春風の香

梅川 ノン

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11章 その香りに包まれて

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 明日は彰久の帰国。蒼は明日明後日と完全な休日になっている。呼び出しがあれば直ちに出勤の必要があるオンコール待機でもない。けれどいまだ迷いの気持ちがあった。本当に僕が行ってもいいのだろうか……会うにしても、せめて二、三日後にしたい。その気持ちのまま、当直医師に後を託して、帰宅のため通用門へ向かう。
 その時香りを感じた。懐かしく、心にまで届くような香り。蒼は、その香りに向かって走った。本能からの走りで、通用門を出た。

「あお君!」
「あっ! あき君!」
「今、香りを感じたと思ったらあお君が出てきた! ああっやっぱり僕のだ……僕のあお君!」
「あっ、あき君……ど、どうして……」
 明日帰国のはずの彰久が何故ここにいるのか……香りに引き付けられて飛び出したものの、蒼は戸惑いを隠せない。
 彰久は、そんな蒼の手を引いて、待たせていたタクシーへ乗せた。タクシーを待たせ、その前で蒼が出てくるのを待っていたのだ。
 自分も蒼の隣に乗り込んだ彰久は行き先を告げた後は無言だ。蒼は、益々何が何やら分からない。唯々胸がドキドキする。自分のオメガ性が反応していることが分かる。
 八年ぶりに会う彰久、最後に空港で会った時よりも背は更に高くなっている。精悍な大人の雰囲気がする。あき君は大人になったんだと思う。
 彰久が蒼の手をギュッと握る。蒼は心臓ごと握られたように感じながらも、その手の温もりに安堵も覚える。このまま抱きしめて欲しいと……。

 ほどなくしてタクシーは、ホテルに着いた。格式のあるラグジュアリーホテル。先に降りた彰久は、蒼が降りるのを待ち、そのまま手を引いて中へ入る。脇目も降らず進むと、エレベーターに乗る。無言のまま、蒼の肩を抱き寄せるように立つ。
 二十七階でエレベーターのドアが開いた。彰久は蒼の背に手をやり促すように降りた。そのまま部屋へと進み、中へ入った。
 入るなり蒼を抱き寄せ、その唇を奪う。初めての口付けは性急であったが、優しい。蒼を全て味わい尽くすように、丹念にその口腔内を弄る。
 初めての口付けに、蒼は陶然となった。足の力が抜けて立ってはいられない。そんな蒼を彰久は支え、そして抱きかかえてベッドへと運ぶ。
「あっ、あき君……」
 彰久を見上げる蒼の瞳は濡れている。オメガがアルファを見る瞳だった。
「あお君、僕のこと待っててくれたんだよね。僕は大人になったよ。だからお願い僕の、僕のオメガになって」
 蒼の瞳から涙が溢れだす。
「まっ……待ってた……」
 それ以上言葉にならない。自分は待っていた。蒼には彰久しかいないから。ただ一人の人。だけど、自分は……会うのが怖かった。それなのに彰久は自分のオメガになってくれと言ってくれた。蒼の答えはただ一つ、彰久のオメガになりたい。
「あお君、僕のオメガになってくれるんだよね」
 彰久は、蒼の涙を優しく吸い取り、頬を撫でながら念を押すように聞く。嗚咽で言葉にならない蒼は、頷いた。嗚咽しながら何度も頷いた。
 彰久は蒼の頭を慈しむように撫で、そして蒼の体を抱き起す。その着ている服を脱がせていく。蒼はされるがままだったが、アンダーシャツを脱がせるときは僅かに抗った。全てをさらけ出すのは恥ずかしい。蒼には大いなる心配があった。

 こういう行為は初めてなのだ。若い人が初めてだというのは良いことだろう。だが三十後半にもなって、未経験なんて……恥ずかしい。
「あ、あき君……ぼ、僕は……」
 蒼のこの恥じらいかた……慣れていないとは当然としても……もしかして初めて? もしそうだとしたら奇跡だ! と彰久は思う。
 彰久とて、蒼には誰の手も触れていないまっさらなままでいて欲しかった。しかし、三十八の蒼にそれを求めるのは酷だし、自分のわがままだ。仮に、自分を待っていると約束したこの八年は操を立ててくれたとしても、その時蒼は三十歳。この美貌で、それまでに何も無かったのだろうか。
 どこの誰とも知れぬアルファから番にされなかっただけでも奇跡だと思った。それが、まさか……。

