子を見よう。何か動きがあれば私が対処しよう。他にも何かあれば、力になるから遠慮せず言って欲しい」
「そうだよ。さすがに三条君が無体な行動に出るとは思えないけど、用心に越したことはない。他の人にもだよ。蒼君は魅力的だからもてるからね。彰久がやきもきするのは分かるよ」
最後は雪哉が、冗談交じりにその場を占めた。この時から、蒼は彰久への思いを胸に、その帰りを待ちながら過ごしていくことになる。
院長秘書が、高久にお伺いをたてる。
「三条君が? 何だろうな……今日でも調整がつくならかまわない、君に任せるよ」
「かしこまりました」
その日の夕方、高久と三条の面談がセッティングされた。
「今日はお時間取って頂きありがとうございます」
「今日はもう何もないからかまわない、で、話とはなんだね」
「実は、西園寺先生のことです」
「蒼君の……」
「蒼君とお呼びになるのですね」
「まあ彼はね、学生時代というか子供の頃から知っているからね。で、蒼君がどうしたのだね」
「院長から彼に私と付き合うことを勧めていただきたいなと思い、図々しいのは承知でお願いに上がりました」
「……何かあまりに唐突な申し出だね、彼と付き合いたいのなら、本人に直接申し込めばいいのじゃないかね」
「勿論申し込みました。しかし、受けてはもらえませんでした。心に思う人がいるようで」
「だったらなおさら私がどうこうできるとは思えないね」
「その思う人が院長ではと思うからなのです。院長を思っていても彼が報われることはないでしょう」
未だに蒼と自分の仲を疑う輩がいるのか。というか、三条が言っているのは、蒼の片思いの相手が自分ということか。高久はやや呆れ気味の思いを抱く。
「なぜそう思うのかね、彼がそれらしいことをほのめかしたのかな」
「彼と話していて私がそう思いました。彼の思いは報われない、悲しみを帯びたものと感じられたからです。故に、私の勘ではありますが、相手は院長だと。院長が相手なら彼の思いは報われない。過去には院長の番だとか、いずれはそうなるとかの噂もありましたが、そうではありませんよね。彼に番がいないのは明らか。もし、院長が彼を番にする気持ちなら、既にしているでしょう。つまり、院長夫夫の絆に彼は入り込めない。違いますか」
なんという想像力! 高久は半ば感心する。確かに話の辻褄は合っているようには思えるが、事実は全く違う。この男をどう納得させる。
三条はアルファだ。それは病院に誘う以前から知っていた。というか、医者のアルファ率は高い。珍しくない。まさか、蒼に目を付けるとは……。このオメガは自分のオメガと思いこんだアルファは面倒くさい。脇目も降らず攻めて来るからだ。それは己もそうだった。ある意味彰久もそうだろう。
「君の想像力がたくましいのは分かった。まあそれは置いておいて、それで何故この依頼に繋がるのかな」
「思う人から、私への交際を勧められたら、彼の思いも踏ん切りがつくと思うのです。彼自身、あの憂いを帯びた表情から察して、どこか解放を願っている。だが、断ち切ることができない、そう感じるのです。彼を苦しい恋から解放してやって下さい。その後は私が、彼を大切にし、幸せにします。それは誓います」
三条は力強く断言した。三条は並みのアルファではない。かなりランクが高い、これは手強いな、どうすべきか……。
「分かった、蒼君には君のことを話しておこう。しかし、その後のことは私の知る所ではない。決めるのは彼自身だ。そもそも彼の思い人が私とは思えないがね」
「結構です。それでも私に振り向いてもらえないなら、潔く諦めます。それでは、大変お手数をおかけしますがよろしくお願いいたします」
ああ、諦める時は潔くしてくれと、思いながら、院長室を出て行く三条を見送った。
高久はその晩、夫夫の寝室に入ると、雪哉に三条の話をした。蒼との仲は、雪哉の方がはるかに長く深い。
「そんなことを……それにしてもよくそこまで想像できるなあ」
「ああ、全くだ。ある意味感心したくらいだ。で、どうするかね」
「そうだよな……心情的には彰久の帰りを待ていて欲しいけど、八年だもんな。蒼君は三十八になるんだよな、それまで待ってと言うのは親のエゴかなとも思うしね」
「私はね、彼の気持ち次第と思うのだよ。蒼君が彰久を思い、待っていると思っているなら、彼を見守り、守って行くのが我々の務めだと思う。つまり、彼の気持ちが一番なんだ」
「考えたら、その肝心なところを蒼君とは話していないんだよね。空港へ見送りに来てくれたとか、様子で察してるだけで。そして気になるのは、三条君の、蒼君の思いに憂いを感じたってとこなんだ。彰久と遠くに離れているからだろうとは思うけど」
「一度会って、腹を割って話してみるか。今後のこともあるし」
「そうだな、……もしかして蒼君にとっては三条君と結ばれた方が幸せなのかなあ……八年は長いからな……三十代って人生で一番実りのある時期だもんな……」
「それは残念ながら否定できない」
「三条君の実家とか、背景はどうなの」
「三条家も医師家系だ。錚々たる面子といっていい。おそらくほとんどがアルファだろう」
「そんな家系に蒼君歓迎されるかな」
「それは三条君次第だろう。うちと同じようにな」
ああ、そうだった。北畠家もアルファの医師家系。そこへ受け入れられたのは高久の力だった。高久が力技で、北畠家と雪哉の実家双方を納得させたのだった。
二人の考えは、三条の件は包み隠さず話して、この際蒼の本音を聞き出すことに一致した。
十二月も半ばに入った日曜日、蒼は北畠家へ呼ばれた。街はクリスマスムード一色。蒼も皆にそれぞれプレゼントを用意てしていた。前回お祝いをしてもらったお礼も兼ねる気持ちからだった。
「わあーいあお君からのプレゼント! 嬉しいな! 開けていい?」
「うんいいよ、ちょっと早いけどね、気に入ってくれるといいけど」
「蒼君ありがとう、気を使わせてごめんね」
「いいえ、ほんの気持ちですから」
「今日はね、話があるんだ。食事の前にいいかな」
雪哉に促されて、蒼は高久の後を付いて書斎へ入る。改めてなんの話だろう……。
「実はね、先日三条君から君のことで話があった」
高久の話に蒼は、えっ! と二人を見る。
「君と付き合いたいから、私から勧めて欲しいとね」
えっ、えーっ諦めたんじゃないのか! でもなんで院長に!? 蒼は動揺する。
「直接申し込んだが、断られたと言っていたよ」
「はい、なので諦めたと思っていました」
「中々強引なタイプのようだね」
それは同意する。あの人強引です。
「それでね、雪哉とも相談して、この際君の本音を知りたいと思ってね。私としてはね三条君は悪い相手ではないと思う。医師としての腕は確かだし、少々強引なのも決して悪いことではない。ただそれが君の望みなのか、どうなのか。君にとってどうするのが一番幸せなのか。考えたら、一度も話し合ったことがないと思い至ったのだよ」
蒼はややうつむき加減で高久の話を聞く。
「率直に聞こう、君は彰久の帰りを待っているのかね」
蒼は顔を上げ、高久を見た。待っている、待っているけど……どう答えたらいいのだろう。
「八年、後まだ七年以上あるが、待ってくれるのかな」
「あっ、でも……でも僕は待ってるというか、あき君だけなので……あき君は帰国した時、僕に縛られることはないと思っています」
「それは、どういうこと」雪哉が問い掛ける。
「帰国した時、あき君は二十六です。それこそ花の盛りです。その時僕は三十八、とても釣り合わないです。そもそも庶子の生まれの僕があき君には釣り合いが取れない。あき君にはもっと相応しい人がいると思います。あき君の幸せの邪魔をしたいとは思っていません」
そうか、だから三条が蒼は思う人がいるが、その思いは憂いを帯びていたと感じたのか。蒼は彰久の帰国後身を引く覚悟をしていたのだ。二人は、蒼を哀れに思う。だが、それだけ蒼の彰久への思いが深いということだ。彰久の親として、それは率直に嬉しい。
しかし、今それを喜ぶ時ではない。今は、蒼を楽にしてあげたい。なぜ、こうも奥ゆかしいのか、子供の頃から変わっていない。
「釣り合いをいったら、釣り合うために背伸びしなければならないのは彰久だ。庶子であることも、なんの問題もない。それは君に責のあることではない。君が邪魔になるとか、まして身を引く必要はどこにも無い。むしろ、君のような成熟した人が彰久には相応しい」
「そうだよ、それに彰久の蒼君に対する思いは本物だよ。彰久は蒼君を自分のオメガにしたい一心でアメリカへ行ったんだ。あえて八年も会えない覚悟を持ってね。蒼君が待ってくれるのなら、彰久が帰国した時、二人は結ばれる、僕はそう思っている。二人は運命の仲だって、大分前から感じていた」
蒼は泣いた。溢れる涙が止まらない。彰久が好きだ。いつの頃からか、彰久は唯一ただ一人の人になっていた。最愛の人、その人の両親がこんなにも優しい。こんな幸せなことがあるのだろうか……。
雪哉は体を震わせて泣く蒼を抱きしめた。息子の愛しい人であると同時に、自分にとっても可愛い弟のような存在。蒼が彰久と結ばれたら息子になるのか……ちょっと不思議な感じだ。
「蒼君には話したことなかったかな、彰久はね、いつも蒼君が家に来るとき、君がインターフォン鳴らす前に察知して、玄関へ走って行ってたんだ」
「聞いたのは初めてですが、それで……いつも、インターフォン鳴らそうと思うと、その前にあき君がドアを開けてびっくりしてました」
「そうだろ、ふふっ、なんか不思議だよね、なんで分かるんだろう。アメリカへ行った日もそうだよ、突然走り出して、あれもなんで分かったんだろう」
「運命だからだろな」
「いつも理論的な高久さんが言うなら、その通り間違いないよ。蒼君と彰久は運命だろうね。改めて彰久の親として、彰久の帰国を待っていて欲しい。そして、その後も支えてやって欲しい」
「私からもお願いするよ」
「私には身に余るお言葉です……心から嬉しいです」
一度引いた涙が再び溢れ出す。
「今日は腹蔵なく話せて良かった。君の気持ちも確認できた。彰久が帰国するまで、私達二人で君を守っていくからね。三条君のことはとりあえず様子を見よう。何か動きがあれば私が対処しよう。他にも何かあれば、力になるから遠慮せず言って欲しい」
「そうだよ。さすがに三条君が無体な行動に出るとは思えないけど、用心に越したことはない。他の人にもだよ。蒼君は魅力的だからもてるからね。彰久がやきもきするのは分かるよ」
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