「あお君、もしかして初めて?」
 彰久は囁くように聞いた。蒼は、両の手で顔を隠しながら、僅かに頷いた。
「ご、ごめんね……この歳で……」
 彰久は、がばっと蒼を抱きしめた。そうなんだ! 彰久の胸は感動で一杯になる。十二歳年上の、大人のこの人をアルファとしてリードしなくてはと、気負っていた。
 実は、この日のために何度も、シミュレーションした。アルファのプライドがあるし、蒼を不安にさせたくない。心地よく身を任せて欲しい。 
 それなのに、蒼は初めてなんて! 一層優しくリードしないと、彰久は決意を込める。
「あお君! 嬉しいよ! 謝ることなんて全然ないよ。こんな嬉しいことない! 純潔のままいてくれてありがう。だからね、心配いらない、僕に全て見せて」
 宥めるように言いながら、シャツを脱がせると蒼の素肌が現れる。誰も触れたことが無い雪原のような白い肌は、ほんのりと色づいて美しく、清らかで艶めいている。この肌を見るのは自分が初めて。無論、今後も誰にも見せない。

 蒼は見られていることに恥ずかしさが増し、その色付きは濃くなり、更に彰久の欲情をそそった。
「あお君きれいだ……僕の、僕のあお君……」
 彰久は体の奥から熱が沸くのを感じる。アルファのフェロモンだ。
 彰久のフェロモンに当てられた蒼はたまらない思いになり、彰久に抱きついた。彰久の温もりに心から満たされるような思い。このまま抱かれたい……彰久のものになりたい。
 アルファとオメガのフェロモンの融合。それは、体を重ねることで溶け合う本能からの合体だった。
 彰久は、蒼に口付けた。彰久の唇は蒼の首から胸へと降りて行く。そうしながら、ズボンを脱がせ、下着も脱がせる。蒼はもう抗わない。
 現れた蒼の中心のものに、彰久は触れる。それは、持ち主と同じように、控えめで可愛い。ここも可愛がってやりたいけど、今日は奥の蕾だ。アルファを受け入れる、オメガの蕾。
 彰久はそこを、そーっと触れるが、びくっと反応する。
「あっ……ああっ……だめ」
「だめじゃないよ、もうあお君のここ、濡れてる……僕を待ってるんだよね」
 彰久は指を入れる。とろとろに濡れたそこは、彰久の指を待ちわびていたように、吸い込むように受け入れる。
「ああっ……あんっ……」蒼の喘ぎは、甘さを増す。
 可愛い、もっと喘がせ、乱れさせたい。彰久のアルファの本能が身の内から熱を帯びる。
 彰久は指で蕾を、口は胸の粒を愛撫し、蒼を攻めていく。蒼の喘ぎは激しさを増す。たまらない蒼は、彰久にしがみついた。身も世もなく、彰久が欲しい。蒼のオメガの本能が、理性を超える。
「あっ、あ、あき君……」
「うん、あお君、どうして欲しいの」
「あっ、あんっ……ほ、欲しい……」
「うん欲しいね、何が欲しいの? あお君の欲しいものあげるよ、言って、何が欲しいの」
「あっ、ああーっ……あき君のきて、早くきて」
 理性の残っていない蒼は、喘ぎながら彰久にしがみつく。彰久が欲しい、彰久で満たされたい。未知のそこはひたすら彰久を求めた。
「うん、僕が欲しいんだよね、あげるよ、沢山満たしてあげるよ」
 彰久は蒼の額に口付け、その上気した頬を撫でる。ずっと憧れてきたこの美しい人が、こんなにも可愛いのか……これがオメガなんだ。
 猛々しくオメガを求める自身のそれを、彰久は蒼の蕾にあてる。そこは待ちかねていたように、受け入れていく。
「あっ、あんっああーっ」
 蒼の喘ぎは、一層甘く、大きくなる。
「あお君入ったよ、あお君の中気持ちいい! 最高だよ」
 彰久のものは蒼に包まれ、その極上の心地よさに、心から満たされていく。
 蒼も同じだった。彰久のものは熱く、その熱は全身を満たし、陶酔へと導く。
「ああっ……いい……あ、あき……きて……」
 蒼は陶然となりながら、彰久の動きを求めた。勿論、彰久も動きたい。しかし、初めての蒼に無理はさせられない。動き始めたら理性は効かない。
「あお君、いいの? 止まらなくなるよ」
 蒼は頷いた。もうどうなってもいい。彰久が欲しい。奥の奥まで彰久で満たして欲しい。
 彰久は抽挿を開始した。初めは蒼の体を思いゆっくりと、だが徐々に激しさを増す。
「ああーっ、ああっ、ああっあき……」
 激しく揺さぶられながら、蒼の喘ぎも甘く激しくなっていく。
 彰久が蒼の中へ、精を放ち始めた。アルファのそれは、長くそして多い。蒼は、愛する彰久の精を受け入れながら、陶酔に包まれ、そのまま自失した。
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